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第26話 月影亭
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「ここで聞いてみるか」
そう言ってギルランスが馬車を止めた場所は大通りに面した三階建ての立派な建物だった。
周りの建物に比べ格段に豪勢な造りで、石造りの外壁には見事な彫刻が施されていてひと際目を引く。
入り口の扉の上には大きな看板があり『月影亭』と書かれている。
実は今日の宿を探し始めてからここで五軒目だった。
ここに来るまでに四軒回ったが、どこも満室で部屋の空きが無かったのだ。
ルーラに借金をしている身としては贅沢は出来ないので、初めはなるべく安く泊まれる所を探していたのだが、結局この街一番の高級宿まで来てしまった。
馬車を預け中に入ると一階は酒場になっており、既に多くの客で賑わっていた。
「いらっしゃいませ」
カウンターで受付をしている女性に声をかけられる。
「お泊まりですか?それともお食事だけでしょうか?」
「部屋はあるか?」
「畏まりました、お二人様ですね」
女性は台帳のような物を確認した後、申し訳なさそうに顔を上げた。
「申し訳ございません、ただいまツインのお部屋もシングルも満室でして……」
「え!?そんな……!」
女性の言葉に和哉は思わず声を上げてしまう。
ここでもダメだとしたら、それこそ今夜も野宿になってしまうかもしれない。
そろそろまともにシャワーも浴びたいと思っていた和哉にとって、それは避けたいところだった。
そんな和哉にチラリと視線を向けたあと、ギルランスは女性へと向き直り訝し気な表情で口を開いた。
「他のところも満室だったが……なにかあるのか?」
ギルランスの問いに、女性は少し困ったような笑顔を見せて答えた。
「はい、この時期はどこも混み合いますので……」
「時期?」
「ええ、明後日からこの街の一大行事でもある、年に一度七日間通して行われる収穫祭があるんです。他国からも観光のかたが大勢お越しになるので今が一番お客様が多いんですよ」
そう言って苦笑する女性の説明を聞いて、和哉は昼間街を歩いたときの人の数の多さを思い出して納得した。
「祭りか、そういえばそんな時期だったな」
ギルランスは興味なさそうに呟くと、和哉に顔を向ける。
「どうする?このままだと今夜も野宿になっちまうが……他もあたってみるか?」
「う~ん……でも、多分どこも無理だよね……?」
(無いものは仕方がない、祭りが終わるまでは野宿しかないかなぁ……)
和哉が諦め気分で答えたその時、ふと思い立ったように「――あ」と、女性が声を発して、次いでどこか申し訳なさそうに二人にある提案を切り出した。
「あの……ダブルでしたらご用意できますが……お代は半額で構いませんので……」
その言葉に一瞬二人で固まってしまう。
だが他に選択肢は無いと思ったのかギルランスは女性の提案に頷いた。
「……ああ、それで構わない」
(……えっ!?ちょっ……ちょっと待って……!)
戸惑い慌てる和哉をよそに彼はさっさと手続きを済ませてしまった。
そのまま荷物持ちのメイドの後について三階へと上がり、一番奥の部屋へ案内される。
「どうぞごゆっくりお寛ぎ下さいませ」
メイドはそう言い、鍵を手渡すと一礼をして部屋を出て行った。
ギルランスの後に続いて戸惑いつつも部屋に入った和哉は、室内の様子を目にした瞬間思わず息を呑んだ。
そこには、今まで泊ったことのないような豪華な部屋が広がっていたからだ。
(これが……スイートルームってやつなのか!?)
