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最終章 ウッドゴーレムは、荒れ地を発展させました
第79話 敵対種族間交流(酒
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「あの、聞いていた話と違うのですが……」
手を上げて、ボクはクトーニアンの魔王に問いかける。
「ふむ。そうだろうよ」
予想通りという感じで、巨大サンゴは「はあ」とため息をついた。
「ハィラはシャイな娘だからな。まあ、そこがかわいいのだがっ! ブッハ!」
悪びれていないよ、この人。
ハィラさん本人と視線を合わせると、はにかんできた。
「実は結婚というのは、なにかと切実でなあ」
穏健派は、世界樹の後継を探しているらしい。
「今、我々が魔力供給を受けているのも、闇の世界樹【ヨルムンガンド】の切れ端である。どうしても、闇の魔力を受け継いでしまうのだ。精神が揺らぐため、困っておる」
少しでも気が緩むと、悪い心に染まりそうになるという。
「そこで、地上の世界樹と受粉をして、新たに世界樹を儲けようとなったのだ」
「で、ボクが選ばれたと」
「左様だ。聞けばコーキ殿、お主は世界樹がベースになったウッドゴーレムだとか」
「はい」
ボクの身体は、世界樹でできている。パロンが作ってくれたのだ。
「実は我々も、根本的な肉体はサンゴでできているのだ」
いろんな魔物を体内に取り込んで、自分の肉体に変化させるという。捕食に近いのかな。
「そうだったんですね」
「なので、お主とは相性バッチシと考えておる」
オコゼみたいな口の口角を上げて、魔王のおじさんはサムズアップをした。
「あなたが子孫を残す、という案はないのでしょうか?」
「ワシのような年寄でも、まだ子をもう一人こさえることはできらあ。さりとて、また保守的な考えが浸透し続けるであろう。その点、お主はクトーニアンの常識に染まっておらぬ。婚姻相手としては、最適なのだ」
参ったな。ここにきて、恋愛トラブルに巻き込まれるなんて。
ボクは、女性と交際したことがないんだよねえ。
「待った待った。世界樹同士の受粉とかメチャ興味はあるんだけど、まずは双方の同意が必要なのでは? ねえ、コーキ?」
やたら食い気味で、パロンが交渉を遮る。
「たしかになあ。とはいえ、時間がないのだ」
「ヨルムンガンドっていうの? その世界樹とやらをやっつけたらもう一回話を、というわけには?」
「先に子種を仕込んでおいた方がよくね?」
えらく砕けた口調になってきた。これが、本来の魔王の話し方なのだろう。
「互いにもっと慎重に進めないと、生まれた世界樹も闇に染まっちゃわないかな?」
パロンが、サンゴ王への説得を試みた。
「コーキ殿の子どもなら、大丈夫そうだが」
「子どもは弱い。悪いヤツは弱い者から狙うよ。そうやって、キミらの派閥もやられたのでは?」
「一理あるな」
サンゴ王は腕を組む。
「よし。やはり、ヨルムンガンド退治を優先しよう」
パロンの説得がきいたのか、魔王も考え直してくれた。
「ごめんなさい、コーキさん」
魔王との対面を終えて、ハィラさんが頭を下げる。
「はじめからこうなる、ってわけじゃあ、なかったんだね?」
「はい。ですから、騙すつもりもありませんでした」
同じ植物由来の人種なので、「交配が可能」と魔王が思い込んでしまったらしい。
「ハィラは悪くないよ。魔王だって、先走ったからあんなことを言ったんだろうし」
ことが収まったので、パロンも強くハィラさんを責めたりはしない。
「でも、問題は天使族との関係だよね。ボクたちと天使族がやりとりをしている事実は、相手は知っているの?」
「一応は。イヤな気もありません。折り合いが悪いのは天使との間なので、中立的なコーキさんたちに敵意が向くことは、まずないでしょう」
大昔にあった世界樹強奪事件のときも、穏健派は動かなかった。とはいえ助けることもできなかったため、動けなかったとも言っていい。
過激派のリーダーに天罰が下って岩山に閉じ込められたときも、傍観を決めていたという。
「これでよく魔王と名乗れたもんだと、本人は落ち込んでいて」
なんとか、穏健派に貢献したいと考えて、ボクの特性を聞いて発案したそうだ。
「気持ちはわかるけどさ、民衆を存命させている時点で優秀だからね。気を落とさなくたっていいじゃん」
「ワタシも同じ意見です。ましてや出会ったばかりのコーキさんと婚姻って、恐れ多くて」
ハィラさんの言葉に、ピオナがうんうんと大きくうなずいた。
「ええ。ワタシも立場上、自重しております」
「してないじゃん! あんたさ、スキあらば、そばにいようとしてない!?」
ピオナの意見に、パロンが反論する。
「わきまえているつもりです」
「つもりだけじゃん! しょっちゅうイチャコラしてない!?」
ケンカになる前に、ボクが割って入った。
「まあまあ。とにかく天使さんたちだ」
どうにかして、仲を取り持たないと、また戦争になっちゃう。
「とはいえ、どうすれば」
「簡単じゃ」
モリの賢人クコが、とある提案をしてきた。
「そんなので、大丈夫?」
「うむ! お主のアレは、和平のキモじゃ!」
ボクは天使の城に、魔王を連れてくる。
「えっと、こちらのお酒、ボクたちが村で作ったんですが、どうぞ……」
ホントにこんなので、天使やクトーニアンが黙ってくれるんだろうか。
天使対魔王にお酒を提供するだなんて、一体どうなるんだ?
