俺にだけウザ絡みしてくる後輩と、付き合うことになった。

椎名 富比路

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第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。

ウザ後輩と、弁当 1

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「どうした、リクト?」
「んあ?」

 昼休みになり、机に突っ伏していると、誠太郎が話しかけてきた。

「別になんでも。早起きして弁当作ってきたから、ちょっとだるいかな」

「チヒロちゃん、幸せもんだなぁ。大好きな兄貴に弁当作ってもらえてさ。毎回、妹がおすそ分けしてもらってるよ」

「お前の妹の方が料理うまいじゃん」

「うむ。今日も妹の手作りだぜ」
 可愛らしくラッピングされた弁当を、誠太郎は惜しげもなく鞄から出す。

 誠太郎の妹は、チヒロとクラスメイトだ。チヒロをアナログゲーム同好会に誘ってきたのも、彼女である。うちの妹と違い、活発的な印象を受けた。


「お前は作ってやらんの?」
「オレは食べる専門だよ。手伝うくらいしかできないかな。こういうのって作ってる人を立てたいじゃん」

 何でもできる器用な男の割に、誠太郎はあまり周囲へひけらかさない。「自分の役割が増えるから」とうそぶいているが、相手を尊重している様子が伺える。

「飯食いに行こうぜ」
「悪い。今日は他のやつと頼む」

「んー? なんでまた」
 案の定、誠太郎が食いついてきた。

 ここまでは、想定通り。

 俺は頭をフル稼働させ、どうにか言い訳を考えた。

「生徒会関連で、後輩から相談を受けたんだ。内輪な話らしくてな。昼飯食いながら話そうぜってなって」 


「オレも話を聞いてやろうか? 生徒会のことだろ?」


「あのな、ココだけの話にしておいてくれ」
 実はなと、俺は誠太郎に耳打ちした。



「お前に惚れてる女子が、話を聞きたがってるんだよ」




 その女子は、親友である俺に話を持ちかけ、どうにか取り持ってもらおうとしている。
 俺はやんわりと断るから、と。

「というワケで、お前が一緒だと不都合なわけよ」

「相談しているトコを、遠目で見ててもいいかい?」

「ダメ。それもダメ。どこで見られるか分からん」

 とにかく、できるだけ傷つけないように断るからと、俺は告げた。

「なんでオレなのかね? お前の方が、絶対モテそうなのにな」
 腰に手を当てて、誠太郎は首を傾げた。

 そういう風に、さりげなく相手に好印象を与えるから、惚れられるんじゃねえか。

「褒め言葉として、受け取っておく。では、ここは俺に任せてくれ」

「じゃあ、誰と食おうかなー」と、誠太郎が顎に手を当てる。

「アンズ会長でいいじゃん」
「学校でベタベタすると、教師にバレるからなー」
「生徒会室を使えばいいだろ。信頼されてるんだし」

「それもそうだな。分かった。じゃあな」

 誠太郎トラップをどうにか切り抜けて、俺は猛ダッシュで屋上へ。

「待ちかねていました! 先輩のお弁当!」
 斉藤クルミが、手をパチパチと叩きながら、俺の弁当を待ちわびる。


「俺は待ってなかったんだな。弁当だけを待っていたと」

「いえいえ! もちろん、先輩をお待ちしていたッス!」
 警察官の敬礼をしながら、クルミは弁解した。

「早く食べさせてほしいッス!」
 取り上げらん勢いで、クルミは包に飛びつく。ゾンビかよ。

「落ち着けって。隠すの大変だったんだからな」

 ここに来るまでにも、ハプニングはあった。

 いかにして、誠太郎の誘いを断るか。「アンズ会長と食ってこいよ」と言わなければ、また付き合わされるところだった。

 弁当箱を二つ持っていった言い訳も、「激烈に腹が減っている」で通す。

「カワイイお弁当箱ッスねー」
 女児向けアニメのキャラクターの顔が、ボックスのフタにプリントされている。

 チヒロが今使っているランチボックスは、細長の二段式だ。

「食べ盛りになり、物足りなくなった」とかで、新調したのである。

 本当の理由は、分かっていた。

 さすがに中学の身で、キャラプリントのボックスなど使えるはずもなく。

「オープン!」
 大げさに、クルミは弁当箱を開けた。

「筑前煮と、高菜を散らした白米! プチトマト。卵焼きは塩派ですかー。いいッスね」
 割り箸を割って、クルミは「いただきます」と手を合わせる。

 箸を二セット持っていると、怪しまれてしまう。
 なので、捨てられる割り箸を用意したのだ。

 弁当箱も、できれば処分できる使い捨てタイプにしたかった。が、そんな便利アイテムは家に置いていない。

 一口一口味見しながら、クルミは俺の弁当を噛みしめる。

「好き嫌いとかないんだな?」
「先輩が作ってくれたんスから、全部食べますよ!」

 そういわれると、照れくさい。

「先輩、あーん」
 箸で摘まんだコロッケを、クルミは俺の口へと運ぼうとした。

 が、俺が食っているのも同じだと気がつき、固まる。


「……は、必要ないですね」
「ああ。まったく同じ中身だからな」

 残念がりながら、クルミは持て余したコロッケを自分で食う。

「このコロッケはセイラマートのお惣菜ですね。ウチのカレーにも入ってましたよ」

 セイラマートとは、俺がクルミと会ったときに立ち寄った、近所のスーパーである。

「えらく庶民的なんだな? カレーライスにスーパーの惣菜を入れるとか」

 斉藤家は金持ちと聞いていた。だから、スーパーのコロッケなんぞ見向きもしないと思っていたが。

「いえいえいウチ、そこまでエラくないので。スーパーくらい普通に行きますよ。別の支店ですが」
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