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第85話 返事はいらない
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和哉とギルランスが公会堂の休憩室に入るとそこには既にカエサルの姿があった。
彼は二人の姿を見るなり、ニコリと微笑み手招いた。
「やあ、来たね、待ってたよ」
「あ、すみません、僕がちょっと寝すぎちゃって……」
和哉が謝りながらカエサルの向かいの席に腰を下ろすと、ギルランスも和哉の隣に座った。
「……あれ?優斗は?来てないんですか?」
その場に優斗の姿がない事に気付いた和哉が問い掛けると、カエサルは苦笑いをした。
「ああ、彼ならどうやら二日酔いらしくて、宿でダウンしてるよ……ちょっと飲ませすぎてしまったかな……悪い事をしてしまったよ……」
眉尻を下げながら申し訳なさそうに話すカエサルに、和哉も苦笑いで返す。
優斗の事だからきっと調子に乗って飲みすぎてしまったのだろう――可哀想ではあるが、自業自得なので仕方ない。
そんな事を考えているとカエサルが顔を上げ、改まった様子で二人に向き直った。
「まず、初めに、昨日はお疲れ様でした。村の人達も大層喜んでいました。そしてカズヤ君とギルランス君のこの度のご尽力には大変感謝しております。本当にありがとうございました」
深々と頭を下てくるカエサルに対して、慌てて和哉は彼を制止した。
「いえいえ、そんな、頭を上げて下さい!僕らは当然の事をしたまでですから!」
慌てて手を振りながら言うと、隣でギルランスも黙って頷いた。
そんな二人を見て、カエサルは頭を上げると、嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「ありがとう。そう言ってもらえると私も助かるよ――ああ、報酬のほうは、エマが夕方までには用意してくれるから、その時にお渡しするよ」
「分かりました」
カエサルは満足そうに微笑んだ後、少し姿勢を正し表情を引き締めた。
「さて、では本題に入ろうか――昨日、皆で話し合っていた件だよ……一旦それぞれが持ち帰り、いろいろと整理してきた事と思うが――」
「はい」
和哉が頷くと、皆一様に神妙な面持ちになり、それぞれが現状の報告や自分の考えを述べ始めたのだった――。
****
****
まずは優斗の事についてだ。
これは昨夜、和哉が優斗から聞いた通り、当面はカエサルが面倒をみてくれるようだ。
カエサルの研究が進み、異世界への渡航方法が確立されるまではここに残ってもらう事になるという。
優斗自身も了承しているとの事だった。
「すみません……カエサルさん、優斗の事、よろしくお願いします」
今回の事は優斗の誤解と勇み足が原因だったとは言え、彼なりに友人である和哉を心配しての行動だ。
それに、和哉が優斗の言う事を聞き入れれば、一緒に元の世界に帰る事も可能だったかもしれない――だが、自分がギルランスと離れたくないばかりにその可能性を潰してしまったのも事実だ。
ならばせめて、優斗にはこの世界にいる間は何不自由なく過ごしてもらいたいと思う。
彼にはこの世界で幸せに暮らして欲しい――そう考えると、やはりカエサルには感謝しかない。
「ええ、安心して任せてください、彼の悪いようにはしないよ」
カエサルは力強く頷いてくれた。
「本当に、ありがとうございます」
和哉が深々と頭を下げ、礼を言うと、隣にいるギルランスも一緒に頭を下げた。
いつも不遜な態度を取る事の多い彼が頭を下げるのはとても珍しい事だ。
それだけ彼も感謝しているのだろう。
揃って頭を下げて来る二人に、カエサルは少し困ったような顔で笑った。
「いえ、お礼を言わなければならないのはこちらの方だよ――貴方達のおかげで村の人たちは救われたんだから……どうか気にしないで」
そう告げた後、少し表情を引き締め次の話題に話を進める。
「――さて、次は君たちの話を聞かせて欲しいんだけど……いいかな?」
