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第28話 ラグロス
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「――今から10年くらい前だったか?……この前話したとおり、俺は施設に現れた師匠に引き取られた。
師匠の家には、もう一人、どこかの施設から俺と同じように引き取られてきた俺より少し年上の少年が居たんだ。
名前はラグロスと言って、そいつは物静かで大人しい奴だった。
そんな俺たちを引き取った理由は単純明快で、師匠が引退するにあたっての後継者を育てるためだった。
どうやら師匠は当時いろいろな施設を回って後継者候補を探していたらしい。
そこでたまたま訪れた孤児院で俺が目に留まり、引き取る事にしたそうだ。
同じような理由でラグロスも引き取られたそうだった。
それから俺とラグロスは師匠の元で共に生活することになったんだ。
最初の頃は全く会話すらしなかった――つうか、俺のほうが一方的に壁を作っていたんだと思う。
俺の人嫌いは今でも変わってはいないが、当時もまぁそんな感じだったからな。
だが、あいつの柔らかな物腰と優しい物言いのおかげなのか……次第に距離は縮まっていって、そのうち本当の兄弟のように仲良くなっていった。
俺の中では兄弟であり、相棒であり、親友のような存在になっていったんだ。
たぶん、あいつも俺に対しそう思ってくれていたはずだ。
厳しい修行にも二人で支え合いながら俺達は成長していった。
だけどそんな日々も長くは続かなかった――。
――引き取られてから3~4年経った頃か……修行しながら冒険者としても順調に経験を積んでいた俺達だったが、ある時師匠が俺たちを前に言ったんだ。
『お前たちはもう十分強くなった……そろそろ次の段階へ進む時期だろう』ってな……。
その時は単純に嬉しかったぜ、ようやく一人前になれたと思ったからな。
でもそれは違った……師匠は俺たちのどちらかに伝説の双剣を継承させ、自分の正式な後継者とするつもりだったんだ。
その事を聞かされた時は流石にショックだった、でもそれと同時にチャンスだと思った……師匠が選んだ方が正式な後継者になれるんだからな。
師匠は俺たちの修行の様子や冒険者としての依頼内容などで判断すると言っていた。
その日から俺たちのどちらが選ばれるのか、という戦いが始まった。
どっちが勝っても恨みっこなしだと決めてな。
お互い良いライバルとして難易度の高い依頼をガンガンこなしていったし、より過酷な修行もした。
もちろん俺は負ける気はなかった、例え相手が兄弟同然のラグロスだとしてもな……。
ただ、今思えばその頃から少しずつあいつの口数が減っていったような気がするが……その時の俺は全く気付いていなかった。
そんなある日、師匠が二人を呼び出した。
ついにその時が来たか……そう思った……そして、その予感は当たっていた。
そして師匠は俺に伝説の双剣を継承すると言ったんだ。
つまり、後継者に選ばれたのはラグロスじゃなく俺だった。
それから、師匠はラグロスには聖弓を与え『これからはこの弓でギルランスを補佐しろ』と言った。
当時の俺はまだ単純でバカだったからな……それを素直に喜んじまった……。
師匠の言う事は絶対だったし……なにより俺自身、後継者になれた事が誇らしかったしな。
だが、その時のラグロスの顔が今でも忘れられねぇ。
あいつは一瞬、落胆したような表情を見せただけで、次の瞬間には笑って俺を祝福してくれたんだよ。
しかも、『おめでとう』って、『これからは君を全力で支えるよ』とまで言ってくれたんだ。
俺はその時のあいつの気持ちも分かろうとせず、有頂天になってその言葉を真に受けて喜んでいたよ。
あいつは表面上は笑ってたけど、絶対に内心では悔しかったはずだったろうにな……。
それからのラグロスは、俺のサポートに徹底してくれた……言葉通り、全力で支えてくれていたと思う。
俺はそんなラグロスを信頼していたし、頼りにしていた。
だが、ある日突然事件は起きた――。
ラグロスは俺に刃を向けてきた。
本気で殺そうとしていたんだと思う……眠っているところを襲われ、かろうじて急所は外すことは出来たが、瀕死の重傷を負っちまった。
そこへ事態に気付いた師匠が駆けつけて来た。
ラグロスは俺の首に刃を突きつけながら『コイツの命が惜しければ武器を捨てろ』と師匠に迫ったんだ。
