硝子のベール

磊蔵(らいぞう)

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第23話 熱い夜

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夜も深まった暗く誰も居ないカエサルの部屋は、窓から差し込んでくる街灯の灯りでその室内を淡く浮かび上がらせながらあるじの帰りを静かに待っていた。

そこへ突如、バタン!――と、その静寂を切り裂くように勢いよくドアが開かれたかと思うと、二つの影がもつれ合うように部屋の中へと雪崩れ込んできて、そのまま壁へとぶつかった。
その拍子に一瞬離れた唇はすぐにまた重なり合い、優斗の舌は無遠慮にカエサルの口内を蹂躙する。
カエサルもまた、堪らないとばかりにその淫らな舌を突き出し、優斗のそれを絡めとり強く吸いついてきた。

「ん……はっ……」

僅かに息継ぎをするように唇を離したかと思うと、また再び濃厚なキスへと繰り返す。
舌を絡め合う度に湿った水音が静かな室内に響き渡り、その淫猥な音が更に二人の興奮を煽っていくようだった。

(ああ……やっとだ)

今までにない程に積極的なカエサルの様子に優斗は歓喜で胸がいっぱいになるのを感じていた。
これまでは、カエサル自身が優斗とのキスに対して消極的であった上に、キスが出来たとしても、ずっとあの眼鏡に阻まれて、ここまで深く濃厚なキスが出来なかったのだ――それが今、目の前ではカエサル自ら優斗の舌に吸いつき、淫らに絡み合っている。
やっと、その望みが叶ったのだと思うと優斗は興奮を抑えきれなかった。

(ずっとこうなりたかったんだ――もう離さない)

貪るような口付けを続けながら、優斗はするりと手を這わせていきカエサルの細い腰を引き寄せる――そして、壁に片手をつき体重を掛けると、カエサルの足の間へグイと自分の膝を割り入れた。
密着した二人のそこは既に熱を孕んでおり、布越しに互いの昂りが擦れ合う刺激に二人は身体を震わせる。

「んっ……ぁ……」

その刺激に思わずといったように漏れ出るカエサルの小さな吐息は、そのまま優斗の咥内へと吸い込まれていく。
その熱い吐息に益々興奮を昂らせた優斗は、口付けていた唇をゆっくりとカエサルの首筋へと移動させていきながら、シャツの上から彼の胸へと手を這わせた。

「あっ……」

カエサルの口から小さく声が漏れ、優斗の掌に彼の胸の鼓動が伝わってくる。

(……ドキドキしてる)

優斗は自分と同じような激しい鼓動に喜びを感じつつ、少しその手を動かした――たったそれだけでもカエサルはビクリと身体を震わせ、「んっ……」と鼻に掛かったような甘い吐息を漏らす。

(すげぇ……マジで感じやすくなってる)

以前から触りがいはあった身体だったが、今はそれ以上に感じる様になって優斗の愛撫に応えてくれていた。
そんなカエサルの反応が嬉しくて、優斗は今まで以上にしつこくそのしなやかな肉体をまさぐった。
優斗がカエサルのシャツのボタンを外しながら徐々に露わになっていくその白い肌に舌を這わせていけば、彼もまた優斗のベルトへと手をかけてくる。
そしてカチャカチャと金属音を響かせて前をくつろげると、そこから優斗自身を取り出し、窮屈だった布の中から解放してくれた。

(うっわ……俺、もう、ガッチガチじゃん)

優斗のソレは既に張りつめ反り返り、腹につきそうなほど屹立している。
そんな状態を見たカエサルも一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐにフワリと妖艶な笑みを浮かべると、その美しい白い指先でそっと優しく包み込むように触れてきた。

「ユウト……」

興奮したようにも、嬉しそうともとれるような声で名を囁きながら、ゆるゆると刺激を与えられれば、それだけで堪らなくなってしまう。

(やべぇ、もう挿れてぇ)

今すぐにでもカエサルの中を掻き回したくてしょうがない優斗だったが、ここで焦るのは得策ではないと思い直す。
もちろんこのまましてしまいたいのが本音だが、折角結ばれたカエサルとの時間をすぐに終わらせてしまうにはあまりにも勿体無い――久しぶりのカエサルの身体を(しかも今は念願の”恋人同士”としてだ)存分に堪能したいし、彼が喜ぶ姿も見たいというものだ。

(せっかくだからちゃんと愛し合いたいよな――)

そう自分に言い聞かせて、なんとか己の欲を律する優斗の葛藤などお見通しとばかりにカエサルはクスリと笑いを零す。

「フフ……我慢しなくてもいいんだぞ?」

手を止める事なくそんな風に煽られてしまえば、せっかく暴走しそうになっている欲をコントロールしようと努力していた優斗の理性など、いとも簡単に吹き飛んでしまった。

「っ……ああ、もう――あんたって人は!」

そう吐き捨てるように言うと優斗は再び噛みつくような口付けでカエサルの口を塞いだ。
そして、そのままお互いの身体を弄り合い、器用に服を脱ぎ捨てて行きながら二人はもつれるようにベッドへとなだれ込む。
その勢いにベッドが悲鳴を上げたようにギシリと音を立てたときには、もう既に二人は生まれたままの姿となって、互いに絡み合うように抱き合っていた。
カエサルの首筋に顔を埋めれば、その甘くてスパイシーな香りが鼻腔をくすぐり、それだけで下肢がズクリと重たくなる。

