病弱令嬢は、愛する家族のために呪いの覆面を被って悪役レスラーとなる!

椎名 富比路

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第二章 列車上チェーンデスマッチ

第10話 用心棒

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「ハンプティ・ダンプティには、本物のマギアーツを叩き込まねばならぬ。あんな女子プロレスなんかにマギアーツを持ち込むようなヤツに、本物のマギアーツなど扱えぬ!」

 どうやらこの男性、マギアーツに対してかなり偏った考えを持っているようだ。

「どうしよう、ダンプ?」

 頭には来るが、ダンプの力を借りていいものかどうか。
 
『相手してやりなよ、フロランス。なにか不満でもあるのか?』

「大ありだよ。コイツさ、名前を売りたいだけだよね?」

 要は、ハンプティ・ダンプティを倒したいだけ。
 色々と理由をつけているが、結局のところは、そこへ行き着く。

 格闘家としての信念というより、知名度を優先している。

『なんでそう思うんだい、フロランス?』

「アイツは、本物の格闘家じゃないから」

 本物なら、こんな姑息な手段を選ばず、ちゃんとアポを取る。

 銀杏婦人だって、試合後といえど、事前に宣戦布告をしてきた。
 相手が応じるのを待って、自分の準備もしている。

 なのにコイツは、いきなり押しかけてきた。

『つまり?』

「コイツの目的は、手柄の横取り」

 ご大層な大義名分を語っているが、魂胆は見え見え。

 マギアーツで相手に倒されないうちに、自分が倒してやろうってのが、コイツの目的だろう。

 そんなヤツを、ダンプと戦わせるわけにはいかない。

「認識阻害包帯を巻いたまま、戦うよ」
 
『わかった。まあ、今のアンタなら余裕だろうね』

 コイツには、ダンプではなく、無名の用心棒にやられてもらわなければ。
 
 
「本来マギアーツとは、魔物討伐のために編み出された技なのだ! プロレスなどの格闘ショーで、使う技ではない!」

「お言葉ですが、我々も明日は魔物討伐なのですが?」

「なにぃ!?」

「冒険者さんたちがご存じないとは、申しませんよね?」

 わたしたちレスラーは、冒険者でもあるのだ。男女問わずダンジョンや遺跡などで、増えすぎたモンスターの駆除作業などもやる。
 もちろんこれも、興行に含まれるのだが。
 
「あなたがたのようなチンピラ冒険者と、銀杏婦人を同等に考えないように。見境なく人を襲うような冒険者と、銀杏婦人では、比べるに値しません」
  
「言ったな! まずは貴様から血祭りにあげてくれる!」

 こちらの挑発に、乗ったな。

「やれるものなら、どうぞ」 

 わたしは、リングもない広い場所を選ぶ。

「ロープはなしでいいのか?」

「必要ないので」

 挑発すると、格闘家はさらに苛立ちを見せた。
 
「アンタ一人で、できるわね?」

 アナベルも、なんてことがないように受け答えする。

「ご心配なく」
 
 わたしは、アナベルに視線を向けたまま、相手に手招きをする。

「ゴングは?」

「もう始まってます」

 その挑発が利いたのか、格闘家は突っ込んできた。

「一の型、【焔おろし】!」

 炎をまとった手刀で、水平に首を狙ってくる。

 わたしは、「燃えている方の手」を掴む。

「なあ!?」

 腕を掴まれて、格闘家は驚愕していた。

 こちらも、驚いている。ヤケドすらさせてもらえないことに。

「本当に、鍛えているんですか?」

 用心棒をやってスカッとするのは、「相手に何をやってもいい」ことだ。

 道場破りは、たとえ殺されたとしても、文句を言えない。
「死んでも構わない者だけ、道場破りに挑戦するよう」と、事務所前の誓約書にも書いてある。

 わたしは容赦なく、相手の腕を巻き込んで、へし折った。

「ぎゃああああ!」

 肩から腕を砕かれて、格闘家が悶絶をする。

「プロレスの初歩技なのですが、対処できなかったんですか?」

「おのれ!」

 足に土魔法を絡みつかせて、格闘家が槍を作る。

「死ね!」

 土の槍が、わたしの額を貫きにかかった。