カエサルの言葉に和哉とギルランスは顔を見合わせ頷き合った。
「では、僕からお話しをさせて頂きます――」
和哉はカエサルに今までの経緯を掻い摘んで話した。
そして、これからどうしたいかという事も――。
「……なるほど……そんな事が……ラグロスさんの名前は私も昔聞いた事があるよ……とても腕の立つ冒険者だったとか……そして突然その消息が途絶えてしまったと……まさかそんな事を企んでいるとは……」
カエサルは顎に手を当て、何かを考えるように目を伏せた。
「……どうりで……このところの魔物の凶暴化やその個体数が増えてきているという話も頷けるね」
「はい……ですから僕達は彼を探し出して、この世界の滅亡を阻止させたいと思っています」
和哉が決意を込めて言うと、カエサルは顔を上げた。
「分かりました――そういう事なら、私も協力させてもらおうか――もし、彼の行方が分かったら、君たちに知らせるよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
カエサルが力を貸してくれると言ってくれた事に、和哉は心から感謝した。
彼のように強くて頼りになる人の協力を得られるのは本当に心強かった。
「……しかし……」
カエサルは何かを思案するように腕を組み、眉間に皺を寄せた。
「どうかしたんですか?」
和哉が問い掛けると、カエサルは険しい表情で答えた。
「いや――ただ、気になる事があってね……」
「何がですか?」
「それが、まだハッキリとしてこないんだよ……ただ、何かが引っ掛かるんだよね――」
彼は和哉たちにも分かるように説明をしてくれた。
まず、何者かが和哉とギルランスを引き離そうと画策しているかもしれないと言う事――ラグロスの野望――そして、ギルランスの中に潜むモノ――全てはまだ点と点でしかなく、現時点では繋がりそうで繋がらないのだ――。
「うーん……」
説明を聞いて唸る和哉たちだったが、やがてカエサルが大きく息を吐いた。
「……とりあえず今はこれ以上考えても仕方がないね」
そう言うと顔を上げ和哉に向き直った。
「それから、さっき言ったギルランス君の中に潜むモノだが――それに関しては昨夜、彼と話をしたよ」
どうやら、昨日の酒の席で二人が神妙な顔をして話し合っていたのはこの事だったようだ。
その話し合いの中で、今後ギルランスはアレを徹底して抑え込むと決意していた――そしてカエサルに言ったそうだ――
『もし、万が一俺が魔物化してしまって戻れなくなるようなことになったら、その時は躊躇なく俺を殺せ』――と。
その言葉に、和哉は胸が締め付けられるような痛みを感じた。
「ギル……そんな事……言うなよ……」
絞り出すような声で、和哉はようやくそれだけを口にする事が出来た。
「ああ、分かってる。俺は絶対にそうならないように全力を尽くすつもりだ」
「ギル……」
強い意志を込めた瞳で真っ直ぐこちらを見つめて来るギルランスを見て、和哉は安心した。
彼の精神力の強さはよく知っている。
きっと大丈夫なのだと思う――だから、自分は彼を信じて、彼と共に歩んで行こうと改めて心に誓った。
「ギル……分かったよ。君の気持ちはよく分かった……僕も全力で君を支える――と言うか、僕がいれば絶対そんな事にはならないけどね!」
そう言って親指を立てながら笑って見せると、ギルランスもホッとしたような笑みを浮かべた。
お互い微笑み、見つめ合う二人を見て、カエサルは大きく溜め息を吐く。
「やれやれ、まったく君達ときたら、本当にお似合いのカップルだな――」
そこで一旦言葉を切ると、眼鏡を押し上げ、二人を交互に見つめた。
「――と言うか、二人とも私がカズヤ君の事を好きだという事、忘れてないかな?あまり見せつけないでいただきたいんだけどね……」
その言葉に、和哉は顔を真っ赤にし、ギルランスは憮然とした表情になる。
「そっ、それはすみません……!」
慌てて頭を下げる和哉の隣ではギルランスがフンッと鼻を鳴らしそっぽをむいている。
