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第四章 クレキシュ大渓谷と、魔王の元配下アルラウネ
第48話 コメ栽培
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気がつけば数日もせずに、村へ帰還していたではないか。
「あっ、コーキさん。おかえりなさい」
大量の薬草が入ったカゴを頭に乗せたアザレアが、ボクを出迎える。
「村の様子が、えらく様変わりしているね」
いい感じに、貯水池が拡大していた。大樹のあるポイントは小島になって、川の水が大量に溜まっていた。マッドゴーレムがどれだけ囲いを拡張しても、追いつかないほどだ。
村民も土地の活用を始めていて、協力し合って過ごしている。
牧草を食べる牛に、心が癒やされた。
「おうコーキ。随分とデカいお客さんを連れているじゃないか」
ウルフを担ぎながら、ガルバがボクの後ろを見上げた。
「ただいま。みんな」
村の人々も、「何者なのか」とトレントの姿におっかなびっくりな様子である。
「紹介するね。トレントだよ。こう見えて、世界樹なんだ」
トレント型世界樹は歩き疲れたのか、ズシンとあぐらをかく。そのまま、ボクが植えた大樹と同化して、小島に根を張った。大樹とトレントが絡み合い、一本の大木となる。
「うわあ。すごいよ、コーキ。宇宙だ」
木陰に、星空ができていた。よく見ると、葉っぱのスキマから日が差し込んでいて、それが宇宙に見えるだけなんだけど。葉の密度が、どこまで多いのか。
「ホントですね。真っ昼間なのに、星空みたいになってる」
アザレアが、世界樹の木陰に入ってうっとりしている。
「まじかよ。これが、世界樹……とんでもねえな」
「こんな樹の下で、夫婦の誓いを立ててもらいたかったねえ」
ドナさんが、夫であるガルバのヒジをつつく。
大樹とトレントとが、数分単位で四季を繰り返す。実りと腐敗を繰り返し、お互いが混ざり合った。やがて完全に同化して、世界樹に変化した。
川の水が、大量に湖へと流れ込んでくる。世界樹の影響に、違いない。そこまで水を引っ張ってくる力があるのか。すごいなあ。
また枝分かれして、各方面へ流れていった。この地も、世界樹のお陰で再生されていくはずだ。
「橋をかけるね」
木を伐採して、ボクは小島と村を橋で結ぶ。これで、世界樹と行き来できるぞ。
世界樹が、トレントの手をボクに差し出してきた。
ボクたちを乗せてきたほど大型だった手には、包みが握られている。
トレントは、ボクたちの前に包みを落とす。
スライムが、包みの袋を開けた。
眩しいまでの光が、麻袋から漏れ出す。これは、王冠かな? 宝剣とかもある。あとは、漢方薬の材料だ。
「東洋で見られる薬だね、コーキ」
「うん」
これがあれば、もっといろんな病気に対応できるだろう。
「これは、報酬だって」
パロンが、スライムの言葉を翻訳してくれた。
「世界樹を伝達して、クレキシュから持ってきたそうだよ。この鉄も」
鉄! これはありがたい。
装備品で鉄を手に入れることは可能だったが、農作業や建築には心もとなかった。
「ありがとう。大切にするよ」
大量の財宝を、トレントからいただく。宗教団体が溜め込んでいた、貴金属類らしい。昔の金貨も発見した。
「個人的には、豊かな自然だけでも十分なんだけど」
手探りだった大地の開拓が、世界樹のおかげで一瞬にして終わっている。
「なんじゃい、欲がないのう」
「そう言われようとも、使い道がなくってさ」
あったとしても、森林の復興くらいにしか使わない。まあ、シドの森から水を引く費用にでもしようかな。
まだ、報酬はあるらしい。
スライムが、今度は小さな包みをボクにくれた。
「コーキ、キミが一番ほしがっているだろうモノだって」
スライムの言葉がわかるのか、パロンがそう教えてくれる。
なんだろう、ボクが欲しいものだなんて?
包みの中身を、見せてもらった。
「これは……おコメだ!」
たしかに、日本人ならおコメだよね!
