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第29話 僕のドキドキを返せ
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話しを終えたギルランスの瞳には、”怒りや憎しみ”というよりも”深い悲しみと重い苦しみ”の色が浮かんでいた。
きっと彼は今でもラグロスを許す事が出来ないでいるのだろう……和哉にはギルランスの心は今もなお深い傷を負っているように思えた。
和哉自身もまた、ギルランスの話に大きな衝撃を受け、目に涙を滲ませながら思わず呟く。
「な、なんで……ラグロスさんはどうしてそんな……?」
「どうして……?分かんねぇよ……家族同然に暮らしていたのにな……よっぽど俺が後継者になった事が許せなかったのか、それとも他に理由があったのか――」
ギルランスは首を横に振りながら肩をすくめる。
「ま、それをラグロスから聞くためにも俺はあいつを追ってるわけだがな」
そう言ってニッと笑ってみせるギルランスに和哉の胸がツキリと痛む。
その自嘲とも強がりともとれるような苦笑いを見た瞬間、和哉は思わずギルランスの肩を引き寄せ抱きしめていた。
「なっ!?おまっ……!」
突然の事に驚いた様子のギルランスだったが、和哉が更に強く抱きしめると困惑したような顔をしながらも大人しくその身を預けてくれた。
和哉は腕の中にギルランスの体温を感じながら、優しく彼の頭を撫で続ける。
(こんなに傷ついていたんだ……)
きっと今まで誰にも頼らずたった一人で戦ってきたのだろう――そう思うと、今までギルランスが見せてきたあの強気な態度や無愛想な振る舞いも全て虚勢だったのかもしれないとすら思てきてしまう。
この見た目とも相まって、和哉には自分よりも年上に見えていたギルランスだが……彼の中身は自分と同年代の、心にはまだ幼さの残る少年だという事を改めて思い知らされたような気がした。
和哉はそんなギルランスが自分に対して心を開き、弱さを見せてくれていることに胸を打たれたのと同時に、彼の心の傷の深さに強い痛みを感じて抱き締める腕に力を込めた。
しばらくそうしてギルランスを抱きしめていた和哉だったが、やがて腕の中から聞こえてきたくぐもった声にハッとする。
「……お前、いつまでこうしてるつもりだよ……?」
「あっ!ごめん!つい勢いで!」
慌てて腕を解き体を離す和哉にギルランスは「いや、まぁ……別にいいけど……」と言いながら体勢を立て直すと、どこか照れ臭そうな表情で鼻を掻いて苦笑いを浮かべる。
「……あー、わりぃ……なんか変な話しちまったな……」
「そんなことないよ。僕はギルがいろいろ打ち明けてくれたの嬉しいし……どう?ギルも話したことで少しはスッキリした?」
和哉の問い掛けにギルランスは少し考え込んだ後、「そうだな……」と呟いた。
「あぁ……うん、言われてみりゃ、そうかもしれねぇな」
誰かに話すことで少しは気持ちを整理することが出来たのだろう――ギルランスの表情は先ほどより少し柔らかくなっていた。
「――ありがとな、カズヤ」
そう言うと、ギルランスは照れ臭さを誤魔化すかのように残っていたグラスの酒を一気に飲み干した。
その姿を見つめながら和哉は思う。
きっと彼は今まで誰にも弱音を吐けなかったのだろう、他人を拒絶する事で自分を守って来たのかもしれない、と……。
(本当はこんなにも脆く弱い部分があるのに……)
だからこそ、少しでもギルランスの支えになれるように、助けになれるよう強くなりたい、と和哉は改めて心に誓った。
すると――不意にギルランスが和哉をジッと見つめる。
(……え?)
ギルランスの目には未だ悲しみの色が見え隠れしていたが、それ以上にどこか切なさを含んだような何か……和哉の知る言葉では表現しにくい色が浮かんでいるように見えた。
だが、すぐにギルランスは和哉から視線を外すと何事もなかったかのように「――さて」と立ち上がり背伸びをする。
「長話もこの辺にして、明日も早ぇしそろそろ寝るとするか」
「あ、そうだね」
(――ん?ちょっと待って……)
つい、何気なく相槌を返した和哉だったが、そこではたと思い出す――この部屋にはベッドが一つしかないことを。
つまり、必然的に二人同じベッドで寝ることになるのだ。
確かにダブルベッドだから男二人でも使えるのだが、問題はそこでは無い。
(どどど、どうしよう……!)
今までど忘れていた事実に和哉は焦り、内心汗だくになっていた。
この件に関しては”同性同士なのだから気にする程のことではない”と、事前に自分を納得させていたのだが……意識すると途端に顔が熱くなり、心臓が早鐘を打つように鼓動を始める。
(だから、なんで僕はこんなにドキドキしてるんだよ!!おかしいだろ!?)