「ふんっ」

 わたしは頭に少し力を入れただけで、頭突きで槍を砕く。

 凶器攻撃より、モロい。

 その足も、わたしはアキレス腱固めで粉砕した。

「ぎいいいいいいいい!」

 これでもう、彼は戦闘不能だろう。

「帰りなさい。もう十分、恥はかいたでしょう」

 まだ悶絶している男のアキレス腱に、わたしは容赦なく蹴りを放つ。

「ひぎゃああああ!」

「婦人を侮辱していた割に、たいした腕ではありませんでしたね」

 もう一度、アキレス腱を蹴ってやった。

「あぐううう!」

 治癒魔法を施してる最中にも、詠唱を止めるために、ノドを踏みつける。

「もうやめろ! 人の心はないのか!?」

 仲間たちが、わたしに静止を呼びかけた。

「あなたたちは、ノー・フューチャーにケンカを売ったのです。それくらいの覚悟で、挑んできたのでは? それとも、ただの冷やかしだったので許してくれとでも?」

 冒険者のこめかみを、グリグリと踏みつける。

 今のわたしは、ダンプではない。ただの用心棒だ。

「用心棒ごときに負けて、よく婦人を悪く言えますね」

 相手の頭を踏みつけながら、さらに罵倒した。 

「誤解なきよう。マギアーツが弱いのではありません。あなたが弱いだけです」

 もっと精神的に、相手を追い込む。

「このまま踏み潰しても、構いませんよね?」

 わたしはさらに、足に力を入れた。

「よせ!」

 仲間が止めに入ろうとしたが、巨大化したアナベルが全員を抑え込む。

 イキった冒険者を寄り付かせない方法は、たった一つしかない。
 相手の心を、徹底的に折ること。
「ここにいたら、殺されてしまうんだ」と思わせなければ、彼らはこれからもウチにちょっかいをかけてくる。

 我々が子どもや年寄りを相手にしていたから、油断していたのだろう。

 本質は、そういう団体ではないと、わからせる。

 然るべき相手には、然るべき対応を取ることが、大事なのだ。

「そのへんにしてやれ」

 最高責任者のオニ太が、わたしを止めに入る。

「はい」

 わたしは、冒険者から足を離す。

「覚えていろ」の言葉でも出てくるかと思いきや、冒険者たちは怯えたまま逃げ出してしまった。

「かなり、ブチギレていたな。ダンプ」

「婦人を侮辱したので」

 対戦相手をコケにするような輩は、叩き潰す。

 自分たちが、リングに上がるわけではないのに。外野は、引っ込んでいてほしい。

「それに、あれでも手加減したので」

 さっきの戦闘で、わたしは一〇分の一の力も出していない。
 
「そのへんの魔物のほうが、まだ強いです」

「アハハハ。たしかにな。イライラ解消ついでに、メシにしよう。ついてこい」

 今日はデーモン・マシマのおごりで、ごちそうが出るという。

 マシマ興行の事業は、プロレスだけではない。
 料理店、インフラ、グッズ販売、ダンジョン運営、本職の魔王業務など、様々である。

 マシマはわたしたちを、自身の運営するホテルに連れて行ってくれた。

「お前たちお嬢様たちなら、アタシの店の料理なんて食べ飽きているだろうけど」

「とんでもありません。魔界特製の料理なんて、めったにお目にかかれませんから」
 
 魔界の郷土料理らしき、【スキヤキ】をいただく。
 タレで煮込んだ肉を、溶いた生卵に浸して食べる料理だ。
 たったそれだけなのに、目玉が飛び出るくらいにうまい。
 お肉を体が欲していたので、余計に美味しく感じる。

「おいしいです」

「これに白米を入れても、うまいぞ。ウチの道場では、普段から出している」

「マネしてみます」

「まあ、かしこまらなくていいよ。ダンプちゃん。ここは個室だし、アンタをダンプだと見破れるやつはいない」

「そうですが」

 魔王相手には、認識阻害魔法など意味がないようだ。

「マシマ、お前さんが教えたいってのは、極上の肉の食い方じゃないだろ?」

 オニ太が仕切りに入って、マシマも「おお、そうだったよ」とこちらに視線を向けた。
 
「ダンプちゃん、マギアーツだったね? アタシがトレーナーになってやろう」
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