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第三章 退魔師の中でも、ぶっちぎりでやべーやつ ~あいつ、あたしより病んでるじゃん~

JK VS 老婆

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 高速道路を舞台に、キリちゃすは苦戦を強いられていた。
 老婆と侮っていたが、この三人は強い。

「クケケエッケケケ!」

 おさげの老婆が車を念力で飛ばしながら撹乱する。

「なんなん? 野蛮人!」
『違う。ガラスを撒き散らしているのだ! 目を塞げ!』

 こちらの視界を奪うつもりだ。人が乗っていようがお構いなし。

「逃がさへん!」

 二人目のグラサンが、緑色で半球状の結界を張って逃げ道を塞ぐ。

「むううん。我が息子の仇、取らせてもらいまっせ」

 実質的な攻撃役は一人だ。黒白オッドアイの老女……。

「昨日の坊主と似てる」
『こやつら、元老院だ。【斗弥生ケヤキ】、モノノケヤキの本部、比叡山からの刺客……本物の退魔師っ!』

 片目が「喝ッ」と発勁をした。数珠を巻いた腕で、殴りかかってくる。

 後ろに逃げようとしたが、真後ろから飛んできたミニバンとモロにぶつかった。

「ぐっふ!」

 ボディに、強烈な一撃をもらう。
 ミニバンごと、キリちゃすは吹っ飛んだ。

「お返し」

 反撃としてキリちゃすも、武器を展開した。
 チェーンソー型のローラーブレードを履く。
 相手の首筋に向けて、蹴りを繰り出した。

「おーこわっ」

 片目の老婆は、紙一重で攻撃をかわす。

 目を守りながら戦うのは、やはり不利か。

「だったら」

 ハンドガンをリュックから出して、発砲した。

 しかし、念力で飛んできた観光バスに阻まれる。

 おさげは次々と車をぶつけ、運転手までこちらに飛ばしてくる。後先や責任など考えない、キリちゃすを殺すための戦闘マシーンとなっていた。

 さすがにスラッシャーと言えど、無敵ではない。死ににくいだけで、強い力に圧倒されれば死ぬのだ。

 あのバカ息子を相手に、ここまでするのか。

 撤退しようにも、あの結界をどうにかせねば。

「ギャハハ! 逃がさへんっていうて……ペげええ!?」

 結界を担当しているグラサンの、首が折れた。

 たちまち、結界が晴れる。

 視界に映ったのは、オンロードバイクに乗ったJKの姿だった。ウイリーで跳躍しながら鎖のついた鉄球を振り回し、老婆に攻撃をしている。

「なんや!?」

 老婆たちの動きが一瞬止まった。

 そのスキに、片目に攻撃を加える。

 片目は腕でキックを塞いだが、チェーンソーによって片腕を失う。

「ぎゃあああ!」

 さらに首をはねようとしたが、かわされた。なんという身体能力か。

「乗って!」

 着地したJKが、こちらを誘ってくる。

 一旦退くか。こちらの目的は、天鐘テンショウだ。
 刺客なんぞに用はない。

 キリちゃすは、ローラーブレードでダッシュした。
 バイクの後部座席にまたがる。

 彼女が敵か味方かは、わからない。とはいえ、今は敵意がなさそうだ。

「待たんかい!」

 念力使いが、トラックをバイクへぶつけてくる。

 モーニングスターを振り回し、JKはトラックを弾き飛ばした。

「うわっと!?」

 跳ね返ってきたトラックに、念力老婆はぶつかりそうになる。

 片目が飛び蹴りで、トラックを崖に突き落とした。

「やっば」
「待って」

 JKに指示を出し、キリちゃすは一旦Uターンをしてもらう。
 魔王の腕を伸ばし、結界使いの死体を包み込んだ。
 老婆を食いながら、再び発進を促す。
 ちぎれていた魔王の腕が、再生する。

「ねえ、キリちゃすでいいんだよね?」

 JKが、キリちゃすに呼びかけてきた。途中、念力使いが飛ばしてくるセダンやワゴンを回避しながら。

「あんたは?」
「キリちゃすのファン」

 一般人のファンにしては、人殺しに慣れている。彼女も、弥生の月か退魔師の類だろう。

 アクセルを全開にして、JKはバイクをかっ飛ばす。変則的な運転を多用しながら、高速道路をかいくぐる。

「名前は?」
「あおば。弥生の月からは、『泉州モーニングスター』とかだっさいあだ名で呼ばれてる」

 二つ名を持つとは、相当に腕の立つ退魔師なのかも。

「なんで助けたん? あたしら敵じゃん」
「スラッシャーは敵だけど、キリちゃすは別」

 どんな姿になっても、キリちゃすを殺そうとは思えなかったと語る。

「キチちゃす殺して師匠超えも考えたけど、やっぱやめた。キリちゃすが苦戦してるの見るとさ、ここで殺すのはフェアじゃないって思った」

 どうせ倒すなら、もっと邪魔がない場所がいいと。

「どこへ連れて行く気?」
「ひとまず逃げる感じ。天鐘テンショウの居場所までは、さすがにわかんなくってさ」
「どうしてここが?」
「弥生の月のデータベースに忍び込んだ」

