レアドロップしない男、魔法付与装備を生成できる女スライム魔王に溺愛されて、【レアアイテムを破壊する男】として覚醒!

椎名 富比路

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第三部 災厄の塔に棲む堕天使 3-1 塔を支配した堕天使を、殴りに行きます

ダークエルフのビョルン

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 俺たちは、災厄の塔へ戻ってきた。

「ギルドには寄らなくていいのか?」

 ビョルンは「いいんだよ」と返す。

「今はもうギルドすらまともに機能してないんだ。χに、この塔だろ? よくヒューコがもったもんだと思うよ」

 それだけ、ヒューコは混乱を極めていたらしい。

「少なくとも、エルトリの混乱を鎮めたのですが?」
「今はもっとヤバイことが起きているんだ。そっちを片付けたら、話くらいは聞いてもらえるかもな」

 今は、確認をしてくれる係員すらいない状態らしい。

χカイの残党狩り、災厄の塔の異変に、内乱だ。ここ最近のヒューコはてんてこ舞いなんだよ」

 なので、事態の収束をしてからでいいという。

「あなたはこの塔に、どういった要件で?」
「いやあ。単に、私用で通りかかっただけなんだ。オイラは、オッサンに助けてもらったんだよ。ソロでも、どうにかなるんだが」

 そこで俺たちは、まだ自己紹介すらしていなかったことを思い出す。
 ビョルンに、それぞれ名乗る。

「改めて。オイラはビョルンだ。『死の口づけのビョルン』ってんだ」

 再び、ビョルンはカーテシーを決めた。

「死の口づけ、マフィアなどの粛清を意味する言葉ですね?」
「そのとおり。オイラは、マフィアなんかとは絡んでないけどねっ」

 くせっ毛のショートヘアを振り、ビョルンは先頭を歩く。

「ごらんの通り、種族はダークエルフさ。レベルは六〇。職業は本業が【踊り子】、副業が【スカウト】だよっ」

 その組み合わせだと、上級職は……。

 しばらく歩いていると、また敵の気配が。

「右の方角から、三体ほど来ています」

 シーデーが、右方向を確認した。

 曲がり角からスケルトンが三体、姿を表す。前衛の二体は剣と盾を構えている。後衛の遺体は、アサルトライフルで武装していた。

 指マシンガンを構えようとする。

 だが、「待ってて」と、ビョルンが止めた。

「オイラの力を見せてやるよ」

 腰のポーチ型アイテムボックスからカードを取り出す。トランプのような形状の薄いカードが、ビョルンの魔力を吸った。ウニョウニョと音を立てて、カードからモンスターが出てくる。

「行け、『わたまり』。オイラたちを警備しろ」

 一体は、コボルドの女性だ。
 白いアフロヘアのツインテールを携えた、個性的なファッションである。
 手足首にも同様のモフモフがあり、プードルのようだ。
 アフロに包まれたグローブで、スケルトンの頭を殴っている。
 ボクシングの心得があるようで、相手の盾によるガードをすり抜けてアッパーで倒した。

 もう一体の魔物は、アルマジロだ。宙に浮いている。

「お前もだ。『まじろう』。ぶっとばせ」

 浮かびながら丸まって、スケルトンに体当たりをする。シールドを、スケルトンごと壊す。
 後方のスケルトンが、アルマジロに向けて射撃した。しかし、アルマジロは丸まったまま、銃弾を弾く。

 そのスキに、プードルのコボルドがパンチでスケルトンを砕いた。

 キュートな顔つきをしているのに、両魔物とも攻撃力が侮れない。

「【幻魔召喚】だな。するとお前は、【奇術師コンジャラー】か?」
「うん、そうだよ」

 またモンスターを操って、群がるスケルトンたちを殴り飛ばす。

「上級職だろうと思っていたが、召喚系の魔法使い職だったか」

 だとしたら、ソロでも大丈夫そうだ。

「なあなあ、【コンジャラー】って、なんだ?」

 トウコが、話しかけてきた。自分のビルドを覚えるのが精一杯で、トウコはハンタービルドについての知識がほとんどない。

 ハンターは職業もビルドもたくさんあるから、覚えていられないのは仕方がないのだが。

「手品師のことです。【アルカナ】というトランプのようなカードを使って、精霊型の魔物を呼び出して使役する魔法使いです。わたしやランバートが攻撃魔法主体なのに対し、支援魔法もこなします」