和哉は、自分には一生縁の無いであろうと思っていた空間を前にして感動を覚えていた。
白を基調とした室内の中央には重厚な造りのテーブルとソファーが置かれており、テーブルの上には美しい花と共に置かれた酒と思われる数本のボトルとグラスのセットが燭台の灯りに照らされ鈍く輝いている。
そして、その右手奥にはキングサイズのベッドがあり、傍らの壁には暖炉が備え付けられていて赤々と炎が揺らめき部屋を暖かく照らしていた。
「すごいな……」
思わず感嘆の声を上げる和哉に、ギルランスは「そうか?」と首を傾げる。
その反応から察するに、彼はこういった場所に対してはあまり頓着ないタイプのようだ。
「僕、こんな豪華な部屋初めてだよ……」
和哉は日本での自分の部屋の何倍もありそうな部屋に感動を覚えながら、正面の大きな窓に近づいて外を覗いてみる。
窓からは夜の帳が降りた街の風景が広がり、眼下には大勢の人々が楽し気に行き交っているのが見えた。
その景色は和哉が日本で見ていた、ギラギラとしたネオンが輝く繁華街とは違い、仄かに揺れるガス灯の灯りや、建物の窓から洩れる暖かな光に彩られた石造りの街並みがとても幻想的で……まるで物語の一ページを切り取ったような美しさだった。
「……綺麗だなぁ……」
ほぅ――と、思わず溜め息混じりに呟く和哉の後ろからギルランスがフッと笑う気配があった。
「まぁ、確かに悪くねぇな」
「だよね!!」
和哉が興奮気味に目を輝かせながら振り向くと、ベッドに腰掛けたギルランスと目が合い、ドキリと心臓が跳ねる。
その姿を目にした途端、和哉は部屋の豪華さに感動するあまりに重大な事実を失念していた事に気付いた。
そう、この部屋にはベッドが一つしかないのだ。
(――っ!!そうだったぁ~~!!!)
途端に顔に熱が集まるのを感じる。
確かにその大きなベッドなら、寝ようと思えば男性二人で寝ても全然余裕だろうが……。
(……こ、これは……今からでもキャンセルして野宿したほうが……?でも、半額だし……そもそもなんで僕はこんなに焦ってるんだ……?)
そんな事をぐるぐると考えていた和哉だが、不意に立ち上がったギルランスに思わずビクッと肩を揺らす。
だが、焦る和哉の事など全く気付いていないのか、ギルランスはスタスタとクローゼットの方へ歩いて行くと扉を開けて装備を外し始めた。
「お前もここに掛けとけ、いつまでもそんな恰好じゃ重てぇだろ?」
ギルランスは特に気にした様子もなくそう言いながらマントをハンガーに掛けたり、剣をホルスターごと外してクローゼットの中に吊るしたりしている。
(あ、あれ?……気にしてるのって、僕だけ??)
和哉は些か拍子抜けな気持ちになりながらも、冷静に考えてみれば当然のことだろう事に気がづいた。
ギルランスにとってみれば、同性である男と同じベッドで寝る事くらいどうという事もないのだろう。
むしろ、和哉が意識しすぎなのだ。
(そりゃそうだ、よく考えれば分かるじゃないか……何を僕は焦っているんだ?)
例えば相手が学校の友人だったら、と考えたら確かに全く気にならない。
そう思うと変に意識している自分が急に恥ずかしくなってしまい、「そ、そうだね」と言いながら慌てて和哉も装備を解く。
背負っている弓やら、腰に提げている矢筒や短剣などを外すと、途端に身軽になった気がした。
「ふぅ、着けてるときはそんな重いとか感じないけど、やっぱ外すと軽くなる~」
やはり慣れない防具を着けていたせいか、思った以上に肩が凝っていたようだ。
大きく伸びをした後、グルグルと肩を回している和哉にギルランスが声をかける。
「腹は減ってねぇか?下の酒場にでも行って何か食うか」
言われると急に空腹感が込み上げてきて、和哉の腹から「グゥ~」と大きな音が鳴り響いた。
相変わらず大きな和哉の”腹の虫”にギルランスはプッと吹き出して、「ホント分かりやすい腹だな」と笑いながら部屋を出て行く。
「う、うるさいなぁ……しょうがないだろ?」
和哉は恥ずかしさを誤魔化すように言いながら、ギルランスの後を追って部屋を後にした。
****
****
一階まで下りると酒場の喧騒が二人を出迎えた。
酒場は夕飯時ということもあって大勢の客で賑わっているようだった。
二人は空いている席に着くと給仕に料理を注文し料理が来るのを待った。
暫くすると頼んだメニューが次々と運ばれてくる。
やはりどれも美味しそうだ。
「いただきます!」
手を合わせ、早速食べ始める和哉だが、ギルランスがジッとこちらを見ている事に気付いて手を止めた。
「ん?どうかした?」
首を傾げる和哉にギルランスは不思議そう……というより訝し気な顔をしている。
「いや……お前がいつも飯食う前に言ってるそれ……何なんだ?」
「え?何って……いただきますだけど?」
ギルランスの問いに和哉は何を当たり前のことを、と思いながら答えるが、ギルランスは更に難しい顔になる。
「……なんかのまじないか何かか?」
(う~ん……そんな風に見えるのかな……?)
