おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

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第七章 星の裏側で、モーニングを

第20話 王妃と晩酌

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 オレに茶粥をススメてきた冒険者は、ヒーラーの女性である。エルフの【ハーバリスト】であり、種族的な特徴もプラスして薬草学に詳しい。東洋の茶粥をひとつ試してみたくて、食べに向かったという。

「それは絶品でした。本当に、お茶で煮たお粥だったのです」

 粥か。ガキの頃にカゼをひいたときくらいしか、食べたことがないな。

 それでも、コメを柔らかくしただけの料理なんて、あまり食が進まないはず。食べやすそうではあるが。
 なのに、あんな楽しそうに語りだすとは。

「トロミがあるんだよな?」

「いえ。お茶粥は、サラサラしておいしいんです」

「オカユとは、お茶漬けとは違うのか?」

 お茶漬けなら、オレも深夜の大衆食堂で頻繁に食う。塩気の効いた焼き魚や干物を沈めて食うと、最強なんだ。

「お茶漬けとはまったく別の料理と言っても、差支えありません」

 女性冒険者は、断言した。そんなに違うものなのかよ。

「味が薄そうだが?」

 お茶で煮込んでいるとなると、味が渋い気配がするが。
 
「それがいいんですよ。東洋の漬物文化は、底が知れません」

 漬物か。たしかにうまい漬物は、クセになるなぁ。

 オレも大衆食堂で、食ったことがある。どうしてあんなにうまい漬物が無料で食えるのか、信じられなかった。

「あと、豆を発行させた【お味噌】という調味料! あれが、なんともいえずおいしいのです。ハーバリストとして、あの発酵食品は大変興味深くありました」

 あまりに女性冒険者が楽しそうに話すので、オレはツバを飲む。

「あなたのような冒険者殿たちは、よその世界からやってきたと聞く。元の世界に、ミソという調味料やオカユの文化はないのか?」

「たしかに、ございます。ですが、わたしは元の世界では、あんまりそういったものは食べないんですよ。しかもわたしは、この世界に来てから、お茶粥を知ったくらいでして」

 現地に住んでいても、知らないことがあるんだな。

「歳を取って、ようやくお粥の良さがわかってきたと言いますか……」

 なるほど。年齢を重ねて、舌が変化したと。
 たしかに、そういうことはある。オレも老けてから、色んな味を楽しめるようになってきた。特にこの歳になると、野菜やキノコが抜群にうまいんだ。

「この世界に来たのも、なんかいつもと違う癒やしがほしいなーというのが、動機でして。今回東洋を旅してみたら、元の世界に近しい素晴らしい文化がございました」

「それはよかった。またいらしていただきたい」

「もちろん。ではソロガス王様。ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 冒険者は、フッと消えた。元の世界に帰ったのだろう。

 ハーバリストがそこまでハマる、お茶のオカユか。

 それはきっと、うまいに違いない。

 ちょっと今日は、メシを控えめにしておくか。
 お茶の料理をいただくから、酒はある程度強いものを。

「東洋の酒があっただろ? 出してくれ」

「承知しました」

 使用人に伝えて、一升瓶を用意してもらう。

「積極的にお酒を頼むなんて、珍しいですわね?」

「東洋の話を、連日聞かされてはな。訪問の記憶が残っているうちに、味わっておきたい」

 使用人が、瓶を持ってきた。

 冒険者からもらったものを、大事に取っておいたのである。大事にしすぎて、忘れそうになっていたともいうが。

 オレは使用人から、瓶をひったくる。ドバドバと、自分のジョッキに注いだ。ジョッキといえど、さすがに一口程度だけに留めたが。
 
「あなたっ。手酌なんて、はしたないですわ。それに、専用の盃をご用意なさらないと」

「いいんだよ、こういうのは、ガツンといくもんだ」

 オレは、ジョッキに注いだ酒を、ぐいっと煽る。
 
 ああ、辛口! 全身に、アルコールが染み渡った。目が覚める味とは、こういうもんなんだろう。
 
 くーっ。東洋の酒なんて、久々だな。

 チーズもいいが、これに合うオツマミは、やっぱ干物か漬物だよぉ。とはいえ、ぜいたくってもんだけど。

「ごきげんですわね、あなた」

 王妃が隣の席から、オレに声をかけてきた。
 
「まあな。激務が続いているから、少々頭を休ませてやりたいんだよ」

「わたくしにも、くださいな」

「お前さん、飲めたっけ?」

「乗馬クラブがございましたから、控えていただけですわ」

 そっか。

「ほら。どんどんいっちゃえ」

 オレが、グラスに酒を注いでやった。

「国王自らがお酌って」

「硬いこと言いなさんなっ。ほれ」

「いただきます」

 恐縮しながら、王妃は盃を傾ける。

「あら、おいしいわね」

 ケロッとした顔で、王妃はグラスを空ける。オレから瓶を奪って、使用人に注がせた。

 使用人はオレとは違って、適量を盃に注いでいく。

 王妃は、もう四杯目だ。

 オレは二杯で、もうチビチビモードに切り替えている。これで飲むのをやめておこうって、思ってるのに。冒険の書も使うし。

「強いな」

「このお酒が、美味しいだけです。普段は、そこまで飲み進めませんわ」

 シラフめいた表情で、王妃は行儀よくチェイサーを挟む。

 王妃を見るまで、オレもチェイサー飲まないとって、忘れていた。ジョッキで水をもらう。

 たまには、王妃とこうして飲むのも、いいもんだな。
  
 ういーっ。だいぶ脳がバカになってきた。お茶がほしい、って気分である。

 さて、行きますか。
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