 トウコの質問に、サピィが答える。

「うちのユキオと違うのか?」
「幻の魔物なので、人を乗せて運んだりはできません。その代わり、敵に攻撃を通せます」

 乗ることができる召喚獣とは違い、こちらは攻撃・防御が可能だ。だから、ソロでも回れるのか。

「スカウトって、魔法も使えるのか?」
「使えます。シーフのような鍵開けや、トラップ解除を魔法で行うのですよ」
「ほえー」

 トウコは、感心した。

「オイラはスカウトもやっていたから、この道に一番詳しいんだ。ルエ・ゾンに、『内部の動乱について、確認してこい』って言われてさ」
「護衛もつけずに、探索をなさっていたのですか?」

 いくら幻魔召喚を持っているからといって、この塔をソロで攻略とは恐れ入る。

「そうさ。ヒューコの兵隊さんは、偉そうでキライだ。ハンターも利己的だもん」

 ヒューコに限らず、ハンターは二つの勢力に分かれていた。
 ダンジョンを攻略して、世界を安定させようとする『攻略勢』と、お宝にしか興味を示さない『トレハン勢』だ。

 おそらくビョルンは、前者にあたるのだろう。

「なにかといえば、『分け前よこせ!』さ。やんなっちゃうよ」

 彼がソロで活動する理由が、なんとなくわかった。

「たしか、この塔の推奨レベルは、一五から二〇だ。それにしては、やけに敵が強くなっていないか?」

 レベルは二〇でも、十分に達人レベルである。
 サピィのような魔王がいるから、錯覚してしまいそうだが。

「その原因を突き止めるために、オイラが呼ばれたのさ」

 ルエ・ゾンから、直接依頼を受けるほどだ。
 相当に腕が立つのだろう。
 こんな低レベルでさえ、生き延びたのだから。

「でなんだけどさ、すごい装備を持っているね?」
「フィーンド・ジュエルか」
「それそれ。ヒューコでも話題になっているんだ。トレハンするより買ったほうが強くなるじゃんってんで、トレハン勢の一部が乗り換えちゃった」

 そこまで、ジュエル装備は強いのか。
 本格的な感想などは聞いていなかったから、感覚がマヒしていた。
 もうレアアイテム掘りに勤しむ必要がないと思うと、うれしくもあり寂しくもある。

「なんでしたら、お分けしましょう」
「マジで? サンキュ! でも、いいのかい? 大事なモンだろ?」
「いえいえ。道案内のお礼ですよ」

 ビョルンはサピィから、拳銃を受けとった。

 試し撃ちとして、ビョルンは犬型の魔物【ヘルハウンド】を単独で相手にする。
 すばしっこい四足歩行の魔物を、いとも簡単に仕留めた。

「めっちゃ軽いな。おまけにすごい魔力だ。攻撃力が高いのに、出力は押さえられている。なんでもブッ飛ばせそうだ」
「一応、自分でも戦えるんだな?」
「ああ。護身用程度だけどね」

 護身術だけで、四〇匹もいたヘルハウンドは倒せないと思うが……。

「あ、そうだ。いただいてばかりじゃ悪いな」

 申し訳ないという気持ちになったのか、ビョルンはハンターカードを差し出す。買い取ろうとしたのだ。

「結構です。試作品ですから。あと、よろしければこちらも」

 体力増強効果のあるチョッキを、ビョルンは着た。
 トウコ用の余りである。
 他にも、ホルスター付きのベルトを身につけた。
 こちらは魔力回復の効果がある。

「マジでありがとう。道案内だけじゃ割に合わねえや。そうだなぁ、ヒマしてるノームがいるから、そいつに回してやってくれよ。あんたんとこの商品を買わせて、高値で売ってやらあ」
「ありがたいことです。ちょうど、店を探していたところでしたから」

 これで、商談成立だ。まさか、ヒューコでも商売のあてができるとは。

 それにしても、顔が広いな。ビョルンは。

「目標はすぐそこ……待って!」

 ビョルンが、物陰に隠れるように指示を出す。

「どうした?」
「スタンピードを起こした奴らが、ここを確かめに来た!」

 小声で、ビョルンが俺たちに伝えてきた。
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