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第七章 星の裏側で、モーニングを
第19話 モーニングのアズキトーストと、ハッシュドポテト
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だいたいなあ。ホントにスキじゃなかったら、ずっといっしょになんていないっつーの。
オレは、家庭を顧みない男ではない。
ストレスがマッハなだけだ。
でも、コミュニケーションに乏しかったのは確かだ。
今日は、たくさん妻と話そう。
いい夜だった。
酒も入って、女房もごきげんな印象を受けた。あれなら、機嫌も治ってるかも?
さて、夕飯もおいしくいただいたことだし、次なる朝食をいただくとするか。
ソロガス王から、冒険者ローガンとなって。
おうち時間も有意義だったが、それはそれ。これはこれである。
東洋、カメダ地方に到着した。
「メシの前に、軽く走りたいな」
カメダ地方は、まだ日が出て間もない。宿の朝食も、あと三〇分はかかるという。
うーん、早く着きすぎた。
「よし、ジョギングしよう」
三〇分ほど、辺りを走ってみよう。
草原も近い。あの湖を一周くらいなら、時間もかからないはずだ。
「えっほ、えっほ」
湖を周回する。
オレは王都でも、朝は特にジョギングなんてしない。
モーニングも、やってないからなあ。そもそもモーニングの習慣自体が、ないのかもしれない。パン屋だったら、やっているのだが。
「えっほ、えっほ」
風が、気持ちいいな。
魔物も、特に強そうなのはいない。
一角ウサギや、キングボアの亜種程度である。
軽く鼻にジャブを食らわせただけで、魔石や素材へと変わった。
精霊関連は、多少いるみたいである。だが、強い魔物などは湖周辺に見当たらなかった。当然、魔族なんていやしない。
生態系を壊す可能性が高いので、襲ってくる個体以外は無視を決め込む。
この辺りは、ダンジョンも小さいものばかりなんだな。数は多いが、規模はやや小さめだ。
「試しに、入ってみよう」
やはり、ダンジョンも狭い。
魔物も、小粒な個体ばかりだった。
初心者冒険者用に、放置しておこう。あの程度なら、苦戦するほうが難しい。
「えっほ、えっほ」
パトロールついでに、湖をもう一周してみた。スピードを上げて、様子を見る。
「OK。異常なし、っと」
いい汗をかいた。
簡易シャワーを借りて、服は川で軽く洗う。
星の裏側で、朝早くからジョギングとか。まだ深夜の王都では、考えられんことだな。
時差ボケしちまいそうだ。
さて、ちょうど時間になった。モーニングをいただくとしますか。
「もう少々、お待ちください。お料理ができあがる前に、コーヒーをどうぞ」
「馳走になる」
「ミルクとお砂糖は?」
「カフェオレで頼む」
「かしこまりました」
料理を待つ間、モーニングコーヒーを飲む。
読書でも、させてもらおう。
うむ。優雅な時間。成功者の朝ー、って感じ。オレが成功者かどうかは、さておき。
とはいえ、もうちょっと贅沢したい気分である。脳を休ませたいというか。
「マンガでも、いいな」
今は、頭を使いたくない。
ちょうど。「スライムが一人前の魔王まで成り上がる話」が棚に置いてあった。
うん。健気だが魔物の世界で泥臭く生きているさまは、なんとも身にしみる。魔族の世界観が、ヤクザものみたいだが。
喫茶店のマンガって、どこかアダルティな作品が多い気がする。それだけに、客層がうかがえるな。
常連らしき老人が、マスターと競馬の話をしている。なるほど、ここはそういう店なのだな。
魔物を退治させて、ウマのレベルを上げるわけか。
「おまたせしました」
店主が、トーストのセットを持ってきた。
「お好みで、ほうじ茶ラテもどうぞ」
「感謝する。馳走になろう」
おお、できてるできてる。店頭で予約しておいたから、できたてを焼いてもらえた。
「いただきます」
まずは、このアズキとやらを舐めようかな。
「甘い……」
ガツンとくる甘さではなく、しっとりとした上品な味わいだ。
これは、疲れた身体に染み渡る。
コイツをトーストに塗ると。
あんパン!
いや、違う。別の食感が舌に来た。トーストってだけで、あんパンとはまた別の料理に生まれ変わるなんて。新しい発見だ。
コーヒーもいいが、この「ほうじ茶」ラテってのがいいな。
「うっわ。ただのお茶なのに、こんなうまいのかよ?」
濃ゆーいほうじ茶を、牛乳で割っただけ。これがまた、アンコによく合うのだ。料理というより、芸術品ではないのか? こんな神秘的な味、今まで知らなかったぜ。
「続いて、ハッシュドポテトとやらだな」
サクっと、ポテトのフライを噛み締めた。
「かぁーっ!」
うまい! コロッケとはまた違った、趣のある食感だ。
ジャガイモなのだが、重くない。だが、しっかりと食べごたえがある。塩加減も、バッチリ染み込んでいる。
これは、朝に食いたくなる。
イモを揚げただけなのに、なんだこのウマさは。コロッケのように、牛肉が混ざっているわけじゃなかった。ホントに刻んだジャガイモを、揚げただけである。
とんでもないな、料理の進化というのは。ここまで、繊細な味を作り出すことができるとは。
サクサクで、実に楽しい。モーニングって、楽しいな。
モーニングって、大量に食べるというより、少量をじっくりと味わうものなのかもしれんなあ。
ごちそうさまでした。
しかしあるとき、東洋のワカバ地方という国から帰還した冒険者から、さらにうまそうなメニューを聞かされた。
「……ふむ、お茶粥とな?」
オレは、家庭を顧みない男ではない。
ストレスがマッハなだけだ。
でも、コミュニケーションに乏しかったのは確かだ。
今日は、たくさん妻と話そう。
いい夜だった。
酒も入って、女房もごきげんな印象を受けた。あれなら、機嫌も治ってるかも?
