おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

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最終章 国王、ちきゅうに立つ

第46話 国王、オンステージ

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 なんでも、今日バーで演奏するメンバーの一人が、遅刻するらしい。
 なので、一時的にステージに上がってくれとのこと。このオレに。

「またアイツらね。どうせ寝坊でしょ」

「万博渋滞だって」

「ウソでしょ? 万博で道路なんて、混んでないのよ。寝坊よ寝坊」

 どうやらその演奏家は、あまり信用されていないようだな。

「マジかよ。オレ、一曲しかできねえよ」

「一曲だけでもいいよ。あたいは客の相手しなくちゃだから、演奏できないのよ」
 
 まいったな。

「大丈夫、祖父がついているわ」

 ティナの祖父の眠る、仏壇というホコラを拝む。

「自宅にホコラがあるとは。すごい文化の発達だな」

 民間人が自宅で死者を悼む文化は、オレの世界にもある。としても、家の隅に花を飾るくらいだ。こんな立派なホコラを建てることは、オレの知る限りはない。金持ちでも、写真を飾る程度なはず。

「ソロガスさん、お酒も飲んであげて」

「ああ。ティナを見守っていてくれ」

 オレは、仏壇の前でグラスを傾ける。

「ギターも、聴かせてよ」

 ティナが、壁に立てかけてあったギターを用意した。

「いいのか? オレなんかがステージで演奏しても、騒音になるぞ。迷惑なんじゃ」

「構いはしないわよ。あなたの演奏を、聴かせてほしいってさ。祖父が」

 オレにギターを差し出し、ティナが演奏を促す。

「いい? あたしが教えた曲が、一曲目だから」

「おう。わかった」

 ギターを手にとって、オレは弾き始めた。
 
 オレのギターに合わせて、ティナが歌い出す。

「完璧ね。一曲しか教えていないけど、板についているわね」

「ああ。会う度に孫から急かされてたからな」

「いい家族じゃないの。帰りが待ち遠しくなっちゃったかしら?」

「かもしれん」

 ステージが始まる前に、もう二、三曲教えてもらう。昭和歌謡というものらしい。いわゆる懐メロというヤツだ。

「前より、すんなり覚えられた」

「練習を、怠っていなかったからよ」

 小屋で休んでいるときや登山のとき、練習が習慣になっていたからな。

「ありがとう。帰ったら、孫に聴かせてみるよ」
 
 オレはギターを持って、部屋を出る。

 舞台には、もう結構な数の客が集まっていた。

「ステージなんて、初めてだ」

「その割には、堂々としているわよ」

「普段は、この倍以上の民衆を相手にするからな」

「さすが。なら、プレッシャーはないわね」

「おう」

 あとは、客に満足してもらえる演奏ができるかどうかだ。

 歌手の絵が書かれたボードが、天井から降りてくる。

 描かれている歌手は、スラリとしたドレスを着た女性だった。

 しかし、絵から出てこない。

「どうしたんだ?」

「どうもしないわよ。あれが歌ってくれる子だから」

 歌手は、あの絵なのか。

『みんなーこんにちはー。昭和歌謡系Vチューバーの、御堂筋フォーファーよー』

 うわ、絵が動いた!? 

「なんだあれは? 魔物か?」

「あれはVチューバーよ」

  ぶいちゅーばー?
 
「バーチャル・ユーチューバーと言ってね。なんていうのかしら。動くイラストの形をした、偶像なの」

 偶像のイラストとは。しゃべっているのは生身の人間であり、絵に声を当てているという。
 街なかでも、動く広告などがあって、ティナに色々と紹介してもらったな。

 観客は平然としている。絵の人物と、掛け合いの談笑していた。
 あれは普通に、一般社会で浸透しているのだろう。

『今日ちょっと、メンバー数名が遅刻してんのよね。あんだけ、酒は抑えときや、っていたんやけどねー。言うても聞かへんのよ。なので、急遽ピンチヒッターに来ていただきましたー』

 あいさつを振られたので、慌ててお辞儀をする。
 オレの一張羅は、Tシャツ一枚だけだ。

 が、誰も気にしている様子はない。

『ローガンくんっていうねんて。大きい舞台は、初めてやねんてな?』

 話を振られて、オレはうなずく。

『みんな、応援してね。ほな、一曲目!』 

 演奏の時間が来た。

「一曲だけだぜ」

「ええ。約束よ」

 大衆は、何事かとオレを見ている。
 
 オレはギターに、指をすべらせた。

 ティナのリードの元、オレは必死で演奏をする。

 客はアルコールが入っているものの、音楽の審美眼は心得ているらしい。

 これは、ヘタな演奏はできないぜ。

 Vチューバーというのが、歌い始めた。

 声を聞く度に、ココロの中から何かが沸き立つ気分になっていく。

 その高揚感が、オレの指に伝わって、演奏の力になる。

『みんな、ありがとー。助っ人のお友だちも、どうもありがとー』

 歌い終わると、オレに向けて小さい拍手が。

『演奏スタッフは、あともうちょっと時間がかかるんだって。知ってる曲ばっかり歌うから、もう一曲演奏してくれない?』

 なんというムチャ振り!

 オレは手をブンブンと振って、断る。

 しかし、観客の方からは歓声が。

 えーっ。求められてるってか? 

「いいのかな?」

「いいんじゃない。ソロガス王。お客さんも喜ぶわ」

 ならば、と、オレはギターを握り直す。 

 結局、続けて二、三曲披露した。

 演奏が終わると、観客がオレに拍手を送ってくれる。

 どうにか、楽しんでくれたようだ。

 ミュージシャンが到着したことで、オレの役目は終わり。

 変な汗を拭いつつ、オレはスタッフと交代をする。
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