異世界ダンジョン秘湯巡り。バニーガールと共に ~宝箱には目もくれず、回復の泉だけ求める男(ヘンタイ)~

椎名 富比路

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第二章 宝箱? そんなものより まず風呂だ! 

ノー秘湯、ノーライフ

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 エリクサーって実在するんだなぁ。
 
 ゲームで聞いたことがある名前だ。

 たしか、体力を完全回復してくれる魔法の薬だっけ。

「貴重すぎてな。見つけて以来一度も使っていない」

 リアルな世界でも、こんな「もったいない精神」があるなんて。ちょっと面白いね。

 休憩を終えて、支度をする。 

「いいお湯でしたね、カズユキさん。とはいえ、こんなもんじゃないでしょうね」
「もちろんだ。先に進もう」

 ここまで来て足湯だけ、ってことはないだろう。
 もっとすごい温泉がある!

「カズユキ、聞いていいかしら? ヴォーパルバニー族なんて、どうやって仲間にしたの?」
 シャンパさんが、ボクに聞いてきた。

 獣人族の中でも、ヴォーパルバニーはとりわけ警戒心が強いのだとか。道案内などはすれど、人間とパーティを組むことはめったにないという。

「命令ですよ。ボクを雇った女神様の指示で、付き添ってもらっているんです」
 できるだけ詳しく、ボクはシャンパさんに事情を話す。

「へえ。わざわざこの地に転移させるなんて、相当あなたの腕を見込んだのね。で、ウサギちゃんの意志はなくて?」

「そーですねぇ」
 少し考え込んで、シズクちゃんは続けた。
「カズユキさんは、命の恩人ですから」
 苦笑いを混ぜながら、シズクちゃんは答える。

「ああ、なるほど。惚れちゃったのね?」

「ちちち違います! 誰がこんな温泉ヘンタイなんて!?」
 身体を震わせて、シズクちゃんは全面拒絶した。

「強がるところなんて、ますます怪しいわねぇ」
「だから違いますって! ああもう邪魔ぁ!」

 視界に入ったスケルトンの頭を、シズクちゃんは蹴飛ばす。

「また、エリクサーをドロップしたわ」
 シャンパさんが、ゲットしたエリクサーをアイテムボックスへ。

「静かに。どうやら終点らしいぜ」

 先頭で剣を構えるオケアノスの、口角がつり上がっていた。

 その場所は財宝で溢れ、金貨が山になっている。宝物庫だ。

「なんですか、あのガイコツは?」

 恐竜の化石ほどに大きいガイコツが、ゴツゴツした玉座に鎮座している。その体格は、巨人族を思わせた。

不死の王ノーライフ・キングか。この地を守る守護者のようだな」

 古代人のミイラが、瘴気を吸って巨大化したのではないか、とのこと。

「あの玉座の裏にあるのは、隠し扉だわ」

 玉座の後ろが、光輝いている。
 財宝の山が、玉座の中に眠っているらしい。

「こっちに気づいたぞ!」
「どうして? 物音も立てていないのに」

 シャンパさんの問いかけに、オケアノスさんが地面を指すだけで応えた。大量の動物型モンスターが、剣の餌食になっている。

「生きているだけで、俺たちは感知されちまうんだ! こっちに来るぞ!」

 不死の王が立ち上がった。巨大な剣を振り下ろす。

「隠れててください! カズユキさん!」

 信じられない高さに、シズクちゃんが跳躍した。さすがウサギ族である。

 シズクちゃんがいた場所に、剣の先がめり込んだ。

「まだ来るぞ!」

 オケアノスさんの警告を聞いて、シズクちゃんも動く。
 横に払われたガイコツの剣をバク転でかわした。
 異常な反応速度だ。

 ガイコツの剣が、突きへと軌道を変える。

 剣の上で逆立ちになり、シズクちゃんはブレイクダンスのような蹴りを放つ。格ゲーでしか見たことのない、アクロバティックな技である。

「ラビットフット!」
 
 シズクちゃんの足がめり込み、ガイコツの首が吹っ飛んだ。

 サッカーボールのように、首が壁へ激突する。
 首のないガイコツ剣士は、無軌道に剣を振り回して暴れ回った。

 熟練の冒険者も、舌を巻いている。

「よし、勝てるぞ! エンチャントを」
「任せて!」
 シャンパさんが、オケアノスさんの剣に炎魔法を付与する。

 赤く燃焼する剣を振るい、オケアノスさんがガイコツにトドメを刺す。

 あれだけ巨大だったガイコツの王が、あっさりと灰になった。

「よっしゃ。お宝をいただいて帰ろうぜ」

 二人は、玉座裏にある宝物庫へと向かう。

「待ってください、近づくのは危険です!」

 シズクちゃんが止めに入ったが、冒険者二人は止まらない。
 ウカツに玉座へと踏み込んでしまった。

 玉座の表面に、大量の文字列が並んでいる。

 その文字らが、怪しく紫に輝いた。

 冒険者たちが、急に膝をつく。

「くそ、トラップか!」
「本体は玉座だったのね!」

 二人とも、床に倒れ込む。

「だから言ったのに!」
「シズクちゃん、敵の正体がわかったの?」
「我々ヴォーパルバニー族は、幻覚の類いは見破れるので。霧も安全に抜けられたでしょ?」

 ボクたちが玉座だと思っていたのは、墓標だったのである。
 おそらく描かれているのは、この場所にやって来た犠牲者の名前だろう。
 巨大なスケルトンを撃退して意気揚々と宝物庫へ向かう彼らを、この墓へと導くために。

「このままだと、玉座に魂を食われます!」
「墓標を壊そう! 何か道具は……」

 ボクは、宝の山から一つのアイテムを発見する。
 瓶に入ったソレは、神秘的な力を秘めていた。

 でもこの瓶は、オケアノスさんのアイテムボックスから転がってきたっけ。

 待てよ。相手はスケルトンの上位互換だ。
 となれば、ポーションなどの聖水系でも倒せるはずだ。
 ならば。

「そうか、これだ! くらえっ!」

 呪われた玉座に、ボクは黄金に輝く液体を、瓶ごと放り投げる。

 瓶が割れて、中身が墓標に飛び散った。

 わずかだけど、呪いが霧散する。

「すごいじゃないですか、カズユキさん!」

 ボクの肩をバシバシと叩く。

「ところでカズユキさん、なにを投げたので?」 
「エリクサーだよ。オケアノスさんのボックスから拝借した」

 ノーライフキングがなんだ。
 だったらボクは、「秘湯王ノー秘湯、ノーライフ」だ!
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