 機関の情報統制部に、入り込んだという。

「どうやって」
「JKとヤリたいってヤツは、弥生の月にもいるから」

 悪い大人を騙し、情報をゲットしたそうだ。もちろん貞操は守りつつ。

 警察に、キリちゃすに手を貸している魔王の正体までは明かした。

「なんでそんなことを?」
「警察に、本当の悪は弥生の月だってわかってもらうため」

 調べた上で、わかったことらしい。

 キリちゃすを調べれば調べるほど、彼女は巻き込まれただけだったという事実ばかり。

「でもさ、魔王適性はあんたの方が上だった。ピとかいう人より」
「ピの悪口を言わないで」
「ごめん。でもさ、引き返すなら今だよ? 警察に頼んだら、キリちゃすと魔王を引き剥がせるかも」

 キリちゃすは、背後にいる魔王を意識した。

「……あたしは、もう戻れない」

 今のキリちゃすは、魔王と完全に融合してしまっている。

 こいつが何をしたのか、何をしてきたのかもわかってしまった。

 だが魔王との別れは、ピとの決別を意味する。

「そんなに、彼氏って大事なんだ」
「うん。ピは、暗闇だったあたしの光だったから」

 出会う前から、ピはキリちゃすを見守ってくれていた。
 今ならわかる。
 ピは、キリちゃすにとって不快な存在をすべて食付してくれいてたのだ。
 魔王を介して。

 自分は何も返せずに、ピは死んでしまった。
 交際期間数ヶ月というのに、ピは短い生涯を終えている。
 病院では治らないからと、早期退院した。
「最後の夜だから」と、ピと一晩中愛し合って、ピはキリちゃすの腕の中で死んだのである。

 警察の助けも借りられない。
 
 だってコイツは、過去に警察を手にかけている。

「天鐘の居所が知りたいんだよね?」

 JKは、キリちゃすに作戦を語った。

「危険じゃん!」
「でも、こうするしかない」

 たしかに、JKの言うとおりだ。とはいえ、リスクが高すぎる。

『キリちゃす、後ろだ!』

 魔王の言葉に、キリちゃすは振り返った。

 オッドアイの老婆が、駆け足でバイクに追いついてきたではないか。
 しかも、足はただの草履である。なんの加速機能もない。
 走ってくるだけで、バイクと並走しているのだ。

「一〇〇キロババアか、っての!」
「任せて!」

 片手でグリップを握りつつ、JKあおばはモーニングスターを振り回す。

 老婆は鉄球を、サッカーボールのように蹴り返してきた。草履のまま。

 返ってきた鉄球が、エンジンに向かってくる。

 かろうじて直撃は避けたものの、JKはバランスを崩す。

 防音壁に乗り上げ、バイクが横転した。

 JKもキリちゃすも、アスファルトを削りながら転倒する。

 倒れたキリちゃすに、片腕のオッドアイ老婆が迫った。

「逃げて!」とJKは盾になる。

 ドンと、腹を殴られ、JKはうずくまった。

「にげてぇ!」

 魔王の腕を展開し、バイクを引き寄せる。

 JKも、と考えたが、念力ババアに阻まれた。

「ぜえぜえ、待ってえなリーダー。ウチは、アンタと違って普通の体力やねんから」

 さすがに、これ以上の念力は出せないようだ。

「ねえ魔王、考えがある」
『心得た。なんなりとするがよい』

 キリちゃすは、魔王の足をもぎ取る。
 ぬいぐるみの足を、JKの側まで転がす。

「いざとなったら、それを食べて」

 JKは、キリちゃすの言葉に反応した。老婆たちに悟られないように制服のポケットに魔王の足を仕舞う。

 少女の無事を確認し、キリちゃすは逃亡を図った。

 再び、片目が追跡しようとしたが、JKのモーニングスターに足首を取られる。

 JKは念力で無理やり立たされ、かけつけた工作員らによって連行されていった。
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