おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

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第九章 国王、ソロで隠れ家作り

第27話 国王、こっそり土地を買う

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「あなたは確か、ローガン様?」

 痩せた貴族の男性が、オレに声をかけてくる。

「ああ、よく覚えていてくれた」

 貴族の彼は、タダの冒険者であるオレの顔を、覚えていた。

 普通、貴族は冒険者の顔なんてすぐ忘れるもんだ。すれ違った程度の、面識だし。

 なのにこの貴族は、オレをちゃんと知っていた。

 さて。この貴族って、一度キヤネンにも来たんだよなあ。

 さすがにオレがキヤネン王国の王様だとは、気がついていないようだが……だよな?

「恩人を忘れては、信用に関わりますので。商業ギルドの監督を任されている、ホフマン男爵の嫡子、アーロンです」

「ごきげんようホフマン卿」

 ホフマン卿から握手を求められたので、オレも応じる。

 イノシシから助けただけなのに、気さくにしてくれる方だ。

「で、あんたは?」

 オレは、女性の方に声を掛ける。
 ウェーブの掛かった眼鏡の女性で、年齢の割に大人びていた。きっと貴族ではなく、商人の娘だな。
 
「わたしは、商業ギルドのマスターで、ワンダと申します」

「ワンダさんね。オレはローガンだ」

 オレはワンダに、頭を下げた。

「今日はどういったご要件でしょう? 商売の手続きでしょうか。アイテムの買い取りをご所望で?」

 残念だが、どれもちょっと違う。

「ちょいと、相談がある。これなんだけどな」

 金貨の入った袋をアイテムボックスから出して、オレはカウンターに置いた。

 ちなみに、国民の税金などでは一切ない。盗賊からぶんどった金品だって、オレは騎士領に届ける性分だ。

 これは、モンスターを倒した報酬や、遺跡などで手に入れた貴金属類を、換金して作った金である。

 自分で小屋を建てるのだ。
 国民の血税なんぞ、使ってたまるか。
 ちゃんと自分で稼いで、手に入れたい。

「こんなにたくさんの……」

 さすがのオレも、国民の金銭感覚はよくわからなかった。手当たり次第に狩りまくって、掘りまくったんだよなあ。やりすぎたか?
 
「こいつで、土地を買いたい」

 オレは無性に、自分で隠れ家を作りたくなった。

 王様になって、自分でなにも成し遂げていないからだろうな。
 釣りをしながらフィオと話してみて、オレも自分を顧みることができた。

「お店を開くのですか?」

「いや。離れのような、隠れ家を作れたら。アルマーは、狩りに最適な土地だからな。拠点がほしいんだよ」

 まあ、言っていることはウソではないが。

 一度、オレ一人で家を建ててみたい。そんな気持ちが、ずっと募っていた。

「承知しました。どのような敷地をご所望で?」

「なるべく、人が通らない場所がいい。一人でのんびり、過ごせる場所があると最高だ」

「そうですねぇ。アクセス面から見て、どの辺りも田んぼや畑は通過します。農民の行商ルートになってしまいますが、それでよろしければ」

 ここら一面が、田舎道ってわけか。なら、一通りは少なかろう。

「獣害が、出ないなら」

 オレは、田畑をやらん。領地にある作物の生態系を、荒らすつもりはない。変に無農薬野菜なんかを育てると、虫の被害が出てしまうからな。

「では、絶好の場所がございます。川沿いでよろしくて?」

 川沿いなら、釣りを楽しめるだろう。
 山菜を集めてもいい。

 ああ、夢が膨らんでくる。

「構わんさ。どこだ?」

「ご案内します」

 ギルド長自らが、オレに土地を提供してくださるとは。


「わたしたちは、身分違いの交際をしています」

 歩きながら、ワンダが身の上話を始めた。

 貴族のアーロン卿とは、幼なじみらしい。

「子どもの頃は、身分なんて関係なく、いっしょに遊んでいました」
 しかし、オトナになるにつれて、私たちは距離を感じるようになる。

 ワンダは優秀でもあって、商業ギルドを任される状態になった。

「私はワンダを祝福し、応援しています。誇らしくもあります。が、多忙を極める時は、さみしくもありました」

「アーロン様は男爵様に頼んで、わたしと接触しやすい業務ポストをいただいたのです」
 
 ふむふむ。それで、こっそりデートを繰り返していたわけだな。
 
「ゆくゆくは、本当に結婚したいと思ってました。が、父が許婚をセッティングしてしまうらしく。それで、思い切って父に直談判しようと思いました」

 その話し合いをしていた矢先に、イノシシの襲撃を受けたと。

「あなたのおかげで、ことは穏便に済みました。ワンダも無事で、感謝しきれません」

「そいつはよかった」

 まあ、今後幸せになるかどうかは、二人の関係次第なのだが。

 話をしている間に、現場に到着した。
 
「いいじゃん」

 オレが連れてきてもらったのは、川沿いの広い土地である。平面で、一人用の小屋を建てるには、ちょうどいい。なにより田舎だから、めちゃ静かである。

「ありがとう。気に入ったよ」

「よかったです。お代は、こちらに」

 破格の値段で、ワンダは土地を提供してくれた。

「助けていただいた、お礼です」

 ワンダも、オレに感謝をしたかったらしい。

 
「本当は無料でご提供したいのですが、かえって無礼かと」

「十分だ。ありがとう。世話になる」

 二人と別れて、オレはアイテムボックスを出す。

 さて、と。
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