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第一章 秘湯マニア、異世界へ飛ぶ
秘湯ハンター 誕生
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ボクは、街へ戻るルートを目指し、シズクちゃんの後を歩く。
得物であるトカゲを肩に担ぎながら、シズクちゃんはトボトボと前へ進んだ。
「持とうか?」
「いえ結構です。おそらく、人間の手では運べませんから」
「ホントは、あなたのようなヘンタイを相手はしないのですが、仕方なくですよ仕方なく」
「はいはい」
現在、シズクちゃんはチャイナドレスのような一枚布の衣装に着替えている。スリットの深く入った大胆な服装は、武闘家の普段着だそう。
シズクちゃんは獣人族で、【ヴォーパルバニー】という種族らしい。『不思議の国のアリス』に出てくるウサギも、彼女のような種族がベースなんだとか。
「街が見えてきました」
やはり、現代日本に比べると高い建物が少ない。
田舎町よりやや規模が小さいような。
それでも過疎っているほどでもなく、ちゃんとした施設は立派だ。
教会の隣にある石組みの建築物を、シズクちゃんが指す。
「あの大きな建物が、冒険者ギルドです。参りましょう」
ズルズルとトカゲを引きずりながら、シズクちゃんはボクを連れてギルドへ。獲物を、地面にドンと下ろし、「ごめんくださーい」と、受付へ呼びかける。
係員たちが、ゾロゾロと建物からから出てきた。
「ご依頼のあった、危険度Bの魔物を仕留めてきました」
「承知しました!」
ギルドの職員さんたちが、シズクちゃんから荷物を引き受ける。
「お見事! さすがヴォーパルバニーですね!」
電卓らしき携帯端末を弾き、女性受付嬢がシズクちゃんと値段交渉した。
ヴォーパルバニー族は相当に強い格闘種族らしく、ギルドの反応もいい。
「それでいいです。お願いします」
「毎度ありがとうございます。ところで、あなたは?」
カウンターまで移動しながら、受付嬢がボクに質問してきた。
「カズユキと言います。レンジャー希望の冒険者です」
ボクを見つめると、受付嬢が怪訝な顔をした。
下の名前だけ告げる。
ファーストネームを持っていると、上流階級に見られるかもと。シズクちゃんも、ファーストネームがないみたいだし。
「なるほど、レンジャーですか。民間人相当の戦力に見えますが」
「民間人ですよ、ボクは」
「レンジャー職となると、ある程度の知識が必要になりますが」
「嗅覚には自信がありますね」
疑いの目を持つ受付嬢が、鉄板を用意する。
画面のないノートPCのような形状だ。
「では、こちらに手を置いてください。あなたのステータスが数値化されますので」
なんか、ゲームのキャラメイクみたいだな。
モノは試しだ。鉄板に、手を添えてみる。
「わわっ、なんだ!?」
ボクのカバンから、ノートPCがひとりでに飛び出す。
カウンターにコンと着地した。その拍子に、ノートが開く。
画面が勝手に動作し、女神さまのどアップが。
「なんだこれ? あの、みなさん?」
「どういうことですか?」
なぜか、ボクとシズクちゃん以外は、時間が止まったみたいに動かない。
「秘湯レンジャーの正式登録は、ここでやっちゃいましょう」
説明によると、ボクのノートPCは、こちらでも動かせる。
ボクの魔力があれば、作動は永久に問題ないという。
「ただし、防水加工はしていません。お風呂の中で書こうなんて、思わないように!」
Wi-Fiがないので、ネットは使えない。
でも、ボクが記事を書けば、ギルドにレポートが届くという。
そのように手配してくれるそうだ。
「ギルドに魔法の水晶玉を、設置してもらいます」
「水晶玉なんてどこに?」
女神さまが、外にある怪物の目を指さす。あれを使うのか。
「あの魔物は食用と素材なのですが、ついでですよ」
受付嬢には女神さまから、ボクが転移者だとちゃんと説明してくれるそうだ。