どうやら、そういう習慣がないこの世界の人々にとっては和哉が食事前に必ず呟くそれは理解しがたいものだったようだ。
和哉はギルランスにも伝わるようになるべく簡単な言葉を選んで説明した。
「えっと……これはね、僕の国に伝わる食前の習慣みたいなものでね、食べ物に対する感謝を込めて言うんだよ」
「へぇ~そうなのか」
どうやら興味を持ったらしく、ギルランスは頷きながら続きを待っている様子だったので説明を続ける。
「食べる前にはこうして手を合わせて『頂きます』って言うんだけど、食事を作ってくれた人への感謝の気持ちと、命を与えてくれた食材や自然に対して『命を頂く』という意味があるんだって」
そう言って和哉は再び手を合わせる仕草をして見せた。
自分にもギルランスに何かを教える事があったんだ、と少し嬉しく思いながら彼の反応を伺う。
「命を頂く、か……なるほどな」
ギルランスは納得したように頷くと、徐に手を合わせ「いただきます」と呟いた後、フォークを手に持ち食事を始めた。
まさかこのギルランスがこんなに素直に人の話を聞いてくれるとは思わなかったので、和哉は少し驚きながらも嬉しくなった。
「へへっ……なんか嬉しいな」
思わず笑みが零れる和哉に、ギルランスは不思議そうに首を傾げる。
「何がだ?」
「……あ、いや!別に何でもないよ!」
(しまった!つい声に出ちゃった……!)
慌てて誤魔化しつつ、和哉はそんなギルランスを微笑ましく思いながら目の前の料理を食べ進めるのだった。
そう言ってギルランスが馬車を止めた場所は大通りに面した三階建ての立派な建物だった。
周りの建物に比べ格段に豪勢な造りで、石造りの外壁には見事な彫刻が施されていてひと際目を引く。
入り口の扉の上には大きな看板があり『月影亭』と書かれている。
実は今日の宿を探し始めてからここで五軒目だった。
ここに来るまでに四軒回ったが、どこも満室で部屋の空きが無かったのだ。
ルーラに借金をしている身としては贅沢は出来ないので、初めはなるべく安く泊まれる所を探していたのだが、結局この街一番の高級宿まで来てしまった。
馬車を預け中に入ると一階は酒場になっており、既に多くの客で賑わっていた。
「いらっしゃいませ」
カウンターで受付をしている女性に声をかけられる。
「お泊まりですか?それともお食事だけでしょうか?」
「部屋はあるか?」
「畏まりました、お二人様ですね」
女性は台帳のような物を確認した後、申し訳なさそうに顔を上げた。
「申し訳ございません、ただいまツインのお部屋もシングルも満室でして……」
「え!?そんな……!」
女性の言葉に和哉は思わず声を上げてしまう。
ここでもダメだとしたら、それこそ今夜も野宿になってしまうかもしれない。
そろそろまともにシャワーも浴びたいと思っていた和哉にとって、それは避けたいところだった。
そんな和哉にチラリと視線を向けたあと、ギルランスは女性へと向き直り訝し気な表情で口を開いた。
「他のところも満室だったが……なにかあるのか?」
ギルランスの問いに、女性は少し困ったような笑顔を見せて答えた。
「はい、この時期はどこも混み合いますので……」
「時期?」
「ええ、明後日からこの街の一大行事でもある、年に一度七日間通して行われる収穫祭があるんです。他国からも観光のかたが大勢お越しになるので今が一番お客様が多いんですよ」
そう言って苦笑する女性の説明を聞いて、和哉は昼間街を歩いたときの人の数の多さを思い出して納得した。
「祭りか、そういえばそんな時期だったな」
ギルランスは興味なさそうに呟くと、和哉に顔を向ける。
「どうする?このままだと今夜も野宿になっちまうが……他もあたってみるか?」
「う~ん……でも、多分どこも無理だよね……?」
(無いものは仕方がない、祭りが終わるまでは野宿しかないかなぁ……)
和哉が諦め気分で答えたその時、ふと思い立ったように「――あ」と、女性が声を発して、次いでどこか申し訳なさそうに二人にある提案を切り出した。
「あの……ダブルでしたらご用意できますが……お代は半額で構いませんので……」
その言葉に一瞬二人で固まってしまう。
だが他に選択肢は無いと思ったのかギルランスは女性の提案に頷いた。
「……ああ、それで構わない」
(……えっ!?ちょっ……ちょっと待って……!)
