病弱令嬢は、愛する家族のために呪いの覆面を被って悪役レスラーとなる!

椎名 富比路

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第二章 列車上チェーンデスマッチ

第9話 ダンプとマギアーツ使いとの因縁

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 銀杏婦人ことジネット嬢が、百人組手を達成したという報道が発表された頃……。

『おっと、オーグチ選手、カツ丼を八杯目でダウン! 男女混成大食い対決デスマッチは、一五杯完食した、ハンプティ・ダンプティ選手の勝利です!』

 男性のレスラーを相手に、わたし大食いで勝利する。

『ダンプ選手、今のお気持ちをお聞かせください!』

「感想もなにも、あるかってんだ! 弱すぎんだ! 出直してこい!」

 カツ丼を大量に食べたが、わたしは豪快に相手を突き飛ばした。

『相変わらずのパワーキャラであります、ダンプ選手。試合を繰り返すごとに、身体も大きくなっているような気配も致します』

 たしかにそうだ。
 わたしはダンプの力を開放する度に、肉体もダンプへと近づいている。
 

 今日は、【ノー・フューチャー】で興行をしていた。
 王都の片隅に特設リングを構え、庶民たちにプロレスを披露している。
 いわゆる、路上プロレスだ。

 場所のレンタルと、他団体とのマッチを組んでくれたのは、デーモン・マシマ率いる【マシマ興行】である。

 基本入場無料で、ビールや焼きそばなどの屋台で売上をもらうのだ。
 原産地の材料を使い、現地の人にも働いてもらうことで、土地にお金も回す。

 とはいえプロレスだけだと飽きそうなので、牛相手に綱引きをしたり大食いバトルなどしたりを含めている。

 大きい場所でやろうと思えば、できる。
 しかし、わたしはこれくらいの規模でプロレスをするほうが、スキかも。

 プロレスをバカにしていると笑われそうだが、わたしはそうは思わない。

 青空プロレスは、それこそ古い歴史がある。

 試合を見に行けない庶民向けに、格闘を披露する場所だ。

 人気が出すぎて、プロレスは金持ちだけが見に行ける場所になってしまっている。

 庶民たちは、高い観戦料金を払えない。

 また、王都以外のプロレス団体も、興行を続けられずにいた。試合をする場所を借りられず、大手とマッチを組んでもらえないのだ。

 わたしたち悪役令嬢同盟は、そういう団体の救済者も兼ねている。

 大食いデスマッチの後、アナベルが、他団体のベビーフェイスと戦うことに。 
 
『あっと、アナベル選手、小柄ながら豪快な投げっぷりを披露します。ですが、相手もスープレックスで返す! これはどちらが悪役か、わかりません!』

 素のアナベルは、カワイイ顔をしている。その割に強いため、大人の女性ファンが多い。庇護欲をそそるのだろう。

 とはいえ、そこは悪役。ちゃんと凶器も使う。反則だって。お構いなし。

 青空プロレスと言えど、悪行には手を抜かない。

 他団体の選手が、アナベルの投げによって屋台にふっとばされる。

 この屋台さえ、いわゆる「ブック」だ。はじめから、場外乱闘で壊すために作ってある。

 それでも、観客は悲鳴を上げていた。

 路上プロレスでの乱闘で、観客もヒートアップする。

「いくぞぉ! おらあああ!」
 
 わたしも悪役として、部外者なのに参戦した。
 アナベルと手をつなぎ、ラリアットをぶちかます。

 その後アナベルが選手をリングに引き戻し、フォール勝ち。

『決まった! アナベル・ランペイジ! 前回の銀杏婦人ジネット戦での鬱憤を晴らすかのような、劇的な勝利です! ただ、反則続きの試合内容を、勝利と呼んでいいのでしょうか!?』