俺にはどうする事も出来なかった。
師匠は厳しい人だったが、弟子を大切にする優しさも持ち合わせていた。
だから俺とラグロスの両方の事を心配していたんだろう……師匠は言われた通り武器を捨てたよ……俺の意識はそこまでだったけどな……。
最後に見たのは、武器を手放し無防備になった師匠へラグロスが斬りかかろうとしていた姿だけだ……そこからの記憶は無い。
目が覚めた時、俺の目の前には血塗れになった師匠の死体と、捨てられるように残された聖弓が床に落ちていた。
なんでか知んねぇが、奪おうと思えば奪えたはずの『双龍』もそのまんま残されていたがな。
そして、師匠を殺したラグロスの姿はもうなかった……逃亡したんだろう。
俺は師匠の亡骸の前で暫く呆然と座り込んでいた。
あの、優しかったラグロスが師匠を殺すなんて……信じられなかった……いや、信じたくなかったんだと思う。
同時に、俺は自分の弱さと不甲斐なさに腹が立った……俺のせいで師匠が死んだも同然だったからな。
だが、それ以上にあいつが……ラグロスが許せなかった。
俺はヤツに対しての憎しみに支配されていった。
そして俺は復讐を誓った……必ずラグロスを見つけ出して殺してやると、そう心に決めたんだ。
師匠の亡骸を荼毘に附し、弔いを済ませた後、俺はラグロスを探して旅立った。
師匠を殺したアイツを殺すためにな……。
旅に出てから一度だけ、ラグロスにたどり着いた事があった。
まぁ、情けねぇことに、みごとに返り討ちに遭っちまったがな。
それからは全く足取りも掴めず……いまだにあいつが何処にいるのかは分からねぇ……。
正直、もう疲れちまった、って思う時もあったし、復讐を諦めようと思ったことも何度かあったんだ……。
だがな、あんな事をしでかしたあいつがこの世のどっかでのうのうと生きてるって考えただけで、腹の底から湧き上がってくる怒りが炎のように燃え上がって俺を苦しめてくるんだよ。
ハッ――どうやら俺はあいつを許してやれるほど、出来た人間でもねぇみてぇだな。
俺はあいつを許せねぇ……あの日からずっと俺の中で燃え続けている炎を消すためには、あいつをこの手で殺すしかないんだ――」
そこまで話し終えたギルランスはグラスを手に取り酒を一口飲むと大きく息を吐いた。
「――つうのが、お前が聞きたかった俺の過去だ」
ギルランスがそう言って話を締めくくるとグラスの中の氷が溶けてカランと音を立てた。
師匠の家には、もう一人、どこかの施設から俺と同じように引き取られてきた俺より少し年上の少年が居たんだ。
名前はラグロスと言って、そいつは物静かで大人しい奴だった。
そんな俺たちを引き取った理由は単純明快で、師匠が引退するにあたっての後継者を育てるためだった。
どうやら師匠は当時いろいろな施設を回って後継者候補を探していたらしい。
そこでたまたま訪れた孤児院で俺が目に留まり、引き取る事にしたそうだ。
同じような理由でラグロスも引き取られたそうだった。
それから俺とラグロスは師匠の元で共に生活することになったんだ。
最初の頃は全く会話すらしなかった――つうか、俺のほうが一方的に壁を作っていたんだと思う。
俺の人嫌いは今でも変わってはいないが、当時もまぁそんな感じだったからな。
だが、あいつの柔らかな物腰と優しい物言いのおかげなのか……次第に距離は縮まっていって、そのうち本当の兄弟のように仲良くなっていった。
俺の中では兄弟であり、相棒であり、親友のような存在になっていったんだ。
たぶん、あいつも俺に対しそう思ってくれていたはずだ。
厳しい修行にも二人で支え合いながら俺達は成長していった。
だけどそんな日々も長くは続かなかった――。
――引き取られてから3~4年経った頃か……修行しながら冒険者としても順調に経験を積んでいた俺達だったが、ある時師匠が俺たちを前に言ったんだ。
『お前たちはもう十分強くなった……そろそろ次の段階へ進む時期だろう』ってな……。
その時は単純に嬉しかったぜ、ようやく一人前になれたと思ったからな。
でもそれは違った……師匠は俺たちのどちらかに伝説の双剣を継承させ、自分の正式な後継者とするつもりだったんだ。
その事を聞かされた時は流石にショックだった、でもそれと同時にチャンスだと思った……師匠が選んだ方が正式な後継者になれるんだからな。
師匠は俺たちの修行の様子や冒険者としての依頼内容などで判断すると言っていた。