チラッと横目でギルランスを見るが特に気にしている様子はないようだ。
むしろ眠たそうな様子で欠伸までしている始末である。
(……まぁそうだよね……変なのって僕だけだもんね……でもなんだか心臓に悪い気がするから、僕はソファで寝――!)
そう決心しかけた時だった――不意にヒョイと和哉の体が持ち上げられたかと思うとスタスタと運ばれ、そのままベッドの上へ放り投げられてしまった。
「へ?」
何が起こったのか分からずポカンとしている和哉を見下ろしながらギルランスはククッと笑った。
「何変な顔してんだよ、さっさと寝ろ」
そう言って和哉に布団を掛けると、ギルランスはソファーに戻って行った。
(え?あれっ?)
慌てて布団の中からギルランスに目を向け、「えっと……ギルは?」と問いかけると、「ん?あぁ、俺はここで寝るから気にすんな」なんて言葉が返ってくる。
どうやらギルランスはソファで眠るつもりらしい。
いつの間にかどこからか持ってきた毛布を掛け、すっかり寝る態勢だ。
「……え、ちょっ……」
おそらくギルランスは初めからそのつもりでこの部屋を取ったのだろうが、和哉にとっては”聞いてないよ”状態だった。
こんな豪華なベッドを独り占めすることにも抵抗があるし、何よりギルランスがソファで寝るということが気になって眠れそうになかった。
「い、いや……待って、僕がソファーで寝るから――」
「うるせぇな、黙って寝てろ!」
言葉を遮るようにピシャリと返されてしまえば、それ以上言えるわけもなく、和哉は口を閉じるしかなかった。
確かにこのまま問答していてもこういう時のギルランスは譲らないだろうし、変に揉めても時間の無駄だ。
仕方がないので大人しく従うことにして、布団に潜り込む和哉だったが、なんだか納得いかない気持ちでモヤモヤしていた。
(ギル、ソファで寝るつもりなんだ……いや、でも、そこは一緒にベッドで寝る流れじゃないの?ていうか、これじゃあ僕のドキドキを返せって感じだよ!ギルは僕と寝るのがイヤなのか!?……仕方ない、明日は僕がソファーで寝よう……うん、そうだ……そうしよう……)
和哉は勝手に一人で意識してドキドキしていた自分を棚に上げつつ暫く悶々と心の中で考え続けていたが、やがて諦めたように目を閉じた。
(はぁ……もういいや……寝よ……)
何か拍子抜けしたような気分のまま和哉は眠りについた。
きっと彼は今でもラグロスを許す事が出来ないでいるのだろう……和哉にはギルランスの心は今もなお深い傷を負っているように思えた。
和哉自身もまた、ギルランスの話に大きな衝撃を受け、目に涙を滲ませながら思わず呟く。
「な、なんで……ラグロスさんはどうしてそんな……?」
「どうして……?分かんねぇよ……家族同然に暮らしていたのにな……よっぽど俺が後継者になった事が許せなかったのか、それとも他に理由があったのか――」
ギルランスは首を横に振りながら肩をすくめる。
「ま、それをラグロスから聞くためにも俺はあいつを追ってるわけだがな」
そう言ってニッと笑ってみせるギルランスに和哉の胸がツキリと痛む。
その自嘲とも強がりともとれるような苦笑いを見た瞬間、和哉は思わずギルランスの肩を引き寄せ抱きしめていた。
「なっ!?おまっ……!」
突然の事に驚いた様子のギルランスだったが、和哉が更に強く抱きしめると困惑したような顔をしながらも大人しくその身を預けてくれた。
和哉は腕の中にギルランスの体温を感じながら、優しく彼の頭を撫で続ける。
(こんなに傷ついていたんだ……)
きっと今まで誰にも頼らずたった一人で戦ってきたのだろう――そう思うと、今までギルランスが見せてきたあの強気な態度や無愛想な振る舞いも全て虚勢だったのかもしれないとすら思てきてしまう。
この見た目とも相まって、和哉には自分よりも年上に見えていたギルランスだが……彼の中身は自分と同年代の、心にはまだ幼さの残る少年だという事を改めて思い知らされたような気がした。
和哉はそんなギルランスが自分に対して心を開き、弱さを見せてくれていることに胸を打たれたのと同時に、彼の心の傷の深さに強い痛みを感じて抱き締める腕に力を込めた。
しばらくそうしてギルランスを抱きしめていた和哉だったが、やがて腕の中から聞こえてきたくぐもった声にハッとする。
「……お前、いつまでこうしてるつもりだよ……?」
「あっ!ごめん!つい勢いで!」
慌てて腕を解き体を離す和哉にギルランスは「いや、まぁ……別にいいけど……」と言いながら体勢を立て直すと、どこか照れ臭そうな表情で鼻を掻いて苦笑いを浮かべる。
「……あー、わりぃ……なんか変な話しちまったな……」
「そんなことないよ。僕はギルがいろいろ打ち明けてくれたの嬉しいし……どう?ギルも話したことで少しはスッキリした?」
和哉の問い掛けにギルランスは少し考え込んだ後、「そうだな……」と呟いた。
「あぁ……うん、言われてみりゃ、そうかもしれねぇな」
誰かに話すことで少しは気持ちを整理することが出来たのだろう――ギルランスの表情は先ほどより少し柔らかくなっていた。
「――ありがとな、カズヤ」
そう言うと、ギルランスは照れ臭さを誤魔化すかのように残っていたグラスの酒を一気に飲み干した。
その姿を見つめながら和哉は思う。
きっと彼は今まで誰にも弱音を吐けなかったのだろう、他人を拒絶する事で自分を守って来たのかもしれない、と……。
(本当はこんなにも脆く弱い部分があるのに……)
だからこそ、少しでもギルランスの支えになれるように、助けになれるよう強くなりたい、と和哉は改めて心に誓った。
すると――不意にギルランスが和哉をジッと見つめる。
(……え?)