酔っ払って、なおさら戦争でも起きるんじゃあ……。
一時間後……。
「ガハハ! おめえも話のわかる男じゃねえか!」
「ギャハハ! 飲みねえ飲みねえ!」
杞憂だった。
手を上げて、ボクはクトーニアンの魔王に問いかける。
「ふむ。そうだろうよ」
予想通りという感じで、巨大サンゴは「はあ」とため息をついた。
「ハィラはシャイな娘だからな。まあ、そこがかわいいのだがっ! ブッハ!」
悪びれていないよ、この人。
ハィラさん本人と視線を合わせると、はにかんできた。
「実は結婚というのは、なにかと切実でなあ」
穏健派は、世界樹の後継を探しているらしい。
「今、我々が魔力供給を受けているのも、闇の世界樹【ヨルムンガンド】の切れ端である。どうしても、闇の魔力を受け継いでしまうのだ。精神が揺らぐため、困っておる」
少しでも気が緩むと、悪い心に染まりそうになるという。
「そこで、地上の世界樹と受粉をして、新たに世界樹を儲けようとなったのだ」
「で、ボクが選ばれたと」
「左様だ。聞けばコーキ殿、お主は世界樹がベースになったウッドゴーレムだとか」
「はい」
ボクの身体は、世界樹でできている。パロンが作ってくれたのだ。
「実は我々も、根本的な肉体はサンゴでできているのだ」
いろんな魔物を体内に取り込んで、自分の肉体に変化させるという。捕食に近いのかな。
「そうだったんですね」
「なので、お主とは相性バッチシと考えておる」
オコゼみたいな口の口角を上げて、魔王のおじさんはサムズアップをした。
「あなたが子孫を残す、という案はないのでしょうか?」
「ワシのような年寄でも、まだ子をもう一人こさえることはできらあ。さりとて、また保守的な考えが浸透し続けるであろう。その点、お主はクトーニアンの常識に染まっておらぬ。婚姻相手としては、最適なのだ」
参ったな。ここにきて、恋愛トラブルに巻き込まれるなんて。
ボクは、女性と交際したことがないんだよねえ。
「待った待った。世界樹同士の受粉とかメチャ興味はあるんだけど、まずは双方の同意が必要なのでは? ねえ、コーキ?」
やたら食い気味で、パロンが交渉を遮る。
「たしかになあ。とはいえ、時間がないのだ」
「ヨルムンガンドっていうの? その世界樹とやらをやっつけたらもう一回話を、というわけには?」
「先に子種を仕込んでおいた方がよくね?」
えらく砕けた口調になってきた。これが、本来の魔王の話し方なのだろう。
「互いにもっと慎重に進めないと、生まれた世界樹も闇に染まっちゃわないかな?」
パロンが、サンゴ王への説得を試みた。
「コーキ殿の子どもなら、大丈夫そうだが」
「子どもは弱い。悪いヤツは弱い者から狙うよ。そうやって、キミらの派閥もやられたのでは?」
「一理あるな」
サンゴ王は腕を組む。
「よし。やはり、ヨルムンガンド退治を優先しよう」
パロンの説得がきいたのか、魔王も考え直してくれた。
「ごめんなさい、コーキさん」
魔王との対面を終えて、ハィラさんが頭を下げる。
「はじめからこうなる、ってわけじゃあ、なかったんだね?」
「はい。ですから、騙すつもりもありませんでした」
同じ植物由来の人種なので、「交配が可能」と魔王が思い込んでしまったらしい。
「ハィラは悪くないよ。魔王だって、先走ったからあんなことを言ったんだろうし」
ことが収まったので、パロンも強くハィラさんを責めたりはしない。
「でも、問題は天使族との関係だよね。ボクたちと天使族がやりとりをしている事実は、相手は知っているの?」
「一応は。イヤな気もありません。折り合いが悪いのは天使との間なので、中立的なコーキさんたちに敵意が向くことは、まずないでしょう」
大昔にあった世界樹強奪事件のときも、穏健派は動かなかった。とはいえ助けることもできなかったため、動けなかったとも言っていい。
過激派のリーダーに天罰が下って岩山に閉じ込められたときも、傍観を決めていたという。
「これでよく魔王と名乗れたもんだと、本人は落ち込んでいて」
なんとか、穏健派に貢献したいと考えて、ボクの特性を聞いて発案したそうだ。
「気持ちはわかるけどさ、民衆を存命させている時点で優秀だからね。気を落とさなくたっていいじゃん」
「ワタシも同じ意見です。ましてや出会ったばかりのコーキさんと婚姻って、恐れ多くて」
ハィラさんの言葉に、ピオナがうんうんと大きくうなずいた。
「ええ。ワタシも立場上、自重しております」
「してないじゃん! あんたさ、スキあらば、そばにいようとしてない!?」
ピオナの意見に、パロンが反論する。
「わきまえているつもりです」
「つもりだけじゃん! しょっちゅうイチャコラしてない!?」
ケンカになる前に、ボクが割って入った。
「まあまあ。とにかく天使さんたちだ」
どうにかして、仲を取り持たないと、また戦争になっちゃう。
「とはいえ、どうすれば」
「簡単じゃ」
モリの賢人クコが、とある提案をしてきた。
「そんなので、大丈夫?」
「うむ! お主のアレは、和平のキモじゃ!」
ボクは天使の城に、魔王を連れてくる。
「えっと、こちらのお酒、ボクたちが村で作ったんですが、どうぞ……」
ホントにこんなので、天使やクトーニアンが黙ってくれるんだろうか。
天使対魔王にお酒を提供するだなんて、一体どうなるんだ?
酔っ払って、なおさら戦争でも起きるんじゃあ……。
一時間後……。
「ガハハ! おめえも話のわかる男じゃねえか!」
「ギャハハ! 飲みねえ飲みねえ!」
杞憂だった。
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