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第三章 国王、ソロキャンでギターを教わる
第6話 カレーの国王サマ
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焚き火を見ながら、少女は黙り込んでいる。
「ここでカレーを作ろうと思ってるんだが、いいか?」
「どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
少女の脇で、焚き火を熾す。
まずは、雑に玉ねぎを炒めておく。ただ、アメ色になるまでなんて待てない。ちょうどいい感じの色目になったら、火から放す。
あとは、ヨロイを改造した燻製器で、ソーセージを炙る。
ヨロイは未使用のため、衛生面もバチリだ。
「うまそ」
「いいだろ? オレはローガンだ」
適当に、偽名を名乗る。
「マティナ」
「あんた、マティナっていうのか。ところであんた、演奏できるか?」
マティナの持つアコギらしき物体に、オレは視線を送った。
察したようで、マティナもコクリとうなずく。
「それなりには、でも」
「詳しい話は聞かん。ちょっと頼まれてほしい」
「なにを?」
「ソノ楽器を教えてくれ」
オレも、アイテムボックスからアコギを出した。
「お礼に、マティナ。あんたにカレーをご馳走しよう」
「それなら」
「決まりだな」
幸い、四人前くらい用意してある。オレがおかわりしても、まだ足りるくらいだな。
さて、そうと決まれば調理開始だ。
「ローガン。ごちそうしてくれるなら、手伝うよ」
「手は貸さなくていい。オレに作らせてくれ」
調理器具と野菜を、アイテムボックスから取り出す。
何事も訓練である。一人である程度できなくては、な。いつまでも、部下に頼ってばかりではダメだ。
「そうだな。ただ……」
オレは、マティナの焚き火を借りることにした。コメを炊くために。
「飯炊きくらいなら、どうぞ」
マティナもこころよく、火を貸してくれた。
ブシブシと、ゴロゴロになるように野菜を切っていく。やはり、お上品な食感ではダメだったな。これくらい野菜の食感が残っていなければ。
さっき炒めた玉ねぎと共に、野菜を火にかける。
ある程度炒めたら、水を入れてしばしの辛抱。
コメも洗って、マティナの火に。
その間に、ルーの調合をする。こんなのは適当でも、いい具合のルーになるから不思議だ。
ヨロイ燻製ソーセージが、先にできあがった。
「どうぞ、マティナ。まずは腹に、なにかを詰めろ。どんだけさみしくてもな、食ってればなんとかなる」
ためらうマティナに、オレはフォークに刺した燻製ソーセージを差し出した。
「ありがとう、ローガン。いただくよ」
ソーセージの刺さったフォークを、マティナは受け取る。
オレはお返しに、少女からレモンソーダをもらった。
「いいねえ」
「ノドを守るために、薬草茶やドリンクを常備しているんだよ」
ホントならビールと行きたいところだが、それはそれ。カレーを食うんだ。酒を飲んだらそっちが勝ちになってしまう。
ここは、マティナからの恩を、ありがたくいただく。
ソーセージをかじると、パキッといい音がした。
燻製の香ばしさが、鼻から抜けていく。
ここで、レモンソーダを煽って、ノドを潤した。
「ああ、レモンソーダ、正解かも」
「でしょ?」
これで酒だったら、もう止まらないところである。
それでは、演奏するどころではない。
オレは、アコギの練習をしに来たんだから。
酒は酒。次回で楽しもう。
「うまい。生きててよかったって味がするなあ」
「すごい表現だね。でも、そのとおりかも」
話していると、カレーもできあがり。
一旦火から放して、余熱でグツグツとおいしくなってもらう。
マティナの火から、飯ごうを放す。
飯ごうを裏返して、蒸らせばできあがりだ。
「いただきます」
時短で作ったカレーのお味は、と。
「うーん。ちょうどいい辛さだな」
雑に作ったのに、それなりの味だ。
それにこの野菜、根菜。
これ、王妃のニンジンキライを克服させられるんじゃねえか? ムリかな?
