懐古主義オッサンと中二病JKは、上級職として召喚させられても、無双なんてしない

椎名 富比路

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第三章 崖の下のダンジョン 【クジラの歯】

第17話 世界の裏側、再び

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 みんなでウミガメを解体し、使えそうな部位を探す。残念ながら、肉は汚染されていた。
 
「すっぽんみたいに、食えると思ったんだが」

「こんな瘴気まみれの肉なんて食べたら、モンスターになっちゃうモジャ」

 魔法使いに買い取ってもらい、術式の素材にしたほうがマシだとか。

「甲羅は使えそうだ」

「いい装備になるモジャ」

 素材を、アイテムボックスに入れる。

「クニミツ、モモコ、今の武器は?」

「火炎放射器。人類の夢」

 モモコが、ルイーゼからの質問に武器をかかげながら答える。

 銃身にタンクがあり、そこへ魔力を流し込むことによって銃口から火を吹く。

「ルイーゼ、お前はブレスが吐けないのがコンプレックスだって言っていたじゃないか。それを解消してみたんだ。気に入ってもらえると、こちらもうれしい」

 魔力で打ち出せる火炎放射器を、【重火器錬成】で作ったのである。

「すごいな、クニミツは! ワタシの弱点を、克服させてくれるなんて!」

 ルイーゼが、火炎放射器を担ぎながら飛び上がった。

「火炎放射器は、ロマン武器。一度作ってみたかった」

 モモコの言うとおりである。やっぱり漢なら一度は「汚物を消毒」してみたい。

「これは、サードウェポンにしよう」

 ルイーゼの武装は、片手に持つ聖剣と盾でヒットアンドアウェイスタイルと、防御を捨てて両手斧を振り下ろすインファイトスタイルがあった。

 斧は、第一村人である元戦士から使わなくなった戦斧を譲ってもらい改造したものである。

 これに、中距離からブレス代わりの火炎放射器を放つスタイルも加えた。

「よし、この武器は焔の賛美歌ゴスペル・ブレスと名付けよう!」

 火炎放射器を構えながら、ルイーゼが不敵な笑みを浮かべる。

 まあ、オレたちは魔術師を二名連れているから、火炎放射器はそこまで必要ではないのだが。

「ありがとうクニミツ。おかげでボクも、面白い術を思いついたわ。はあ!」

 壁に向かって、ピエラが手から炎の光線を放つ。ピエラクラスの高位ウィザードとなると、術を自分で作れるようになるのだ。

「火炎放射器とボクの杖を融合させて、熱の光線を撃てるようになったわ。その名も【ブラスト・レイ】よ」

「あーっ、いいなぁ」

 熱線のビームか。こっちはこっちで、そそられる。

 ピエラには、こちらが作った武器を魔術的に分析してもらうことにしよう。
 こちらも、さらなる進化が期待できそうだ。

 一旦領地に戻って、ピエラの両親に素材の一部を渡す。オレたちが加工する分を取っておいて、残りはワントープのギルドで買い取ってもらった。

 ボスの処理が済んだら、いよいよ【世界の裏側】へ向かうことに。

 内部は、岩山のように大きな貝類でできた洞窟だった。

「こんな化け物が潜んでいたんだ。向こう側はえらいことになっているだろうな」

「油断できないモジャ」

 やはりというか、海産物モンスターがほとんどだ。人間と同じくらいデカいイソギンチャクなど、並の冒険者だったらトラウマモノだろう。

「蹴散らすよ! くらえ【ブラスト・レイ】!」

 まあ、ほとんどがピエラの火炎ビームで溶けていったが。

 巨大カニの他に、カニの甲羅に包まれた人間が現れた。

「なんだこいつら? やたら戦闘慣れしているぞ!」

 カニ人間が、異様に強い。固い防御力に任せた、力押しキャラだと思っていたのに。

「だったら、隙間を縫う!」

 甲羅の破壊を断念して、モモコは光でできた剣を抜いた。懐へ飛び込んで、関節部分へ斬りかかる。

 死に際のカニ人間が、モモコの首をはねようとハサミで刺突してきた。

「させるか!」

 ハサミを蹴って、オレはモモコを抱き寄せる。

「ありがと」

「おうよ。しかし、なんだこの強さは?」

 頭のカブトから、人間の骨らしきものが覗いていた。

 オレは、兜を足でゆっくりと外す。

 首元に、タグが。

「冒険者だ! 魔物が、中に入れた冒険者をモンスターに変えているのか!?」

