いやああ。今日、ヨレたセーターで来ちゃったうわああん

椎名 富比路

文字の大きさ
1 / 1

肉まんを買いに来ただけなのに

しおりを挟む
「いやああああ」

 ばったりチエ先輩と会ってしまった。

「なに、どうしたシホ?」

「今日ヨレたセーターでコンビニ来ちゃったあああ!」

 完全に油断していたのだ。
 
「コンビニで肉まん買うだけだし♪」と、ヨレたセーターだけ着てコンビニに来てしまった。

 肉まんとボトルのホットコーヒーを購入するつもりが、ずっと買っている百合小説雑誌なんか立ち読みしてしまう。

「ほうほう、これはこれは。よもやよもや」

 そしたら後ろから、チエ先輩に肩を叩かれてしまったのである。

「おとなしく肉まん買って帰れば、こんなことにはああああ!」

 私は、頭をかかえてうずくまる。

「シホ、ここお店だから」
「うわあああ」
「ったく、しょうがないなあ」

 そういって、チエ先輩は私をレジまで引っ張っていく。

「ほら」

 先輩は、肉まんをもたせてくれた。
 ちなみに、先輩の分はカレーまんである。

「え、ちょっとまってください。お金を」
「いらないって。スマホ決済だし。それよりさ、一緒に食べようよ」

 私は、イートインまで連れて行かれた。
 
 そういえば、袋に包んでもらってないな。

 どうして、こうなった。

「何を読んでたん?」
 
 ミルクティーを飲みながら、先輩は聞いてきた。
 カレーとミルクティーって、合うんだろうか?
 
「小説の雑誌を」

 缶コーヒーでノドを湿らせ、どうにか言葉を絞り出す。

「公募かー。関心だな。あたしも公募向けの一本書かないとなー」

 どうやら、百合小説の「公募」枠しか見ていなかったらしい。
 私の趣向までは、バレてない……バレてないはず。

 チエ先輩も私も文芸部で、先輩はラノベ派だ。それも男の子向けの。

「先輩の書く女の子は、イキイキしていていいと思いますっ」

 まるで、先輩が作品世界の中で生きているみたいなのだ。
 冗談抜きで、「すこ」。

「へへ。ありがと。でもさ、ちょっと抜けてるコとか、カワイイよね。今度はさ、そういう女の子をヒロインにしたい」
「たとえば?」

「ヨレたセーターを着てて、想い人の前であたふたしてるような、さ」

 もしかしてバレバレなのぉ!?
 
「冗談冗談」

「なんだぁ」

「へへ。でもさ、あんたカワイイと思うんだよね。守ってあげたいカンジ」

 チエ先輩の手が、私の頭に触れた。よしよししてくれる。

「行き詰まってんだね?」

「……はい」

 実は、同じ賞に何度も落ちている。

「次はさ、あたしみたいな主人公じゃなくて、自分に近づけてみなよ。その方が、リアリティが出るんじゃないかな」
「でも、先輩みたいに引っ張って欲しいんです」
「うーん。じゃあ、普段は女の子に引っ張られてかっこ悪いけど、いざというときに頼りになる主人公、ってどう?」
「いいと思います!」

 なんだか、すごく活力が湧いてきた。
 肉まんのあったかさじゃない熱が、私のお腹に溜まっていく。

「元気出た?」
「はい。ありがとうございます」

 やっぱりいいな。

 先輩のアドバイスは、ヨレたセーターの着慣れたぬくもりに近かった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

処理中です...