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第42話 花嫁は誰?
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あの後、追いかけてきたギルランスと並んで和哉は中央公園の円形階段に腰掛けていた。
もうすっかり日も暮れて辺りは暗くなっているが街は祭りの期間のため人通りも多く、明るく賑わっている。
そんな中で二人は先ほどから押問答を繰り返していた。
結局まだ花嫁役を決めかねているのだ。
事件が事件なだけに危険すぎるということで適当に誰かに頼むわけにもいかないためだ。
「――ったく……いい加減腹くくれって!」
「う~~……」
さっきからこの調子でずっと言い合いが続いている。
いくら自分がドレスを着て化粧をしたとしても、体型は男なのだから本物の女性と見間違うはずがないだろうと和哉は思う。
それに、なにより和哉自身が女装なんてしたくないのだ。
昔から散々『女顔』だとバカにされてきた記憶がよみがえる。
(だいたい僕は自分の顔が嫌なんだよ!!なんで女装なんてして傷口に塩を塗るようなマネしなきゃなんないんだよ!?)
そう心の中で文句を言いながら不貞腐れていると、ふと露店のいい香りが漂ってきた。
途端に空腹を感じてしまう。
ぐぅ~~~!
(――!!)
和哉は相変わらず正直な自分の腹の虫に辟易しながらチラリと隣のギルランスに目を向けると、案の定、彼は口を押さえて笑いを堪えていた。
「ぷっ!……くくっ!――お前はまた……」
ギルランスはもう限界といった感じでプッと吹き出す。
「う……そんなに笑わなくてもいいじゃんか……」
不貞腐れたように唇を尖らせる和哉に、ギルランスは「わりぃわりぃ」と言いながら宥めるようにポンポンと頭を撫でた。
「とりあえず飯にするか。腹ごしらえしねぇとな――なにが食いてぇ?」
「…………お肉」
憮然としながらも、食欲に負けた和哉がボソリと正直に呟くと、また隣で「ぷっ」という吹き出す音が聞こえる。
(うぅ、くそ~~……育ち盛りの男子高校生としてはお肉一択じゃないか!)
などと内心反論しながらムゥと膨れている和哉の目の前に、不意に大きな手が差し出された。
思わず反射的にその手を掴むと、「ほれ、行くぞ」と言う声と共にグイっと引っ張り上げられる。
「うわっ!」
油断していたせいもあり急に身体が宙に浮き思わず悲鳴を上げる和哉だったが、見上げたギルランスの笑みが妙に優しげに見えてしまいドキリとする。
(――!??)
そんな自分の心臓に首を傾げながらも、和哉は引かれるままに歩き出した。
****
****
二人は屋台で串焼きを買うと空いているベンチを見つけて座った。
辺りは相変わらずのお祭りムードで、賑やかな様相を見せている。
そんな中、香ばしい匂いを漂わせる肉を頬張りつつ周りを見渡す和哉の目に、カップルらしき男女が何組も歩いているのが映った。
その幸せそうな姿を見て、和哉はなぜか少し羨ましく感じてしまう。
(僕もいつかあんな風に好きな人と一緒になれたらいいな……)
そんな事を思いながらぼんやりと眺めていると横から声を掛けられた。
「どうした?食わねぇのか?」
見ると既に食べ終わったのか、ギルランスは串を手で弄びながらこちらを見ている。
「あ、食べるよ」
和哉が慌てて残りの肉を食べていると、不意に背後から二人に駆け寄ってくる足音がしてきた。
「あーっ!やっぱりギルたちだった!こんな所で何してるの?」
唐突に声を掛けられ振り向くと、そこにいたのはなんと、アミリアだった。
「あ、アミリアさん!」
「なんだ、アミリアかよ」
ギルランスの反応は相変わらず素っ気ない。
しかし、ギルランスのそんな反応には慣れっこなのか、アミリアは全く気にする様子もなく、淡い桃色の髪を靡かせながら和哉たちの前に立ち、満面の笑みを浮かべていた。
「こんばんは~!こんなところで会うなんて奇遇ね!二人はここで何をしていたの?ギルがお祭りってガラじゃないわよね?」
その言葉に和哉は思わず苦笑してしまった。
確かにギルランスはお祭りなどには興味なさそうだ。
現に今も隣に座りながら仏頂面をしている。
(まあ確かにそうかも……)
そんな事を考えている和哉の横で、ギルランスは面倒くさそうな顔をしながらもアミリアに向けて説明するが……。
「相変わらずうるせーなぁ……今はこいつに”教会で式を挙げよう”って説得中なんだよ」
(え!?ちょっ!ギル、その言い方はちょっと!?)