「もうひとつは、肌着です」
独特のジャストフィット感が、ボクの身体に張り付く。
ピッタリとボディに密着する水着を装着させてもらった。
ほぼ肌着同然だ。
「温泉に入る際は、全裸ではなくて結構です。いちいち全て脱がなくてもOKですよ」
必要最低限の温度調整効果もあるらしい。
最悪この肌着だけで、だいたいどこの世界もそれなりに過ごせるという。
ただし、熱中症や心臓の冷えを守ってくれる程度で、それ以上の環境だと死ぬとのこと。
「ボクは、全裸でも構わないんだけど?」
「役所に突き出されければ、どうぞー」
たしかに、初対面時のシズクちゃんみたいなリアクションされたらイヤだな。
この水着は、普段使いとしても一枚で無限に使用できる優れものだという。
ようするに、着替えなくてもいいのだ。
その上、蒸れもない。
完全に身体の一部となっている。
「ちなみに、シズクの装備にも同じ処置を施していまーす」
だから、服ごと温泉につけてもすぐに乾いたのか。
「以上です。あとはギルドの方々に引き継ぎますねー」
女神さまが消えると、また時間が戻った。
「なるほど! 女神に召還された、転移者さんでしたか! ならば、このステータスも納得できます」
ボクは、できたての冒険者カードを見せてもらう。
体力や魔力などの数値が、天井知らずだった。
おそらく、どんなことがあっても死なないだろう。
コーヒー牛乳を無限に出せる能力があるから、飢え死にもしない。
ただ、戦闘力は壊滅的だ。
道具は使えるが、剣や弓などの武器はロクに扱えない。
採掘や採取スキルに極振りである。
完全にレンジャー職だ。
「詩人や踊り子でさえも、護身用の戦闘力はあるんですが」
「まあ、戦闘は仕方ないか」
温泉を見つけることだけに、ボクの力は特化している。
色んな意味で、チートだな。
「戦闘はお任せを」
「おねがいします、シズクさん」
最後に、受付嬢からカードの説明を受ける。
「賃金などは、このカードに直接振り込まれるので、ご安心を」
精算だけカード払いとか、こんな場面だけSFっぽいね。
得物であるトカゲを肩に担ぎながら、シズクちゃんはトボトボと前へ進んだ。
「持とうか?」
「いえ結構です。おそらく、人間の手では運べませんから」
「ホントは、あなたのようなヘンタイを相手はしないのですが、仕方なくですよ仕方なく」
「はいはい」
現在、シズクちゃんはチャイナドレスのような一枚布の衣装に着替えている。スリットの深く入った大胆な服装は、武闘家の普段着だそう。
シズクちゃんは獣人族で、【ヴォーパルバニー】という種族らしい。『不思議の国のアリス』に出てくるウサギも、彼女のような種族がベースなんだとか。
「街が見えてきました」
やはり、現代日本に比べると高い建物が少ない。
田舎町よりやや規模が小さいような。
それでも過疎っているほどでもなく、ちゃんとした施設は立派だ。
教会の隣にある石組みの建築物を、シズクちゃんが指す。
「あの大きな建物が、冒険者ギルドです。参りましょう」
ズルズルとトカゲを引きずりながら、シズクちゃんはボクを連れてギルドへ。獲物を、地面にドンと下ろし、「ごめんくださーい」と、受付へ呼びかける。
係員たちが、ゾロゾロと建物からから出てきた。
「ご依頼のあった、危険度Bの魔物を仕留めてきました」
「承知しました!」
ギルドの職員さんたちが、シズクちゃんから荷物を引き受ける。
「お見事! さすがヴォーパルバニーですね!」
電卓らしき携帯端末を弾き、女性受付嬢がシズクちゃんと値段交渉した。
ヴォーパルバニー族は相当に強い格闘種族らしく、ギルドの反応もいい。
「それでいいです。お願いします」
「毎度ありがとうございます。ところで、あなたは?」
カウンターまで移動しながら、受付嬢がボクに質問してきた。
「カズユキと言います。レンジャー希望の冒険者です」
ボクを見つめると、受付嬢が怪訝な顔をした。
下の名前だけ告げる。
