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第28話 逝かないで……
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その夜、優斗とカエサルの姿は隣町にある宿屋の一室にあった。
明日は久しぶりに二人揃っての休日という事もあって、ゆっくりと宿屋で過ごそうかという話になり、こうして部屋を取ったのだ。
もちろん、ギルドマスターと『目立つ行動はしない』という約束した手前、ギルドがある街ではなく隣町まで足を運ぶ必要があったが、これはこれで”プチ旅行”のようだと、楽しむ事にした二人だった。
だが、やはり今日聞いた『特別任務』の事が気になっていたのも事実で……。
「――で、結局、俺らは向こうから連絡が来たらヘルプに行けばいいっつう事っすよね?」
優斗は宿屋のカギを机の上に置きながら、脱いだジャケットを椅子の背もたれに掛けているカエサルへと問い掛けた。
「うむ、そういう事になるだろうね――」
カエサルは優斗の問いかけにうなずいた後、眼鏡を外して机の上に置くと真っ直ぐに優斗の方へと向き直った。
「だが……本当に、いいのかい?」
「ん?何がっすか?」
首を傾げる優斗に対してカエサルは僅かに言いにくそうな表情を浮かべながら続ける。
「いや……ただ、事の大きさを考えれば、お互い無事に、というわけにもいかないだろう――最悪……命さえも……」
そう言って眉を寄せるカエサルに、優斗はフッと笑みを零して見せる。
「心配しなくても大丈夫っすよ」
そう――確かに優斗にも少なからず不安はある。
だが、それはこの世界で冒険者として生きていくならば、遅かれ早かれ通る道だ。
当然、この仕事に就いている以上、死とは常に隣り合わせであるのだ――優斗としてもそれを覚悟の上で冒険者になったのだから今更ガタガタ言うつもりなど毛頭無かった。
勿論、カエサルもそこは承知をしている筈だ。
だが、そんな彼がここまで不安そうな表情を見せている――つまり、今回の話はそれだけ危険で強大な敵が相手なのだ。
(聞けばこの世界の存続が危ぶまれているっつう話みたいだし――それに、何より親友が助けを必要としてるんだ、行かない訳にいかないだろ?)
優斗は心の中でそう呟くと、カエサルに向かってニッと笑って見せた。
「やっとカエサルさんっていう最っ高の恋人ができたんだ、そう簡単にはくたばるつもりはないっすよ?」
その言葉にカエサルは一瞬驚いたように目を見開いた後、優斗の気持ちを理解してくれたのかフワリと優しく微笑んだ。
「ふふ……本当に頼もしい恋人ができて良かったよ」
そう言って微笑みながらも、どこか切なげに眉を寄せているカエサルのその表情を見て優斗はある事を思い出した。
(そういえば……カエサルさんの元カレって確か……)
――そう、カエサルは昔付き合っていた彼氏を任務で亡くしていたのだ――おそらく彼は再び愛する人を失う事を怖れているのだろう。
そう悟った優斗は、目の前でどこか不安げな表情で見つめているカエサルの身体をそっと抱き寄せると、彼の心配を払拭させるように微笑んで見せた。
「大丈夫っすよ、俺は絶対にあんたの前から消えたりなんかしない――だから、安心して下さい」
「ユウト……」
その言葉に一瞬カエサルは驚いたように目を見開くが、優斗の言わんとしている事を理解したのか、漸くその表情を緩めて微笑みを見せた。
「そうだな……でも、無理だけはしないでくれよ?」
腕の中で安心しきったような表情を浮かべるカエサルに、優斗はニッと笑い掛けながら、そっと彼の頬へと手を添える。
「了解っす――つうか、カエサルさんこそ、俺を置いて先に逝っちゃたりしないで下さいよ?」
冗談めかしてそう告げれば、カエサルはクスリと笑みを零した。
「勿論だよ……私だって君を残して逝くつもりなんて毛頭ないよ」
そう言って優斗の背中へと手を回してぎゅっと抱きついてくるカエサルを、優斗は愛しさを込めて抱きしめ返す。
(――絶対、死にたくない)
そんな想いが自然と湧き上がってくる。
それはきっと、今腕の中にいる恋人を悲しませたくないという想いからだろう――そんな想いと共に優斗はゆっくりとカエサルへと顔を寄せていき、その柔らかな唇にそっとキスを落とした。
そして軽く啄んだ後、一度唇を離して今度は悪戯っぽく囁く。
「死ぬつもりなんかはさらさら無いけどさ……一応、悔いの残んないように、今のうちにいっぱいシときましょ?」
その言葉にカエサルは一瞬目をパチクリさせた後、優しく瞳を細めた。
「ふふ……確かにそれもいいかもしれないな」
どこかおかしそうに、それでいて嬉しそうに笑うカエサルに、優斗も釣られて笑みを零す。
「でしょ?」
言いながらカエサルの腰に回した手でその身体を引き寄せれば、カエサルは大人しく優斗に身を預けてきた。
そして自然と二人の唇は再び重なる。
今度は軽く触れるだけでなく、お互いの舌を絡ませ合い濃厚なキスへと変わっていった。
カエサルの口内を舌で探れば、彼もまた優斗の舌を積極的に求め、吸い上げてくる。
「は……」
一旦口を離したお互いの舌先に銀の橋がかかるのを名残惜しげに見つめながらも、視線を上げた優斗の眼前には、頬を上気させ、潤んだ瞳でこちらを見つめてくるカエサルの美貌があり、思わずドキリと胸が高鳴ってしまう。