さて、夕飯もおいしくいただいたことだし、次なる朝食をいただくとするか。
ソロガス王から、冒険者ローガンとなって。
おうち時間も有意義だったが、それはそれ。これはこれである。
東洋、カメダ地方に到着した。
「メシの前に、軽く走りたいな」
カメダ地方は、まだ日が出て間もない。宿の朝食も、あと三〇分はかかるという。
うーん、早く着きすぎた。
「よし、ジョギングしよう」
三〇分ほど、辺りを走ってみよう。
草原も近い。あの湖を一周くらいなら、時間もかからないはずだ。
「えっほ、えっほ」
湖を周回する。
オレは王都でも、朝は特にジョギングなんてしない。
モーニングも、やってないからなあ。そもそもモーニングの習慣自体が、ないのかもしれない。パン屋だったら、やっているのだが。
「えっほ、えっほ」
風が、気持ちいいな。
魔物も、特に強そうなのはいない。
一角ウサギや、キングボアの亜種程度である。
軽く鼻にジャブを食らわせただけで、魔石や素材へと変わった。
精霊関連は、多少いるみたいである。だが、強い魔物などは湖周辺に見当たらなかった。当然、魔族なんていやしない。
生態系を壊す可能性が高いので、襲ってくる個体以外は無視を決め込む。
この辺りは、ダンジョンも小さいものばかりなんだな。数は多いが、規模はやや小さめだ。
「試しに、入ってみよう」
やはり、ダンジョンも狭い。
魔物も、小粒な個体ばかりだった。
初心者冒険者用に、放置しておこう。あの程度なら、苦戦するほうが難しい。
「えっほ、えっほ」
パトロールついでに、湖をもう一周してみた。スピードを上げて、様子を見る。
「OK。異常なし、っと」
いい汗をかいた。
簡易シャワーを借りて、服は川で軽く洗う。
星の裏側で、朝早くからジョギングとか。まだ深夜の王都では、考えられんことだな。
時差ボケしちまいそうだ。
さて、ちょうど時間になった。モーニングをいただくとしますか。
「もう少々、お待ちください。お料理ができあがる前に、コーヒーをどうぞ」
「馳走になる」
「ミルクとお砂糖は?」
「カフェオレで頼む」
「かしこまりました」
料理を待つ間、モーニングコーヒーを飲む。
読書でも、させてもらおう。
うむ。優雅な時間。成功者の朝ー、って感じ。オレが成功者かどうかは、さておき。
とはいえ、もうちょっと贅沢したい気分である。脳を休ませたいというか。
「マンガでも、いいな」
今は、頭を使いたくない。
ちょうど。「スライムが一人前の魔王まで成り上がる話」が棚に置いてあった。
うん。健気だが魔物の世界で泥臭く生きているさまは、なんとも身にしみる。魔族の世界観が、ヤクザものみたいだが。
喫茶店のマンガって、どこかアダルティな作品が多い気がする。それだけに、客層がうかがえるな。
常連らしき老人が、マスターと競馬の話をしている。なるほど、ここはそういう店なのだな。
魔物を退治させて、ウマのレベルを上げるわけか。
「おまたせしました」
店主が、トーストのセットを持ってきた。
「お好みで、ほうじ茶ラテもどうぞ」
「感謝する。馳走になろう」
おお、できてるできてる。店頭で予約しておいたから、できたてを焼いてもらえた。
「いただきます」
まずは、このアズキとやらを舐めようかな。
「甘い……」
ガツンとくる甘さではなく、しっとりとした上品な味わいだ。
これは、疲れた身体に染み渡る。
コイツをトーストに塗ると。
あんパン!
いや、違う。別の食感が舌に来た。トーストってだけで、あんパンとはまた別の料理に生まれ変わるなんて。新しい発見だ。
コーヒーもいいが、この「ほうじ茶」ラテってのがいいな。
「うっわ。ただのお茶なのに、こんなうまいのかよ?」
濃ゆーいほうじ茶を、牛乳で割っただけ。これがまた、アンコによく合うのだ。料理というより、芸術品ではないのか? こんな神秘的な味、今まで知らなかったぜ。
「続いて、ハッシュドポテトとやらだな」
サクっと、ポテトのフライを噛み締めた。
「かぁーっ!」
うまい! コロッケとはまた違った、趣のある食感だ。
ジャガイモなのだが、重くない。だが、しっかりと食べごたえがある。塩加減も、バッチリ染み込んでいる。
これは、朝に食いたくなる。
イモを揚げただけなのに、なんだこのウマさは。コロッケのように、牛肉が混ざっているわけじゃなかった。ホントに刻んだジャガイモを、揚げただけである。
とんでもないな、料理の進化というのは。ここまで、繊細な味を作り出すことができるとは。
サクサクで、実に楽しい。モーニングって、楽しいな。
モーニングって、大量に食べるというより、少量をじっくりと味わうものなのかもしれんなあ。
ごちそうさまでした。
しかしあるとき、東洋のワカバ地方という国から帰還した冒険者から、さらにうまそうなメニューを聞かされた。
「……ふむ、お茶粥とな?」
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