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第一章 秘湯マニア、異世界へ飛ぶ
回復の泉の女神
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「そもそも、新聞記者風情が何の用ですか?」
「ブログ記者だ」
「一緒ですよ! 何が目的で私と回復の泉に入っているですか?」
湯に肩まで沈めて、少女は尚も毒づく。
長い耳を赤らめて、それでも少女は温泉から出ようとしていなかった。
やはり、この良好な泉質には抗いがたい。
「わたしが、お呼びしたのです」
突然、湯船から天女らしい人が、にょきーっと水面から浮かび上がってきた。
天女は線こそ細い。が、出るべき所は出ている。
長い布を器用に巻いているだけの、セクシーな衣装だ。
何より、身体が透けているではないか。
「ホログラムかな?」
「その通り。幻視です。湯川 一行様。あなた方の言葉を借りるなら、ホログラムです。本体は、天界にあります」
「あなたは?」
「わたしは、ダンジョンに点在する回復の泉の管理者。そこにいる使い魔・シズクを助けてくださって、ありがとうございます」
このバニーガールちゃんは、シズクちゃんという名前らしい。
「えーっ!?」シズクちゃんが、湯から立ち上がる。
「では女神様が迎えに行けと行ったのは、コイツだったですか!?」
「そうですよ。カズユキ様にメールしたのも、わたしです」
うわああ、といった顔で、シズクちゃんが再び湯船に。
お胸の浮力で、プカプカ浮いていた。
「はあ、もっと紳士かと思っていました」
「十分、紳士ではありませんか。治療してくださったお礼は言ったのですか?」
「あ」と、シズクちゃんは起き上がる。
「助けてくださってありがとうございます」
無機質な謝辞だ。
しかし、それでいい。
無事で何よりだ。
「でも、こここ混浴するなんてひと言も! あやうく貞操の危機を迎えるところでした!」
「まあまあ、いいではありませんか。彼をこの世界にお連れすることが、あなたの役目なんですから」
「はあ?」
シズクちゃんが眉間に皺を寄せていると、女神さまがボクの方を向く。
「カズユキさま、大変失礼とは思いますが、お稼ぎの方は」
「芳しくないね」
「では、この世界のお風呂を堪能なされては? といっても回復の泉と呼ばれる代物ですが」
「いいね!」
ボクは二つ返事でOKした。
秘湯と言っても、最近は素人の温泉マニアや車載動画配信者などに開拓され尽くしていた。
彼らの情報収集能力を甘く見たボクが悪いんだけど。
おかげでボクは商売あがったりで、新しいネタが欲しかったのだ。
何より、誰も知れない秘湯なんて、グッとくるじゃないか!
「といっても、誰にも教えられないんじゃ? ブログなんて、この世界にはないでしょうから」
二人の格好や森の雰囲気から見て、どう考えても文明が現代日本より発達しているとは。
「ギルドに【職業:記者】と、登録なさってください。いわゆるレンジャー扱いです」
「女神さまは、ボクに何をさせたいんですか? 魔王退治とかは勘弁してください」
魔王のスキャンダルを暴くとか、マスコミぽい仕事もゴメンだ。
そういう神経がすり減る仕事はイヤである。
「ダンジョンの温泉探しです。探してくださるだけで結構です。あとは、こちらが魔法の泉として登録しますから」
この世界には、まだ知られていない秘湯がたくさんある。
ボクの仕事は、秘湯を見つけて【回復の泉】として女神さまに報告することだ。
ボクが見つけた回復の泉を、女神さまが加護を授けて【安置】と認定する。
こうして、冒険者がキャンプを張れる安全なエリアとして活用するのだ。
「あなたは秘湯に入れる。私は、その場所を守ることができる。Win-Winです」
「割と責任重大ですね」
「あなたの鼻を、アテにしているのです。報酬は、ギルドカードに直接振り込まれます」
カード決済なんて、こういうところだけ洒落ているな。
「わかりました。是非やらせてください」
「それはよかったです。では、こちらのシズクをお連れなされませ。彼女は片時も、あなたを離れませんから、安全です」
慈悲深い視線を、女神さまはシズクちゃんに送った。
「め、女神さまのご命令なら、仕方ありませんね!」
