レアドロップしない男、魔法付与装備を生成できる女スライム魔王に溺愛されて、【レアアイテムを破壊する男】として覚醒!

椎名 富比路

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1-4 ダンジョンの闇を、殴りにいきます

サピィ対アラクネ・クイーン

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「邪魔だって」

 アラクネの大きな臀部が、調査団の一人に向けられる。粘度の高いクモの糸が、調査隊の顔に張り付く。

 隊員は必死にもがくが、アラクネはその糸を引っ張った。

 壁に激突した隊員が、動かなくなる。

「次はあなたー?」

「ひ、ひいいいい!」

 武器を捨てて、隊員が逃げ出す。

 別の隊員に、クモの巣が絡みつく。巣の中で、隊員は銃で引きちぎろうともがく。だが、粘性のある糸は切れない。

 アラクネが、巣の先端にある糸を引っ張る。

「あんたはこっちでね」

 格子状の巣が、調査団をズタズタに切り裂いた。

「次に死にたいやつは、あなたかしらー?」

 今度は、別の調査団にクモの巣が迫ってくる。

「おらあ!」

 俺は調査団の盾になり、剣を振り回して糸を燃やす。

「撤退しろ。状況報告が先だ。ここは俺に任せろ!」

 調査団の生き残りたちには、人命を最優先してもらう。

 彼らを守りつつ、俺はアラクネと対峙した。

「自分からエサになるなんて、殊勝な心がけね。その勇気に応えて、じっくり恐怖を与えてあげるわ」

 相手を見下す笑みを浮かべながら、アラクネは鉤爪を舐める。

「恐怖するのはお前の方だ。魔王とか言ったな? 誰の指示で動いている?」

 イクリプスを構えて、俺は調査隊の逃げ道を作る。

「アタシに勝ったら、教えてあげるわ!」
「そうさせてもらう。おらあ!」

 俺は、黒い炎の光刃を放つ。さっきの格闘家すら両断した技である。

 アラクネは、避ける気配がない。それどころか、クモの巣で自身を囲んでバリアを張った。

「なにいい!?」

 光刃が、クモの巣に阻まれてしまう。どれだけの防御力なんだ?

「お気をつけくだされ。相手はグレーターデーモンクラスまで強化されていますぞ」
 
 シーデーが、相手の戦力を分析した。 

「俺一人では、逆立ちしても勝てない相手だな」

 グレーターデーモンクラスか。歴戦のハンターですら逃げ出すほどの大物じゃないか。最善策が「気づかれる前に逃げる」しかない。


「今度は、こちらの番ね!」

 クモの糸が、今度は俺に放たれる。
 粘り気のある糸が、俺の手を塞ぐ。

 そのまま押し出され、剣が壁を貫いてしまった。
 剣を力任せに引っ張る。が、壁に深く突き刺さっていて抜けない。

「アハハハ! 剣を持っているからどうなるかと思ったら、アナタはド素人ね。剣術を扱えないのに武器で戦うの?」

 たしかに、俺は剣での戦闘方法を学んでいない。
 今の攻撃でも、パリィなどのジャストガードで弾くのだろう。
 しかし、そこまで頭が回らなかった。

「フン。壁に剣がくっついただけだ」
「何を強がっちゃって」
「どうかな【ファイアーウォール】。おらあ!」

 魔法で壁の穴だけを執拗に燃やし、剣を強引に引っこ抜く。剣が壁から出てこないなら、壁を炎で焼き尽くすのみだ。

「む!? 強引ね。でも、悪くないわ」

 最初は驚いていたが、アラクネは冷静さを取り戻す。

 剣を再び振っても、また同じように粘液を飛ばされるだろう。なら、戦法を変えるか。

「おらおら、【セルフバーニング】!」

 俺の周囲を、【ファイアーウォール】に使った炎が渦を巻く。俺は剣を媒介に、自身の周辺を炎で囲んだ。

「ふーん。全身に炎をまとって、糸対策か。いくら頑丈でも、しょせんは繊維質。火には敵わない。考えたわね。でもよくもない」
「なんだと?」
「魔力切れを待てば済むことよ!」

 アラクネが、両手の長い爪を振り回した。

 二対一の攻撃により、俺は防ぐだけで精一杯になる。

 アラクネの武器は、鉤爪の腕だけじゃない。多脚による踏みつけも脅威だ。あんな槍のような脚先に踏まれたら、腹に穴が開く。

 一発が重い。近距離戦で一気に叩くべしと考えたが、甘かった。スピードもあり、六つある目のせいで全方位にスキもない。

 ダイヤの自己治癒能力も、追いつかない。さすが、黒虎格闘家すら手に負えない大ボスだ。これほどとは。

 下アゴから、アラクネが緑色の液体を吐き出す。

「わっと!」

 俺は身をかわした。

 液体が、岩場に付着する。岩が煙を上げて、溶け出した。強力な酸か。

 マントに、毒液がかすった。
 トパーズの反射能力を持ってしても、毒はマントを突き抜けてくる。
 反射はしたようだが、アラクネには効果が薄い。元々毒に耐性が強いみたいだ。

「アタシの腹の中で、ゆっくり溶かしてやるわよ!」
「それはどうかな? サピィ!」

 アラクネは忘れている。俺にはまだ他に、仲間がいることを。

「後ろにいる女の子のこと?」

 だが、アラクネはサピィの存在に気づいていたらしい。
 サピィに向かって、相手を細切れにする糸が射出された。

「サピィ!?」
「ご安心を!」

 武装を解除し、無防備になったサピィが、格子状の巣に捕まってしまう。

「アハハハ! バラバラになりなさい!」

 アラクネが、巣を引き絞る。

「それはどうでしょう」

 サピィの身体がバラバラになった……ように見えた。

 しかし、サピィは元のスライムへと変化する。

「ちいい! こしゃくな!」

 ムキになりながら、アラクネは再び糸を撒き散らす。

 分離したまま、サピィは巣の隙間をすり抜けていった。
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