ダブルソード 第二章 ~アドラ編~

磊蔵(らいぞう)

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第41話 夫婦連続殺人事件

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翌朝――。
二人の姿はまたギルドの掲示板の前にあった。

今日はどんな依頼を受けようかと二人で相談しているのだが、ギルランスはどうにもバツが悪そうな顔をしていた。
どうやら彼は昨夜、花火を見ている途中で眠ってしまった事を気にしているようだった。
今朝起きるなり、開口一番に謝られた。
和哉としてはそんな事は全く気にしていないので大丈夫だと言ったのだが、彼はどうも納得していない様子だ。

「むしろ貴重なギルの寝顔が見られたんだから役得だよ♪」

などと冗談めかして言う和哉にギルランスは一瞬目を丸くし、バツの悪そうな顔をしながら「馬鹿野郎」と言って軽く拳で頭を小突く。

「あたっ」

照れ隠しのようにも見えるギルランスの態度に和哉は笑いを堪えながら頭を押さえていると……ちょうどそこにパタパタと足音が近付き後ろから声を掛けられた。

「お早うございますぅ~!」

振り向くと一人の受付嬢が一枚の依頼書を手に持ちヒラヒラさせながらこちらに走って来るのが見えた。
彼女は「新しい依頼の追加で~す」と言いながらその依頼書を掲示板に貼り付ける。
そこにはこう書かれていた。

――*――*――*――*――*――*――
【緊急】夫婦連続惨殺事件の捜査協力求む!!
【ランク】X
【報酬額】金貨50枚(犯人逮捕・捕縛の場合、別途報酬あり)
【詳細】結婚式を挙げたばかりの新婚夫婦が殺害される事件が連続して4件発生している。

全て新婚初夜を迎えたその晩に犯行が行われており、花婿は食い荒らされ、花嫁は遺体の状態は綺麗なものの体の一部が欠損した状態で発見されている。
犯人は未だに捕まっていないが、魔獣の仕業ではないかと噂されている。
被害者はいずれも結婚式を挙げた日の夜に殺害されているため、何らかの関連性があると思われる。
現在収穫祭の期間ということもあり、警備の強化及び人員不足のため冒険者ギルドへ応援を要請した次第である。
近衛騎士団からは数名派遣されており、既に調査を開始しているが、未だ犯人につながる有力な手掛かりをつかめていない。
以上の事から、冒険者にも調査を依頼する事となった。――以上。
――*――*――*――*――*――*――

「え~っと……これは一体どういう……?」

和哉が張り出された紙を見ながら困惑していると、隣にいたギルランスがため息をつきながら説明してくれる。

「どうもこうもねぇよ……要はこの件について調べてこいって事だろ」

「……この『ランクX』ってのは?」

依頼書を指差しながら首を傾げる和哉に対しギルランスは次いで答える。

「ああ、それはな、この依頼がランク判定不能案件だからだ」

「えっ!?」

(なに、それ??)

ますますわからなくなった和哉が詳しく聞こうとしたところで、近くにいた他の冒険者たちもなんだなんだと集まり始め、気が付けばいつの間にか人だかりが出来ていた。
その中の一人が口を開いたのを皮切りに皆がそれぞれ思うところを述べ始める。

「なあ、それって例のヤツじゃないのか?ほら、最近話題になってる……」

「あぁ、アレか……」

「でも『ランクX』だろ?解決したところでスキルアップなんてしないんだしな……」

「……確かになぁ……そもそもこれは衛兵のやつらの案件だ、俺らには関係ない話だよな……」

そんなことを言いながら、皆再び散って行ってしまった。
すると、先ほど依頼書を貼った受付嬢が困ったような顔をして、去って行く冒険者たちに呼びかける。

「あ、あの……そんなぁ……皆さぁん……」

今にも泣き出しそうな顔だ。

「すみませ~ん……でも一応報酬はいいし……何よりこの街一番の権力者からの依頼だから断りにくいんですよぉ……ですからどなたか受けてくださるなら助かるんだけどぉ……」

そう言ってチラッとこちらを見る受付嬢と目が合ってしまった。

(うっ……!)

