25 / 49
第五章 天空露天風呂を目指して 前編 精霊塔の打たせ湯
精霊塔の打たせ湯
しおりを挟む
「水だって?」
この塔には、水が大量に流れている。打たせ湯ができるほどに。
「たとえば、間欠泉みたいな感じで打ち上げて、ドーンって。で、放物線を描いて、城に到着する、なんてのは?」
言いながら、自分でも無茶だなと思った。
「着地の瞬間、俺たちは潰れるなぁ」
オケアノスさんも、ボクの推理に苦笑いを浮かべる。
ですよねー。
「ですが、収穫はありますよ」
ボクは、滝フロアの脇に回復の泉を見つけた。
ちょうど滝の真下に位置して、勢いも岩山で弱まっている。どうやって沸かしたのかはわからないが、温かい。
「カズユキさん、こんなときは」
「だね、お風呂に限る」
ボクたちは、せっかくできた温泉に浸かる。
『こんばんはーみなさん。今日はですねー、リロケンの塔に来ております。ご覧ください。タワーに滝が流れていますよ。壮大な大瀑布を見ながらお風呂! 最高ですね。おっと、打たせ湯もあるみたいですよ』
湯に入りながら、シズクちゃんがプラカードを担ぐ。
「プロッスね」
「ああ。プロだよ」
オルタが驚き、オケアノスさんが感心する。
とはいえ、久々の風呂だ。ボクも便乗することに。
「いやあ、気持ちいい。飛沫がホコリを取り払ってくれるみたいだ」
マイナスイオンの根拠は、まだ科学的にちゃんと解明されていない。でも、そんなことがどうでもよくなるくらい、滝の側にある泉は癒やしをもたらしてくれる。
「あれは、打たせ湯か!」
岩に遮られたスペースで、ちょうどいい量の水が流れていた。これはまるで、打たせ湯ではないか。
「シズクちゃん、行ってみよう!」
『あっ、はーい』
ボクはシズクちゃんの手を取って、滝の近くにある打たせ湯へ。
「うわー。まさか異世界に来て、打たせ湯に巡り会えるとは」
お湯を当てて、肩をほぐす。
『ふわああ。この刺激がちょうどいいですねぇ』
シズクちゃんは、頭からお湯を当てる。心地よさそうに目を細めていた。まるで温泉地のカピバラだ。
「たしかに、こいつはいい!」
「行水タイプのアンタにピッタリね、オケアノス」
「まったくだ。実にいい!」
オケアノスさんはついでに、身体までこする。
シャンパさんは、背中にまんべんなく湯を当てて、腰までじっくり清めていた。
「おっ、なんか楽しそうッスね!」
この状況を見過ごすオルタではないか。
「打たせ湯を浴びてみるッス!」
まるで修行僧のように、オルタは滝行を始めた。
ふんにゃかふんにゃかと、何かを唱えている。こっちの世界のお経かな?
え、ちょっとヤバいのでは!?
「カズユキさん、オルタちゃんを止めないと!」
先にシズクちゃんが気づく。
「待って! そのタイプのビキニじゃ、トップが落ちちゃうんじゃ?」
「ヱ……」
気づいたときには、遅かった。大事なトップ部分が、滝に流されてしまう。
「にょわああああああ!」
トップ部分が露わになってしまい、慌てたオルタがしゃがみ込んだ。
その拍子に、岩場へとお尻から転倒した。
「あたたぁ」
ヒップをさすりながら、オルタは滝から離れる。
「ビキニのトップはっと……おっ、こんな所にあったッス」
木の枝のような棒きれに、えび茶色のビキニが引っかかっていた。
オルタはトップを掴み、自分の元へ引き寄せる。
ガコン! と妙な音がした。
気のせいか、ダンジョン全体が揺れた気がする。
「いやあ。ヒドい目に遭ったッス」
滝の側に浮かんでいたトップを掴んで、オルタはいそいそと風呂から脱出した。
「あれ、滝が止まった?」
「そういえば、何か杖のようなモノを倒した感じがしたッスね」
木の枝だと思っていた長細い棒が、全貌を現す。
どう見ても、レバーだった。ボクの世界でよく見る作業レバーだ。
「待ってください。塔が……」
ズズズという不吉な音が、塔内に響き渡る。
日の光が、塔に直接差し込んだ。それも、下側から。
「塔が傾いている!」
「違う折れ始めたぞ!」
兵士や冒険者たちが、パニックに陥った。
しかし、塔は容赦なく傾度を増す。
「落ち着いてください! 冷静に動けば、危機はありません!」
傾いているだけで、人を押しつぶすような気配はない。
急いで服を取り、塔の倒壊から逃れようと走る。
心なしか、床の滑りもよくなっているような。滝の水が、地面を這っているのだ! 水が川のように流れ出す。
行き先を見ると、天空の城が目の前に。
「待てよ。行けるかも知れません!」
「なんだと!?」
「このまま滑っていけば!」
これこそ、天空の城へ行く道だったのかもしれない。
「オルタ、ナイスです!」
ボクは、オルタにサムズアップを決める。
「どこがッスか? あたし、何かやらかしちゃったんじゃないッスか?」
「いいえ。グッジョブです!」
荷物を抱えて、ボクは天空の城を目指す。
「川の流れに沿って。抵抗しないでくださいね!」
「本当にこれで合ってるんだよな!」
「合ってなかったら、おだぶつです!」
「フォローになってねえエエエエッ!」
絶叫と共に、オケアノスさんが川の流れに飲まれていった。
しかし、ボクに恐怖はない。
ボクの予想が正しければ、これで空の島へたどり着けるはずだ。
(後編へつづく)