「いや、別に構わないよ……私も今回は身を引くが――だからと言ってまだ諦めた訳ではないからね」
カエサルは悪戯っぽく言いながら不敵な笑みを浮かべてみせた。
「え……?」
そんなカエサルに和哉が戸惑い返事に困っていると、眉間に皺を寄せたギルランスが先に口を開いた。
「てめぇ……何考えてんだ?」
明らかに怒気を含んだ声音でカエサルに問い掛けた。
「おや?何か問題でも?」
しかし、カエサルの方はどこ吹く風といった様子で平然としている。
そんな二人に挟まれ、和哉はどう対応したら良いのか分からずオロオロとするしかなかった。
そんな時だった――部屋の扉をノックする音が聞こえ、ドアが開くとエマが顔をのぞかせた。
「すみませーん、ギルランスさんにお願いが――」
そこまで言って部屋の中の状況を見た彼女は、驚いたように目を丸くした。
「……えっと、お邪魔でした?」
恐る恐ると言った感じで尋ねてくる彼女に、和哉は慌てて首を横に振った。
「あ、いや、全然!ちょっと皆で話してただけだから!」
「――何の用だ?」
慌てて取り繕う和哉とは対照的に、ギルランスは相変わらず無愛想な口調でエマに聞いた。
すると、エマは一瞬怯えたような表情を見せたものの、すぐに笑顔を作り用件を告げた。
「あの、実は今、お二人に支払う報酬を取りにギルドへ行こうとしたんですが……鞍の鐙《あぶみ》が壊れてしまって……直していただけたらな……と……」
上目遣いで窺うように見て来るエマの様子に、ギルランスはチッと舌打ちをすると一度カエサルに振り向き、けん制するようにギロリと睨みつける。
するとカエサルは肩を竦め両手を降参するように上げた。
「はいはい、分かってるよ。大人しくしているので、鐙《あぶみ》の修理をお願いできるかな?」
その言葉にギルランスはもう一度大きく息を吐くと、今度は和哉に顔を向けた。
「悪いな、ちょっと行ってくる……カエサルには気を付けろよ」
ギルランスの言葉に、和哉は苦笑した。
「大丈夫だよ。それより、早く行ってあげて」
「ああ、なるべく早く戻って来る……」
そう言うと、ギルランスはエマと一緒に部屋から出て行った。
「ひどい言われようだなぁ、まるで私がカズヤ君を襲うみたいに……」
二人の後ろ姿を見送りながら、カエサルは苦笑を浮かべていた。
「え?違うんですか?」
和哉は驚いて思わず聞き返してしまった。
つい昨日、和哉はここでカエサルに迫られたばかりなのだ。
また同じような事が起こるのではないかと警戒していただけに、和哉は拍子抜けした。
「ああ……カズヤ君までそんな事を……まったく、みんな酷いなあ、昨日は少し先走ってしまっただけなのに……」
カエサルは苦笑しながら頭を掻くと、気を取り直したように真面目な表情になった。
「……カズヤ君、私は君が好きだよ――愛している」
それは二度目のカエサルからの愛の告白だった。
しかも、今回は瞳を真っ直ぐ向けてはっきりとした言葉で告げられてしまい、和哉は戸惑ってしまう。
「えっと……あの、その……お気持ちは嬉しいんですけど……僕は……ギルの事が――」
しどろもどろになりながらも何とか自分の気持ちを伝えようとする和哉だったが、カエサルはそれを遮った。
「うん、分かってるよ――だから、返事はいらない。ただ、私の気持ちを知っていて欲しかったんだ……」
カエサルは穏やかな笑みを浮かべて和哉を見つめた。
「君はギルランス君の事をとても大切に思っているようだしね――そしておそらくギルランス君も君の事を……だから、返事はいらないよ――」
そう言って微笑むカエサルを見て、ズキリと胸が痛んだ。
「ごめんなさい……」
俯き、絞り出すような声で謝罪の言葉を口にする和哉に、カエサルは静かに首を横に振るだけに留めた。
「いいんだよ、気にしないでおくれ」
顔を上げると、そこにはいつもと変わらない笑みを浮かべたカエサルがいた。
その笑顔は優しくて、どこか寂しげだった。
「……分かりました」
それ以上何も言えず、黙って頷く和哉の頭を、彼は優しく撫でてくれたのだった。
