俺にだけウザ絡みしてくる後輩と、付き合うことになった。

椎名 富比路

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第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。

ウザ後輩と、生徒会 2

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「もうやだ、生徒会長やめる」
 鉄の乙女が、恐ろしことを言う。毎度のことだが。

「誰か、私の代わりに生徒会長してくれないかなぁ?」
 机にほっぺたをくっつけながら、アンズ会長がグチをこぼす。

「無理じゃね? 君に変わる生徒会長なんて、もうOB連れてくるしかないよ。それも三〇代の」
 誠太郎が、もっともな意見を返した。

 山法師高校はそれなりに優等生の集まりなので、いうほど面倒ではない。学校内は心底退屈ではあるが。

「そんなにやりたくないかなぁ? 誠ちゃんもそう思う?」
「アンズさんが自分で勝手に負荷をかけすぎて、ハードモードにしちゃってるだけでしょ。今のグータラモードで毎日いればいいのに」

「ダメよ! グータライフは誠ちゃんだけのものなんだから!」
 バンと机を叩き、アンズ会長が立ち上がる。

「わたしは、学校をより楽しい場として提供したいの! そのためには、生徒会の協力は不可欠だよ! イキリバカ親父が壊したグータラなスクールライフを取り戻そうよ! 時間をムダに消費する時期は、今しかないんだよ!」

 ここまで学業最優先になってしまったのは、斉藤理事のせいだ。つまり、アンズ会長の父親が。
 
 斉藤理事は、「芸術もスポーツも、すべて学問を極めてはじめて効率的に習得できる」と信じて疑わない。
 そんな謎理論につきあわされて、生徒たちがついてくるはずもない。

 結局、お勉強だけしたい生徒ばかりが入ってしまった。

「ウチが他校から、なんて呼ばれてるか知ってる? 『制服のある学習塾』だよ! もう学校として認識されてないの! だったら三年間リモート学習でもやってろっての!」
 テーブルをバシバシ叩きながら、アンズ会長が力説する。

 生徒たちがそれでいいから、余計にツラい。

「リクトくんも、そう思うよね? ね?」
「ま、まあな。前のお気楽な理事長が老衰で死んじまったってのがデカイな」

 去年まで、斉藤理事が就任するまでは楽しかったと聞いていたため、俺と誠太郎はここに入学したのに。

「いいんじゃね? その代わり、学業に専念していれば、外では割と自由にしてOKなんだから」
 そう言いながら、誠太郎はコーヒーを三人分淹れた。

「はーあ、今年も内申点目当てってだけの子が多いなー」
 アンズ会長が落ち込む。

「まあまあ、落ち着きなって」
 誠太郎が、アンズ会長にコーヒーを出す。

「ありがとー。ふにゃああ。おいしいなぁ」
 誠太郎になぐさめられ、アンズ会長の頬が緩んだ。


「お菓子食べる? よいしょっと」
 アンズ会長が、戸棚からフィナンシェを持ってきた。

「はい、リクトくんも」

「ありがとう」
 俺は、会長からフィナンシェを一つもらう。

「ほんとはねー、ネコさんクッキーとか持ってきたいんだー。けど、私のイメージに合わないかもって思って、妥協したの」
 サクサクと、会長はフィナンシェをかじる。

 フィナンシェって「金持ち」って意味だから、イメージで買ったというニュアンスはあながち間違っていない。
 天然で選んでいるのか、計算なのかは分からないが。

「おいしいから好きだよ。アンズさん」
 誠太郎が、アンズ会長の隣に座って頭を撫でた。

「どういたいしまして」
 肩を寄せ合い、二人はイチャイチャし始める。


 そうなのだ。アンズ会長と誠太郎は付き合っている。
 お互いの両親には黙っているが。


「私が今のグータライフを手に入れられたのは、誠ちゃんのおかげだもん。私にこんな一面があったなんて。誠ちゃんは私を癒やしてくれるの」
 モチになって、アンズ会長は誠太郎に抱きついた。

 ぽわわんとしたムードが、生徒会室に充満する。

「俺、帰った方がいいか?」
 さりげなく空気を読み、カバンを掴んで立ち去ろうとした。

「すまんリクト。アンズさんはこうなると長い」
「ふにゃああ。ばいばいリクトくん。妹をかわいがってあげてね」
 アンズ会長が俺に手をふる。

「あ、ああ。じゃあな」
 クルミのコトを妙に意識してしまい、俺はどもってしまう。

「あれえ? どうしたの、リクトくん?」
 俺の動揺を見過ごす、鋼鉄の乙女ではなかった。

「な、なんでもねえよ」

「そうかな? だってずっと、妹のこと見てたじゃん」

 鋭いな、女のカンって!

「気のせいだろ。とにかく今は、誠太郎に癒やしてもらえ」

「はぁい」
 再び鋼鉄のモチになり、アンズ会長は誠太郎にベタベタ甘える。

 これでよし、と。後は帰るだけだ。

 渡り廊下を抜けて、昇降口へ。


「せーんぱい♪」
 一年側の昇降口に、斉藤クルミがいた。



「ひっ!」
 思わず、悲鳴を上げる。


 帰ったものだと油断していた。脂汗がドッと出てくる。


「何があったんスか、先輩? カワイイ悲鳴なんて上げちゃって。怖い思いをしたなら、慰めてあげましょうか?」
 悪びれる様子もなく、クルミは小悪魔的な笑いを浮かべた。


「どうもしねえ。スノコで足を踏み外しただけだ」
 下駄箱からクツをバサッと落とし、上履きを直す。

「動揺しているのがバレバレッスよ」

 先ほどの優等生ぶりはナリを潜め、クルミは確実に獲物を捕らえるハンターの目になっていた。
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