あまりにも色々と端折ったギルランスの発言に和哉はギョッと目を見開き振り向くが、当の本人は意に介さず飄々としている。
そして、そのギルランスの言葉を聞いたアミリアはというと……案の定、ポカンと口を開けて固まっていた。
数秒後、ようやく我に返ったらしくアミリアは顔を真っ赤にして叫んだ。
「えええっ!?それってつまり……プ、プロポーズって事!?」
「はあ?」
今度はギルランスが唖然としている。
そんなギルランスにアミリアはますます目を剥いて詰め寄る。
「だって『教会で結婚式を挙げる』って言ったんでしょ?」
「まあ、そうだが……?」
ギルランスはアミリアが何をそんなに驚いているのか理解できていないのか、戸惑ったように頷く。
すると、更にアミリアからマシンガンのごとく質問が浴びせられた。
「じゃあやっぱりプロポーズじゃないの!いつ!?どこで!?どんな風に言ったの!?ねえ教えて!!」
あまりの勢いに圧倒されながらも、和哉は「ご、誤解ですよ」と慌てて口を挟むと、事の経緯を説明した。
でなければ彼女の盛大な誤解は解けそうにもなかったからだ。
もちろん、極秘事項なだけにアミリアを全面的に信用したうえでだ。
和哉の説明を聞いたアミリアはしばらく唖然としていたが、やがてうんうんと頷いた。
「なるほどね……大体分かったわ」
なんとか納得してくれたようでホッと胸を撫で下ろした和哉だったが……。
「つまり、囮としての偽装結婚式を挙げるのね……で、花婿はギルでいいとして、花嫁はカズヤが女装でもするのかしら?」
その言葉に和哉は思わず飲んでいた水を吹き出しそうになる。
(だから、なんでアミリアさんまでその発想になるんだよ!?)
ゴホゴホと水でむせながら内心で抗議する和哉の隣から、ギルランスの呆れ気味の声が聞こえる。
「俺もそう言ったんだが、コイツが『嫌だ』の一点張りなんだ」
(当たり前だろっ!!)
そう叫びたい衝動に駆られたが何とか堪えてギルランスを睨みつけた。
「……だから僕は女装なんて絶対イヤだからね」
絶対に譲らない和哉の言葉にようやく諦めたのか、ギルランスは肩をすくめて”降参”のポーズをしてみせた。
「わーったよ、もう言わねぇから安心しろ」
「ホントだよ!?」
和哉がジト目で念押しするように言うとギルランスは面倒くさそうに頷く。
「はいはい、分かりましたよ」
そんな二人のやり取りを今まで黙って聞いていたアミリアが突然パンと両手を打ち鳴らした。
そして、名案とばかりに両手を広げる。
「そんなの簡単じゃない!私が花嫁役やればいいのよ!」
思わぬアミリアの申し出に和哉は目を剥いて彼女を見返した。
「えっ!?いやいや、そんな危険な役を――」
焦って断ろうとする和哉の言葉を、アミリアはあっけらかんとした様子で、笑って遮った。
「だって、私なら適任でしょ?これでも一応女だし、しかも結構強いのよ!」
そう言ってアミリアは得意気に自分の胸をポンっと叩いた。
確かにアミリアの実力がかなり高いであろう事は、まだ彼女を良く知らない和哉にも充分に予測できた。
そうであれば、これ以上ないほど頼もしいのだ。
だが、やはり心配ではあるし、なによりギルランスが妹のように思っている彼女を危険な目に遭わせたくないとも思う和哉だった。
すると、それまで黙っていたギルランスが口を挟む。
「別にお前がやるのは構わねぇが……ただ報酬はどうすんだ?」
(えっ!構わないんだ!?)
