おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

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第四章 国王、たった一人の戦い(激辛

第8話 止めてくださるな

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 オレと大臣は、往来で男二人でもみ合うという、みっともない光景を見せていた。

 東洋地方という未開の地だから、許してほしい。

「ソロガス王! おやめください!」

「ええい、止めてくださるな、大臣! オトコには、チャレンジせねばならぬ時があるのだ!」

 大臣に取り押さえられながらも、オレは歩みを止めず。

「なにとぞ、ご自重くださいませ! このお店は、おやめなさいと!」 

「離せ大臣! オレを止めてくださるな! これは、試練なのだ!」

「激辛の、なにが試練でございますか!?」

 オレは店の前で、大臣と問答を繰り返していた。

 この店は、激辛キムチ鍋を出してくれる店である。アツアツの、豆腐がうまいんだ。

「いいかげんになさいませ! この料理はニンニクもふんだんに使われております。この後は、近隣の貴族と立食ですぞ!」

「そうか」

 オレは、今回の激辛はあきらめた。
 
「まったく。ご自身の年齢をお考えくださいませよ、ソロガス陛下! なにを、ムキになっていらっしゃるのか!?」

「いやあ。辛いけど、うまいっていうじゃん? ここ」

 この店のルールは、「チャレンジすること自体が名誉」である。ギブアップによるペナルティは、特にない。
 むしろ食べられなかった場合、鍋に豆乳を入れて辛味をマイルドにしてくれる。そのため完食ほぼ確約なので、フードロスにも優しい。
 傷つくのは、名誉だけ。とはいえ、フードロスは許さない。それが、この店の方針だという。

 しかし、漢ならずっと激辛として堪能したいではないか。

「冒険者が、『ここの鍋が最高にうまい』と申していた。ならば、国王として確認せずにはいられない!」

「ソロガス王、意味がわかりませぬ。完全制覇者が、ゼロのお店なのですぞ! 情報源の冒険者でさえ、豆乳による救済は欠かせなかったと申しております!」

 知ってるさ。オレが【冒険の書】で、メモったんだからな。

 だからこそ、国のトップであるオレが確認を取らなければダメだろうが。

「営業停止処分レベルなら、オレも観念するが、そうじゃないんだろ?」

「ええ。一応、基準値には達しております。食中毒事例も、ございません」

「だったら、問題がねえ」

「あなたがお召し上がりになることが、大問題なのです!」

「平気だっつーの。平気じゃないが、死にはしない」

 オレはまだ五〇だぜ? 激辛で気絶してそのままお陀仏なんて歳じゃねえ。

「そういう問題ではございません。後の業務に支障が出たら、どうなさるおつもりなのかと申しているのですぞ」

「それも安心だって。オレは激辛に負けられん」

 というか、辛いものが食いたい。最近、カレーもご無沙汰だしな。
 カレーもいいが、なんかこう、胃袋や舌が刺激を求めている。

 かなりのストレスが、溜まっているんだろうな。
 辛いものがほしいときってのは、色々と鬱憤だらけらしいし。
 
「異国の地にて、ハッスルするお気持ちはわかります。しかし、いかんせん冒険心が高ぶり過ぎでは?」

「かもしれん。はしゃぎ過ぎたな」


 東洋地方の貴族たちと、会食に。

「ごきげんよう、ソロガス殿」

「ごきげんよう。みなさん」

 東洋の食事は、魚がメインだ。

 しかし、それがいい。実によい感じ。
 焼き魚うめえ。焼いているからか、脂がジュワ! っとくる。

 肉類も西洋と違って、非常に薄く、柔らかかった。
 どうも東洋人はアゴが細いため、柔らかい肉のほうがありがたがられるらしい。ウチの国とは、文化も何もかも違うんだな。

 薄切りのミートと、焼いた魚。

 これは、酒にも合って美味だった。

 辛味が欲しかったが。

「ところで、ソロガス殿。あちらのキムチ鍋、ご賞味なさったことは?」

「うむ。ちょうど、食べたいと思っていたところだ」

「あの店の前で、中年の男性がもみ合いのケンカをしていたと、市井のものがウワサしておりまして」

 あーっ、それ、オレたちです。

「存じ上げません。そのようなふらちな輩がいたと」

「はあ。おおかた、入ったらどちらがカネを払うかで揉めたのでしょう。そのような行為は、お里が知れるというもの。ああいうお下品な集団には、なりたくありませんな」
 
「まったくですな。ガハハハ」

 オレ、東洋人にそう見られていたのか。

「少々、物足りないおもてなしは、ございましたでしょうか?」

「いや、大変馳走になりましたぞ。手厚きおもてなし、恐れ入ります」

「お気に召しましたら、なによりです。今日はお泊りなさって」

「そうしたいところなのですが、もう帰らねばなりません」

 キヤネン国王たるもの、夜には転送魔法で国に帰らねばならん。
 
 転送魔法ができて以来、オレら国王のスケジュールは分刻みになってしまった。
 これが、転送魔法ができた功罪である。
 便利になった分、オレたち国王のストレスはマッハッハなわけよ。

 深夜に【冒険の書】でも広げて、旅もしたくならあ。

「さようでございますか。お送りいたします」

「いえ。お見送りはご無用でございます」

「わかりました。ではキヤネン国王、お気をつけて」
 

 そんなわけで、帰宅後さっそく冒険の書を使ってファストトラベルを行った。

 狙うはもちろん、あのキムチ鍋!

 夜中までやってるなんて、うれしいじゃないか。
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