シズクちゃんが、腕を組んでそっぽを向く。
「嫌われちゃいましたかね?」
「照れているだけですよ。本心では感謝していますから」
だといいけれど。
「そうそう。あなたにひとつだけ、【チートスキル】を授けましょう」
「やけにイージーすぎますね?」
「異世界転移ですからね。無理も言っていますし」
何がいいだろうか。そういえば喉が渇いたな。
「あ、【無限コーヒー牛乳】が欲しいです」
「えええ?」
さすがの女神さまも、困った顔をした。
「そんな俗っぽい能力でいいのですか? もっと強い魔法を撃ちたいとか、剣術スキルとかありますよ?」
「魔王とか危険なモンスターとかって、いないんでしょ? だったら戦闘系とかは、死にスキル化しますよ」
ボクは、飢えないスキルがいい。
「ひょっとして、ないんですか?」
「ありますよ。ちなみに、【缶ビールを無限に出せる】スキルとかもありますが」
「ボク下戸なんで」
あと、ビールをおいしく飲むために、サウナガマンしていた部長がぶっ倒れたという話を聞いた。
以来、酒は飲まないって決めている。
「……手をかざして、瓶のコーヒー牛乳をイメージなさって」
言われたとおりにすると、瓶のコーヒー牛乳がポンと出てきた。
「うわっ。本当に出てきた!」
なお、飲み終わったらゴミは勝手に消えるという。
ボクは、もう二本召還して、シズクちゃんと女神さまに提供した。
「では、よろしくおねがいします。かんぱーい」
「か、かんぱーい」
最初は渋々といった感じで、シズクちゃんは瓶に口を付ける。
だが、おいしいとわかると一気にグイッと飲み干した。
「わたしも、要求を出していいですか?」
「なんですか、シズク」
「もう一本!」
シズクちゃんが、腕で口を拭く。
「うふふ、シズクもあなたが気に入ったみたいですわ。では、成果を期待しますね」
女神さまは、去って行った。
「ブログ記者だ」
「一緒ですよ! 何が目的で私と回復の泉に入っているですか?」
湯に肩まで沈めて、少女は尚も毒づく。
長い耳を赤らめて、それでも少女は温泉から出ようとしていなかった。
やはり、この良好な泉質には抗いがたい。
「わたしが、お呼びしたのです」
突然、湯船から天女らしい人が、にょきーっと水面から浮かび上がってきた。
天女は線こそ細い。が、出るべき所は出ている。
長い布を器用に巻いているだけの、セクシーな衣装だ。
何より、身体が透けているではないか。
「ホログラムかな?」
「その通り。幻視です。湯川 一行様。あなた方の言葉を借りるなら、ホログラムです。本体は、天界にあります」
「あなたは?」
「わたしは、ダンジョンに点在する回復の泉の管理者。そこにいる使い魔・シズクを助けてくださって、ありがとうございます」
このバニーガールちゃんは、シズクちゃんという名前らしい。
「えーっ!?」シズクちゃんが、湯から立ち上がる。
「では女神様が迎えに行けと行ったのは、コイツだったですか!?」
「そうですよ。カズユキ様にメールしたのも、わたしです」
うわああ、といった顔で、シズクちゃんが再び湯船に。
お胸の浮力で、プカプカ浮いていた。
「はあ、もっと紳士かと思っていました」
「十分、紳士ではありませんか。治療してくださったお礼は言ったのですか?」
「あ」と、シズクちゃんは起き上がる。
「助けてくださってありがとうございます」
無機質な謝辞だ。
しかし、それでいい。
無事で何よりだ。
「でも、こここ混浴するなんてひと言も! あやうく貞操の危機を迎えるところでした!」
「まあまあ、いいではありませんか。彼をこの世界にお連れすることが、あなたの役目なんですから」
「はあ?」
シズクちゃんが眉間に皺を寄せていると、女神さまがボクの方を向く。
「カズユキさま、大変失礼とは思いますが、お稼ぎの方は」
「芳しくないね」
「では、この世界のお風呂を堪能なされては? といっても回復の泉と呼ばれる代物ですが」
「いいね!」
ボクは二つ返事でOKした。
秘湯と言っても、最近は素人の温泉マニアや車載動画配信者などに開拓され尽くしていた。
彼らの情報収集能力を甘く見たボクが悪いんだけど。
おかげでボクは商売あがったりで、新しいネタが欲しかったのだ。
何より、誰も知れない秘湯なんて、グッとくるじゃないか!