そして、そんな和哉とカエサルの会話をドアの外で聞いていた人物がいた事を二人共気付いていなかった――。
彼は二人の姿を見るなり、ニコリと微笑み手招いた。
「やあ、来たね、待ってたよ」
「あ、すみません、僕がちょっと寝すぎちゃって……」
和哉が謝りながらカエサルの向かいの席に腰を下ろすと、ギルランスも和哉の隣に座った。
「……あれ?優斗は?来てないんですか?」
その場に優斗の姿がない事に気付いた和哉が問い掛けると、カエサルは苦笑いをした。
「ああ、彼ならどうやら二日酔いらしくて、宿でダウンしてるよ……ちょっと飲ませすぎてしまったかな……悪い事をしてしまったよ……」
眉尻を下げながら申し訳なさそうに話すカエサルに、和哉も苦笑いで返す。
優斗の事だからきっと調子に乗って飲みすぎてしまったのだろう――可哀想ではあるが、自業自得なので仕方ない。
そんな事を考えているとカエサルが顔を上げ、改まった様子で二人に向き直った。
「まず、初めに、昨日はお疲れ様でした。村の人達も大層喜んでいました。そしてカズヤ君とギルランス君のこの度のご尽力には大変感謝しております。本当にありがとうございました」
深々と頭を下てくるカエサルに対して、慌てて和哉は彼を制止した。
「いえいえ、そんな、頭を上げて下さい!僕らは当然の事をしたまでですから!」
慌てて手を振りながら言うと、隣でギルランスも黙って頷いた。
そんな二人を見て、カエサルは頭を上げると、嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「ありがとう。そう言ってもらえると私も助かるよ――ああ、報酬のほうは、エマが夕方までには用意してくれるから、その時にお渡しするよ」
「分かりました」
カエサルは満足そうに微笑んだ後、少し姿勢を正し表情を引き締めた。
「さて、では本題に入ろうか――昨日、皆で話し合っていた件だよ……一旦それぞれが持ち帰り、いろいろと整理してきた事と思うが――」
「はい」
和哉が頷くと、皆一様に神妙な面持ちになり、それぞれが現状の報告や自分の考えを述べ始めたのだった――。
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まずは優斗の事についてだ。
これは昨夜、和哉が優斗から聞いた通り、当面はカエサルが面倒をみてくれるようだ。
カエサルの研究が進み、異世界への渡航方法が確立されるまではここに残ってもらう事になるという。
優斗自身も了承しているとの事だった。
「すみません……カエサルさん、優斗の事、よろしくお願いします」
今回の事は優斗の誤解と勇み足が原因だったとは言え、彼なりに友人である和哉を心配しての行動だ。
それに、和哉が優斗の言う事を聞き入れれば、一緒に元の世界に帰る事も可能だったかもしれない――だが、自分がギルランスと離れたくないばかりにその可能性を潰してしまったのも事実だ。
ならばせめて、優斗にはこの世界にいる間は何不自由なく過ごしてもらいたいと思う。
彼にはこの世界で幸せに暮らして欲しい――そう考えると、やはりカエサルには感謝しかない。
「ええ、安心して任せてください、彼の悪いようにはしないよ」
カエサルは力強く頷いてくれた。
「本当に、ありがとうございます」
和哉が深々と頭を下げ、礼を言うと、隣にいるギルランスも一緒に頭を下げた。
いつも不遜な態度を取る事の多い彼が頭を下げるのはとても珍しい事だ。
それだけ彼も感謝しているのだろう。
揃って頭を下げて来る二人に、カエサルは少し困ったような顔で笑った。
「いえ、お礼を言わなければならないのはこちらの方だよ――貴方達のおかげで村の人たちは救われたんだから……どうか気にしないで」
そう告げた後、少し表情を引き締め次の話題に話を進める。
「――さて、次は君たちの話を聞かせて欲しいんだけど……いいかな?」
カエサルの言葉に和哉とギルランスは顔を見合わせ頷き合った。
「では、僕からお話しをさせて頂きます――」
和哉はカエサルに今までの経緯を掻い摘んで話した。