その唇はどちらのものか分からない唾液で濡れそぼって、まるで優斗を誘うかのように妖艶に光っていた。
明日は久しぶりに二人揃っての休日という事もあって、ゆっくりと宿屋で過ごそうかという話になり、こうして部屋を取ったのだ。
もちろん、ギルドマスターと『目立つ行動はしない』という約束した手前、ギルドがある街ではなく隣町まで足を運ぶ必要があったが、これはこれで”プチ旅行”のようだと、楽しむ事にした二人だった。
だが、やはり今日聞いた『特別任務』の事が気になっていたのも事実で……。
「――で、結局、俺らは向こうから連絡が来たらヘルプに行けばいいっつう事っすよね?」
優斗は宿屋のカギを机の上に置きながら、脱いだジャケットを椅子の背もたれに掛けているカエサルへと問い掛けた。
「うむ、そういう事になるだろうね――」
カエサルは優斗の問いかけにうなずいた後、眼鏡を外して机の上に置くと真っ直ぐに優斗の方へと向き直った。
「だが……本当に、いいのかい?」
「ん?何がっすか?」
首を傾げる優斗に対してカエサルは僅かに言いにくそうな表情を浮かべながら続ける。
「いや……ただ、事の大きさを考えれば、お互い無事に、というわけにもいかないだろう――最悪……命さえも……」
そう言って眉を寄せるカエサルに、優斗はフッと笑みを零して見せる。
「心配しなくても大丈夫っすよ」
そう――確かに優斗にも少なからず不安はある。
だが、それはこの世界で冒険者として生きていくならば、遅かれ早かれ通る道だ。
当然、この仕事に就いている以上、死とは常に隣り合わせであるのだ――優斗としてもそれを覚悟の上で冒険者になったのだから今更ガタガタ言うつもりなど毛頭無かった。
勿論、カエサルもそこは承知をしている筈だ。
だが、そんな彼がここまで不安そうな表情を見せている――つまり、今回の話はそれだけ危険で強大な敵が相手なのだ。
(聞けばこの世界の存続が危ぶまれているっつう話みたいだし――それに、何より親友が助けを必要としてるんだ、行かない訳にいかないだろ?)
優斗は心の中でそう呟くと、カエサルに向かってニッと笑って見せた。
「やっとカエサルさんっていう最っ高の恋人ができたんだ、そう簡単にはくたばるつもりはないっすよ?」
その言葉にカエサルは一瞬驚いたように目を見開いた後、優斗の気持ちを理解してくれたのかフワリと優しく微笑んだ。
「ふふ……本当に頼もしい恋人ができて良かったよ」
そう言って微笑みながらも、どこか切なげに眉を寄せているカエサルのその表情を見て優斗はある事を思い出した。
(そういえば……カエサルさんの元カレって確か……)
――そう、カエサルは昔付き合っていた彼氏を任務で亡くしていたのだ――おそらく彼は再び愛する人を失う事を怖れているのだろう。
そう悟った優斗は、目の前でどこか不安げな表情で見つめているカエサルの身体をそっと抱き寄せると、彼の心配を払拭させるように微笑んで見せた。
「大丈夫っすよ、俺は絶対にあんたの前から消えたりなんかしない――だから、安心して下さい」
「ユウト……」
その言葉に一瞬カエサルは驚いたように目を見開くが、優斗の言わんとしている事を理解したのか、漸くその表情を緩めて微笑みを見せた。
「そうだな……でも、無理だけはしないでくれよ?」
腕の中で安心しきったような表情を浮かべるカエサルに、優斗はニッと笑い掛けながら、そっと彼の頬へと手を添える。
「了解っす――つうか、カエサルさんこそ、俺を置いて先に逝っちゃたりしないで下さいよ?」
冗談めかしてそう告げれば、カエサルはクスリと笑みを零した。
「勿論だよ……私だって君を残して逝くつもりなんて毛頭ないよ」
そう言って優斗の背中へと手を回してぎゅっと抱きついてくるカエサルを、優斗は愛しさを込めて抱きしめ返す。
(――絶対、死にたくない)
そんな想いが自然と湧き上がってくる。
それはきっと、今腕の中にいる恋人を悲しませたくないという想いからだろう――そんな想いと共に優斗はゆっくりとカエサルへと顔を寄せていき、その柔らかな唇にそっとキスを落とした。
そして軽く啄んだ後、一度唇を離して今度は悪戯っぽく囁く。
「死ぬつもりなんかはさらさら無いけどさ……一応、悔いの残んないように、今のうちにいっぱいシときましょ?」
その言葉にカエサルは一瞬目をパチクリさせた後、優しく瞳を細めた。
「ふふ……確かにそれもいいかもしれないな」
どこかおかしそうに、それでいて嬉しそうに笑うカエサルに、優斗も釣られて笑みを零す。
「でしょ?」
言いながらカエサルの腰に回した手でその身体を引き寄せれば、カエサルは大人しく優斗に身を預けてきた。
そして自然と二人の唇は再び重なる。
今度は軽く触れるだけでなく、お互いの舌を絡ませ合い濃厚なキスへと変わっていった。
カエサルの口内を舌で探れば、彼もまた優斗の舌を積極的に求め、吸い上げてくる。
「は……」
一旦口を離したお互いの舌先に銀の橋がかかるのを名残惜しげに見つめながらも、視線を上げた優斗の眼前には、頬を上気させ、潤んだ瞳でこちらを見つめてくるカエサルの美貌があり、思わずドキリと胸が高鳴ってしまう。
その唇はどちらのものか分からない唾液で濡れそぼって、まるで優斗を誘うかのように妖艶に光っていた。
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