一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第一章 一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた

第4話 百姓:百の仕事を持つもの

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 大量の成果を持って、ボクはギルドに帰ってきた。
 
「おかえりなさい。あらあ、魔石もこんなに。ありがとう、ヒューゴくん」

 受け付けのお姉さんが、ボクの持ってきた薬草や魔物の素材を吟味する。

 ボクは薬草採取のついでで、森周辺のモンスターもあらかた片付けた。

 アイテムも、レアが少し集まっている。剣と、ガントレットだ。手甲は、魔力を増強する力が込められていた。
 
「どれも状態がいいわね。魔法戦士って、難しい職業だけあって、いい素材を持って買えてきてくれるのよ」

 武器戦闘術と魔法を同時に操る【魔法戦士】は、強さが平均以上になりづらい。結果、中途半端な能力値になってしまう。
 そのため、アイテムで強化する必要が出てくる。結果、魔法戦士は専門職より【レアドロップ】の確率が高い。

「強い相手と戦うほど、魔物はいいアイテムを落とすの。魔物だって、戦闘の経験を積むから」

「そうなんですね」

 ボクのアイテムは、かなり状態がいいみたい。

 魔物も、ボクとの戦いを、いい経験と思ってくれたんだろうか。

 
 
 その後も修業を兼ねて、魔法戦士としての腕を磨いていった。

「とにかく、【魔法戦士】は誤解の多い職業だ。基本的に覚えるスキルは三つだけでいい」

 基本的な【レインフォース】以外だと、専用スキルの【マナセイバー】、【エンチャント】、遠隔攻撃ができる【ウェーブスラッシュ】があれば十分だという。

「それだけ? 魔法戦士って、魔法も使える戦士でしょ?」

「だが、魔法を覚える必要はほとんどない」

 魔法戦士の誤解とは、「魔法が使える以上、魔法を覚えなくてはいけない」と思い込んでいることだ。

 とにかく魔法戦士は、覚えられるスキルが多すぎる。
 使おうと思えば、魔法使いでも熟練が困難な魔法まで覚えられてしまう。やらなくてもいい魔法の習得に、時間をかけるのだ。

「絞り込んで、一部のスキルだけマスターすればいいのに。彼らは、覚えられるものはすべて覚えようとしてしまう。結果、成長を遅らせる」

 戦士としてのアイデンティティを忘れて、「魔法が使える近接職」を目指す。よって、中途半端な魔法職の出来上がり。

「本来、魔法戦士が目指す先は、『物理で殴る魔法職』だよ。魔法は相手の弱点を突くためにのみ、使用する。メインはあくまでも、物理攻撃だ」

 まず魔力を高めて威力に転換し、相手を殴ることを覚える。

 
「ボクに、そんなセンスはないよ。ただの農民だよ?」
 
「そのとおりだ、ヒューゴ。ぶっちゃけると、キミには冒険者の素質はない」

 あーっ。やっぱりかぁ。

「でも、ふたつ、冒険者にふさわしい要素を持っている」

「たとえば?」

「キミが【百姓】だからさ」

 百姓が、冒険者の素質があるって? 聞いたことないよ、そんなこと。

「ヒューゴ、キミは百姓の意味を知っているか?」

「農民って意味でしょ?」

 ボクが言うと、ボーゲンさんは首を横に振った。

「百姓とはね、『百の仕事を持つ』って意味なのさ」

 畑を耕すだけではない。農具を直したり、ときには武器を持って、領地をパトロールする。

「ワシも、色々学んで、広く浅く見識を深めたかったんだが、純魔ではなあ」

 ボーゲンさんは【純魔】……いわゆる、純粋な魔法使いである。とはいえ、魔法戦士でソロ冒険を夢見たこともあったという。自分で好きに、採取や採掘をできるからだ。

「ほうっておいて、もらえなかったと」
 
「専門職になると、どうしても人とつるむことが増えるからね。それはそれで楽しいんだけど、ワシは違った。一人のほうが、気楽だったのさ」

 そんなものなのか。

「ヒューゴ、キミはまだ若い。色々学んで、吸収していきなよ」

「はい」

 ボーゲンさんは、まだ話していないことがある。
 
「要素の、もうひとつは?」
 
「ワシがコツを教えるんだからな」

 ボクとボーゲンさんは、笑いあった。



 しかし、一週間後、事件が起きる。

 我がハリョール村の領主であるビルイェル伯爵のメイドさんが、冒険者ギルドに現れたのだ。神妙な面持ちで、メイドさんは受付のお姉さんと話している。

「恐れ入ります。私が目を話したスキに、お嬢様がいなくなってしまいました」

 なんでも、村でお買い物に付き合っていたところ、お姫様が迷子になってしまったという。

「……すまんがヒューゴ、今日は一人で修行しろ」
 
「え、いいんですか?」

「構わんさ。ワシも、人探しに付き合うとしよう」

 ボーゲンさんが、珍しくやる気になっている。

「お姉さん、すいません。ボクも、手分けして探します」

 修行なんて、している場合じゃない。

 もし、お嬢様が盗賊に捕まったりしたら、大変だ。

 この村はせいぜいゴブリンが悪さするくらいだが、それでも集落はどれだけ潰しても湧いてくる。魔物とは、そういうものだ。

「メイドさん、写真はありますか」

「ございます。助かりました」

 ボクも写真を見た。姫様の名前は、ソフィーアさんという。

 眼を見張るほど美人なのに、すっごいやんちゃそう。目つきも鋭い。笑ったら、かわいくなりそうなのに。

「ん!?」

 この写真って、ボーゲンさんが見せてくれた写真の、女の子じゃないか。
 どうりで、ボーゲンさんが血眼になっているわけだ。

「行き先に、心当たりはありますか?」

「なんでも、『祖父に弟子ができたらしいから、ぶちのめしに行く』と息巻いておられました」

 うわああ。
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