戸惑い慌てる和哉をよそに彼はさっさと手続きを済ませてしまった。
そのまま荷物持ちのメイドの後について三階へと上がり、一番奥の部屋へ案内される。
「どうぞごゆっくりお寛ぎ下さいませ」
メイドはそう言い、鍵を手渡すと一礼をして部屋を出て行った。
ギルランスの後に続いて戸惑いつつも部屋に入った和哉は、室内の様子を目にした瞬間思わず息を呑んだ。
そこには、今まで泊ったことのないような豪華な部屋が広がっていたからだ。
(これが……スイートルームってやつなのか!?)
和哉は、自分には一生縁の無いであろうと思っていた空間を前にして感動を覚えていた。
白を基調とした室内の中央には重厚な造りのテーブルとソファーが置かれており、テーブルの上には美しい花と共に置かれた酒と思われる数本のボトルとグラスのセットが燭台の灯りに照らされ鈍く輝いている。
そして、その右手奥にはキングサイズのベッドがあり、傍らの壁には暖炉が備え付けられていて赤々と炎が揺らめき部屋を暖かく照らしていた。
「すごいな……」
思わず感嘆の声を上げる和哉に、ギルランスは「そうか?」と首を傾げる。
その反応から察するに、彼はこういった場所に対してはあまり頓着ないタイプのようだ。
「僕、こんな豪華な部屋初めてだよ……」
和哉は日本での自分の部屋の何倍もありそうな部屋に感動を覚えながら、正面の大きな窓に近づいて外を覗いてみる。
窓からは夜の帳が降りた街の風景が広がり、眼下には大勢の人々が楽し気に行き交っているのが見えた。
その景色は和哉が日本で見ていた、ギラギラとしたネオンが輝く繁華街とは違い、仄かに揺れるガス灯の灯りや、建物の窓から洩れる暖かな光に彩られた石造りの街並みがとても幻想的で……まるで物語の一ページを切り取ったような美しさだった。
「……綺麗だなぁ……」
ほぅ――と、思わず溜め息混じりに呟く和哉の後ろからギルランスがフッと笑う気配があった。
「まぁ、確かに悪くねぇな」
「だよね!!」
和哉が興奮気味に目を輝かせながら振り向くと、ベッドに腰掛けたギルランスと目が合い、ドキリと心臓が跳ねる。
その姿を目にした途端、和哉は部屋の豪華さに感動するあまりに重大な事実を失念していた事に気付いた。
そう、この部屋にはベッドが一つしかないのだ。
(――っ!!そうだったぁ~~!!!)
途端に顔に熱が集まるのを感じる。
確かにその大きなベッドなら、寝ようと思えば男性二人で寝ても全然余裕だろうが……。
(……こ、これは……今からでもキャンセルして野宿したほうが……?でも、半額だし……そもそもなんで僕はこんなに焦ってるんだ……?)
そんな事をぐるぐると考えていた和哉だが、不意に立ち上がったギルランスに思わずビクッと肩を揺らす。
だが、焦る和哉の事など全く気付いていないのか、ギルランスはスタスタとクローゼットの方へ歩いて行くと扉を開けて装備を外し始めた。
「お前もここに掛けとけ、いつまでもそんな恰好じゃ重てぇだろ?」
ギルランスは特に気にした様子もなくそう言いながらマントをハンガーに掛けたり、剣をホルスターごと外してクローゼットの中に吊るしたりしている。
(あ、あれ?……気にしてるのって、僕だけ??)