その日から俺たちのどちらが選ばれるのか、という戦いが始まった。
どっちが勝っても恨みっこなしだと決めてな。
お互い良いライバルとして難易度の高い依頼をガンガンこなしていったし、より過酷な修行もした。
もちろん俺は負ける気はなかった、例え相手が兄弟同然のラグロスだとしてもな……。
ただ、今思えばその頃から少しずつあいつの口数が減っていったような気がするが……その時の俺は全く気付いていなかった。
そんなある日、師匠が二人を呼び出した。
ついにその時が来たか……そう思った……そして、その予感は当たっていた。
そして師匠は俺に伝説の双剣を継承すると言ったんだ。
つまり、後継者に選ばれたのはラグロスじゃなく俺だった。
それから、師匠はラグロスには聖弓を与え『これからはこの弓でギルランスを補佐しろ』と言った。
当時の俺はまだ単純でバカだったからな……それを素直に喜んじまった……。
師匠の言う事は絶対だったし……なにより俺自身、後継者になれた事が誇らしかったしな。
だが、その時のラグロスの顔が今でも忘れられねぇ。
あいつは一瞬、落胆したような表情を見せただけで、次の瞬間には笑って俺を祝福してくれたんだよ。
しかも、『おめでとう』って、『これからは君を全力で支えるよ』とまで言ってくれたんだ。
俺はその時のあいつの気持ちも分かろうとせず、有頂天になってその言葉を真に受けて喜んでいたよ。
あいつは表面上は笑ってたけど、絶対に内心では悔しかったはずだったろうにな……。
それからのラグロスは、俺のサポートに徹底してくれた……言葉通り、全力で支えてくれていたと思う。
俺はそんなラグロスを信頼していたし、頼りにしていた。
だが、ある日突然事件は起きた――。
ラグロスは俺に刃を向けてきた。
本気で殺そうとしていたんだと思う……眠っているところを襲われ、かろうじて急所は外すことは出来たが、瀕死の重傷を負っちまった。
そこへ事態に気付いた師匠が駆けつけて来た。
ラグロスは俺の首に刃を突きつけながら『コイツの命が惜しければ武器を捨てろ』と師匠に迫ったんだ。
俺にはどうする事も出来なかった。
師匠は厳しい人だったが、弟子を大切にする優しさも持ち合わせていた。
だから俺とラグロスの両方の事を心配していたんだろう……師匠は言われた通り武器を捨てたよ……俺の意識はそこまでだったけどな……。
最後に見たのは、武器を手放し無防備になった師匠へラグロスが斬りかかろうとしていた姿だけだ……そこからの記憶は無い。
目が覚めた時、俺の目の前には血塗れになった師匠の死体と、捨てられるように残された聖弓が床に落ちていた。
なんでか知んねぇが、奪おうと思えば奪えたはずの『双龍』もそのまんま残されていたがな。
そして、師匠を殺したラグロスの姿はもうなかった……逃亡したんだろう。
俺は師匠の亡骸の前で暫く呆然と座り込んでいた。
あの、優しかったラグロスが師匠を殺すなんて……信じられなかった……いや、信じたくなかったんだと思う。
同時に、俺は自分の弱さと不甲斐なさに腹が立った……俺のせいで師匠が死んだも同然だったからな。
だが、それ以上にあいつが……ラグロスが許せなかった。
俺はヤツに対しての憎しみに支配されていった。
そして俺は復讐を誓った……必ずラグロスを見つけ出して殺してやると、そう心に決めたんだ。
師匠の亡骸を荼毘に附し、弔いを済ませた後、俺はラグロスを探して旅立った。
師匠を殺したアイツを殺すためにな……。
旅に出てから一度だけ、ラグロスにたどり着いた事があった。
まぁ、情けねぇことに、みごとに返り討ちに遭っちまったがな。
それからは全く足取りも掴めず……いまだにあいつが何処にいるのかは分からねぇ……。
正直、もう疲れちまった、って思う時もあったし、復讐を諦めようと思ったことも何度かあったんだ……。
だがな、あんな事をしでかしたあいつがこの世のどっかでのうのうと生きてるって考えただけで、腹の底から湧き上がってくる怒りが炎のように燃え上がって俺を苦しめてくるんだよ。
ハッ――どうやら俺はあいつを許してやれるほど、出来た人間でもねぇみてぇだな。
俺はあいつを許せねぇ……あの日からずっと俺の中で燃え続けている炎を消すためには、あいつをこの手で殺すしかないんだ――」
そこまで話し終えたギルランスはグラスを手に取り酒を一口飲むと大きく息を吐いた。
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