オカルト刑事《デカ》 ~スラッシャーと化したヘラギャル VS 百人の退魔師~

椎名 富比路

文字の大きさ
23 / 33
第三章 退魔師の中でも、ぶっちぎりでやべーやつ ~あいつ、あたしより病んでるじゃん~

日和ってんすか!?

しおりを挟む
「なんだか最近は、『弥生の月』でも分裂が起きているみたいで、重要な情報がこちらにも送られてくるようになりましたね」

 福本フクモトが、オレに捜査用のタブレットを見せる。

斗弥生ケヤキ 聖奈セイナは悪いウワサしかなくって。青嶋アオシマ先輩は、SEINAって知ってます?」

 バカにしたような聞き方を、福本がした。

「あのなあ、福本。オレだってそいつがアーティストだってことくらい知ってるさ」
「でも、『キリちゃすのスキャンダル』で知った口ですよね?」
「……まあな」

 オレと福本が話していると、緋奈子ヒナコが首をかしげる。

「カオル、SEINAってなんですか?」

 そっか、こいつはロシアにいたから、日本のアーティストに疎いんだった。

「SEINAはかつて、ミュージシャンだった。自称だけどな」

 母親は本物のチェロ奏者で歌手だったが、実力は母親の足元にも及ばない。それでも、ネットではそこそこ活躍していた。

「あいつがタレコミの張本人だって、話題になったっけか」
「でもあれって、キリちゃすの登場で再生数が伸びなくなったってんで、スキャンダルを撒き散らしたとか」

 その騒動で、SEINAは表舞台から姿を消す。

「たしかに、あの騒動は仕組まれたものだって、ウワサが流れたよな?」

 ネット情報の受け売り程度では流れていた。しかし、『弥生の月』のメンバーから直接聞けたそうだ。

「聖奈がキリちゃすを追い込んで、同時に消えたと」
「仲介のフリをしてけしかけたのは、茶々号チャチャゴーこと笹塚《ササヅカ》 史那フミナだっていうよな?」

 先日、キリちゃすに殺された女性だ。

「あれも、聖奈にやらされたんじゃないかって」
「ひでえな」
「そんなこともあって、『弥生の月』は斗弥生への忠誠心って最悪に近いんですよ。今は秘書……っつ―か、若頭の堂本ドウモト派が大半らしくって」
「若頭って、ヤクザかよ?」
「実態はそんなもんなので」

 福本は悪びれない。

 複数の警察官が、ドタドタと廊下を走る。交通課だ。

 署内の大画面テレビで、報道番組が流れていた。

 高速道路で、キリちゃすと【弥生の月】が暴れているらしい。

 騒動は終わったみたいだが、死傷者多数と報道されていた。罪もない人が多数犠牲になったと。

 現場へ向かわないと。

「待った。キミたちは、名塚ナヅカ ヨウの素性を調べてくれ」

 千石センゴクさんから、意外な指示を受ける。

「と、いいますと?」
「キリちゃすの彼氏の氏名が名塚 燿だとはわかったが、実態が知れていない。彼がどこから来て、何をしている人物だったのかわかれば、キリちゃすにもたどり着くんじゃないかな」

 そんなことを調べて、何になるんだ?

「オレらは、現場に行く必要がないんですか?」
「管轄外なんだよ。県境だしねぇ。それに行っても、消防・救急の邪魔になるだけだよ」

 どうも、千石さんの態度がおかしい。

「日和ってんすか!? オレだって警察ですよ!」
「わかってんだよ。そんなことは!」

 千石さんが、声を荒らげる。

「ただ、青嶋くんたちにもしものことがあったら、誰もキリちゃすを止められない。オヤジさんの墓に顔向けもできん」
「千石さんが気に病むことじゃねえよ」

 自分の身は、自分で守れるんだ。その力をくれたのは、間違いなく千石さんである。

「オレは、千石さんに恩は返しきれませんよ。感謝してます」
「あ、ああ。ありがとう」

 顔をそらしつつ、千石さんは何度もうなずいた。

「だが、キリちゃすを倒せるのは、おそらくキミたちだけだ。それを忘れないでくれ」
「オレには、あいつを倒す自信がありませんよ」

 キリちゃすを止めるのは、正直骨が折れる。
 この間戦って、キリちゃすの実力は思い知った。
 破片を倒すだけでも、あそこまで苦戦した。本体を倒せるのか?