和哉は些か拍子抜けな気持ちになりながらも、冷静に考えてみれば当然のことだろう事に気がづいた。
ギルランスにとってみれば、同性である男と同じベッドで寝る事くらいどうという事もないのだろう。
むしろ、和哉が意識しすぎなのだ。
(そりゃそうだ、よく考えれば分かるじゃないか……何を僕は焦っているんだ?)
例えば相手が学校の友人だったら、と考えたら確かに全く気にならない。
そう思うと変に意識している自分が急に恥ずかしくなってしまい、「そ、そうだね」と言いながら慌てて和哉も装備を解く。
背負っている弓やら、腰に提げている矢筒や短剣などを外すと、途端に身軽になった気がした。
「ふぅ、着けてるときはそんな重いとか感じないけど、やっぱ外すと軽くなる~」
やはり慣れない防具を着けていたせいか、思った以上に肩が凝っていたようだ。
大きく伸びをした後、グルグルと肩を回している和哉にギルランスが声をかける。
「腹は減ってねぇか?下の酒場にでも行って何か食うか」
言われると急に空腹感が込み上げてきて、和哉の腹から「グゥ~」と大きな音が鳴り響いた。
相変わらず大きな和哉の”腹の虫”にギルランスはプッと吹き出して、「ホント分かりやすい腹だな」と笑いながら部屋を出て行く。
「う、うるさいなぁ……しょうがないだろ?」
和哉は恥ずかしさを誤魔化すように言いながら、ギルランスの後を追って部屋を後にした。
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一階まで下りると酒場の喧騒が二人を出迎えた。
酒場は夕飯時ということもあって大勢の客で賑わっているようだった。
二人は空いている席に着くと給仕に料理を注文し料理が来るのを待った。
暫くすると頼んだメニューが次々と運ばれてくる。
やはりどれも美味しそうだ。
「いただきます!」
手を合わせ、早速食べ始める和哉だが、ギルランスがジッとこちらを見ている事に気付いて手を止めた。
「ん?どうかした?」
首を傾げる和哉にギルランスは不思議そう……というより訝し気な顔をしている。
「いや……お前がいつも飯食う前に言ってるそれ……何なんだ?」
「え?何って……いただきますだけど?」
ギルランスの問いに和哉は何を当たり前のことを、と思いながら答えるが、ギルランスは更に難しい顔になる。
「……なんかのまじないか何かか?」
(う~ん……そんな風に見えるのかな……?)
どうやら、そういう習慣がないこの世界の人々にとっては和哉が食事前に必ず呟くそれは理解しがたいものだったようだ。
和哉はギルランスにも伝わるようになるべく簡単な言葉を選んで説明した。
「えっと……これはね、僕の国に伝わる食前の習慣みたいなものでね、食べ物に対する感謝を込めて言うんだよ」
「へぇ~そうなのか」
どうやら興味を持ったらしく、ギルランスは頷きながら続きを待っている様子だったので説明を続ける。
「食べる前にはこうして手を合わせて『頂きます』って言うんだけど、食事を作ってくれた人への感謝の気持ちと、命を与えてくれた食材や自然に対して『命を頂く』という意味があるんだって」
そう言って和哉は再び手を合わせる仕草をして見せた。
自分にもギルランスに何かを教える事があったんだ、と少し嬉しく思いながら彼の反応を伺う。
「命を頂く、か……なるほどな」
ギルランスは納得したように頷くと、徐に手を合わせ「いただきます」と呟いた後、フォークを手に持ち食事を始めた。
まさかこのギルランスがこんなに素直に人の話を聞いてくれるとは思わなかったので、和哉は少し驚きながらも嬉しくなった。
「へへっ……なんか嬉しいな」
思わず笑みが零れる和哉に、ギルランスは不思議そうに首を傾げる。
「何がだ?」
「……あ、いや!別に何でもないよ!」
(しまった!つい声に出ちゃった……!)
慌てて誤魔化しつつ、和哉はそんなギルランスを微笑ましく思いながら目の前の料理を食べ進めるのだった。
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