病弱令嬢、魔王に憑依されてムキムキになる ~思いの分だけ、筋肉が膨れ上がる~

椎名 富比路

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第三章 シックスパックの姫君

第25話 鞭打《ベンダ》

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 スカルスカーの本気を見せてもらっても、こちらは特に驚かない。

 みるみる、スカルスカー男爵の表情に、苛立ちが見えてきた。

「おのれ許さん。ここまで愚弄されるとは! あとで泣いて詫びても許さぬ!」

「許されないのは、あなたの行動です。堂々と城攻めをして策を練ったようですが、すべてがムダでしたね」

 わたしはロッドを、男爵の腹に叩き込む。

「む?」

「フハハァ! この俺様に物理的な攻撃は一切効かん!」

「なら、これで」

 わたしはみぞおちの辺りに、ロッドの先を打ち込んだ。いわゆる寸勁である。

 しかし、男爵は寸勁の衝撃さえ、霧散してしまう。

「寸勁とは考えたな! しかし、俺様の装甲はそんな攻撃さえ弾き返す! 死ねえ!」

 男爵が、丸太のような腕でパンチを繰り出す。

 紙一重で、わたしは拳をよけた。

 わたしがいた場所に、穴が開く。

『フォトンよ。どうやらヤツの特殊な表皮によって、攻撃はすべて受け流されるようじゃの』

 レメゲトンが、トカゲ男爵の戦闘力を分析した。

「そのようです。戦法を変えましょう」

 男爵の攻撃を交わし続け、攻め方を考える。

「たしか、スライムのような身体にすら有効な戦い方が合ったはず」

『ならば、ええ方法がある。使ってみよ』

「ああ。そういえば、ありましたね」

 書物『レメゲトン』を辿っていき、答えにたどり着いた。

「なにをしてもムダだ! どのようなモノノフかと思えば、逃げているばかりだとは。とんだエセ冒険者よ!」

「では、次からはあなたが逃げる番です」

 わたしは、身体をグルン、と、波打たせる。全身が、水のようにドロドロになるイメージで。

「なあ……ふぐあ!」

 わたしは、手をムチのようにしならせた。男爵の肩甲骨辺りに、手のひらをしたたかに打ち込む。

 男らしくない悲鳴をあげて、男爵が後ろへ下がった。

 わたしの手には、大量のウロコが。男爵の背中から、引き剥がしたのである。

「な、なにが起きた!?」

「これが『鞭打』。スライムを倒すために作られた、勇者の秘術です」

 人間の七割は、水分だという。その水分を、凶器へと変えたのだ。

 物理攻撃が通じないスライムと戦うため、勇者は「自分がスライムになればいい」と考えに至ったのである。

 脇腹に、鞭打を打ち込んだ。

「のおおおお!」

 鞭打は、男爵が防いだ反対側の脇にへばりつく。鞭打は手をムチ状にして攻撃するため、打撃ポイントの予想がつかない。そのため、こんな攻撃ができる。

 防御した腕のウロコも、剥がした。

「さっきまでの勢いはどうしました?」

「き、貴様」

「あなたは、筋肉に頼り過ぎなのです。そのせいで、筋肉以外の部分を攻め込まれると弱い。あなたは、オシリも弱そうな顔をしていますね?」

「な!?」

「予言します。男爵に取り憑いた魔王よ。あなたは、オシリを天使に貫かれて消滅します」 

 天使像は、武器としてヤリを構えていた。


                                        *
 
   
 カチュアは魔導書を保護するために、聖堂へ向かう。

「おお、フェターレ王子!」

 ダメリーニの第一王子フェターレ殿下が、聖堂の付近でこちらの騎士と合流していた。

「ご無沙汰しております。本日はなんのおもてなしもできず」

「いえ。あなた方が危機だと聞いたので、加勢に来ました」

「加勢ですか。たしか、あなた方とネロックは、同盟関係にあると」

「父ダメリーニ王が、関係を解消しました。ネロックは、手を広げすぎた。ネロック王を差し置いて、本格的に闇の者と手を組んだようなのです」

 聞けば、辺境伯マッスリアーニの刺客が、極秘でネロックを調査していたという。

「隣国ゆえに、穏便に済ませようと思ったのですが。残念なことで」

「……っ! 伏せて、フェターレ殿下!」

 フェターレ王子の方へ飛んできた矢を、カチュアはロングソードで弾き飛ばした。

 とめどなく、矢が飛んでくる。


 この矢は……。


 最後は、敵自身が破城槌のごと聖堂めがけて頭から飛び出してきた。

 ヒザ蹴りでカウンターを決めると、相手は上腕で受け止める。そのまま跳躍し、後へ下がる。

「まさか。お前は……」

 そこには、変わり果てた姿のアマゾネスが。
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