そして、これからどうしたいかという事も――。
「……なるほど……そんな事が……ラグロスさんの名前は私も昔聞いた事があるよ……とても腕の立つ冒険者だったとか……そして突然その消息が途絶えてしまったと……まさかそんな事を企んでいるとは……」
カエサルは顎に手を当て、何かを考えるように目を伏せた。
「……どうりで……このところの魔物の凶暴化やその個体数が増えてきているという話も頷けるね」
「はい……ですから僕達は彼を探し出して、この世界の滅亡を阻止させたいと思っています」
和哉が決意を込めて言うと、カエサルは顔を上げた。
「分かりました――そういう事なら、私も協力させてもらおうか――もし、彼の行方が分かったら、君たちに知らせるよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
カエサルが力を貸してくれると言ってくれた事に、和哉は心から感謝した。
彼のように強くて頼りになる人の協力を得られるのは本当に心強かった。
「……しかし……」
カエサルは何かを思案するように腕を組み、眉間に皺を寄せた。
「どうかしたんですか?」
和哉が問い掛けると、カエサルは険しい表情で答えた。
「いや――ただ、気になる事があってね……」
「何がですか?」
「それが、まだハッキリとしてこないんだよ……ただ、何かが引っ掛かるんだよね――」
彼は和哉たちにも分かるように説明をしてくれた。
まず、何者かが和哉とギルランスを引き離そうと画策しているかもしれないと言う事――ラグロスの野望――そして、ギルランスの中に潜むモノ――全てはまだ点と点でしかなく、現時点では繋がりそうで繋がらないのだ――。
「うーん……」
説明を聞いて唸る和哉たちだったが、やがてカエサルが大きく息を吐いた。
「……とりあえず今はこれ以上考えても仕方がないね」
そう言うと顔を上げ和哉に向き直った。
「それから、さっき言ったギルランス君の中に潜むモノだが――それに関しては昨夜、彼と話をしたよ」
どうやら、昨日の酒の席で二人が神妙な顔をして話し合っていたのはこの事だったようだ。
その話し合いの中で、今後ギルランスはアレを徹底して抑え込むと決意していた――そしてカエサルに言ったそうだ――
『もし、万が一俺が魔物化してしまって戻れなくなるようなことになったら、その時は躊躇なく俺を殺せ』――と。
その言葉に、和哉は胸が締め付けられるような痛みを感じた。
「ギル……そんな事……言うなよ……」
絞り出すような声で、和哉はようやくそれだけを口にする事が出来た。
「ああ、分かってる。俺は絶対にそうならないように全力を尽くすつもりだ」
「ギル……」
強い意志を込めた瞳で真っ直ぐこちらを見つめて来るギルランスを見て、和哉は安心した。
彼の精神力の強さはよく知っている。
きっと大丈夫なのだと思う――だから、自分は彼を信じて、彼と共に歩んで行こうと改めて心に誓った。
「ギル……分かったよ。君の気持ちはよく分かった……僕も全力で君を支える――と言うか、僕がいれば絶対そんな事にはならないけどね!」
そう言って親指を立てながら笑って見せると、ギルランスもホッとしたような笑みを浮かべた。
お互い微笑み、見つめ合う二人を見て、カエサルは大きく溜め息を吐く。
「やれやれ、まったく君達ときたら、本当にお似合いのカップルだな――」
そこで一旦言葉を切ると、眼鏡を押し上げ、二人を交互に見つめた。
「――と言うか、二人とも私がカズヤ君の事を好きだという事、忘れてないかな?あまり見せつけないでいただきたいんだけどね……」
その言葉に、和哉は顔を真っ赤にし、ギルランスは憮然とした表情になる。
「そっ、それはすみません……!」
慌てて頭を下げる和哉の隣ではギルランスがフンッと鼻を鳴らしそっぽをむいている。
「いや、別に構わないよ……私も今回は身を引くが――だからと言ってまだ諦めた訳ではないからね」
カエサルは悪戯っぽく言いながら不敵な笑みを浮かべてみせた。
「え……?」
