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1-6 最強の敵を、殴りに行きます

豹変した友:サピィサイド

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 サピロスは、シーデーの腕で目を覚ます。
 今は、城下町の屋根を伝ってジェンマから逃げている。

「あっ、シーデー、サピィが目覚めたぞ!」

 背後では、トウコ氏がグレース氏たちを避難誘導していた。

 まだ、ジェンマが追いかけてくる。

「ありがとうシーデー。もう大丈夫です。トウコさんの側にいてあげて」

 シーデーとサピロスは、二手に別れた。

 変わり果てた友を、討たねば。

 被害の出ない手頃な空き地に降り立ち、再びジェンマを迎え撃つ。

 分身したサピロスの破壊光線を、ジェンマは居合斬りで霧散した。

「加勢に入ってもらわずともいいのか?」

 撃ち合いながら、ジェンマが挑発してくる。

「今のあなたなら、あの人たちを人質に取りかねない!」
「合理的な判断だ!」

 ジェンマが、ローブを翻す。

 途端、サピロスは即座に背後へ下がった。

 しかし、間に合っていない。脇腹が、パックリと開いている。

「く!」

 サピロスが、膝を落とす。

 たしかに、サピロスはまだジェンマの魔法攻撃から回復していない。

 が、今の攻撃はまったく意図していなかった角度から飛んできた。

「ククク、弱くなったなサピロス! いや、私が新たな力を得たからか……」

 ジェンマの背後から、なにか昆虫の足のような細い物体が生えている。

 もしや……。

「……あなた、本当は誰なのですか?」

「ふん、私は、ジェンマ・ダミアーニだ。『今は私が』、な」

 サピィの疑問に、ジェンマはニヤリとした笑みを顔に貼り付けた。

 明らかに、自分の知っているジェンマの姿ではない。やけに表情が、機械的なのだ。

「あなたは、ジェンマではありませんね? 何者です!?」
「さあ、な。だが、我とともに来れば、友ジェンマと同じ所へ送ってやろう」

 ドラゴンローブを、サピィに近づける。

「それは!」
「ああ。さっきブティックから『奪還』した」

 ブティックに飾ってあった、アーティファクトだったはず。

「この装備は、店などに飾る代物ではない。われとともに、世界を統べるオミナス。我々オミナスは、この世界すべての人類と入れ替わるのだ」
「そうですか。父から聞いたことがあります。あなたがたオミナスは、元々魔族だったと」


『左様。我らは、魔族共の生贄にされたのだ!』

 語ったのは、ジェンマの持つ杖だった。ジェンマの手を借りず、ひとりでに立つ。

 オミナスとは、「装備品と魔族を融合させた、特殊なレアアイテム」である。意思のある物質として開発された。主に下級の魔族から選出され、実験体になった過去を持つ。

「だが、悪いことばかりではなかった。オミナスは、人の魂を乗っ取る呪いを持つのだ。この呪いをもって、我々は魔族共に復讐する! 我々を道具として利用しようとした魔族共を!」

 ジェンマから、ジェンマとは違う意識の憎悪が溢れ出す。

 もう、自分の知っているジェンマは彼女に殺されたのだろう。
 魂を喰われて、魔族ですらなくなったのかもしれなかった。

「だから次々とオミナスを開放して、人を操ろうと」
「そうだ。貴様もいずれ、我らと同じになる。ギヤマンは察知し、我々の協力を拒んだ」
「なるほど。我々スライム族は、レアに頼らずとも装備を作ることができる」

 だから、スライム族の親玉である父ギヤマンが狙われたのか。

「だが、その恐怖に怯えることもない! 我々に対抗する装備品を作っていたらしいが、それももう終わり。サピロス・フォザーギルは、これより我が手に落ちるのだ!」

 ジェンマが、杖に手をかける。仕込み杖を抜き、白い光刃をサピロスに向けた。

「やれ、オミナスの同志よ。人々を混沌の海へ鎮めよ!」

 サピロスは逃れようとする。しかし、思っていたより深手を負ったようだ。
 

「そうはいくか、おらああ!」


 ジェンマの胴体が、杖もろとも真っ二つにされた。


「今のは、ランバートの技ですか?」
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