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第四章 クレキシュ大渓谷と、魔王の元配下アルラウネ
第47話 王都の姫騎士 ヴェリシモ
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「トレントを、ボクたちの村に誘導するの?」
「そうだよ。そうすればスライムともども、コーキといっしょにいられるよ」
パロンが、ナイスなアイデアを提供してくれた。
この世界樹には、我が村にいてもらえばいい。
「じゃあ、トレント。この溝を進んでください」
掘った溝を目印に、村まで誘導していく。
ズシンズシンと足を踏み鳴らし、世界樹は進んでいった。その様子は、新天地を目指す旅人のようだ。
スライムも、こころなしか楽しそう。
さらに川の勢いが、増していった。トレントの歩くスピードさえ、軽く追い越していく。向こうのほうが先に、村へ到着するかも。
「とっとっと!」
川が、トレントの足をすくう。そのまま、ボクたちは流されてしまった。しかし、トレントのバランス感覚のお陰で、溺れずに済む。
ものすごいスピードで、ボクらは村の方角まで流されていく。ウォータースライダーみたいだね。
~~~ 幕間 姫騎士 ヴェリシモ・ダリエンツォ ~~~
北方……王都ダリエンツォの城に、一人の兵士が息を切らして駆けつけた。
赤いドレスに黒のラインの入った軍装の女性は、兵士を迎え入れる。
「姫様、報告がございます!」
「どうした?」
兵士が、ヴェリシモの前にかしずく。
「クレキシュ大渓谷の方角に、大木が生えております!」
「なんだと!?」
ヴェリシモは、身を乗り出した。
ウソだろう。あそこは長い間、砂嵐に覆われていた。乾燥しきっていて、雨も降らない土地のはず。
「それが、砂嵐は雨となり、一晩もしないうちに山のような大木が生えたとのこと! しかも、木の上から木が生えており、その様はまるで……」
「世界樹だと?」
それこそウソだ。信じられない。魔王や勇者すら幻と言われる時代に、そんな夢のような話があるものか。
とはいえ最近、王都に葉っぱ混じりの雨が降ってくるのは事実だ。それも、クレキシュの方角からである。
あちらから雨雲が近づいてくるなど、何千年もなかった。
「証人はいるのか?」
「こちらに……どうぞ」
「おお! ティンバー・ネトルシップ殿ではありませんかっ」
兵士に促されて現れたのは、南方、港町コラシェルに拠点を置く伯爵子息だった。中年の紳士は、かたわらには、携帯式の杖を腰に武装したウサギ耳のメイドと、同じく斧を携えた老執事を引き連れている。
「ご無沙汰しております、ヴェリシモ姫様」
ティンバーとお供が、ヴェリシモの前にひざまずく。
「してティンバー殿、あなたの報告は、まことですか?」
「はい。いつものように、交易用の船で王都を目指していました。ふと胸騒ぎがして、チラッとクレキシュの方を見ていたんですよ。どうも嵐が来るなーと思いましてな。そしたら大量の雨が降ってきまして。さらに、ドデカイ大樹がクレキシュの方でムクムクって育ちはじめましてなあ」
また、クレキシュ大渓谷からつながる崖から、すさまじい瀑布が流れてきたという。
「海からでも、確認できるレベルだったのですか?」
「いかにも。いやあ、あれは絶景でしたよ」
紳士ティンバーが、アゴヒゲを撫でる。
「主が大ボラ吹きかもしれんとお疑いになりますなら、姫様。こちらをごらんください。証拠の写真にございます」
斧を床に置き、執事が懐から写真を一枚出す。ヴェリシモ姫に差し出してきた。
「ご丁寧に。拝見いたします」
ヴェリシモは、写真を確認する。
大雨の影響でボヤケているが、明らかに大樹が渓谷を覆っていた。木の根っこからさらに木が生えているという報告も、間違っていないらしい。
「これは、なんとも摩訶不思議な。おとぎ話に出てくるような、『天をつく大木』ではありませんか」
「でしょうな! だが、わたくしはその不可思議現象を引き起こせる人物を、一人だけ知っております!」
「ほほう。何者ですか、その人物とは?」
「人物といえば……人物か」
ヒゲを撫でながら、ティンバーはなぜか思考するように顔を斜め上に向けた。
話してはいけない内容だったらしい。
「まあ、その人物に会ってご覧なさい。無欲なヴェリシモ姫なら、きっと仲良くできるかと」
「ふむぅ。私が会って大丈夫な人物……あなたが懇意にしている魔女か?」
この世界には、魔法がロクに使えないのに魔女と呼ばれているエルフがいる。薬草学に通じていて、彼女の作る薬は、塗り薬なのに誤って飲んだら流行り病が改善したそうな。
「名を……パロン・サント殿だったか」
「たしかに、わたくしめは翡翠の魔女、パロン・サント殿と親しい。ですが、わたくしの話している人物は彼女の関係者でございます」
「ふむ。ぜひ会ってみたい」
「では、ご案内しましょう。船をご用意いしたいます」
「いや結構。我々は、馬で行きます。大樹の根が、王都にも迫っていると聞く。一度、クレキシュの様子を見ておきたい」
害はないと思うが、念のためだ。巨大な花の姿をしたモンスターが、魔王の配下にいるという話を聞いたこともある。警戒するに、越したことはなかろう。