この塔には、水が大量に流れている。打たせ湯ができるほどに。
「たとえば、間欠泉みたいな感じで打ち上げて、ドーンって。で、放物線を描いて、城に到着する、なんてのは?」
言いながら、自分でも無茶だなと思った。
「着地の瞬間、俺たちは潰れるなぁ」
オケアノスさんも、ボクの推理に苦笑いを浮かべる。
ですよねー。
「ですが、収穫はありますよ」
ボクは、滝フロアの脇に回復の泉を見つけた。
ちょうど滝の真下に位置して、勢いも岩山で弱まっている。どうやって沸かしたのかはわからないが、温かい。
「カズユキさん、こんなときは」
「だね、お風呂に限る」
ボクたちは、せっかくできた温泉に浸かる。
『こんばんはーみなさん。今日はですねー、リロケンの塔に来ております。ご覧ください。タワーに滝が流れていますよ。壮大な大瀑布を見ながらお風呂! 最高ですね。おっと、打たせ湯もあるみたいですよ』
湯に入りながら、シズクちゃんがプラカードを担ぐ。
「プロッスね」
「ああ。プロだよ」
オルタが驚き、オケアノスさんが感心する。
とはいえ、久々の風呂だ。ボクも便乗することに。
「いやあ、気持ちいい。飛沫がホコリを取り払ってくれるみたいだ」
マイナスイオンの根拠は、まだ科学的にちゃんと解明されていない。でも、そんなことがどうでもよくなるくらい、滝の側にある泉は癒やしをもたらしてくれる。
「あれは、打たせ湯か!」
岩に遮られたスペースで、ちょうどいい量の水が流れていた。これはまるで、打たせ湯ではないか。
「シズクちゃん、行ってみよう!」
『あっ、はーい』
ボクはシズクちゃんの手を取って、滝の近くにある打たせ湯へ。
「うわー。まさか異世界に来て、打たせ湯に巡り会えるとは」
お湯を当てて、肩をほぐす。
『ふわああ。この刺激がちょうどいいですねぇ』
シズクちゃんは、頭からお湯を当てる。心地よさそうに目を細めていた。まるで温泉地のカピバラだ。
「たしかに、こいつはいい!」
「行水タイプのアンタにピッタリね、オケアノス」
「まったくだ。実にいい!」
オケアノスさんはついでに、身体までこする。
シャンパさんは、背中にまんべんなく湯を当てて、腰までじっくり清めていた。
「おっ、なんか楽しそうッスね!」
この状況を見過ごすオルタではないか。
「打たせ湯を浴びてみるッス!」
まるで修行僧のように、オルタは滝行を始めた。
ふんにゃかふんにゃかと、何かを唱えている。こっちの世界のお経かな?
え、ちょっとヤバいのでは!?
「カズユキさん、オルタちゃんを止めないと!」
先にシズクちゃんが気づく。
「待って! そのタイプのビキニじゃ、トップが落ちちゃうんじゃ?」
「ヱ……」
気づいたときには、遅かった。大事なトップ部分が、滝に流されてしまう。
「にょわああああああ!」
トップ部分が露わになってしまい、慌てたオルタがしゃがみ込んだ。
その拍子に、岩場へとお尻から転倒した。
「あたたぁ」
ヒップをさすりながら、オルタは滝から離れる。
「ビキニのトップはっと……おっ、こんな所にあったッス」
木の枝のような棒きれに、えび茶色のビキニが引っかかっていた。
オルタはトップを掴み、自分の元へ引き寄せる。
ガコン! と妙な音がした。
気のせいか、ダンジョン全体が揺れた気がする。
「いやあ。ヒドい目に遭ったッス」
滝の側に浮かんでいたトップを掴んで、オルタはいそいそと風呂から脱出した。
「あれ、滝が止まった?」
「そういえば、何か杖のようなモノを倒した感じがしたッスね」
木の枝だと思っていた長細い棒が、全貌を現す。
どう見ても、レバーだった。ボクの世界でよく見る作業レバーだ。
「待ってください。塔が……」
ズズズという不吉な音が、塔内に響き渡る。
日の光が、塔に直接差し込んだ。それも、下側から。
「塔が傾いている!」
「違う折れ始めたぞ!」
兵士や冒険者たちが、パニックに陥った。
しかし、塔は容赦なく傾度を増す。
「落ち着いてください! 冷静に動けば、危機はありません!」
傾いているだけで、人を押しつぶすような気配はない。
急いで服を取り、塔の倒壊から逃れようと走る。
心なしか、床の滑りもよくなっているような。滝の水が、地面を這っているのだ! 水が川のように流れ出す。
行き先を見ると、天空の城が目の前に。
「待てよ。行けるかも知れません!」
「なんだと!?」
「このまま滑っていけば!」
これこそ、天空の城へ行く道だったのかもしれない。
「オルタ、ナイスです!」
ボクは、オルタにサムズアップを決める。
「どこがッスか? あたし、何かやらかしちゃったんじゃないッスか?」
「いいえ。グッジョブです!」
荷物を抱えて、ボクは天空の城を目指す。
「川の流れに沿って。抵抗しないでくださいね!」
「本当にこれで合ってるんだよな!」
「合ってなかったら、おだぶつです!」
「フォローになってねえエエエエッ!」
絶叫と共に、オケアノスさんが川の流れに飲まれていった。
しかし、ボクに恐怖はない。
ボクの予想が正しければ、これで空の島へたどり着けるはずだ。
(後編へつづく)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる