硝子のベール~異世界転移した俺は、眼鏡の年上美青年を独占したい~

磊蔵(らいぞう)

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第26話 公然の秘密

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晴れてカエサルと恋人関係になれたあの日から数週間後――二人の関係はギルド内に於いてすっかり”公然の秘密”となっていた。

もっとも、それまでの二人が交わしていた密やかな関係に薄々気づいていた同僚も居たようで、二人の仲が公のものになった事に対して(こんな世界にも関わらず)驚きや反対の意を示す者は一人も居なかった。
それは、これまでの優斗やカエサルの人となりを皆よく知っていたからこその反応だったし、それだけ二人が彼らに慕われていた証でもあった。
中には「やっとくっついたか~」などと茶化すような事を言ってくる者もいたが、概ね皆、二人の関係を静かに見守ってくれているようだった。
もちろんその中でもエマが一番喜んでくれたのは言うまでもない。

だが、それとは逆にギルドマスターより”上の者たち”――つまり『ギルド連盟』の上層部は違ったようであった……。

****
****

「おい、ユウト――お前、ホントに大丈夫なのか?」

ギルド内に設けられている酒場の一画で休憩をとっていた優斗に、パーティーを組んでいるリーダー格の剣士が心配そうに声を掛けてきた。

「えっ……何がっすか?」

突然どうしたのかと思い問いかける優斗に対して、リーダーの男は言いづらそうに自分の口髭を撫でながら、表情を曇らせ少し声を顰めて続けた。

「……お前がカエサルさんと付き合ってるのは、みんな知ってる」

「うん……」

(それがどうしたってんだ??)

優斗はリーダーの言わんとする事が分からず、首を傾げる。

「それでな……その……カエサルさんとお前が付き合ってる事に対して、上層部がかなりお怒りらしいって噂なんだが……」

「あ~、やっぱそうっすか……まぁ、そうだろうな」

そこで漸く、リーダーの言いたい事を理解した。
どうやら二人の関係が上層部にまで漏れ伝わっていたようだった。
実際、ここは同性愛者というだけで差別され蔑まされる世界なのだ――そんな世界で保守的な上層部が優斗たちを快く思わないのは当然の事ではあった。
その証拠に、あれだけ頻繁に優斗とカエサルのコンビに対してしてきたクエストの依頼が、一切来なくなっていたのだ。

「ま、仕方ないっすね……カエサルさんと俺が付き合ってんのは事実だし」

「お前なぁ……そんな他人事みたいに」

あまり気にしていない様子の優斗に、リーダーは呆れたように溜息をいた。
そんな彼に、優斗が首をすくめて見せると、彼は少し困ったような顔を見せながらも笑って言った。

「まぁでも、俺らは別に気にしてねぇからよ、そこは気にすんな――だが――」

そこで言葉を切った後、リーダーは悪戯っぽくニヤリと笑ってみせる。

「これでお前の昇格は絶望的かもしれねぇなぁ?これじゃ俺のライバルが減っちまって張り合いがねぇじゃねぇかよ」

揶揄からかうようにそう言って笑うリーダーに対して優斗も思わず苦笑いを浮かべた。
そう……実は先ほど掲示板で発表された昇格合格者の中に優斗の名前は無かったのである。

「ま、俺は別に気にしてないっすけどね」と軽く返す優斗に、リーダーは「そうか……」と言って肩を竦めてみせた。
そして少し気不味そうな表情を浮かべながら続ける。

「まぁ……なんだ、冒険者ランクだけが全てじゃない。お前は、その……まだ若いんだし、これからまたチャンスはあるさ」

「へへっ……あざっす」

リーダーの不器用な慰めの言葉が優斗の心にじんわりと染み渡り、胸に温かいものが込み上げてくる――優斗は改めて、ギルドで仲間たちや気のいい同僚に囲まれている自分はなんて幸せ者なのだろうか、と実感していた。
そんな時だった――。

「あ、いたいた!――ユウトさん、探しましたよぉ」

慌てた様子で優斗に駆け寄って来たのはギルドの受付嬢であるエマだ。

「エマさん――どうしたんすか、そんなに慌てて?」

優斗がそう問いかければエマは「あの……」と少し言葉を詰まらせながらも、意を決したように真っ直ぐ優斗の瞳を見つめてきた。

「実は……ユウトさん宛に、ギルドマスターから直々の呼び出しです」

「え……ギルドマスターっすか?」

思いもしなかった言葉に、優斗は思わず目を丸くして一緒にいたリーダーと顔を見合わせてしまう。

「はい……大事なお話があるから、至急部屋まで来てほしいって……」

エマのその言葉に思わずといったようにリーダーが声を掛ける。

「それってなんかマズイ事態になってるとかじゃねぇよな?」

焦ったようにエマに問い掛けるリーダーの言葉に優斗も少し不安になってしまう。

(まさか、カエサルさんとの事でギルドから破門されるとか、じゃないよな……)

恐らくは違うとは思うが、この世界の上層部が優斗たちをどのように思っているのかなど解らないのだ。
そんな不安を抱きつつ、エマに連れられてギルドマスターの部屋までやって来たのだが――。

「失礼しまーす」と声を掛けて入室したその部屋の中には、ギルドマスターと共になんとカエサルの姿まであるではないか!

