4 / 49
第一章 秘湯マニア、異世界へ飛ぶ
秘湯ハンター 初仕事
しおりを挟む
もう夜も遅いので、宿屋で食事になった。
昼間は迷惑を掛けたから、ボクがごちそうする。
といっても、さっきシズクちゃんが捕らえた怪物のステーキなんだけど。
「女神さまに振り回されて、あなたはちっとも驚かないのですね?」
切らずにステーキをかじりながら、シズクちゃんが聞いてきた。ワイルドだなぁ。
「仕事があるだけマシだよ。それにさ、異世界の温泉なんて興味深いネタを、ライバルに独占されたくないね」
「仕事人間ですね」
「いや、趣味人だよ」
ボクの温泉探しは、あくまでも自分のためだ。
それでも結果的に人の役に立つなら、喜んで引き受ける。
「変人と言うことですね。わかりました。変人と言えど恩人です。よろしくカズユキさん」
「おねがいします、シズクちゃん」
それぞれ自室に戻る。もちろん、部屋は別々だ。
「今日はお風呂は? 部屋にも風呂釜はありますが?」
部屋にあるのは、いわゆるゴエモン風呂である。
「シャワーで済ませるよ。お楽しみは明日に取っておきたいから」
ボクは明日の快適タイムに備え、シャワーで汚れを落とすに留めた。
翌朝、ボクは初仕事を開始する。
場所は、昨日見つけた森の温泉だ。
「元来た道に戻るとは。さては、逃げ出したくなりましたか?」
道案内をするシズクさんから、辛辣な言葉が。
「違うんだ。ちゃんと調べていなかったから」
先日は、ボクが秘湯ハンターになる手続きだけで一日が終わってしまった。
ちゃんとリサーチしないとね!
「あっ、ここだ」
見つけた。緑色のホカホカした液体が流れる水たまりを。
「さっそく、源泉を見つけよう。どうやってこの色になるんだ?」
原因はすぐにわかった。
「これか。樹だ!」
温泉の正体は、樹液である。
古くから生えていそうな大木から、樹液が漏れ出していた。
岩場から溢れた源泉と、この森の樹液が混ざったのだ。
それで、回復効果を持つ泉になったと。
「この樹木は、世界樹の一つと言われていて、誰も立ち入らなくなったことで神秘性が増したようですね」
「なるほど。妖力を持ったと。入って、大丈夫だったのかな?」
「今さら何を言っていますか。あなたが無事だったんですから、大丈夫なのでは?」
それもそうか。
「じゃあ、入って」
「私がですか?」
「うん。動画撮るから」
スマホを構えながら、ボクは告げる。
報告の方法は、これでいいらしい。
ボクが入って解説してもよかった。
けれど、絵面的に女性の方がいいだろう。
「そうやって記録するのですね。わかりました」
シズクちゃんが、チャイナドレスもどきの衣装を脱ぐ。
また、レオタード姿に。
「あと、このプラカードを持ってくださいね」
ボクはシズクちゃんに、木製の看板を持たせる。
「なんか、落ち着きません」
「そのうち慣れるから。ボクもキミを悪く扱ったりしない」
シズクちゃんが入浴している間に、文面を書き終えた。
PCを温泉の側に置き、スマホを防水用の透明な袋に詰める。
これも女神様のプレゼントだ。
「さて」と、ボクも服を脱ぐ。
「ひっ!」
昨日と同じように、シズクちゃんが後ずさる。
「ボクも入りたいんだよ」
「一人でお入りになったらいいじゃないですか」
「それじゃあ、リサーチにならないよ。それに、いやらしいことは興味ないんだ。温泉に失礼だしね」
「私に失礼とは、思わないのですね?」
ボディラインを隠すように、シズクちゃんは身体をくねらせた。
「ボクは別に。その辺の石だと思ってくれたらいいから」
「そうは言いますが! もう!」
看板で、シズクちゃんが顔を隠す。
「カンペは、このPCで流すから、その文章を読んでね。もっと顔を見せて」
「はーい」
肩まで浸かって、シズクちゃんが看板を掲げた。
「はいじゃあ、いきますよシズクちゃん! よーい、スタート!」
スマホを構えて、録画を開始!