予想外のギルランスの言葉に驚く和哉だったが、ギルランスがそう言うという事は、それだけアミリアの実力が信頼されている証拠だろうともとれる。
和哉は、自分が女装したくないという我儘を通したことで、アミリアに危険な役をさせてしまうのを申し訳なく思う反面、彼女以上の適役はいないだろうと認めた。
「……アミリアさん、すいませんお願いします」
頭を下げる和哉の姿にアミリアはにっこり微笑んだ。
「おっけ!任せといて♪」
親指をグッと立てながら和哉にウィンクをした後、アミリアはギルランスに向き直りひらひらと手を振ってみせる。
「報酬なんていらないわよ、今回は特別にタダでやってあげる!」
アミリアは笑顔で答えるが、逆に和哉の方が恐縮してしまう――正直とてもありがたい話ではあるが、なんだか申し訳ない気もしてくるのだ。
「……どうしてそこまでしてくれるんですか?」
戸惑いつつ尋ねる和哉の質問に、アミリアは少し考えるような仕草をした。
「……そうねぇ……強いて言うならあなた達のためかしら?」
「僕たちの……?」
和哉とギルランスは顔を見合わせて首を傾げる。
そんな二人の様子を見てクスクスと笑っていたアミリアだったが、おもむろに和哉に顔を寄せるとそっと耳打ちするように囁いた。
「(ちょっとした荒療治よ)」
(――??)
「え?」
意味がわからず聞き返すものの、アミリアは悪戯っぽく片目を閉じると、すぐに体勢を元に戻してしまい、和哉の問いへの答えはくれなかった。
そして、アミリアは二人に聞こえないくらいの小さな声で「(それに、私自身のけじめでもあるから……)」と付け加えたが、その声に和哉もギルランスも気付く事はなかった。
****
****
なんだかんだありながらも花婿役をギルランス、花嫁役はアミリアが務める事で丸く収まった。
ちなみに和哉は付添人という名目になっている。
衣装や指輪はレンタルを利用し、もちろん偽の結婚式なので招待客などはいない。
事件の捜査だという事も秘密のため、教会側の神父には、『諸事情により盛大な結婚式ができないが、せめて式だけでも挙げたい”ワケありカップル”』だと事前に伝えてある。
勿論、神父は本物のカップルだと思っているはずだ。
教会は街の外れにあるため、ここなら目立たず式を挙げる事が出来る――つまり、それだけ容疑者を絞り込む事ができるのではないかという期待も込めての事であった。
こうして、準備を整えた三人はいよいよ挙式当日を迎えた――。
もうすっかり日も暮れて辺りは暗くなっているが街は祭りの期間のため人通りも多く、明るく賑わっている。
そんな中で二人は先ほどから押問答を繰り返していた。
結局まだ花嫁役を決めかねているのだ。
事件が事件なだけに危険すぎるということで適当に誰かに頼むわけにもいかないためだ。
「――ったく……いい加減腹くくれって!」
「う~~……」
さっきからこの調子でずっと言い合いが続いている。
いくら自分がドレスを着て化粧をしたとしても、体型は男なのだから本物の女性と見間違うはずがないだろうと和哉は思う。
それに、なにより和哉自身が女装なんてしたくないのだ。
昔から散々『女顔』だとバカにされてきた記憶がよみがえる。
(だいたい僕は自分の顔が嫌なんだよ!!なんで女装なんてして傷口に塩を塗るようなマネしなきゃなんないんだよ!?)
そう心の中で文句を言いながら不貞腐れていると、ふと露店のいい香りが漂ってきた。
途端に空腹を感じてしまう。
ぐぅ~~~!
(――!!)
和哉は相変わらず正直な自分の腹の虫に辟易しながらチラリと隣のギルランスに目を向けると、案の定、彼は口を押さえて笑いを堪えていた。
「ぷっ!……くくっ!――お前はまた……」
ギルランスはもう限界といった感じでプッと吹き出す。
「う……そんなに笑わなくてもいいじゃんか……」
不貞腐れたように唇を尖らせる和哉に、ギルランスは「わりぃわりぃ」と言いながら宥めるようにポンポンと頭を撫でた。
「とりあえず飯にするか。腹ごしらえしねぇとな――なにが食いてぇ?」
「…………お肉」
憮然としながらも、食欲に負けた和哉がボソリと正直に呟くと、また隣で「ぷっ」という吹き出す音が聞こえる。
(うぅ、くそ~~……育ち盛りの男子高校生としてはお肉一択じゃないか!)