「え……?カエサルさん……!?」

(まさか、マジで俺らの事で……?)

二人揃って呼び出されたという事に、優斗は益々先程の心配が的中したのではと、思わず顔色を曇らせてしまう。
カエサルもまた困惑したような表情を浮かべながらこちらを振り向いていた。
そんな室内の様子に戸惑いつつも、優斗は足を進め、正面のデスクに座るギルドマスターの前にカエサルと二人並び立つ。

「あの……話ってなんすか?」

緊張気味にそう問う優斗に、ギルドマスターはデスクの上で手を組み直すと、気まずそうな表情を浮かべながら口を開いた。

「いや……そのだな、お前らの関係が、まぁ、アレな事になってるって話だがな……上には俺のほうでどうにか誤魔化しておいた――」

そこまで言うと彼は一度咳払いをし、言葉を続ける。

「――でだ……その、なんだ、お前らがそういう仲だっていう事は、賛成は出来んが一応理解はしてるつもりだ――だがな、ギルドの品位を著しく損なうような行為は控えてもらいたいんだ。わかるだろ?」

そこまで聞いて優斗は、彼が何を言わんとしているのかをだいたい理解ができた。
つまり、自分たちの関係が原因でギルドの評判が落ちるような事はしてくれるな、という事なのだろう。
その言い方はまるで優斗たちが”良くない事をしている”とでも言いたげな物言いにも聞こえてしまうが、上には誤魔化しておいてくれたあたり、一応ギルドマスターなりに二人の事を気遣ってくれているのもわかる。
そんな彼の心遣いには感謝するものの、やはり上層部のご機嫌やら世間体やらを気にしたその発言には、どうしても良い印象は持てなかった。

「それってつまり……俺たちは外で目に付くような行動はするな、っつう事っすか?」

優斗が少々ムッとしながらもそう問いかければ、ギルドマスターはバツの悪そうな顔をしながらも小さくうなずく。

「まぁ……平たく言えばそういう事だ」

「いやでもさぁ、俺たちだって普通にそこらのカップルと同じようにデートとかしたいし、手ぇ繋いだりしてイチャイチャしたいじゃないっすか?」

思わず反論する優斗のストレートな物言いに、ギルドマスターは「う……」と言葉を詰まらせる。

「それは……まぁ……そうかもしれんが」

しどろもどろに言葉を濁し言い淀むギルドマスターの姿に居た堪れなくなったのか、カエサルは小さく咳払いをすると、二人の間に割り込むように進み出た。

「ユウト……取り敢えず落ち着こう――」

そう優斗に声をかけると、カエサルはギルドマスターへと向き直り、軽く会釈をする。

「マスター……まずは、私たちの関係にご理解頂けました事、感謝いたします。そしてマスターのご懸念も理解できますので、今後、当ギルドの評判を落とす事のないよう行動には注意を払うようにいたします」

どうやらカエサルはこの問題をこれ以上大きくしない為にも、今は穏便に収めようと考えているようだ――少々納得がいかない優斗だったが、カエサルがそう言うならと渋々ながらも口を噤む。

カエサルの言葉にギルドマスターは少しホッとした様子を見せつつ、「うむ……そうしてくれ」と小さくうなずいた。
そんな二人のやり取りを憮然と聞いていた優斗は溜め息を一つ零すと、再びギルドマスターへと向き直った。

「あ~……それで?俺たちへの話がそれだけなら、もう帰ってもいいっすか?――カエサルさん、行きましょ」

これ以上、自分たちの関係への口出しは勘弁してほしいとばかりにこの場を離れようとした優斗だったが、どうやらギルドマスターの話はこの件だけではなかったようだ。

「あ、ああ……いや待て、実はもう一つ大事な話がある――今回お前たちを呼んだのはこっちが本題だ――」

そこでギルドマスターは気を取り直したように姿勢を正すと、真剣な眼差しで優斗たちを真っ直ぐに見つめ予想外の事を口にした――。
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