『温泉冒険者のシズクでーす。今日は、ユングルドアラの【迷いの森】にある、岩風呂に来ています。この地はかつて、エルフの森だったんですけど、魔族との戦争で焼けちゃったんですね。で、エルフがよその森に移転しちゃって、捨てられた土地なんですよ』
放置された世界樹から養分が溢れ出し、この岩場にたまったという。
『温度は……四〇度弱ですね。ぬるめですが、長く浸かっているとあったまります。気持ちいいですね。効能は、主にケガの治療です。さすが世界樹です! 以上、シズクでした!』
「はいオッケーッ! いやあ、ホントに初めてなの?」
なんか、プロっぽかった。
「私の仕事は、主にガイドなんですよ! 道案内の仕事がメインでして!」
褒められたのがうれしいのか、シズクちゃんが饒舌になる。
「あっ……コホン。とまあ、私に掛かればレポートなんて朝飯前なのです!」
「すごいよ、シズクちゃん! 僕のパートナーになってくれてありがとう!」
「ど、どういたしまして!」
ダンジョンから戻って一夜明けると、ギルドが朝から満員になっていた。
何事かと思っていると、PCがひとりでに動き出す。またしても、女神さまをどアップで映し出した。
『お見事です、カズユキさま! カズユキさまの記事、大評判ですよ! これでこの森も安全に探索できるでしょう!』
女神さまから、太鼓判を押される。
こうして、ボクの初仕事は大成功に終わった。
やり遂げた後のコーヒー牛乳も、また格別だ。
昼間は迷惑を掛けたから、ボクがごちそうする。
といっても、さっきシズクちゃんが捕らえた怪物のステーキなんだけど。
「女神さまに振り回されて、あなたはちっとも驚かないのですね?」
切らずにステーキをかじりながら、シズクちゃんが聞いてきた。ワイルドだなぁ。
「仕事があるだけマシだよ。それにさ、異世界の温泉なんて興味深いネタを、ライバルに独占されたくないね」
「仕事人間ですね」
「いや、趣味人だよ」
ボクの温泉探しは、あくまでも自分のためだ。
それでも結果的に人の役に立つなら、喜んで引き受ける。
「変人と言うことですね。わかりました。変人と言えど恩人です。よろしくカズユキさん」
「おねがいします、シズクちゃん」
それぞれ自室に戻る。もちろん、部屋は別々だ。
「今日はお風呂は? 部屋にも風呂釜はありますが?」
部屋にあるのは、いわゆるゴエモン風呂である。
「シャワーで済ませるよ。お楽しみは明日に取っておきたいから」
ボクは明日の快適タイムに備え、シャワーで汚れを落とすに留めた。
翌朝、ボクは初仕事を開始する。
場所は、昨日見つけた森の温泉だ。
「元来た道に戻るとは。さては、逃げ出したくなりましたか?」
道案内をするシズクさんから、辛辣な言葉が。
「違うんだ。ちゃんと調べていなかったから」
先日は、ボクが秘湯ハンターになる手続きだけで一日が終わってしまった。
ちゃんとリサーチしないとね!
「あっ、ここだ」
見つけた。緑色のホカホカした液体が流れる水たまりを。
「さっそく、源泉を見つけよう。どうやってこの色になるんだ?」
原因はすぐにわかった。
「これか。樹だ!」
温泉の正体は、樹液である。
古くから生えていそうな大木から、樹液が漏れ出していた。
岩場から溢れた源泉と、この森の樹液が混ざったのだ。
それで、回復効果を持つ泉になったと。
「この樹木は、世界樹の一つと言われていて、誰も立ち入らなくなったことで神秘性が増したようですね」
「なるほど。妖力を持ったと。入って、大丈夫だったのかな?」
「今さら何を言っていますか。あなたが無事だったんですから、大丈夫なのでは?」
それもそうか。
「じゃあ、入って」
「私がですか?」
「うん。動画撮るから」
スマホを構えながら、ボクは告げる。
報告の方法は、これでいいらしい。
ボクが入って解説してもよかった。
けれど、絵面的に女性の方がいいだろう。
「そうやって記録するのですね。わかりました」
シズクちゃんが、チャイナドレスもどきの衣装を脱ぐ。
また、レオタード姿に。
「あと、このプラカードを持ってくださいね」
ボクはシズクちゃんに、木製の看板を持たせる。
「なんか、落ち着きません」
「そのうち慣れるから。ボクもキミを悪く扱ったりしない」
シズクちゃんが入浴している間に、文面を書き終えた。
PCを温泉の側に置き、スマホを防水用の透明な袋に詰める。
これも女神様のプレゼントだ。
「さて」と、ボクも服を脱ぐ。
「ひっ!」
昨日と同じように、シズクちゃんが後ずさる。
「ボクも入りたいんだよ」
「一人でお入りになったらいいじゃないですか」
「それじゃあ、リサーチにならないよ。それに、いやらしいことは興味ないんだ。温泉に失礼だしね」
「私に失礼とは、思わないのですね?」
ボディラインを隠すように、シズクちゃんは身体をくねらせた。
「ボクは別に。その辺の石だと思ってくれたらいいから」
「そうは言いますが! もう!」
看板で、シズクちゃんが顔を隠す。
「カンペは、このPCで流すから、その文章を読んでね。もっと顔を見せて」
「はーい」
肩まで浸かって、シズクちゃんが看板を掲げた。
「はいじゃあ、いきますよシズクちゃん! よーい、スタート!」
スマホを構えて、録画を開始!
『温泉冒険者のシズクでーす。今日は、ユングルドアラの【迷いの森】にある、岩風呂に来ています。この地はかつて、エルフの森だったんですけど、魔族との戦争で焼けちゃったんですね。で、エルフがよその森に移転しちゃって、捨てられた土地なんですよ』
放置された世界樹から養分が溢れ出し、この岩場にたまったという。
『温度は……四〇度弱ですね。ぬるめですが、長く浸かっているとあったまります。気持ちいいですね。効能は、主にケガの治療です。さすが世界樹です! 以上、シズクでした!』
「はいオッケーッ! いやあ、ホントに初めてなの?」
なんか、プロっぽかった。
「私の仕事は、主にガイドなんですよ! 道案内の仕事がメインでして!」
褒められたのがうれしいのか、シズクちゃんが饒舌になる。
「あっ……コホン。とまあ、私に掛かればレポートなんて朝飯前なのです!」
「すごいよ、シズクちゃん! 僕のパートナーになってくれてありがとう!」
「ど、どういたしまして!」
ダンジョンから戻って一夜明けると、ギルドが朝から満員になっていた。
何事かと思っていると、PCがひとりでに動き出す。またしても、女神さまをどアップで映し出した。
『お見事です、カズユキさま! カズユキさまの記事、大評判ですよ! これでこの森も安全に探索できるでしょう!』
女神さまから、太鼓判を押される。
こうして、ボクの初仕事は大成功に終わった。
やり遂げた後のコーヒー牛乳も、また格別だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる