オカルト刑事《デカ》 ~スラッシャーと化したヘラギャル VS 百人の退魔師~

椎名 富比路

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第一章 オカルト刑事《デカ》と、女スラッシャー

七和《ナナワ》署 オカルト課

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 女性だけを狙う【スラッシャー】、「長爪のフレンジー」を追って、オレは全力疾走している。

 逃げてもムダだ。道路に落ちている被害者の血でわかるんだよ!

 スラッシャーが、通行中の女性に爪を伸ばした。あいつは、女性しか襲わない。男が来ても、逃げるだけだ。ヤツのエネルギー源は、女性の血液なのである。

 左肩を撃ったので、左腕はマヒしているはずだ。しかし、まだ生きている。

 視界に突然グロいクリーチャーが現れ、女性が悲鳴を上げた。

 いかんいかん。それだけで、ヤツにとって極上のごちそうなのだ。スラッシャーは悲鳴と苦痛と血をエサにしている。

 女の悲鳴を聞くだけで、奴らはどれだけ弱っていようが元気一〇〇倍になっちまうのだ。

「させるか!」

 オレは手に持っているのは拳銃で、スラッシャーの爪を弾く。

 どうにか、攻撃は免れたようである。

 弾丸が、女性の手の甲をかすめた。しかし、女性は痒がるだけで、なんの外傷もない。

 これは人間相手には無害なのだ。スラッシャーにしか、攻撃は通じない。

「失礼!」

 オレは被害女性に声をかけて、スラッシャーの追跡を再開する。

 スラッシャーとは、異界から来た殺人鬼どものことだ。映画なんかに出てくる、殺人鬼系のクリーチャーを想像してもらえるとわかりやすいだろう。だが、そいつらの居場所は映画の世界だけではない。現実に密かに存在し、殺人を繰り返す。

 そんな奴らを倒すのが、オレらオカルト課だ。

 アイツは、女性だけを殺して生きながらえているスラッシャーである。やつに殺された女性は、一〇人では効かない。被害者には、幼い子供まで混じっている。さる筋の情報から、ようやくヤツの居所を掴んだ。

「待ちやがれ!」

 ヤロウの背中が見えてきた。

 ポニーテールの女性が、スラッシャーに向かって歩いているのが見える。パンツスーツで、遠くから見てもいい女だとわかった。女性の姿が、街灯に照らされる。銀色の髪だ。

「おい、危ねえぞ!」

 オレは女性に向かって叫ぶ。

 ヤバイ、また女性を狙ってやがる。スラッシャーめ。

 あのスラッシャーは手頃な女性を襲って殺し、実体化エネルギーにする。

 ほとんどのスラッシャーは、人間を殺害して生体エネルギーを吸って実体化する能力を持つ。きっとあいつも。ましてヤツは今、負傷している。適当に殺人を行って、回復する気だ。

 たた傷を癒やすためだけに、空腹を満たすためだけに、奴らは殺しを繰り返す。

 危険だ。あのまま歩いていたら、あの女性は間違いなく殺される。

「離れろって!」

 案の定、長爪が女性に向けて腕を伸ばす。

 血に濡れた長い爪が、さらに伸びた。ナイフサイズの爪が、鉄パイプほどの長さに変わる。「やるしかねえ」

 オレは足を止めた。銃を構え、長爪の背中に照準を合わせる。

 こんなクリーチャー共を倒すためにO府警が開発したのが、この銀製銃だ。人に当てても問題はないが、銃を構えられたら不愉快だろう。

 しかし、銀髪の女性はオレなんか意に介さない。それどころか、クリーチャーさえ見えていない様子だった。

 クリーチャーが大きくのけぞった。女性に飛びかかり、殺害の体勢に入る。

「やべええ、間に合わねえ!」

 オレは、引き金を引こうとした。


 ドン! と鈍い音が鳴る。


 黒い手袋をした腕が、スラッシャーのアゴを打ち抜いた。

 のけぞった体勢のまま、クリーチャーは道路へと吹っ飛ぶ。

 パンチを繰り出したのは、銀髪の女性だった。拳の裏で殴ったのか。

「あれは、ロシアンフック……」

 足を大きく広げて腰ではなく肩をひねり、手の甲側で打つタイプのパンチだ。

「撃って」

 女性が、声を発する。

 オレに言われたと気づくのに、数秒を要した。

「早くっ」

 女性の声に促され、オレは発砲した。

 長爪のスラッシャーが消滅していく。

「おケガは、ありませんか?」
「ああ。なんとかな。あんたこそ無事か?」

 あれだけの強いスラッシャーをぶん殴ったんだ。無事では済むまい。

「問題ありません。専門家なので」
「なにもんなんだ、あんたは?」

 一応、オレは警察手帳を見せる。

「オカルト課の青嶋アオシマ 薫流カオルさんですか」

 オレは生まれつき、異界からの存在が見える体質を持つ。その腕を買われて、オカルト課のエースとして働いている。

「お噂はかねがね。課長と二人だけの超常現象専門の部署だとか」
「厄介払いだよ」

 オレは舌打ちをした。

 どうもオレは超常的な問題が絡むコトが多く、出世からも外れている。

「これまでに倒したスラッシャーは、八体。どれも大物だとか。見事な働きぶりだと思いますよ」
「そりゃどうも。ったく」
「申し遅れました。わたしはこういうものです」

 銀髪の女性が、オレに名刺を渡した。

「……輝咲キザキ 緋奈子ヒナコだぁ!? あんたがウワサの、【オカルト探偵】か!?」

 オカルト課の創設に深く関わっている機関の、トップエージェントじゃないか。通称、「オカルト探偵」だ。

 オレの持っている白銀銃を作ったのも、この機関だと言うが。

「たしか機関って、ロシアに本部があるんだよな? なんで日本になんか」
「日本に大物のスラッシャーが現れたと聞き、海外から帰ってきました。ボスのところまで、案内していただけますか?」
「わかりましたよ。どうぞ、輝咲さん」

 パトカーまで案内し、助手席を開けた。

「緋奈子とお呼びください」
「……じゃあ緋奈子、乗れよ」
「ダー」

 緋奈子は、ロシア語で「はい」と答える。


 O府警管轄、七和ナナワ市警察署に、オレはパトカーを駐めた。

「いやあ、久しぶりだね輝咲くん」
「お久しぶりです、千石《センゴク》さん」

 まるで顔見知りかのように、七和署の署長にあいさつをした。

「千石署長……この探偵と知り合いだったのかよ」

 オレの直属上司は、あろうことか署長である。

 O府警は設立以来、【オカルト課】という部署を極秘裏に設置していた。

「妻と同級生だった。もっとも、輝咲くんはすぐにロシアへ発ったけど」

 ってことは、輝咲 緋奈子は二六歳か。
 オレの方が二つ年上だな。ちなみに署長は五一歳だ。

 オカルト系のサークルに、千石署長の奥さんと一緒に所属していたという。

「機関と関わりを持って、この部署の装備も用意してもらっている」
「そのせいで、ウチは『ナナワのゴーストバスターズ』とか言われていますけどね!」

 現代社会にスラッシャー犯罪が起きないのは、オレたちオカルト課が関わっているからに他ならない。上司部下がいないので気楽だし給料もいいが、出世はまず不可能である。

 中でも七和署は、日本でもっとも装備が充実しているらしい。

 オカルト課に嫌がらせが起きないのも、署長の手腕のおかげだ。

「で、探偵さんが署長にあいさつってことは?」
「実は、彼女にはお前と一緒に住んでもらうことになった」
「はあ、ちょっと待たんかい!」

 いきなりのムチャ振りに、思わず地元の訛りが出てしまう。

「ムチャ言うなや! なんでオレが女と一緒に住まなあかんねん!?」
「聞けよ。ウチは三世帯で部屋も狭い。おまけに、息子はまだ六つだ。そこにこんな胸のデカい未婚のロシア人ハーフがステイしてみろ。性癖が歪んで、普通の女の子じゃ満足できなくなっちゃうぞ」

 緋奈子の方も、「ダー」とか言っている。なにが「ダー」やねん。

「キミはアラサーなのに、二次元にしか興味がない。聞けば、部屋が大きすぎて持て余してるそうじゃないか」
「それは、等身大フィギュアを置く予て……っ!」

 しまった。自分の性癖を晒してしまったではないか。

「二.五次元に興味があるとか。キミも隅に置けないね」
「ダー」

 なにが「ダー」やねん。

「それより、例の案件ですか?」
「ああ。退魔師ばかり襲う、連続殺人だよ」
「退魔師ばかり襲う……」

 オレは、眉をひそめた。

「どうしました?」
「オレのオヤジもオカルト課だったんだがな、任務中に殺された。スラッシャーにな」

 そいつは、まだ退治されていない。
 いつか必ず、そのスラッシャーはオレの手で殺す。

「緋奈子くんの滞在期間は一週間だ。そのうちにケリをつけろ」
「了解です。でも手続きとか、色々あるでしょ? 今日のところはホテルに泊まってもらって」
「心配ないよ。もう荷物は、キミの部屋に運んであるから」
「なんやて!?」

 三〇を手前にして、未婚の女を家に連れ込むことになるとは!
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