などと内心反論しながらムゥと膨れている和哉の目の前に、不意に大きな手が差し出された。
思わず反射的にその手を掴むと、「ほれ、行くぞ」と言う声と共にグイっと引っ張り上げられる。
「うわっ!」
油断していたせいもあり急に身体が宙に浮き思わず悲鳴を上げる和哉だったが、見上げたギルランスの笑みが妙に優しげに見えてしまいドキリとする。
(――!??)
そんな自分の心臓に首を傾げながらも、和哉は引かれるままに歩き出した。
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二人は屋台で串焼きを買うと空いているベンチを見つけて座った。
辺りは相変わらずのお祭りムードで、賑やかな様相を見せている。
そんな中、香ばしい匂いを漂わせる肉を頬張りつつ周りを見渡す和哉の目に、カップルらしき男女が何組も歩いているのが映った。
その幸せそうな姿を見て、和哉はなぜか少し羨ましく感じてしまう。
(僕もいつかあんな風に好きな人と一緒になれたらいいな……)
そんな事を思いながらぼんやりと眺めていると横から声を掛けられた。
「どうした?食わねぇのか?」
見ると既に食べ終わったのか、ギルランスは串を手で弄びながらこちらを見ている。
「あ、食べるよ」
和哉が慌てて残りの肉を食べていると、不意に背後から二人に駆け寄ってくる足音がしてきた。
「あーっ!やっぱりギルたちだった!こんな所で何してるの?」
唐突に声を掛けられ振り向くと、そこにいたのはなんと、アミリアだった。
「あ、アミリアさん!」
「なんだ、アミリアかよ」
ギルランスの反応は相変わらず素っ気ない。
しかし、ギルランスのそんな反応には慣れっこなのか、アミリアは全く気にする様子もなく、淡い桃色の髪を靡かせながら和哉たちの前に立ち、満面の笑みを浮かべていた。
「こんばんは~!こんなところで会うなんて奇遇ね!二人はここで何をしていたの?ギルがお祭りってガラじゃないわよね?」
その言葉に和哉は思わず苦笑してしまった。
確かにギルランスはお祭りなどには興味なさそうだ。
現に今も隣に座りながら仏頂面をしている。
(まあ確かにそうかも……)
そんな事を考えている和哉の横で、ギルランスは面倒くさそうな顔をしながらもアミリアに向けて説明するが……。
「相変わらずうるせーなぁ……今はこいつに”教会で式を挙げよう”って説得中なんだよ」
(え!?ちょっ!ギル、その言い方はちょっと!?)
あまりにも色々と端折ったギルランスの発言に和哉はギョッと目を見開き振り向くが、当の本人は意に介さず飄々としている。
そして、そのギルランスの言葉を聞いたアミリアはというと……案の定、ポカンと口を開けて固まっていた。
数秒後、ようやく我に返ったらしくアミリアは顔を真っ赤にして叫んだ。
「えええっ!?それってつまり……プ、プロポーズって事!?」
「はあ?」
今度はギルランスが唖然としている。
そんなギルランスにアミリアはますます目を剥いて詰め寄る。
「だって『教会で結婚式を挙げる』って言ったんでしょ?」
「まあ、そうだが……?」
ギルランスはアミリアが何をそんなに驚いているのか理解できていないのか、戸惑ったように頷く。
すると、更にアミリアからマシンガンのごとく質問が浴びせられた。
「じゃあやっぱりプロポーズじゃないの!いつ!?どこで!?どんな風に言ったの!?ねえ教えて!!」
あまりの勢いに圧倒されながらも、和哉は「ご、誤解ですよ」と慌てて口を挟むと、事の経緯を説明した。
でなければ彼女の盛大な誤解は解けそうにもなかったからだ。
もちろん、極秘事項なだけにアミリアを全面的に信用したうえでだ。
和哉の説明を聞いたアミリアはしばらく唖然としていたが、やがてうんうんと頷いた。
「なるほどね……大体分かったわ」
なんとか納得してくれたようでホッと胸を撫で下ろした和哉だったが……。
「つまり、囮としての偽装結婚式を挙げるのね……で、花婿はギルでいいとして、花嫁はカズヤが女装でもするのかしら?」
その言葉に和哉は思わず飲んでいた水を吹き出しそうになる。
(だから、なんでアミリアさんまでその発想になるんだよ!?)