ギルランスの目には未だ悲しみの色が見え隠れしていたが、それ以上にどこか切なさを含んだような何か……和哉の知る言葉では表現しにくい色が浮かんでいるように見えた。
だが、すぐにギルランスは和哉から視線を外すと何事もなかったかのように「――さて」と立ち上がり背伸びをする。
「長話もこの辺にして、明日も早ぇしそろそろ寝るとするか」
「あ、そうだね」
(――ん?ちょっと待って……)
つい、何気なく相槌を返した和哉だったが、そこではたと思い出す――この部屋にはベッドが一つしかないことを。
つまり、必然的に二人同じベッドで寝ることになるのだ。
確かにダブルベッドだから男二人でも使えるのだが、問題はそこでは無い。
(どどど、どうしよう……!)
今までど忘れていた事実に和哉は焦り、内心汗だくになっていた。
この件に関しては”同性同士なのだから気にする程のことではない”と、事前に自分を納得させていたのだが……意識すると途端に顔が熱くなり、心臓が早鐘を打つように鼓動を始める。
(だから、なんで僕はこんなにドキドキしてるんだよ!!おかしいだろ!?)
チラッと横目でギルランスを見るが特に気にしている様子はないようだ。
むしろ眠たそうな様子で欠伸までしている始末である。
(……まぁそうだよね……変なのって僕だけだもんね……でもなんだか心臓に悪い気がするから、僕はソファで寝――!)
そう決心しかけた時だった――不意にヒョイと和哉の体が持ち上げられたかと思うとスタスタと運ばれ、そのままベッドの上へ放り投げられてしまった。
「へ?」
何が起こったのか分からずポカンとしている和哉を見下ろしながらギルランスはククッと笑った。
「何変な顔してんだよ、さっさと寝ろ」
そう言って和哉に布団を掛けると、ギルランスはソファーに戻って行った。
(え?あれっ?)
慌てて布団の中からギルランスに目を向け、「えっと……ギルは?」と問いかけると、「ん?あぁ、俺はここで寝るから気にすんな」なんて言葉が返ってくる。
どうやらギルランスはソファで眠るつもりらしい。
いつの間にかどこからか持ってきた毛布を掛け、すっかり寝る態勢だ。
「……え、ちょっ……」
おそらくギルランスは初めからそのつもりでこの部屋を取ったのだろうが、和哉にとっては”聞いてないよ”状態だった。
こんな豪華なベッドを独り占めすることにも抵抗があるし、何よりギルランスがソファで寝るということが気になって眠れそうになかった。
「い、いや……待って、僕がソファーで寝るから――」
「うるせぇな、黙って寝てろ!」
言葉を遮るようにピシャリと返されてしまえば、それ以上言えるわけもなく、和哉は口を閉じるしかなかった。
確かにこのまま問答していてもこういう時のギルランスは譲らないだろうし、変に揉めても時間の無駄だ。
仕方がないので大人しく従うことにして、布団に潜り込む和哉だったが、なんだか納得いかない気持ちでモヤモヤしていた。
(ギル、ソファで寝るつもりなんだ……いや、でも、そこは一緒にベッドで寝る流れじゃないの?ていうか、これじゃあ僕のドキドキを返せって感じだよ!ギルは僕と寝るのがイヤなのか!?……仕方ない、明日は僕がソファーで寝よう……うん、そうだ……そうしよう……)
和哉は勝手に一人で意識してドキドキしていた自分を棚に上げつつ暫く悶々と心の中で考え続けていたが、やがて諦めたように目を閉じた。
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