「といっても、誰にも教えられないんじゃ? ブログなんて、この世界にはないでしょうから」
二人の格好や森の雰囲気から見て、どう考えても文明が現代日本より発達しているとは。
「ギルドに【職業:記者】と、登録なさってください。いわゆるレンジャー扱いです」
「女神さまは、ボクに何をさせたいんですか? 魔王退治とかは勘弁してください」
魔王のスキャンダルを暴くとか、マスコミぽい仕事もゴメンだ。
そういう神経がすり減る仕事はイヤである。
「ダンジョンの温泉探しです。探してくださるだけで結構です。あとは、こちらが魔法の泉として登録しますから」
この世界には、まだ知られていない秘湯がたくさんある。
ボクの仕事は、秘湯を見つけて【回復の泉】として女神さまに報告することだ。
ボクが見つけた回復の泉を、女神さまが加護を授けて【安置】と認定する。
こうして、冒険者がキャンプを張れる安全なエリアとして活用するのだ。
「あなたは秘湯に入れる。私は、その場所を守ることができる。Win-Winです」
「割と責任重大ですね」
「あなたの鼻を、アテにしているのです。報酬は、ギルドカードに直接振り込まれます」
カード決済なんて、こういうところだけ洒落ているな。
「わかりました。是非やらせてください」
「それはよかったです。では、こちらのシズクをお連れなされませ。彼女は片時も、あなたを離れませんから、安全です」
慈悲深い視線を、女神さまはシズクちゃんに送った。
「め、女神さまのご命令なら、仕方ありませんね!」
シズクちゃんが、腕を組んでそっぽを向く。
「嫌われちゃいましたかね?」
「照れているだけですよ。本心では感謝していますから」
だといいけれど。
「そうそう。あなたにひとつだけ、【チートスキル】を授けましょう」
「やけにイージーすぎますね?」
「異世界転移ですからね。無理も言っていますし」
何がいいだろうか。そういえば喉が渇いたな。
「あ、【無限コーヒー牛乳】が欲しいです」
「えええ?」
さすがの女神さまも、困った顔をした。
「そんな俗っぽい能力でいいのですか? もっと強い魔法を撃ちたいとか、剣術スキルとかありますよ?」
「魔王とか危険なモンスターとかって、いないんでしょ? だったら戦闘系とかは、死にスキル化しますよ」
ボクは、飢えないスキルがいい。
「ひょっとして、ないんですか?」
「ありますよ。ちなみに、【缶ビールを無限に出せる】スキルとかもありますが」
「ボク下戸なんで」
あと、ビールをおいしく飲むために、サウナガマンしていた部長がぶっ倒れたという話を聞いた。
以来、酒は飲まないって決めている。
「……手をかざして、瓶のコーヒー牛乳をイメージなさって」
言われたとおりにすると、瓶のコーヒー牛乳がポンと出てきた。
「うわっ。本当に出てきた!」
なお、飲み終わったらゴミは勝手に消えるという。
ボクは、もう二本召還して、シズクちゃんと女神さまに提供した。
「では、よろしくおねがいします。かんぱーい」
「か、かんぱーい」
最初は渋々といった感じで、シズクちゃんは瓶に口を付ける。
だが、おいしいとわかると一気にグイッと飲み干した。
「わたしも、要求を出していいですか?」
「なんですか、シズク」
「もう一本!」
シズクちゃんが、腕で口を拭く。
「うふふ、シズクもあなたが気に入ったみたいですわ。では、成果を期待しますね」
女神さまは、去って行った。
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