 オレたちは、死体を持ち帰った。

 例の村人に確かめてもらえば、なにかがわかるかも。

「ワントープの寺院へ持っていくモジャ。もしかしたら、蘇生できるかもしれないモジャ」
 
 オレたちは半信半疑で、ワントープの寺院へ。

「いらっしゃいませ。ここは安らぎの女神を祀る寺院です。ああ。ルイーゼさん」

 ピエラより少しだけ背が高い少女が、応対しに来た。彼女こそ、寺院のトップである司教らしい。ルイーゼを確認すると、おじぎをした。

「ここで、冒険者の蘇生ができると聞いたが?」

 司教に、ガイコツを見せる。
 
「条件によります。残留思念があること。また、【世界の裏側】で死んだことですね」

 普通の旅で戦死などでは、復活はできないとのこと。また、生前に思い残していることがあった場合は、復活の可能性が高まるとのこと。

「世界の裏側について、認識しているの?」

 オレも、モモコと同じ疑問を持っていた。寺院でも、世界に裏側なんてあると信じているのか。

「ええ。冒険者すら、眉唾といって信じませんが。たしかに、こちらとは違う異界があると、寺院は確認しています。我々は、精霊ともコンタクトを取れるので」

 司教に、遺体を診てもらう。オレたちが集めた遺体は、二七体ほどである。

「残念ながら、これらの方々のうち復活の可能性があるのは、九体程度しかいらっしゃいません」

 ほとんど、成仏してしまっているという。あるいは、罪人だから復活はしてあげられないとか。

 ただ、残った九体なら復活も可能だろうとのこと。

「参ります。異界にたゆたいし魂よ。精霊の導きにより、舞い戻りなさい」

 ズモモモモ! という音とともに、骨の一体に肉が付き始めた。蘇生は成功したようだ。

「ここは?」

 枯れ木のように線の細い女性エルフが、目を覚ます。弓をつがえているから、狩人のようだが。

「寺院だ。あんたはオレたちが骨を回収して、この寺院で生き返ったんだよ」

「そうか。助けてくれて感謝する」

 その後、四体ほどが蘇生に成功した。

 しかし、残った骨は灰になってしまう。

「ロストです。魂の劣化が強すぎました。食われすぎです」

 世界の裏側は、魂すら汚染する瘴気にまみれている。その瘴気に、霊魂が穢されたのだろうとのこと。

「いやあ、生き返るぅ」と、猫族の熟女シーフが首をコキコキと鳴らす。

「助かったのか?」

 魔法使いらしき少年が、寺院を見回した。

「これも、神のお導きゾイ! 司教どの、お久しぶりゾイ!」
 
 つるっパゲドワーフの僧侶が、寺院の司教と握手を交わす。

「えっと、質問だが、この中でピーターって人間族の戦士を知っているか? 今は引退して、ウチの領地で木こりをしているんだが」

 ピーターとは、ウチの第一村人のことだ。

 枯れ木のようなエルフと、ドワーフ僧侶が手を挙げる。

「あの若造が? 会わせてくれんか?」

「もちろんだ」

 他の冒険者も、ついでだからと同行することになった。

「おお! ピーターッ! でかくなった!」

「セーニャ! 生きていたのか!」

 木こりのピーターと、エルフのセーニャが抱き合う。

「随分と老け込んだな? 三〇歳くらい老けて見えるぞ」

「あの地獄から抜け出して、身も心もボロボロになったよ。もう、冒険者は続けられなくなった」

 ピーターが告げると、セーニャもうなずき返す。

「で、ギルバーツは?」
 
 エルフもドワーフも、首を振った。

「わたしも、おとなしくするか。ベガ?」

「うむ。それがいいゾイ」

 セーニャという名のエルフ狩人と、ドワーフ僧侶ベガも、ここで暮らすことにしたらしい。

「わたしは、狩りをしよう。この地で、手頃なモンスターを倒すよ。ベリーなどの果実や薬草がほしいときは言ってくれ」

「ワシは、教会を建てるゾイ。心の拠り所は必要ゾイ。ギルバーツの供養もしたいゾイ」

 他の冒険者も、引退を決意した。

「よろしくおねがいします」

 術士の少年は、ピエラの両親がいる魔法ショップの店員に。

 猫族のおばさんは迷った末に、この領土に冒険者ギルドを立ち上げた。

 いきなり、この領土が街らしくなってきたな。

 しかし、これでは食糧問題が解決しない。

 他にもワントープで人を募り、果物の採集家や畑などを作る人も集まってきた。
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