おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

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最終章 国王、ちきゅうに立つ

第47話 最終話 王の帰還

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「ありがとう。楽しい時間を味わえた」

「もう一曲、弾いてくれてもいいわよ?」

「結構だ。【演奏】スキルなしでの演奏なんて、これが限界だろう」

 これ以上やると、ボロが出ちまう。

「お前さんのオヤジさんにも、あいさつをしておきたかったんだけどな」

「ソロガスさんは、もう父と会ってるわよ?」

「なに?」

「あれ」

 ティナは、Vチューバーなる物体を指差す。

 Vチューバーは、まだ歌っている。

「あのイラストが、アンタのオヤジなのか?」

「あれを描いた人よ」

 ティナの父はイラストレーターで、あのアバターの調節もしているのだそう。

「器用だな」

「歌はうまくなかったけど、こうしてバーを盛り上げてくれているの」
 
 ティナの親子は、うまくやっているようだ。

「すっかり長居してしまったな。とはいえ帰っても、オレを心配してくれる家族はいるんだろうか?」

「いるわよ、きっと。子どもって案外、なんだかんだいって、親を気にかけているものだから」

 だと、いいのだが。
 
「ソロガス、帰る準備はできたわね?」 

「ああ。世話になった」

「よかったら、これを持って帰って」

 アイテムボックスに、こちらの酒瓶を押し込む。

「あとこれも。もう使わないから、使い倒しちゃって」

 ホットサンドメーカーというキャンプ道具を、ティナから譲ってもらった。

「ありがとう。なにからなにまで」

「いいのよ。またあっちの世界で会いましょう」

「それなんだが、あんたらはどうやって、オレたちの世界に来ているんだ?」

「そうねえ。なんといったらいいのかしら」
 
 オレが尋ねると、ティナが言い淀む。

「こっちにも、共通の冒険の書があるのよ。あたしたちにしか発動できないのよ」

「そうか。それは楽しそうだ」

「ええ。またそちらに行くわ」

「待ってる。じゃあな」
 
 オレは、冒険の書を発動した。


 
 
「んあ?」

 どうやら、帰れたようだ。

 しかし、帰還場所がベッドとは。

 夢でも見ていたのか、オレは? 

 たしかに地球とかいう場所は、特殊だった。夢を見るでもないと、たどり着けなさそうなところだったが。

「なんだ?」

 オレのベッドを、妻及び家族や家臣たちが取り囲んでいた。

「おお、ソロガス王が目を覚まされたぞ!」

 大臣が、驚きの声を上げる。

「あなた!」

 妻が、オレの身体を抱きしめた。


「なんだよ、大げさなんだよ」

「なにが大げさなものですか! あなたは、丸一日眠っていらしたんですよ!?」

 そんなに? 

 じゃあ、ティナとの遭遇も、夢だったか。

「なんで、フィオまでそばにいるんだよ?」
 
「ソロガス義兄あに様が目を覚まされないと聞いて、飛んできたのです! 無事でよかった」

 ティナがオレのことを強く抱きしめる。あまりにも力が強すぎるため、家臣の手で引き剥がされた。

「なんでまた、こんなに人が集まってきたんだよ?」

「教皇が亡くなって、すぐですからね」

 どうも、先日教皇ジェアロームが亡くなったことで、オレも弱って後を追ってしまったのではと思われていたらしい。
 
 たしかに、人気者のロスで心労がたたり、病死が相次ぐってのはよくあることのようだが。

「いやいや。オレはまだ、やり残したことがたくさんあるぞ。おいそれと、死ねるかってんだ」
 
 とはいえ、原因不明の昏睡状態は、オレにもよくわからない。

 ひとまず、オレは無事だとみんなに伝えた。

 妻もホッとしている。

 個人的によかったのは、家族全員が心配してくれていたことだ。

 愛娘カロンリーネさえ、涙ぐんでくれるとは。

「すまなかったな。心配をかけて」

「ホントですわ。もうみんな、ずっとそばにおりましたから」

「お前さんは、オレなんかいなくても、独り立ちするもんだと思っていた」

「とんでもありませんわ」

 カロンリーネは、せきを切ったように号泣する。

「たしかに、わたくしは父上のように、男性然とした自立する生き方を求めておりました。ですが、わたくしの命は、父上の上に成り立っているのだと思い知りましたの」

「そうか。カロンリーネ」

「親を気にかけない子どもなんて、おりませんわ」

 ティナと同じことを、カロンリーネに言われた。




 数日後、オレはいつもの避難訓練で、孫にギターを教えている。

「おお、うまいぞ。小さい腕で、よく弾けている」

 あのあと、冒険の書を開いてみたが、やはり【地球】という項目はなかった。当然といえば、当然なんだろうが。

 やはり、あのできごとは、夢だったのかもしれない。

「変な歌を、教えないでくださいね。父上」

「バカ言うない。オレはな、孫に恥をかかせるようなことはしねえっての」

 相変わらず、息子とは話が合わなかった。

 でも、それでいい。なんだかんだいって、息子との距離も最近は近くなっている。

「じい。おとーさまはね、じいが寝込んでいるとき、ずっとわたしの手をつよーくにぎっててくれたんですよ」

 孫から、とっておきの情報をもらう。

「これ、国王に変なことを吹き込まないようにっ」

 息子が愛娘をたしなめるが、孫はキャッキャとハシャぐ。

「さて、パンを焼くとするか」

 酒のつまみに、なにか手頃なサンドイッチを作って……。

「おっ。アハハ」

 オレはアイテムボックスから、ホットサンドメーカーという道具を見つける。

 思わず、笑みがこぼれた。

「父上、それはなんですか?」

「これは、パンを挟んで焼く道具だ。今からうまいハムサンドを作ってやるからな」


 まだまだ世界は、未知なるものに溢れている。

 次は、冒険の書でどこへ行こうか。
 

(おしまい)
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