おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

文字の大きさ
19 / 47
第七章 星の裏側で、モーニングを

第19話 モーニングのアズキトーストと、ハッシュドポテト

しおりを挟む
 だいたいなあ。ホントにスキじゃなかったら、ずっといっしょになんていないっつーの。

 オレは、家庭を顧みない男ではない。

 ストレスがマッハなだけだ。

 でも、コミュニケーションに乏しかったのは確かだ。

 今日は、たくさん妻と話そう。


 いい夜だった。

 酒も入って、女房もごきげんな印象を受けた。あれなら、機嫌も治ってるかも?
 

 さて、夕飯もおいしくいただいたことだし、次なる朝食をいただくとするか。

 ソロガス王から、冒険者ローガンとなって。

 おうち時間も有意義だったが、それはそれ。これはこれである。

 

 東洋、カメダ地方に到着した。

「メシの前に、軽く走りたいな」

 カメダ地方は、まだ日が出て間もない。宿の朝食も、あと三〇分はかかるという。

 うーん、早く着きすぎた。
 
「よし、ジョギングしよう」

 三〇分ほど、辺りを走ってみよう。

 草原も近い。あの湖を一周くらいなら、時間もかからないはずだ。

「えっほ、えっほ」

 湖を周回する。

 オレは王都でも、朝は特にジョギングなんてしない。

 モーニングも、やってないからなあ。そもそもモーニングの習慣自体が、ないのかもしれない。パン屋だったら、やっているのだが。

「えっほ、えっほ」

 風が、気持ちいいな。

 魔物も、特に強そうなのはいない。

 一角ウサギや、キングボアの亜種程度である。
 軽く鼻にジャブを食らわせただけで、魔石や素材へと変わった。
 
 精霊関連は、多少いるみたいである。だが、強い魔物などは湖周辺に見当たらなかった。当然、魔族なんていやしない。
 
 生態系を壊す可能性が高いので、襲ってくる個体以外は無視を決め込む。

 この辺りは、ダンジョンも小さいものばかりなんだな。数は多いが、規模はやや小さめだ。

「試しに、入ってみよう」

 やはり、ダンジョンも狭い。
 魔物も、小粒な個体ばかりだった。

 初心者冒険者用に、放置しておこう。あの程度なら、苦戦するほうが難しい。

「えっほ、えっほ」

 パトロールついでに、湖をもう一周してみた。スピードを上げて、様子を見る。

「OK。異常なし、っと」

 いい汗をかいた。

 簡易シャワーを借りて、服は川で軽く洗う。

 星の裏側で、朝早くからジョギングとか。まだ深夜の王都では、考えられんことだな。
 時差ボケしちまいそうだ。

 さて、ちょうど時間になった。モーニングをいただくとしますか。

「もう少々、お待ちください。お料理ができあがる前に、コーヒーをどうぞ」

「馳走になる」

「ミルクとお砂糖は?」

「カフェオレで頼む」

「かしこまりました」

 料理を待つ間、モーニングコーヒーを飲む。

 読書でも、させてもらおう。

 うむ。優雅な時間。成功者の朝ー、って感じ。オレが成功者かどうかは、さておき。

 とはいえ、もうちょっと贅沢したい気分である。脳を休ませたいというか。

「マンガでも、いいな」

 今は、頭を使いたくない。

 ちょうど。「スライムが一人前の魔王まで成り上がる話」が棚に置いてあった。

 うん。健気だが魔物の世界で泥臭く生きているさまは、なんとも身にしみる。魔族の世界観が、ヤクザものみたいだが。

 喫茶店のマンガって、どこかアダルティな作品が多い気がする。それだけに、客層がうかがえるな。

 常連らしき老人が、マスターと競馬の話をしている。なるほど、ここはそういう店なのだな。

 魔物を退治させて、ウマのレベルを上げるわけか。

「おまたせしました」

 店主が、トーストのセットを持ってきた。

「お好みで、ほうじ茶ラテもどうぞ」

「感謝する。馳走になろう」
 
 おお、できてるできてる。店頭で予約しておいたから、できたてを焼いてもらえた。
 
「いただきます」

 まずは、このアズキとやらを舐めようかな。

「甘い……」

 ガツンとくる甘さではなく、しっとりとした上品な味わいだ。

 これは、疲れた身体に染み渡る。

 コイツをトーストに塗ると。

 あんパン!

 いや、違う。別の食感が舌に来た。トーストってだけで、あんパンとはまた別の料理に生まれ変わるなんて。新しい発見だ。

 コーヒーもいいが、この「ほうじ茶」ラテってのがいいな。

「うっわ。ただのお茶なのに、こんなうまいのかよ?」

 濃ゆーいほうじ茶を、牛乳で割っただけ。これがまた、アンコによく合うのだ。料理というより、芸術品ではないのか? こんな神秘的な味、今まで知らなかったぜ。

「続いて、ハッシュドポテトとやらだな」

 サクっと、ポテトのフライを噛み締めた。

「かぁーっ!」
 
 うまい! コロッケとはまた違った、趣のある食感だ。

 ジャガイモなのだが、重くない。だが、しっかりと食べごたえがある。塩加減も、バッチリ染み込んでいる。
 
 これは、朝に食いたくなる。

 イモを揚げただけなのに、なんだこのウマさは。コロッケのように、牛肉が混ざっているわけじゃなかった。ホントに刻んだジャガイモを、揚げただけである。

 とんでもないな、料理の進化というのは。ここまで、繊細な味を作り出すことができるとは。

 サクサクで、実に楽しい。モーニングって、楽しいな。

 モーニングって、大量に食べるというより、少量をじっくりと味わうものなのかもしれんなあ。

 ごちそうさまでした。


 しかしあるとき、東洋のワカバ地方という国から帰還した冒険者から、さらにうまそうなメニューを聞かされた。

「……ふむ、お茶粥とな?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...