「……カエサルさん、好きだ」

自然と口から出た愛の言葉と共にその首筋に齧り付きながら強く吸うと、「んっ」という甘い吐息が頭上で零れるのが聞こえた。

「あ……ユウト……見える所はダメ、だよ?」

そんな事を言いながらもカエサルは優斗の行動を制止する事なく、愛おしげに優斗の黒髪を優しく梳くように撫でながら熱い吐息を漏らしている。
今迄であればキスマークを残す事など許さなかったカエサルが、今は優斗の愛撫を受け入れて素直な反応を返してくれているのだ――その事実がまた優斗の胸を熱くさせた。

「だって、カエサルさんが俺のもんだって印、つけたいじゃん?」

そう言って甘えるように胸板に口付けながら吸い付けば、薄い皮膚の上はすぐに赤紫の小さな痣が出来上がる。
その一つ一つの痕を指先で確かめるように触れて行くと、その度にカエサルは甘い吐息を漏らして優斗の身体の下で小さく身動ぐのだ。

(ああ……幸せだ)

ずっと一方通行だと思っていた想いが今こうして実っている事が、優斗は本当に嬉しかった。
この幸せがいつまでも続けば良い――そんな想いと共にカエサルが喜ぶ所を重点的に攻めるように愛撫を続けていきながら、優斗は枕元に転がっている香油の瓶を手繰り寄せると、それを自らの手へ垂らす。
その指をカエサルの双丘の奥の窄まりへ這わせていくと、待ちわびていたかのようにカエサルは足を優斗の腰に絡ませてきた。

「ん……、ユウト……」

既にトロンとした表情で優斗の名を呼ぶカエサルの声は甘く蕩け、その語尾は誘うように切なげに震えていた。
そんなカエサルの様子に優斗もゴクリと唾を飲み込む。

「カエサルさん……可愛い」

優斗は興奮で上ずった声でそう呟くと、そのまま香油を塗り込めるように指を突き入れ、動かしていく。
その指の動きに合わせてカエサルは切なげに身をよじらせた。

「あっ……んっ」

艶めかしい吐息と共に身体を跳ねさせるその姿はあまりにも蠱惑的で、優斗は頭がクラクラする程の興奮を覚えた。

(やべぇな……久しぶりだから俺も結構キてるかも)

本当であればもっと前戯に時間をかけてゆっくりと喜ばせてあげたいところだったが、そんな余裕は今の優斗には無かった。
一刻も早くカエサルの中に入りたいという想いで頭がいっぱいで、もう我慢の限界だったのだ。

「――は……カエサルさん、俺……もう挿れてぇっす」

そう懇願する優斗の余裕のない声に、カエサルもまた興奮を煽られたのか、伸ばした腕を優斗の首に絡ませてきたかと思うと、グイと引き寄せ耳元へ吐息交じりの声で囁く。

「ああ……いいよ、おいで……」

「――っ!」

その言葉だけで優斗はブワッと全身の毛が逆立つような高揚感を覚え、興奮が一気に高まっていくのを感じた。
優斗は込み上げてくる衝動と逸る気持ちを抑えられないまま、引き抜く指さえももどかしく、カエサルの後孔へと既に限界までそそり立った自身をあてがうと、そのまま一気に腰を押し進めた。

「あぁ……っ!」

そんな優斗の性急な行為にもカエサルは甘い嬌声を上げながら、そのしなやかな身体を弓なりにしならせた。

「――くっ」

久しぶりに感じるカエサルの中は熱く絡みつくように優斗自身を包み込み、きゅうっと締め付けてくる感覚に思わず持っていかれそうになってしまう。

(やべぇ……これだけでイキそう)

気を抜けば直ぐにでもイッてしまいそうな自分を抑えながら、優斗は深い呼吸を数度繰り返して何とか持ち堪える。

優斗自身、別に早いほうではないし、普段であれば相手を十分に満足させてもお釣りが来るくらいには余裕はあるのだが、今日ばかりはそうもいかなかった。
それ程までに今日のカエサルはいつも以上に刺激的で妖艶であり、なにより後ろの具合が良すぎるのだ。

きっとそれは、カエサル自身が自分を偽る事なく、優斗への恋心を素直に自覚できたからこそなのではないだろうか――そう思わずにいられない程に、優斗を見上げる”眼鏡”というベールを取り去った彼の瞳からは、甘く蕩けるような愛が伝わってくる。

そして、優斗自身もまた、そんなカエサルからの愛情を実感すると共に、やっと恋人になれた喜びでいつも以上に興奮してしまっていた。

「――っ、はっ……カエサルさん」

込み上げてくる快感をどうにかやり過ごしつつ抽挿を繰り返せば、カエサルは堪らないといった様子で甘い声を絶えず漏らし続ける。
切なげに眉を寄せながら自ら腰を揺らすその様は優斗の興奮を更に煽るには十分すぎるものだった。
優斗の中で快楽と共に更なる激しい欲求が暴れ出す。

(ヤベェって……もう無理、限界)

これ以上我慢できそうもない――そう思った時だった。

「……ユウト……すき、だよ……」

途切れがちな息の下、告げられたカエサルの言葉に優斗は自分の中に残っていた僅かな理性が弾け飛んだのを感じた。

「――っ、カエサルさん!……俺も、好きだ!」

(好きだ、すきだ、スキだ――愛してる!)

心の中で何度も繰り返しながら優斗は欲望のままに、一層激しくカエサルを揺さぶっていく。
その激しい想いが伝わったのか、それとも彼の中の快感が更に増したからなのかはわからないが、カエサルは優斗の背中にしがみ付くように爪を立てながら、一際高い嬌声を上げ、喜びに身体を震わせた。
そんなカエサルの様子にますます愛おしさが込み上げてくる。

(カエサルさん……俺の、俺だけのカエサルさんだ)

優斗の頭の中はもう既にカエサルで埋め尽くされていた――他の事などもう何も考えられないまま、ただひたすらに愛しい恋人の身体を求め続けた。
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