「なんぞ。コメなんぞ、糖質の塊ではないか。たしかにうまいが、そんなに珍しいとは」
世界中の珍味に慣れているのか、賢人クコの反応は鈍い。
「作業も、難しいんですよねぇ」
「おう。オレも、王都でしか見たことがねえな。それくらいの規模じゃないと、育たねえんだよ。イナゴ胎児にも駆り出されるし」
アザレアとガルバも、イマイチなご様子。
「これを発酵させれば、お酒を作れるよ」
「よし、さっさと育てるぞよ」
現金だなぁ、賢人は。
コメ作りには、田んぼが必要だ。早速作業に取り掛かる。とはいえ……。
「あーあ」
コメの種モミを両手に乗せたまま、ボクは呆然とする。
いざ、おコメを育てようと考えて、イヤな予感が頭をよぎった。
おコメがあるってことは、ひょっとすると……。
「どうしたの、コーキ?」
「いや、もしかすると、ボクと同じ世界から来た人が転生してきて、やらかしたのかなーって……」
ボクは、パロンに仮説を話してみる。
「つまり、あの団体は、異世界人が打ち立てたんじゃないかと」
日本人がここの世界に来て、悪さをした可能性があった。
でなければ、あんな文明レベルで設備なんて作れない。
もしコメなんて育てたら、この村の秘密が世界中に広まって、悪い考えを持った転生者に狙われるかも。そう予感したのだ。
「なるほど。それはないよ、コーキ。断言できるよ」
「あっ、コーキさん。おかえりなさい」
大量の薬草が入ったカゴを頭に乗せたアザレアが、ボクを出迎える。
「村の様子が、えらく様変わりしているね」
いい感じに、貯水池が拡大していた。大樹のあるポイントは小島になって、川の水が大量に溜まっていた。マッドゴーレムがどれだけ囲いを拡張しても、追いつかないほどだ。
村民も土地の活用を始めていて、協力し合って過ごしている。
牧草を食べる牛に、心が癒やされた。
「おうコーキ。随分とデカいお客さんを連れているじゃないか」
ウルフを担ぎながら、ガルバがボクの後ろを見上げた。
「ただいま。みんな」
村の人々も、「何者なのか」とトレントの姿におっかなびっくりな様子である。
「紹介するね。トレントだよ。こう見えて、世界樹なんだ」
トレント型世界樹は歩き疲れたのか、ズシンとあぐらをかく。そのまま、ボクが植えた大樹と同化して、小島に根を張った。大樹とトレントが絡み合い、一本の大木となる。
「うわあ。すごいよ、コーキ。宇宙だ」
木陰に、星空ができていた。よく見ると、葉っぱのスキマから日が差し込んでいて、それが宇宙に見えるだけなんだけど。葉の密度が、どこまで多いのか。
「ホントですね。真っ昼間なのに、星空みたいになってる」
アザレアが、世界樹の木陰に入ってうっとりしている。
「まじかよ。これが、世界樹……とんでもねえな」
「こんな樹の下で、夫婦の誓いを立ててもらいたかったねえ」
ドナさんが、夫であるガルバのヒジをつつく。
大樹とトレントとが、数分単位で四季を繰り返す。実りと腐敗を繰り返し、お互いが混ざり合った。やがて完全に同化して、世界樹に変化した。
川の水が、大量に湖へと流れ込んでくる。世界樹の影響に、違いない。そこまで水を引っ張ってくる力があるのか。すごいなあ。
また枝分かれして、各方面へ流れていった。この地も、世界樹のお陰で再生されていくはずだ。
「橋をかけるね」
木を伐採して、ボクは小島と村を橋で結ぶ。これで、世界樹と行き来できるぞ。
世界樹が、トレントの手をボクに差し出してきた。
ボクたちを乗せてきたほど大型だった手には、包みが握られている。
トレントは、ボクたちの前に包みを落とす。
スライムが、包みの袋を開けた。
眩しいまでの光が、麻袋から漏れ出す。これは、王冠かな? 宝剣とかもある。あとは、漢方薬の材料だ。
「東洋で見られる薬だね、コーキ」
「うん」
これがあれば、もっといろんな病気に対応できるだろう。
「これは、報酬だって」
パロンが、スライムの言葉を翻訳してくれた。
「世界樹を伝達して、クレキシュから持ってきたそうだよ。この鉄も」
鉄! これはありがたい。
装備品で鉄を手に入れることは可能だったが、農作業や建築には心もとなかった。
「ありがとう。大切にするよ」
大量の財宝を、トレントからいただく。宗教団体が溜め込んでいた、貴金属類らしい。昔の金貨も発見した。
「個人的には、豊かな自然だけでも十分なんだけど」
手探りだった大地の開拓が、世界樹のおかげで一瞬にして終わっている。
「なんじゃい、欲がないのう」
「そう言われようとも、使い道がなくってさ」
あったとしても、森林の復興くらいにしか使わない。まあ、シドの森から水を引く費用にでもしようかな。
まだ、報酬はあるらしい。
スライムが、今度は小さな包みをボクにくれた。
「コーキ、キミが一番ほしがっているだろうモノだって」
スライムの言葉がわかるのか、パロンがそう教えてくれる。
なんだろう、ボクが欲しいものだなんて?
包みの中身を、見せてもらった。
「これは……おコメだ!」
たしかに、日本人ならおコメだよね!
「なんぞ。コメなんぞ、糖質の塊ではないか。たしかにうまいが、そんなに珍しいとは」
世界中の珍味に慣れているのか、賢人クコの反応は鈍い。
「作業も、難しいんですよねぇ」
「おう。オレも、王都でしか見たことがねえな。それくらいの規模じゃないと、育たねえんだよ。イナゴ胎児にも駆り出されるし」
アザレアとガルバも、イマイチなご様子。
「これを発酵させれば、お酒を作れるよ」
「よし、さっさと育てるぞよ」
現金だなぁ、賢人は。
コメ作りには、田んぼが必要だ。早速作業に取り掛かる。とはいえ……。
「あーあ」
コメの種モミを両手に乗せたまま、ボクは呆然とする。
いざ、おコメを育てようと考えて、イヤな予感が頭をよぎった。
おコメがあるってことは、ひょっとすると……。
「どうしたの、コーキ?」
「いや、もしかすると、ボクと同じ世界から来た人が転生してきて、やらかしたのかなーって……」
ボクは、パロンに仮説を話してみる。
「つまり、あの団体は、異世界人が打ち立てたんじゃないかと」
日本人がここの世界に来て、悪さをした可能性があった。
でなければ、あんな文明レベルで設備なんて作れない。
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