ファーストネームを持っていると、上流階級に見られるかもと。シズクちゃんも、ファーストネームがないみたいだし。
「なるほど、レンジャーですか。民間人相当の戦力に見えますが」
「民間人ですよ、ボクは」
「レンジャー職となると、ある程度の知識が必要になりますが」
「嗅覚には自信がありますね」
疑いの目を持つ受付嬢が、鉄板を用意する。
画面のないノートPCのような形状だ。
「では、こちらに手を置いてください。あなたのステータスが数値化されますので」
なんか、ゲームのキャラメイクみたいだな。
モノは試しだ。鉄板に、手を添えてみる。
「わわっ、なんだ!?」
ボクのカバンから、ノートPCがひとりでに飛び出す。
カウンターにコンと着地した。その拍子に、ノートが開く。
画面が勝手に動作し、女神さまのどアップが。
「なんだこれ? あの、みなさん?」
「どういうことですか?」
なぜか、ボクとシズクちゃん以外は、時間が止まったみたいに動かない。
「秘湯レンジャーの正式登録は、ここでやっちゃいましょう」
説明によると、ボクのノートPCは、こちらでも動かせる。
ボクの魔力があれば、作動は永久に問題ないという。
「ただし、防水加工はしていません。お風呂の中で書こうなんて、思わないように!」
Wi-Fiがないので、ネットは使えない。
でも、ボクが記事を書けば、ギルドにレポートが届くという。
そのように手配してくれるそうだ。
「ギルドに魔法の水晶玉を、設置してもらいます」
「水晶玉なんてどこに?」
女神さまが、外にある怪物の目を指さす。あれを使うのか。
「あの魔物は食用と素材なのですが、ついでですよ」
受付嬢には女神さまから、ボクが転移者だとちゃんと説明してくれるそうだ。
「もうひとつは、肌着です」
独特のジャストフィット感が、ボクの身体に張り付く。
ピッタリとボディに密着する水着を装着させてもらった。
ほぼ肌着同然だ。
「温泉に入る際は、全裸ではなくて結構です。いちいち全て脱がなくてもOKですよ」
必要最低限の温度調整効果もあるらしい。
最悪この肌着だけで、だいたいどこの世界もそれなりに過ごせるという。
ただし、熱中症や心臓の冷えを守ってくれる程度で、それ以上の環境だと死ぬとのこと。
「ボクは、全裸でも構わないんだけど?」
「役所に突き出されければ、どうぞー」
たしかに、初対面時のシズクちゃんみたいなリアクションされたらイヤだな。
この水着は、普段使いとしても一枚で無限に使用できる優れものだという。
ようするに、着替えなくてもいいのだ。
その上、蒸れもない。
完全に身体の一部となっている。
「ちなみに、シズクの装備にも同じ処置を施していまーす」
だから、服ごと温泉につけてもすぐに乾いたのか。
「以上です。あとはギルドの方々に引き継ぎますねー」
女神さまが消えると、また時間が戻った。
「なるほど! 女神に召還された、転移者さんでしたか! ならば、このステータスも納得できます」
ボクは、できたての冒険者カードを見せてもらう。
体力や魔力などの数値が、天井知らずだった。
おそらく、どんなことがあっても死なないだろう。
コーヒー牛乳を無限に出せる能力があるから、飢え死にもしない。
ただ、戦闘力は壊滅的だ。
道具は使えるが、剣や弓などの武器はロクに扱えない。
採掘や採取スキルに極振りである。
完全にレンジャー職だ。
「詩人や踊り子でさえも、護身用の戦闘力はあるんですが」
「まあ、戦闘は仕方ないか」
温泉を見つけることだけに、ボクの力は特化している。
色んな意味で、チートだな。
「戦闘はお任せを」
「おねがいします、シズクさん」
最後に、受付嬢からカードの説明を受ける。
「賃金などは、このカードに直接振り込まれるので、ご安心を」
精算だけカード払いとか、こんな場面だけSFっぽいね。
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