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第三章 国王、ソロキャンでギターを教わる
第7話 野良吟遊詩人から、ギターを習う国王
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「そこからわたしは、ギターを弾けなくなってさ」
「ギター?」
「あんたが持ってるそれ」
これ、ギターというのか。【アコギ】としか、認識していなかった。
「じいちゃんのお葬式も済ませて、いつか再起してやろうって思ってるんだけどさ。なかなか、そんな気にもなれなくて」
だから、こっちの世界でくすぶっていたのか。
ステージの上で死ねたなら、本望だろうとマティナは言った。
しかし、そう割り切れていたら、こっちの世界で癒やされようなんて思わない。
「そうか。ロスってのは、どうにも辛いよな」
オレも先代国王がよくできた人で、今でもプレッシャーがえげつない。
国王なんて、オレに務まんのか?
今だって、ビクビクしながら政治をしている。
「なあ、マティナ。お前さん、ムリしてねえか? じいさまの代わりになろうって」
「そうかな?」
「多分な」
オレは、マティナからの問いかけにうなずく。
「お前さんが一歩踏み込めねえのは、いきなりその元メンバーみたいな一流プレイヤーになろうとしているからだ」
オレだって、先代国王をマネてムチャをしたことがある。
しかし、ムリは続かねえ。メッキは、剥がれ落ちるものだ。
そのためオレは、先代の影を追うことをやめた。
自分なりに、キヤネン王国を守ることにしたのである。
結果的に、キヤネンは持ち直した。
まあ結果オーライなんだろうけど。
「ありがとう、ローガン。あんたの話を聞いて、ヤル気が戻ってきたよ」
「だったら、なによりだ」
「じゃあ、ギターを教えよう」
「よろしく頼む。孫にいい演奏を聴かせてやりてえんだよ」
「いいね。聴かせてあげられる相手がいるってのは、いいもんだろ?」
「ああ。上達したいって気分にさせてくれる」
「なにを聴かせるつもりなんだい?」
「これなんだけどな。実に難しい」
演奏したい譜面を、マティナに見せた。
「まじかよ、『お別れ・宣誓ション』!? かなり速い曲だよ?」
「孫が冒険者に教わってから、ずっと口ずさんでいてな」
オレも譜面を見てみたが、いかんせん楽譜が読めない。歌詞は覚えられたが。
「ええっと……まあ、がんばっていこうっ」
マティナに、ギターを教わった。
指の押さえ方や走らせ方など、基本的なことを習う。あとはひたすら、反復反復。
「ルールールー♪ 時が。時、が。と、き、が……」
くーっ。指が走らねえ。
「クセが付きそうなら直してやるから、とにかく数をこなしな」
「おう。やってみるさ」
「素人ながら、いい線いっていると思うよ」
「そうか? 吟遊詩人に言われたら、自信を持てるよ。ありがとう、マティナ」
「この曲は難しいから、まだまだ練習は必要だよ。ローガン」
「どこまでも、付き合うぞ。マティナ」
それ以降、オレは時間を見つけては、同じ場所でマティナからギターを教わることに。
マティナにキャンプメシをごちそうして、オレはギターを習う。
毎日【冒険の書】を使って、何度もマティナにギターを教えてもらった。
家に帰ってからも、コソ練である。
「国王、その指の動きは?」
「なんでもねえよ。それで、旅の記録を聞こうじゃないか」
やべえ。指の動きを練習しているのが、冒険者にバレそうになるとは。
そして、ようやく完全に演奏ができるようになった。
「やった」
「うーっ。やるじゃないか、ローガン。教え甲斐があったよ」
「ありがとうよ、マティナ」
「いやいや。タダでメシを食わせてもらうだけでも、こちらはありがたいさ」
「こいつを、孫に聴かせるのが、楽しみだ」
「あはは。じゃあ、あたしは旅に出るよ」
マティナは、立ち上がった。
「もういいのか?」
「いつまでも、モラトリアムに浸っているわけにはいかない。前に進まないとね」
マティナの笑顔は、どこか吹っ切れた様子に見える。
数日後、孫がまた王宮に遊びに来た。
オレはさっそく、マティナから習ったギターを披露する。
「おおお。すごいですね。父上。いつの間に練習をなさったんです?」
「実はコッソリとな」
「練習をなさりたいなら、私が楽団に掛け合いますのに」
「いやいや。ムリがある」
この曲は、冒険者発祥だからな。オレたちでは覚えることはできても、教えることはできない。身体に染み付いていないから。
「じい、すごーい」
「アハハ。ありがとうよ。お前さんがいたから、覚えることができた」
視野が広がって、いい経験になったよ。
ホントに、頭が上がらない。
「喜ばしいところ、残念ですが、もう時間です」
おや、もう冒険者が来る時間かぁ。
「じゃあ、じいは行ってくる」
「もっとアコギを聴かせて」
「そのうちな」
名残惜しい。しかし、仕事をしなければ。
さてさて、今日の冒険者は、っと。
「おっ?」
見覚えのある顔が、後ろに控えていた。
マティナだ。
吟遊詩人として、冒険者に復帰したようである。
こちらに気づいたのか、マティナもこちらにウインクをしてきた。
「あなた、あの方はどなたですの?」
オレを見ていた王妃の目が、険しくなる。
おいおい、オレたちは決して、不純な関係ではありませんことよ。奥様!