さらに彼女は和哉とギルランスを交互に何度も見た後、すがるような目でジッと見つめている。

(こ、これは断れない雰囲気だぞ!?)

「ねえ、ギル、これって……」

隣を見ると、ギルランスはすでに眉根を寄せていた。

「はぁ……分かったよ、受けりゃいいんだろ?ったく面倒くせえな……」

盛大な溜め息と共に呟いたギルランスの言葉に、受付嬢はパアッと顔を輝かせる。

「ほ、本当ですかっ!?ありがとうございますっ!」

彼女はペコリとお辞儀をして足取りも軽く去って行った。
それを見送った後、ギルランスは再び大きな溜息をついて和哉に向き直る。

「はあ……仕方ねぇ……行くか……」

そう言って依頼書を無造作に引き剥がし受付へ持って行くギルランスの後を、和哉も慌てて追いかける。
受付に行くと先ほどの受付嬢が待っていて、依頼書を確認すると「受けてくださってありがとうございます♪」と言いながらニコニコ顔で手続きを進めた。
そんな彼女を見てまたまた面倒くさそうに溜め息をつくギルランスの横で和哉は苦笑いを浮かべた。

****
****

今回の依頼はなかなか厄介なものだった。

まず、事件の起きた場所が4件ともそれぞれ違うのだ。
しかも事件が起きたのは深夜で、殆どの人は寝静まっている時間帯なので目撃情報も少ない。

ただ挙式だけはこの街の同じ教会で行われ、挙式後に各町にて披露宴なり新婚旅行なりを楽しんでいたようだが、その日の夜に事件が起きているという共通点があった。
当然、その教会の神父などは事情聴取を受けているのだが、どの事件の時にも彼には確かなアリバイがあるようで今のところ容疑者からは外されているようだった。

もう一つの問題はこの事件の捜査をギルドへ依頼したことを公にしてはならないという事だった。

なぜなら依頼を出した人物はこの街でかなり権力のある人物であり、街の衛兵たちのトップでもあるからだ。
自分の管理下にある衛兵たちが事件を解決出来ないとなると、その人物の立場上面子めんつが丸つぶれになってしまうのだ。

つまり、表向きは自分たちで解決すると言っておきながら、実際は『ギルドの冒険者に秘密裏に動いて欲しい』という何とも面倒な内容なのである。
それゆえ、ギルド側としてもこの案件を冒険者個々人のランク判定に反映させられない――それが今回の”ランクX”という扱いとなった理由であった。

というわけで、二人はまずは現場に行って話を聞く事から始めた。
一件目は最初に事件のあった郊外の豪農の家だ。

被害者は豪農の長男と街で店を開いている商家の娘で、式を挙げた後、二人の新居となる家で披露宴パーティーを行ったその夜に殺害されたという。
和哉とギルランスは若夫婦の親族や関係者らに聞き込みをするものの、有力な情報は得られなかった。

次いで、二件目の事件があった町へ向い、そこでも同じように聞き込みを行ったのだが、こちらも同じく全く手がかりは掴めないまま終わってしまった。
その後も次の町へと移動する度に同様の行動を繰り返したが、やはり大した成果はなかった。

丸二日掛けて調査をしたが、結局どの町でも有益な情報を得られず二人はいったんアドラの街へ戻る事にした。
宿の部屋に戻った和哉は肩を落としながらソファーへと身を沈める。

「結局なんの成果もなかったねぇ……」

和哉が苦笑しながら言うと、隣に腰を下ろしたギルランスも渋い顔をしながら頷いた。

「そうだな……だがまあ仕方ねぇだろ、なんせ俺らが調べてるって事を伏せたままだから大っぴらに動くわけにもいかねぇしな」

「そうだよねー……」

ギルランスの言う通り、この事件の捜査で冒険者ギルドが動いていることは市民には公表できない。
衛兵側はギルドにはなるべく目立たないように隠密に事を進めさせろと伝えているようで、そのために二人は極力目立たず大人しく行動せざるを得なかった。
だが、そうなると当然動きにくくなるため、何か別の方法を考える必要があるのだが……。
依頼書を眺めながら思案している和哉を見て、ギルランスは溜息を吐いた。