 実況アナウンサーが、アナベルを煽る。

 そのアナウンスに過剰反応して、アナベルが場外に乗り込んだ。実況から、マイクを取り上げる。

「いいか、コノヤロウ! これが、あたしのプロレスだ! 前回は遅れを取ったけど、またやり返してやる! 覚悟しておけ、銀杏婦人!」

 アピールをして、アナベルはマイクを投げ捨てた。

 わたしはアナベルを連れて、花道を歩いていく。

「少しは、スカッとした?」

「まだまだね。やはり本人を直接倒さないと、このフラストレーションは解消されそうにないわ」

 打撃系最強と言われている銀杏婦人を相手に、アナベルは善戦した。

 それでも、攻略法が見つからない。

 恐るべきは、マギアーツである。

 最終種目は、荷車を引いての電車ごっこレースだ。

 わたしは認識阻害の包帯型覆面をして、「ダンプのマネージャーA」として荷車を引く。
 
「マギアーツって、どういう経緯で生まれたの? 魔法とカンフーってぜんぜん違うじゃん」

 フィジカルと魔力を両方鍛えるという、矛盾した行為に見えるが。
 
「ヴェスピエ家は元々、武術家の家系だったのよ」

 隣で同じように荷車を引きながら、アナベルが教えてくれた。

「だけど一人、落ちこぼれがいたの。その人物は魔法使いの弟子になって、武術と魔法を掛け合わせることを思いついたのよ。それが、マギアーツと呼ばれているわ」

 今ではマギアーツのほうが強いため、そちらが引き継がれた。

「一朝一夕では、身につかないよね?」

「そうね。幼い頃から魔法の修練もしていないと」

 己の肉体を鍛えるフィジカルと、自然界の力を借りる魔力、どちらとも親和性を高める必要がある。

『マギアーツの歴史は、かなり古いよ。魔王との戦いで、モンクなどの武術家が使っていたとされているんだ』

「くわしいね、ダンプ」

『そりゃそうさ、フロランス。なんたって銀杏婦人のご先祖ヴェスピエは、アタイを封じ込めた、忌々しい奴だからねえ……』
 
 
 ダンプを封じたのは、銀杏婦人の先祖だとか。
 
 勇者についていった熟練者アデプトモンクの末裔だという。
 魔王を倒した当時のモンクより強いのでは、との話だ。

 ダンプの因縁の相手が、世代を超えて歴史を超えて、再びまみえる。
 
 どれだけ、強いのか……。
 
「銀杏が組手をした、最後の相手。イノーバが連れている用心棒は、かつて銀杏婦人のいる道場の門下生だったらしいわ。看板を分けてもらうほど、実力があったそうよ」

 そのメイド長を倒したんだから、大した腕だよね。

 レースは、わたしが勝利した。

 すべての興行が終わり、王都で借りているアジトへ後片付けをしているときである。

「ひゃあ!?」

 もうすぐ道場の前というところで、私が引いていた荷車のタイヤが破壊された。

 壊したのは、大柄の拳法家である。

「お前ら、ノーフューチャーだよな?」

 攻撃してきたのは、冒険者の一団だ。
 
「そうですが?」

 憤慨しながら、わたしは受け答えする。

「ハンプティ・ダンプティを出せ。勝負してやる」

 ああ、コイツら、道場破りか。

 こういった道場破りの類は、女子プロレス団体にも現れる。
 名を上げようとする格闘家や冒険者が、後を絶たない。
 彼らは「レスラーはリング上では、台本がある」と考えているため、リアルな戦闘を求めてリング以外での勝負を申し出てくる。

 そういったヤツらを追い払うため、「用心棒」という役割があるのだ。
 イノーバが連れいていた、メイド長のような。

「まだ、お客さんが残っている状態を襲うとは。いくらなんでもやりすぎでは?」
 
「どうでもいいから、ハンプティ・ダンプティを出せ」

「どうでもよくありませんよ。お客さん、引いているじゃありませんか」

 わたしは、怯えている子どもたちを逃がす。

「悪役風情が、客の心配なんてしてんじゃねえよ」

 荷車を壊した男が、イキった物の言い方をする。

「それよりハンプティ・ダンプティだ。出すのか、出さねえの……ば!?」

 わたしは、発言した冒険者に荷車の破片を叩きつけた。

「客が逃げてるだろ、っていってますよね?」

「こ、このアマ!」

 顔面に荷車を直撃されて、冒険者がキレる。

「やめろ!」

 冒険者の横っ面を、リーダー格の男が殴り飛ばす。

 殴られた冒険者が、白目をむいて仰向けに倒れた。

「出てきませんよ。ダンプ……さんは、どこかでお食事に行かれたのでは?」

「だったら、その店を襲うまでだ」

 どうもこの冒険者たちは、ダンプを襲撃するのが目的のようだ。

「どうして、そこまでダンプさんにこだわるのですか?」

「アイツは! 銀杏婦人と名乗るレスラー、ジネットは! マギアーツを侮辱しているからだ! あんな女に、マギアーツとはこういうものだと世間に触れ回ってほしくない!」

 格闘家が、拳に炎をまとわせる。

 コイツも、マギアーツの使い手か。
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