「いや、知り合いの知り合いだ」
「まあ! ウソは大概になさいませ!」
「ホントだっつーのっ」
冒険者を見送った後、オレは王妃を説得することで深夜の旅ができなかった。
まいったね、こりゃ。
(第三章 おしまい)
「ギター?」
「あんたが持ってるそれ」
これ、ギターというのか。【アコギ】としか、認識していなかった。
「じいちゃんのお葬式も済ませて、いつか再起してやろうって思ってるんだけどさ。なかなか、そんな気にもなれなくて」
だから、こっちの世界でくすぶっていたのか。
ステージの上で死ねたなら、本望だろうとマティナは言った。
しかし、そう割り切れていたら、こっちの世界で癒やされようなんて思わない。
「そうか。ロスってのは、どうにも辛いよな」
オレも先代国王がよくできた人で、今でもプレッシャーがえげつない。
国王なんて、オレに務まんのか?
今だって、ビクビクしながら政治をしている。
「なあ、マティナ。お前さん、ムリしてねえか? じいさまの代わりになろうって」
「そうかな?」
「多分な」
オレは、マティナからの問いかけにうなずく。
「お前さんが一歩踏み込めねえのは、いきなりその元メンバーみたいな一流プレイヤーになろうとしているからだ」
オレだって、先代国王をマネてムチャをしたことがある。
しかし、ムリは続かねえ。メッキは、剥がれ落ちるものだ。
そのためオレは、先代の影を追うことをやめた。
自分なりに、キヤネン王国を守ることにしたのである。
結果的に、キヤネンは持ち直した。
まあ結果オーライなんだろうけど。
「ありがとう、ローガン。あんたの話を聞いて、ヤル気が戻ってきたよ」
「だったら、なによりだ」
「じゃあ、ギターを教えよう」
「よろしく頼む。孫にいい演奏を聴かせてやりてえんだよ」
「いいね。聴かせてあげられる相手がいるってのは、いいもんだろ?」
「ああ。上達したいって気分にさせてくれる」
「なにを聴かせるつもりなんだい?」
「これなんだけどな。実に難しい」
演奏したい譜面を、マティナに見せた。
「まじかよ、『お別れ・宣誓ション』!? かなり速い曲だよ?」
「孫が冒険者に教わってから、ずっと口ずさんでいてな」
オレも譜面を見てみたが、いかんせん楽譜が読めない。歌詞は覚えられたが。
「ええっと……まあ、がんばっていこうっ」
マティナに、ギターを教わった。
指の押さえ方や走らせ方など、基本的なことを習う。あとはひたすら、反復反復。
「ルールールー♪ 時が。時、が。と、き、が……」
くーっ。指が走らねえ。
「クセが付きそうなら直してやるから、とにかく数をこなしな」
「おう。やってみるさ」
「素人ながら、いい線いっていると思うよ」
「そうか? 吟遊詩人に言われたら、自信を持てるよ。ありがとう、マティナ」
「この曲は難しいから、まだまだ練習は必要だよ。ローガン」
「どこまでも、付き合うぞ。マティナ」
それ以降、オレは時間を見つけては、同じ場所でマティナからギターを教わることに。
マティナにキャンプメシをごちそうして、オレはギターを習う。
毎日【冒険の書】を使って、何度もマティナにギターを教えてもらった。
家に帰ってからも、コソ練である。
「国王、その指の動きは?」
「なんでもねえよ。それで、旅の記録を聞こうじゃないか」
やべえ。指の動きを練習しているのが、冒険者にバレそうになるとは。
そして、ようやく完全に演奏ができるようになった。
「やった」
「うーっ。やるじゃないか、ローガン。教え甲斐があったよ」
「ありがとうよ、マティナ」
「いやいや。タダでメシを食わせてもらうだけでも、こちらはありがたいさ」
「こいつを、孫に聴かせるのが、楽しみだ」
「あはは。じゃあ、あたしは旅に出るよ」
マティナは、立ち上がった。
「もういいのか?」
「いつまでも、モラトリアムに浸っているわけにはいかない。前に進まないとね」
マティナの笑顔は、どこか吹っ切れた様子に見える。
数日後、孫がまた王宮に遊びに来た。
オレはさっそく、マティナから習ったギターを披露する。
「おおお。すごいですね。父上。いつの間に練習をなさったんです?」
「実はコッソリとな」
「練習をなさりたいなら、私が楽団に掛け合いますのに」
「いやいや。ムリがある」
この曲は、冒険者発祥だからな。オレたちでは覚えることはできても、教えることはできない。身体に染み付いていないから。
「じい、すごーい」
「アハハ。ありがとうよ。お前さんがいたから、覚えることができた」
視野が広がって、いい経験になったよ。
ホントに、頭が上がらない。
「喜ばしいところ、残念ですが、もう時間です」
おや、もう冒険者が来る時間かぁ。
「じゃあ、じいは行ってくる」
「もっとアコギを聴かせて」
「そのうちな」
名残惜しい。しかし、仕事をしなければ。
さてさて、今日の冒険者は、っと。
「おっ?」
見覚えのある顔が、後ろに控えていた。
マティナだ。
吟遊詩人として、冒険者に復帰したようである。
こちらに気づいたのか、マティナもこちらにウインクをしてきた。
「あなた、あの方はどなたですの?」
オレを見ていた王妃の目が、険しくなる。
おいおい、オレたちは決して、不純な関係ではありませんことよ。奥様!
「いや、知り合いの知り合いだ」
「まあ! ウソは大概になさいませ!」
「ホントだっつーのっ」
冒険者を見送った後、オレは王妃を説得することで深夜の旅ができなかった。
まいったね、こりゃ。
(第三章 おしまい)
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