最高にうまい。
このカレーに、燻製ソーセージを、こうでしょ。
「ああ、間違いない」
「わたしもやってみよ」
マティナも、オレをマネしてカレー・オンザ・燻製ソーセージを食らう。
一瞬、時が止まった。
「違う世界に飛んでったよ」
「だろ? それくらいうまいよな」
「さいっこう」
さっきまで泣いていた少女が、もう笑うしかなくなる。
カレーを作ってよかった。
コメの焦げ具合は、バリバリだ。なのに、めちゃ恋しい。この愛おしさ。雑味は人生。
こういうのでいいんだよ、オレのカレーは。
四人分作ったのに、すぐに鍋は空になった。夜中の食欲って、ヤバいな。
ごちそうさまでした。
「おいしい。こんなおいしいカレー、じいちゃんにも食わせてあげたかったな」
「亡くなったのか?」
「うん」
どうもこの吟遊詩人は、パーティを解散したらしい。
「あたしのパーティは、冒険とかはせず、演奏だけをするグループだった」
マティナはベテランチームの、末席を担っていたという。
どうもマティナの話は、こちらの世界での話ではないな。マティナが本来いる世界の、出来事のようだ。
「けど、じいちゃんが歳だからって、やめちゃった」
全員が高齢になったため、解散しようと言い出したそうな。
「最後のライブが、エモくってさー。それを思い出してたところ」
しかしライブ終了直後に、メンバーの一人である祖父が倒れた。そのまま、帰らぬ人になったという。
「ここでカレーを作ろうと思ってるんだが、いいか?」
「どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
少女の脇で、焚き火を熾す。
まずは、雑に玉ねぎを炒めておく。ただ、アメ色になるまでなんて待てない。ちょうどいい感じの色目になったら、火から放す。
あとは、ヨロイを改造した燻製器で、ソーセージを炙る。
ヨロイは未使用のため、衛生面もバチリだ。
「うまそ」
「いいだろ? オレはローガンだ」
適当に、偽名を名乗る。
「マティナ」
「あんた、マティナっていうのか。ところであんた、演奏できるか?」
マティナの持つアコギらしき物体に、オレは視線を送った。
察したようで、マティナもコクリとうなずく。
「それなりには、でも」
「詳しい話は聞かん。ちょっと頼まれてほしい」
「なにを?」
「ソノ楽器を教えてくれ」
オレも、アイテムボックスからアコギを出した。
「お礼に、マティナ。あんたにカレーをご馳走しよう」
「それなら」
「決まりだな」
幸い、四人前くらい用意してある。オレがおかわりしても、まだ足りるくらいだな。
さて、そうと決まれば調理開始だ。
「ローガン。ごちそうしてくれるなら、手伝うよ」
「手は貸さなくていい。オレに作らせてくれ」
調理器具と野菜を、アイテムボックスから取り出す。
何事も訓練である。一人である程度できなくては、な。いつまでも、部下に頼ってばかりではダメだ。
「そうだな。ただ……」
オレは、マティナの焚き火を借りることにした。コメを炊くために。
「飯炊きくらいなら、どうぞ」
マティナもこころよく、火を貸してくれた。
ブシブシと、ゴロゴロになるように野菜を切っていく。やはり、お上品な食感ではダメだったな。これくらい野菜の食感が残っていなければ。
さっき炒めた玉ねぎと共に、野菜を火にかける。
ある程度炒めたら、水を入れてしばしの辛抱。
コメも洗って、マティナの火に。
その間に、ルーの調合をする。こんなのは適当でも、いい具合のルーになるから不思議だ。
ヨロイ燻製ソーセージが、先にできあがった。
「どうぞ、マティナ。まずは腹に、なにかを詰めろ。どんだけさみしくてもな、食ってればなんとかなる」
ためらうマティナに、オレはフォークに刺した燻製ソーセージを差し出した。
「ありがとう、ローガン。いただくよ」
ソーセージの刺さったフォークを、マティナは受け取る。
オレはお返しに、少女からレモンソーダをもらった。
「いいねえ」
「ノドを守るために、薬草茶やドリンクを常備しているんだよ」
ホントならビールと行きたいところだが、それはそれ。カレーを食うんだ。酒を飲んだらそっちが勝ちになってしまう。
ここは、マティナからの恩を、ありがたくいただく。
ソーセージをかじると、パキッといい音がした。
燻製の香ばしさが、鼻から抜けていく。
ここで、レモンソーダを煽って、ノドを潤した。
「ああ、レモンソーダ、正解かも」
「でしょ?」
これで酒だったら、もう止まらないところである。
それでは、演奏するどころではない。
オレは、アコギの練習をしに来たんだから。
酒は酒。次回で楽しもう。
「うまい。生きててよかったって味がするなあ」
「すごい表現だね。でも、そのとおりかも」
話していると、カレーもできあがり。
一旦火から放して、余熱でグツグツとおいしくなってもらう。
マティナの火から、飯ごうを放す。
飯ごうを裏返して、蒸らせばできあがりだ。
「いただきます」
時短で作ったカレーのお味は、と。
「うーん。ちょうどいい辛さだな」
雑に作ったのに、それなりの味だ。
それにこの野菜、根菜。
これ、王妃のニンジンキライを克服させられるんじゃねえか? ムリかな?
最高にうまい。
このカレーに、燻製ソーセージを、こうでしょ。
「ああ、間違いない」
「わたしもやってみよ」
マティナも、オレをマネしてカレー・オンザ・燻製ソーセージを食らう。
一瞬、時が止まった。
「違う世界に飛んでったよ」
「だろ? それくらいうまいよな」
「さいっこう」
さっきまで泣いていた少女が、もう笑うしかなくなる。
カレーを作ってよかった。
コメの焦げ具合は、バリバリだ。なのに、めちゃ恋しい。この愛おしさ。雑味は人生。
こういうのでいいんだよ、オレのカレーは。
四人分作ったのに、すぐに鍋は空になった。夜中の食欲って、ヤバいな。
ごちそうさまでした。
「おいしい。こんなおいしいカレー、じいちゃんにも食わせてあげたかったな」
「亡くなったのか?」
「うん」
どうもこの吟遊詩人は、パーティを解散したらしい。
「あたしのパーティは、冒険とかはせず、演奏だけをするグループだった」
マティナはベテランチームの、末席を担っていたという。
どうもマティナの話は、こちらの世界での話ではないな。マティナが本来いる世界の、出来事のようだ。
「けど、じいちゃんが歳だからって、やめちゃった」
全員が高齢になったため、解散しようと言い出したそうな。
「最後のライブが、エモくってさー。それを思い出してたところ」
しかしライブ終了直後に、メンバーの一人である祖父が倒れた。そのまま、帰らぬ人になったという。
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