おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

文字の大きさ
6 / 47
第三章 国王、ソロキャンでギターを教わる

第6話 カレーの国王サマ

しおりを挟む
 焚き火を見ながら、少女は黙り込んでいる。

「ここでカレーを作ろうと思ってるんだが、いいか?」

「どうぞ」

「じゃあ、遠慮なく」

 少女の脇で、焚き火を熾す。

 まずは、雑に玉ねぎを炒めておく。ただ、アメ色になるまでなんて待てない。ちょうどいい感じの色目になったら、火から放す。

 あとは、ヨロイを改造した燻製器で、ソーセージを炙る。

 ヨロイは未使用のため、衛生面もバチリだ。

「うまそ」

「いいだろ? オレはローガンだ」

 適当に、偽名を名乗る。

「マティナ」

「あんた、マティナっていうのか。ところであんた、演奏できるか?」

 マティナの持つアコギらしき物体に、オレは視線を送った。

 察したようで、マティナもコクリとうなずく。

「それなりには、でも」

「詳しい話は聞かん。ちょっと頼まれてほしい」

「なにを?」

「ソノ楽器を教えてくれ」

 オレも、アイテムボックスからアコギを出した。

「お礼に、マティナ。あんたにカレーをご馳走しよう」
 
「それなら」

「決まりだな」

 幸い、四人前くらい用意してある。オレがおかわりしても、まだ足りるくらいだな。

 さて、そうと決まれば調理開始だ。

「ローガン。ごちそうしてくれるなら、手伝うよ」
 
「手は貸さなくていい。オレに作らせてくれ」
 
 調理器具と野菜を、アイテムボックスから取り出す。

 何事も訓練である。一人である程度できなくては、な。いつまでも、部下に頼ってばかりではダメだ。

「そうだな。ただ……」

 オレは、マティナの焚き火を借りることにした。コメを炊くために。

「飯炊きくらいなら、どうぞ」

 マティナもこころよく、火を貸してくれた。

 ブシブシと、ゴロゴロになるように野菜を切っていく。やはり、お上品な食感ではダメだったな。これくらい野菜の食感が残っていなければ。

 さっき炒めた玉ねぎと共に、野菜を火にかける。

 ある程度炒めたら、水を入れてしばしの辛抱。

 コメも洗って、マティナの火に。
 
 その間に、ルーの調合をする。こんなのは適当でも、いい具合のルーになるから不思議だ。

 ヨロイ燻製ソーセージが、先にできあがった。

「どうぞ、マティナ。まずは腹に、なにかを詰めろ。どんだけさみしくてもな、食ってればなんとかなる」

 ためらうマティナに、オレはフォークに刺した燻製ソーセージを差し出した。

「ありがとう、ローガン。いただくよ」

 ソーセージの刺さったフォークを、マティナは受け取る。

 オレはお返しに、少女からレモンソーダをもらった。

「いいねえ」

「ノドを守るために、薬草茶やドリンクを常備しているんだよ」

 ホントならビールと行きたいところだが、それはそれ。カレーを食うんだ。酒を飲んだらそっちが勝ちになってしまう。

 ここは、マティナからの恩を、ありがたくいただく。

 ソーセージをかじると、パキッといい音がした。
 燻製の香ばしさが、鼻から抜けていく。

 ここで、レモンソーダを煽って、ノドを潤した。
 
「ああ、レモンソーダ、正解かも」

「でしょ?」
 
 これで酒だったら、もう止まらないところである。
 それでは、演奏するどころではない。
 オレは、アコギの練習をしに来たんだから。
 酒は酒。次回で楽しもう。
 
「うまい。生きててよかったって味がするなあ」
 
「すごい表現だね。でも、そのとおりかも」 
 
 話していると、カレーもできあがり。
 一旦火から放して、余熱でグツグツとおいしくなってもらう。

 マティナの火から、飯ごうを放す。

 飯ごうを裏返して、蒸らせばできあがりだ。

「いただきます」

 時短で作ったカレーのお味は、と。

「うーん。ちょうどいい辛さだな」
 
 雑に作ったのに、それなりの味だ。

 それにこの野菜、根菜。
 これ、王妃のニンジンキライを克服させられるんじゃねえか? ムリかな?
 最高にうまい。

 このカレーに、燻製ソーセージを、こうでしょ。

「ああ、間違いない」

「わたしもやってみよ」

 マティナも、オレをマネしてカレー・オンザ・燻製ソーセージを食らう。

 一瞬、時が止まった。

「違う世界に飛んでったよ」

「だろ? それくらいうまいよな」

「さいっこう」

 さっきまで泣いていた少女が、もう笑うしかなくなる。

 カレーを作ってよかった。

 コメの焦げ具合は、バリバリだ。なのに、めちゃ恋しい。この愛おしさ。雑味は人生。
 こういうのでいいんだよ、オレのカレーは。 

 四人分作ったのに、すぐに鍋は空になった。夜中の食欲って、ヤバいな。
 ごちそうさまでした。

「おいしい。こんなおいしいカレー、じいちゃんにも食わせてあげたかったな」

「亡くなったのか?」

「うん」
 
 どうもこの吟遊詩人は、パーティを解散したらしい。

「あたしのパーティは、冒険とかはせず、演奏だけをするグループだった」

 マティナはベテランチームの、末席を担っていたという。

 どうもマティナの話は、こちらの世界での話ではないな。マティナが本来いる世界の、出来事のようだ。

「けど、じいちゃんが歳だからって、やめちゃった」

 全員が高齢になったため、解散しようと言い出したそうな。

「最後のライブが、エモくってさー。それを思い出してたところ」

 しかしライブ終了直後に、メンバーの一人である祖父が倒れた。そのまま、帰らぬ人になったという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...