おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

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第八章 釣り国王

第25話 鯛めしと、ダシ茶漬け

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 これはデカい。
 イワシも暴れているが、それより遥かに大物が、針にかかっている。

「ううううおおおおお!」

「やけに、うろたえておるのう! ローガン義兄あに様!」

 後方からフィオが、支援魔法でオレを支えてくれた。変に身体を支えてもらうより、これくらいでちょうどいい。万が一手元が狂ったら、二人とも波に飲まれてしまう。

「しっかり魔法で、オレを支えておいてくれ。フィオ!」

「妾がついておるぞ。義兄様しっかり!」

 フィオの応援を受けて、オレはさらにリールを巻いた。

 ここで焦ったら、せっかくの獲物ゲットが水の泡だ。

 チャンスは、逃さない。

「イワシが見えてきたぞい!」

 針にイワシが、数匹かかっていた。だが、身体を揺らして逃げていく。

 それでいい。少しでも、糸を軽くしたかった。
 
 狙うは、タイだけでいいからな。

「よし、もう少し。もう少し!」

「義兄様! なにか、必要なものは!?」

「網をくれ! オレの足元にある」

 オレは竿を持っているだけで、精一杯だ。

「義兄様! 頭が出てきたぞい!」

 まるで助産婦のようなセリフを、フィオが大きな声で叫ぶ。

「よし! 網を!」

 フィオに網を操作してもらい、タイを捕まえた。

「OKだ! うわあああ!」

 だが、せっかくかけてもらっていた身体強化魔法が解除される。

 オレは足を滑らせ、腰まで海水に使ってしまった。
 
「おお。寒い!」

「申しわけない、ローガン義兄様!」

 すぐに、フィオが魔法で浮かび上がらせてくれる。

「構わんさ。それよりタイは?」

「無事じゃ。しっかり捕らえておる!」

 フィオが、タイの入った網をしっかり握っていた。

「でかした! 絶対に放すなよ!」 

 しかし、水浸しになった身体は冷えるばかり。服も、乾かさないとな。

「店主! 店主はおるか!?」

 タイを持って、すぐ宿に向かう。

「フロを頼む! あと、こいつをさばいてくれ」

「かしこまりました。ご入浴ですね?」

 オレは大浴場へ、通してもらった。

 さっそく、身体を温める。

「あ~っ」

 凍えていたからだが、芯まで温まった。

 これが、生き返るというものか。

「すまぬ。義兄様!」

 向こう側の浴場から、フィオの声が。あいつも、フロを使っているのか。

「構うな。それよりタイの刺し身を食らうぞ。覚悟はいいか?」

「義兄様を海水に沈めてしまったゆえ、妾は別に施しは受けぬ」

「ダメだ。オレを思っていてくれるなら、ちゃんと食ってもらうぞ」

 オレだけうまいものを食っても、楽しくないもんね。

「かたじえない。義兄様」

「まともに、言えてねえじゃねえか」
 
 内心、フィオも寒かったんだろうな。

「よし。フィオ、お前もカゼをひかないように、身体を温めておけよ」

「心得た」

 その前に、もうちょい温まるぞー。

 フロから上がると、ちょうど刺し身ができ上がっていた。

「義兄様! なにやらいい香りが」

「ヤバ! 鯛めしじゃん!」

 なんと、切り身と白米を炊いた【鯛めし】が、用意されているではないか。

 これは、うれしいサービスだ。

「申し訳ありません。お刺身にするには、量があまりなく。鯛めしでごまかしてしまっております」

「構わん! むしろ、大歓迎だ」

 この鯛めしを、食わせてやりたかったんだよ。

「いただくぞ、店主」

「遠慮なさらず」

「うむ。いただきます」

 せっかく、用意してもらったのだ。鯛めしから喰らわねば、無礼というもの。

「おおおおお!」

 言葉にならん。

「このような料理、うまい以外にどう表現すればいいのか。語彙力が、香りとともに鼻から抜けていったわい。ああ、うまい」

 フィオも、大満足のご様子。

 付け合せの、漬物までうまいとは。タイの味を邪魔せず、主張もする。

「お刺身も、タイならある程度食べたことがあるのじゃ。しかし、この新鮮さはなんじゃ? 妾は、夢の世界にいるのでは?」

「それは、正解かもな。タイは、オレたちに夢を見せてくれる」

 だが、本当の夢はこれだけではない。

「シメは、鯛茶漬けをどうぞ」

 タイの切り身を、鯛めしの上に乗せて、さらにダシを注ぐと……。
 
「おっほ!」

 スルスルと、口の中へ入っていく。サラサラと吸い込んでしまっては、もったいないのに。

「熱いぞい。熱いけど、うまし。これは、美味なるぞ」

 猫舌なフィオくらいの進み具合で、ちょうどいい。

「あ~、たまんねえ」

 これを、風呂上がりにいただけるとは。身体の奥底から温まり、また心まで満たしてくれるなんて。

 タイってのは、エリクサーだったのでは?

 もうエリクサーなしでも、疲れが吹っ飛んだぞ。

「自分で釣ったからだろうな。マジでうまい」

「釣りたてとは、かくも美しく、かくも味わい深いものじゃのう」

「まったくだ。ごちそうさまでした」

 ああ、堪能した。骨までしゃぶり尽くす、勢いだったな。

「義兄様、次の日も釣りがしたいぞよ」

「おう。絶対に誘うからな」

「メザシもすばらしいのじゃ」

 フィオはオレと同様、メザシも残さずに食べた。
 
「ああ。タイもメザシも最高だったぜ」
 
「次も、釣りに連れて行っておくれ。義兄様」

「約束だ」

 ぶっちゃけ、フィオだけだな。オレのオッサン趣味に、付き合ってくれるのは。

「義兄様、次はお泊りなどもええんじゃぞ」

「それはダメだ。さすがに線を引かせてもらう」

「左様かー」
  

 
(第八章 おしまい)
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