「よし、準備をせい!」
ヴェリシモは兵を招集し、クレキシュへの調査団を結成した。
「そうだよ。そうすればスライムともども、コーキといっしょにいられるよ」
パロンが、ナイスなアイデアを提供してくれた。
この世界樹には、我が村にいてもらえばいい。
「じゃあ、トレント。この溝を進んでください」
掘った溝を目印に、村まで誘導していく。
ズシンズシンと足を踏み鳴らし、世界樹は進んでいった。その様子は、新天地を目指す旅人のようだ。
スライムも、こころなしか楽しそう。
さらに川の勢いが、増していった。トレントの歩くスピードさえ、軽く追い越していく。向こうのほうが先に、村へ到着するかも。
「とっとっと!」
川が、トレントの足をすくう。そのまま、ボクたちは流されてしまった。しかし、トレントのバランス感覚のお陰で、溺れずに済む。
ものすごいスピードで、ボクらは村の方角まで流されていく。ウォータースライダーみたいだね。
~~~ 幕間 姫騎士 ヴェリシモ・ダリエンツォ ~~~
北方……王都ダリエンツォの城に、一人の兵士が息を切らして駆けつけた。
赤いドレスに黒のラインの入った軍装の女性は、兵士を迎え入れる。
「姫様、報告がございます!」
「どうした?」
兵士が、ヴェリシモの前にかしずく。
「クレキシュ大渓谷の方角に、大木が生えております!」
「なんだと!?」
ヴェリシモは、身を乗り出した。
ウソだろう。あそこは長い間、砂嵐に覆われていた。乾燥しきっていて、雨も降らない土地のはず。
「それが、砂嵐は雨となり、一晩もしないうちに山のような大木が生えたとのこと! しかも、木の上から木が生えており、その様はまるで……」
「世界樹だと?」
それこそウソだ。信じられない。魔王や勇者すら幻と言われる時代に、そんな夢のような話があるものか。
とはいえ最近、王都に葉っぱ混じりの雨が降ってくるのは事実だ。それも、クレキシュの方角からである。
あちらから雨雲が近づいてくるなど、何千年もなかった。
「証人はいるのか?」
「こちらに……どうぞ」
「おお! ティンバー・ネトルシップ殿ではありませんかっ」
兵士に促されて現れたのは、南方、港町コラシェルに拠点を置く伯爵子息だった。中年の紳士は、かたわらには、携帯式の杖を腰に武装したウサギ耳のメイドと、同じく斧を携えた老執事を引き連れている。
「ご無沙汰しております、ヴェリシモ姫様」
ティンバーとお供が、ヴェリシモの前にひざまずく。
「してティンバー殿、あなたの報告は、まことですか?」
「はい。いつものように、交易用の船で王都を目指していました。ふと胸騒ぎがして、チラッとクレキシュの方を見ていたんですよ。どうも嵐が来るなーと思いましてな。そしたら大量の雨が降ってきまして。さらに、ドデカイ大樹がクレキシュの方でムクムクって育ちはじめましてなあ」
また、クレキシュ大渓谷からつながる崖から、すさまじい瀑布が流れてきたという。
「海からでも、確認できるレベルだったのですか?」
「いかにも。いやあ、あれは絶景でしたよ」
紳士ティンバーが、アゴヒゲを撫でる。
「主が大ボラ吹きかもしれんとお疑いになりますなら、姫様。こちらをごらんください。証拠の写真にございます」
斧を床に置き、執事が懐から写真を一枚出す。ヴェリシモ姫に差し出してきた。
「ご丁寧に。拝見いたします」
ヴェリシモは、写真を確認する。
大雨の影響でボヤケているが、明らかに大樹が渓谷を覆っていた。木の根っこからさらに木が生えているという報告も、間違っていないらしい。
「これは、なんとも摩訶不思議な。おとぎ話に出てくるような、『天をつく大木』ではありませんか」
「でしょうな! だが、わたくしはその不可思議現象を引き起こせる人物を、一人だけ知っております!」
「ほほう。何者ですか、その人物とは?」
「人物といえば……人物か」
ヒゲを撫でながら、ティンバーはなぜか思考するように顔を斜め上に向けた。
話してはいけない内容だったらしい。
「まあ、その人物に会ってご覧なさい。無欲なヴェリシモ姫なら、きっと仲良くできるかと」
「ふむぅ。私が会って大丈夫な人物……あなたが懇意にしている魔女か?」
この世界には、魔法がロクに使えないのに魔女と呼ばれているエルフがいる。薬草学に通じていて、彼女の作る薬は、塗り薬なのに誤って飲んだら流行り病が改善したそうな。
「名を……パロン・サント殿だったか」
「たしかに、わたくしめは翡翠の魔女、パロン・サント殿と親しい。ですが、わたくしの話している人物は彼女の関係者でございます」
「ふむ。ぜひ会ってみたい」
「では、ご案内しましょう。船をご用意いしたいます」
「いや結構。我々は、馬で行きます。大樹の根が、王都にも迫っていると聞く。一度、クレキシュの様子を見ておきたい」
害はないと思うが、念のためだ。巨大な花の姿をしたモンスターが、魔王の配下にいるという話を聞いたこともある。警戒するに、越したことはなかろう。
「よし、準備をせい!」
ヴェリシモは兵を招集し、クレキシュへの調査団を結成した。
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