ゴホゴホと水でむせながら内心で抗議する和哉の隣から、ギルランスの呆れ気味の声が聞こえる。
「俺もそう言ったんだが、コイツが『嫌だ』の一点張りなんだ」
(当たり前だろっ!!)
そう叫びたい衝動に駆られたが何とか堪えてギルランスを睨みつけた。
「……だから僕は女装なんて絶対イヤだからね」
絶対に譲らない和哉の言葉にようやく諦めたのか、ギルランスは肩をすくめて”降参”のポーズをしてみせた。
「わーったよ、もう言わねぇから安心しろ」
「ホントだよ!?」
和哉がジト目で念押しするように言うとギルランスは面倒くさそうに頷く。
「はいはい、分かりましたよ」
そんな二人のやり取りを今まで黙って聞いていたアミリアが突然パンと両手を打ち鳴らした。
そして、名案とばかりに両手を広げる。
「そんなの簡単じゃない!私が花嫁役やればいいのよ!」
思わぬアミリアの申し出に和哉は目を剥いて彼女を見返した。
「えっ!?いやいや、そんな危険な役を――」
焦って断ろうとする和哉の言葉を、アミリアはあっけらかんとした様子で、笑って遮った。
「だって、私なら適任でしょ?これでも一応女だし、しかも結構強いのよ!」
そう言ってアミリアは得意気に自分の胸をポンっと叩いた。
確かにアミリアの実力がかなり高いであろう事は、まだ彼女を良く知らない和哉にも充分に予測できた。
そうであれば、これ以上ないほど頼もしいのだ。
だが、やはり心配ではあるし、なによりギルランスが妹のように思っている彼女を危険な目に遭わせたくないとも思う和哉だった。
すると、それまで黙っていたギルランスが口を挟む。
「別にお前がやるのは構わねぇが……ただ報酬はどうすんだ?」
(えっ!構わないんだ!?)
予想外のギルランスの言葉に驚く和哉だったが、ギルランスがそう言うという事は、それだけアミリアの実力が信頼されている証拠だろうともとれる。
和哉は、自分が女装したくないという我儘を通したことで、アミリアに危険な役をさせてしまうのを申し訳なく思う反面、彼女以上の適役はいないだろうと認めた。
「……アミリアさん、すいませんお願いします」
頭を下げる和哉の姿にアミリアはにっこり微笑んだ。
「おっけ!任せといて♪」
親指をグッと立てながら和哉にウィンクをした後、アミリアはギルランスに向き直りひらひらと手を振ってみせる。
「報酬なんていらないわよ、今回は特別にタダでやってあげる!」
アミリアは笑顔で答えるが、逆に和哉の方が恐縮してしまう――正直とてもありがたい話ではあるが、なんだか申し訳ない気もしてくるのだ。
「……どうしてそこまでしてくれるんですか?」
戸惑いつつ尋ねる和哉の質問に、アミリアは少し考えるような仕草をした。
「……そうねぇ……強いて言うならあなた達のためかしら?」
「僕たちの……?」
和哉とギルランスは顔を見合わせて首を傾げる。
そんな二人の様子を見てクスクスと笑っていたアミリアだったが、おもむろに和哉に顔を寄せるとそっと耳打ちするように囁いた。
「(ちょっとした荒療治よ)」
(――??)
「え?」
意味がわからず聞き返すものの、アミリアは悪戯っぽく片目を閉じると、すぐに体勢を元に戻してしまい、和哉の問いへの答えはくれなかった。
そして、アミリアは二人に聞こえないくらいの小さな声で「(それに、私自身のけじめでもあるから……)」と付け加えたが、その声に和哉もギルランスも気付く事はなかった。
****
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なんだかんだありながらも花婿役をギルランス、花嫁役はアミリアが務める事で丸く収まった。
ちなみに和哉は付添人という名目になっている。
衣装や指輪はレンタルを利用し、もちろん偽の結婚式なので招待客などはいない。
事件の捜査だという事も秘密のため、教会側の神父には、『諸事情により盛大な結婚式ができないが、せめて式だけでも挙げたい”ワケありカップル”』だと事前に伝えてある。
勿論、神父は本物のカップルだと思っているはずだ。
教会は街の外れにあるため、ここなら目立たず式を挙げる事が出来る――つまり、それだけ容疑者を絞り込む事ができるのではないかという期待も込めての事であった。
こうして、準備を整えた三人はいよいよ挙式当日を迎えた――。
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