「……お前は何かないのか?」

「ん~、特にないんだよね……でも、ちょっと気になることがあると言えばあるんだけど……」

「なんだ?」

「やっぱり、この被害者たちが同じ教会で式を挙げてるっていうのが気になってるんだよね」

そう言って和哉は依頼書をギルランスへ渡す。
それを受け取ったギルランスは一通り目を走らせると腕組みをして考え込んだ。

「確かにな……だがそれに関しては、すでに衛兵たちが神父に事情聴取してアリバイもあるって話だろ?」

「うん、そうなんだけどね……」

そこまで言うとまた二人で頭をひねって考え込んでしまう。
しばらく沈黙が続いた後、何かを思いついたようにギルランスが顔を上げ和哉に向き直ると、まさかの言葉を言い放った。

「こうなったら、実際にその教会で式を挙げるしかねぇな」

「……へっ!?」

唐突なその言葉を一瞬理解出来なかった和哉が呆けた顔でギルランスを見つめると彼はニヤリと笑った。

「だから、結婚式を挙げればいいんじゃねぇかって言ってんだよ」

「ええっ!?そ、そんな簡単に結婚しちゃっていいの!?そもそもギルは誰と結婚するつもりなんだよ!?」

瞬間的に(嫌だ!!)と感じてしまった和哉だったが、そんな自分にも気付かず思わず大声を上げながら問い掛けると、なぜかギルランスに呆れ顔でため息をつかれた。

「馬鹿かお前?別にホントに結婚するって言ってるわけじゃねぇよ……こういう場合は偽装だよ!偽装結婚だ!――つか、大体お前なんでそんなに慌ててるんだよ?」

(うっ……!)

痛いところを突かれてしまい和哉は言葉に詰まってしまう。
確かに冷静に考えてみれば当たり前の事だったが、実は自分でもどうしてここまで動揺しているのかよくわからなかった。
ただ……ギルランスが誰かと結婚してしまうと考えただけで、和哉の胸は切ない痛みで一杯になっていた。

(もしかして僕は……いやいや、まさかね)

途中まで考えて和哉は首を振った。
自分は男なのだからいくら彼が好きだからといってもそれは恋愛感情ではないはずだ。
きっと初めて出来た仲間として特別に思っているだけなのだろう――そう結論付けて無理矢理自分を納得させた。
和哉は自分のそんな心情をギルランスに悟られないように慌てて誤魔化す。

「べ、別に慌ててるわけじゃ……!ただ、ほら……その役を誰がするのかな?って思ってさ……」

それを聞いたギルランスはまたまた呆れたように溜め息をついた。

「そんなの俺がやるに決まってんだろ」

さも当然というように言われてしまう。

「――じゃなくて、新婦のほうだよ!男二人じゃおかしいだろ!?」

「ああ、そっちか」

どうやら本気で気にしていなかったようだ。
ギルランスは少し考え込んだ後、口を開いた。

「だったらお前が女装すればいいじゃねぇか」

(げっ!!)

「いや、それはちょっと……」

和哉としてはさすがに自分が女装するのは抵抗が大きすぎた。
思わず顔をしかめる和哉にギルランスはさらに追い打ちをかける。

「大丈夫だろ、お前顔綺麗だし細身だし女物着ても似合うと思うぜ?」

ニヤニヤしながらそう言われた瞬間、和哉は思わず叫んでいた。

「絶っっ対嫌だっ!!!」

そして、バッとソファから立ち上がるとそのまま部屋を飛び出してしまった。
後ろから「おい、待て!」と言うギルランスの声が聞こえたが、和哉は構わず廊下を突っ走っていった――。
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