ウッドゴーレムに転生しました。世界樹と直結して、荒れ地を緑あふれる大地に変えていきます【再編集版】

椎名 富比路

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第四章 クレキシュ大渓谷と、魔王の元配下アルラウネ

第44話 ダンジョンの世界樹

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 何者かに守られるように、世界樹が秘匿されていたのである。
 
「おそらく、このスライムたちは、ガーディアンなんだよ。世界樹を、ガーディアンが守っていた」

 パロンが、世界樹を撫でた。

 力なく、世界樹は乏しい光を放つ。

「ほとんど枯れちゃっているのに、命令だけを守っていたんだね」

 その管理役が、このスライムだったと。

「こんなボロボロになって」

 ボクは、世界樹の成れの果てに近づく。

「コーキ、危なくない?」

「平気」

 なんらかの理由で、世界樹が枯れたんだ。

 スライムは、それを教えようとしている。

「ワタシたちを攻撃してこないね。防衛対象の眼の前にいるのに。どうしてだろう?」

 パロンが指でツンツンしても、スライムは抵抗しない。クコにも、懐いていた。

「ボクも、世界樹だからだろうね」
 
「なるほど。同族と思われているのか」

 ボクたちの会話に返事をしているのか、スライムはまた飛び跳ねる。

「多分、ボクを呼んでいたのは、キミだね」

 世界樹が、ボクにSOSを出していた。
 だから、スライムも攻撃をやめたんだろう。
 
「あとは」
 
 世界樹の方をなんとかしないと。

「これが多分、浄水システムだったんだろうね。あるいは、この世界樹に水を提供するために、ダムを建設したか」

 おそらく、両方だったんだろう。

「なんでドーム状だったんだろう。陽の光がほしいなら、外に木を生やせば」

「当時は、山の大きさがもっと高かったんじゃないかな?」

 森林限界ってやつだ。そのせいで、木を植えられなかったのでは。水も不自由していた環境だったようだし。

 だから、世界樹に働いてもらって、水をキレイにしてもらっていたのかもしれない。

 浄水された水を提供してもらうために、世界樹をスライムたちに守らせた。

 大昔の人も、考えていたんだろう。

 しかし、周りの水は濁っている。泥水みたいだ。

 こんな環境で、ずっと活動させられていては。

「待っててね。今助けるよ」

 ボクは、世界樹の苗に接ぎ木をした。

 同じ世界樹だ。これでよくなるはず。

 ゴーレムたちが掘っている水場まで。根っこを生やしていった。

「行け!」

 苗に、腐った木が集まってくる。腐葉土となって、苗をどんどんと成長させた。

「うわうわうわ……」

「これがここの世界樹が持つ、本来の力なんだね」

 ボクもパロンも、目の前の光景に圧倒される。

 ものの数分で、世界樹はその姿を取り戻した。リンゴのような果実がなり、ガラスの天井を突き破るほどに成長している。

「外に、雷が鳴っておるぞ!」

「ホントだ。近いね」

 暗雲が立ち込め、雨まで降り出した。土砂降りの雨が、ドーム状の窓を叩く。まるで、この建物を潰すかのように。

 そういえば、渓谷付近で雨は初めて見るかも。

 降り注ぐ水滴は、全くやみそうにない。それどころか、勢いが増すばかり。

 水分を吸って世界樹もたいそう元気に……なっていない。

「ちょっと待って! エグい感じになってきたよ」
 
 世界樹のある場所を、雨水が満たす。長年世界樹を支えていた地面が、水を吸ってムクムクと起き上がった。

「ウソでしょ?」

 大樹に、手と足が生えてきたぞ。世界樹って、足とか生えるものなのかなぁ?

「まさかこれ、トレントタイプの世界樹?」

「トレントって何?」

「木のモンスターだよ。ウッドゴーレムとは違って、天然で木に手足が生えているんだ。顔があるタイプもあるよ」

 おっかないね! まるでボクみたいだ。

「世界樹が、ひとりでに動きだしたぞよ!」

 のっしのっしと、歩き出したではないか。

「アイアンゴーレムまで」

 敵の出現に、ボクたちは身構える。

 しかしゴーレムたちは、ボクたちではなく施設を壊し始めたではないか。

 本当に、世界樹はドームを潰すつもりだ。このままでは、施設ごと水の中に沈んでしまうのではないか?

 ボクは、不安になってきた。スライムを、信じてよかったんだろうか。

 と思えば、ボクらに向けて手を差し伸べてきた。「乗れ」ってことみたい。

「乗ろう。事情があるのかもしれない」

「たしかに、ここにいたら溺死しちゃいそうだね」

 トレント型世界樹が、ドーム状のガラス天井を突き破った。ガラスは大量の雨に流されて、ボクらを避けていく。

 

「なにを、勝手に帰ろうとしているのかしらぁ?」


 どこからか、不気味な声が聞こえてきた。

 
 巨大化したトレントを、バラのツタが縛り上げる。

 それだけで、トレントのサイズがダウンした。

 ツタが、トレントの魔力を吸い取っているのか。

「なっ!? 【ファイアボール】!」

 ボクは、トレントの身体に巻き付いていたバラのツタを、炎魔法で焼く。

「なんなんだ、これ!?」
 
「コーキ、敵じゃぞい! スライムの比ではない、かつてない邪悪な殺気が蔓延しておるぞ!」

 殺意だって?

「新しいお客さんねえ?」

 トレントのいたドームの壁を突き破り、バラのオバケが現れた。トレントの数倍は大きい。バラの怪物は、雨水を吸ってさらに巨大化する。

「オーホッホッホッ!」

 バラの花弁に、若い女性の上半身があった。バラの花びらを、ドレス代わりにしている。

「アタシはアルラウネ! 魔王様の忠実なるしもべ!」
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