「それでも、オレは人が死んでいくのを見過ごせない」

 画面の中で逃げ惑う人を見ながら、オレは拳を固めた。

「ああ、その気持ちを捨てなければ、キミはずっと警察官としてやっていける」
「ありがとうございます」
「だから、今は堪えるんだ。他の仕事にあたってくれ」

 千石さんが、元のトーンに戻る。

「……それが、魔王とどういう関係があると?」
「大アリだ。魔王の弱点がわかるかも」

 魔王の?

「関係あるかどうかわからないんですが」

 福本が、またタブレットを開く。 

「聖奈は一一年前、『奇跡を起こす』とかいって、とんでもない事故を起こしたそうです」

 ネットの噂程度の情報ですが、と福本は前置きした。

「一一年前っていったら、オレのオヤジが死んだ年じゃねえか!」

 オレは、千石さんと顔を見合わせる。

 オヤジは昔、大型のスラッシャーと相打ちになったという。
 白銀の銃を握ったまま、干からびた姿で霊安室に横たわっていた。

 その姿を、オレは一生忘れることはできない。

 そこから、千石さんによる地獄の特訓に耐え、学業と鍛錬の日々が始まった。
 千石さんのシゴキに比べたら、厳しいと評判の警察学校も楽勝だったのを覚えている。

「福本くん、まさかあの事故は、聖奈の仕業だったのかい?」
「ボクは当時まだ警察じゃなかったので、わかりません。実態も、自衛隊やその他機関から揉み消されたようです」

 同時に聖奈の名前も、『弥生の月』のリストから消えたが。

「そんな権限を使ってまで事件の真相を抹消しようっていうんだから、聖奈が仕組んだ可能性は高いね」

 とはいえ、魔王が一一年前に復活したとなると。

「キミの仇は、魔王ということになるね」
「当時のスラッシャーが何者かってのまでは、千石さんもわからないんですよね?」
「真っ黒い影のようなスラッシャーだとしか。あれから一一年も経っているからね」

 千石さんでも、オヤジを殺したスラッシャーと魔王は結びつく手がかりを持っていなかった。

「ワタシがロシアへ呼び出されたのも、魔王が絡んでいると思われます。おそらく、海外へ逃亡されられていたのでは?」
「ありえるな。だから、情報が何も入ってこなかったと」

 
 とにかく、腹になにか入れてから動くか。
 おそらく、最後の食事になるかもしれない。


 オレたちは、いきつけの青梅オウメ食堂へ。

「いらっしゃいませ! なんや、カオルちゃんやん!」

 店に入ると、エプロンをつけた弓月ユヅキちゃんが朗らかな笑顔を見せる。

「おっ。弓月ちゃん、昼からいるのか?」
「臨時休業やねん。クラスメイトが一人、亡くなってんて」

 弓月ちゃんのクラスにいたギャル連中の一人が、バスの下敷きになったらしい。

「ひどい事件だな」

 確かに、ウチに捜査本部も置かれていた。

 ラーメンをすすりながら、オレは写真を眺める。

「あれ、この人、チャン・シドンやんか」

 オレの手から、弓月ちゃんが写真をひったくった。

「誰だよそれ?」
「韓流のスターやで。もう二〇年以上前に、俳優してはったわ」

 兵役に出て、事故死したという。たった三年の役者人生だった。

「『調子どう? チャン・シドン!』って、栄養ドリンクのCMもあってんて」
「よく知ってるな?」
「オカンが韓流ドラマのマニアやねん。このテレビもやあ、韓流の再放送ばっかり流すねん」

 弓月ちゃんが、テレビをつける。 

「カオル、ピという人物をあたりましょう」

 緋奈子ヒナコまで、千石さんの意見に賛同した。

「どうしたんだ? こういう地味な作業には興味ないと思っていたぜ」
「たしかに、何も進展がなさそうに思えます。人間を一人探したところで、どうなることでもないでしょう。普通の人間なら」
「何がいいたいんだ?」
「……彼は、名塚 燿は、人工的に作られたのかもしれません」

 突然、弓月ちゃんがお盆を落とした。

 例の高速道路で置きた、事故の特番が流れている。

 女子高生の写真が写っていた。事件の関係者らしい。

「あおばちゃんや……」

 弓月ちゃんがつぶやく。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...