そんなカエサルに和哉が戸惑い返事に困っていると、眉間に皺を寄せたギルランスが先に口を開いた。
「てめぇ……何考えてんだ?」
明らかに怒気を含んだ声音でカエサルに問い掛けた。
「おや?何か問題でも?」
しかし、カエサルの方はどこ吹く風といった様子で平然としている。
そんな二人に挟まれ、和哉はどう対応したら良いのか分からずオロオロとするしかなかった。
そんな時だった――部屋の扉をノックする音が聞こえ、ドアが開くとエマが顔をのぞかせた。
「すみませーん、ギルランスさんにお願いが――」
そこまで言って部屋の中の状況を見た彼女は、驚いたように目を丸くした。
「……えっと、お邪魔でした?」
恐る恐ると言った感じで尋ねてくる彼女に、和哉は慌てて首を横に振った。
「あ、いや、全然!ちょっと皆で話してただけだから!」
「――何の用だ?」
慌てて取り繕う和哉とは対照的に、ギルランスは相変わらず無愛想な口調でエマに聞いた。
すると、エマは一瞬怯えたような表情を見せたものの、すぐに笑顔を作り用件を告げた。
「あの、実は今、お二人に支払う報酬を取りにギルドへ行こうとしたんですが……鞍の鐙《あぶみ》が壊れてしまって……直していただけたらな……と……」
上目遣いで窺うように見て来るエマの様子に、ギルランスはチッと舌打ちをすると一度カエサルに振り向き、けん制するようにギロリと睨みつける。
するとカエサルは肩を竦め両手を降参するように上げた。
「はいはい、分かってるよ。大人しくしているので、鐙《あぶみ》の修理をお願いできるかな?」
その言葉にギルランスはもう一度大きく息を吐くと、今度は和哉に顔を向けた。
「悪いな、ちょっと行ってくる……カエサルには気を付けろよ」
ギルランスの言葉に、和哉は苦笑した。
「大丈夫だよ。それより、早く行ってあげて」
「ああ、なるべく早く戻って来る……」
そう言うと、ギルランスはエマと一緒に部屋から出て行った。
「ひどい言われようだなぁ、まるで私がカズヤ君を襲うみたいに……」
二人の後ろ姿を見送りながら、カエサルは苦笑を浮かべていた。
「え?違うんですか?」
和哉は驚いて思わず聞き返してしまった。
つい昨日、和哉はここでカエサルに迫られたばかりなのだ。
また同じような事が起こるのではないかと警戒していただけに、和哉は拍子抜けした。
「ああ……カズヤ君までそんな事を……まったく、みんな酷いなあ、昨日は少し先走ってしまっただけなのに……」
カエサルは苦笑しながら頭を掻くと、気を取り直したように真面目な表情になった。
「……カズヤ君、私は君が好きだよ――愛している」
それは二度目のカエサルからの愛の告白だった。
しかも、今回は瞳を真っ直ぐ向けてはっきりとした言葉で告げられてしまい、和哉は戸惑ってしまう。
「えっと……あの、その……お気持ちは嬉しいんですけど……僕は……ギルの事が――」
しどろもどろになりながらも何とか自分の気持ちを伝えようとする和哉だったが、カエサルはそれを遮った。
「うん、分かってるよ――だから、返事はいらない。ただ、私の気持ちを知っていて欲しかったんだ……」
カエサルは穏やかな笑みを浮かべて和哉を見つめた。
「君はギルランス君の事をとても大切に思っているようだしね――そしておそらくギルランス君も君の事を……だから、返事はいらないよ――」
そう言って微笑むカエサルを見て、ズキリと胸が痛んだ。
「ごめんなさい……」
俯き、絞り出すような声で謝罪の言葉を口にする和哉に、カエサルは静かに首を横に振るだけに留めた。
「いいんだよ、気にしないでおくれ」
顔を上げると、そこにはいつもと変わらない笑みを浮かべたカエサルがいた。
その笑顔は優しくて、どこか寂しげだった。
「……分かりました」
それ以上何も言えず、黙って頷く和哉の頭を、彼は優しく撫でてくれたのだった。
そして、そんな和哉とカエサルの会話をドアの外で聞いていた人物がいた事を二人共気付いていなかった――。
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