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4-3 友を探して、殴りに行きます
【ビヨンド・オブ・ワースト】界の汚物
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龍の背骨に戻った俺たちは、また魔物のラッシュに囲まれていた。
ルダニムの補強と、こちらの素材集めも兼ねている。
だが、そうのんびりもしていられない。
サピィとシーデーが手分けして、クリムの足取りを追ってくれていた。
「ランバート、クリム氏が使用したと見られる裏道を発見しました」
壁を撫でながら、サピィが俺たちを呼ぶ。壁の隙間に、隠し扉のスイッチを発見したらしい。魔術でなければ開かないタイプである。マギ・マンサーのスキルを持つサピィがいなければ、見つけられなかった。
「ふわー。よかったぞ。このままセグメント・ゼロに骨を埋める勢いだったぞ」
トウコが、一息つく。携行食のスナックを、ひとかじり。
「ああ、オカンの鍋が恋しいぞ。グレースのスパゲティでもいいー」
もう丸一日、ダンジョンを攻略していた。
他のハンターたちに先を越されると思っていたが、いたるところにハンターの死体が転がっている。ロクな準備もせずにクリム捜索に向かうから、龍の背骨から押し寄せる魔物に殺されたのだ。
回収すべきなんだろうが、そこまでは俺の仕事ではない。ギルドのキンバリーに報告するだけにした。
「死んでいる中には、セイクリッド族までいるわね」
フェリシアが、アンドロイドの死体を調べる。
「焦り過ぎなんだ。急がば回れって言うじゃん」
トウコが、ため息をつく。
「そこが妙なのよ。セイクリッドが、こんなザコ相手に……っ!」
フェリシアとトウコが、同時に飛び退いた。
セイクリッド族の死体が、床ごと粉々に砕け散る。
「急に死体が、動きだしたぞ!」
「なんなのよ、コイツは!?」
驚くトウコとフェリシアをかばい、俺たちは身構えた。
二人がさっきまでいた場所が、えぐれている。
「暗闇に紛れて、わからなかったわ」
「趣味が悪いオッサンだぞ!」
頭をポリポリとかきながら、暗闇の中から中年の男性が現れた。ハンターのようだ。
「あらま。よけられちゃったってか? アンドロイドさえ出し抜く、隠密スキルだってのに」
口調からして、まるで緊張感のない男である。だが、ただものではない。
「何者だ? χだな?」
コイツは、以前戦った「【陽炎】のカワラザキ」とかいうサムライに、雰囲気がそっくりなのだ。性格はまるっきり正反対だが。
「あー、わかっちゃった? まあ、幽霊社員なんだけどさ。ボクは【蛇蝎】。名前は……忘れちゃった」
蛇蝎と名乗る男は、のんきに笑う。
「ランバート、気をつけて。彼は、王クラスの魔王です! あなたの本当の名前は、虚弱公。スケルトンロードのヴィーサ・マウコネンです。ハンターの皮膚を使って変装しても、わたしにはわかるんですから!」
サピィが、【蛇蝎】を指差す。
「おっ。さすがビヨンド・オブ・ワーストってわけ?」
ケラケラと笑いながら、虚弱公と呼ばれた魔王はアゴを外した。
「なにものなんだ、コイツは?」
「魔物から魔王になった存在【ビヨンド・オブ・ワースト】の中で、もっとも危険な存在です。人が争うのを好みます。魔族どころか、すべての魔物からも嫌われていました」
不愉快そうに、サピィは虚弱公の解説をする。
「そのとおり。かつてボクは、虚弱公って呼ばれていた男だ。魔王も仲間からクビになったんだけどね」
「どうして、χになんか」
「受け入れ先が、そこしかなかったからさ。お腹すいちゃって、仲間まで食べちゃったのがバレてさ、魔王の座を追われちゃった」
語尾にハートマークを付けそうなノリで語りながら、虚弱公が顔の皮膚をペリペリと剥がす。
「ハンターを装って教えてあげた甲斐が、あったってもんだよ。彼らも、血と危険に飢えている。オミナスを与えてあげたら、そりゃあ殺し合ってくれたよ!」
当時のことを思い出しているのか、虚弱公は急に笑い出した。
「同じビヨンド・オブ・ワーストとして、あなたの存在は汚物です。あなたはフラフラと、戦況が大きくなる方へと向かう」
「なにがいけない?」
虚弱公の口調は、まったく悪びれていない。
「ボクたちアンデッドは、戦争がなかったら生きられない。魂を食って生きてるからね。いやあゴチソウだらけだよ、ここは。キミたちも、ボクのエサになればいいんだ!」
ルダニムの補強と、こちらの素材集めも兼ねている。
だが、そうのんびりもしていられない。
サピィとシーデーが手分けして、クリムの足取りを追ってくれていた。
「ランバート、クリム氏が使用したと見られる裏道を発見しました」
壁を撫でながら、サピィが俺たちを呼ぶ。壁の隙間に、隠し扉のスイッチを発見したらしい。魔術でなければ開かないタイプである。マギ・マンサーのスキルを持つサピィがいなければ、見つけられなかった。
「ふわー。よかったぞ。このままセグメント・ゼロに骨を埋める勢いだったぞ」
トウコが、一息つく。携行食のスナックを、ひとかじり。
「ああ、オカンの鍋が恋しいぞ。グレースのスパゲティでもいいー」
もう丸一日、ダンジョンを攻略していた。
他のハンターたちに先を越されると思っていたが、いたるところにハンターの死体が転がっている。ロクな準備もせずにクリム捜索に向かうから、龍の背骨から押し寄せる魔物に殺されたのだ。
回収すべきなんだろうが、そこまでは俺の仕事ではない。ギルドのキンバリーに報告するだけにした。
「死んでいる中には、セイクリッド族までいるわね」
フェリシアが、アンドロイドの死体を調べる。
「焦り過ぎなんだ。急がば回れって言うじゃん」
トウコが、ため息をつく。
「そこが妙なのよ。セイクリッドが、こんなザコ相手に……っ!」
フェリシアとトウコが、同時に飛び退いた。
セイクリッド族の死体が、床ごと粉々に砕け散る。
「急に死体が、動きだしたぞ!」
「なんなのよ、コイツは!?」
驚くトウコとフェリシアをかばい、俺たちは身構えた。
二人がさっきまでいた場所が、えぐれている。
「暗闇に紛れて、わからなかったわ」
「趣味が悪いオッサンだぞ!」
頭をポリポリとかきながら、暗闇の中から中年の男性が現れた。ハンターのようだ。
「あらま。よけられちゃったってか? アンドロイドさえ出し抜く、隠密スキルだってのに」
口調からして、まるで緊張感のない男である。だが、ただものではない。
「何者だ? χだな?」
コイツは、以前戦った「【陽炎】のカワラザキ」とかいうサムライに、雰囲気がそっくりなのだ。性格はまるっきり正反対だが。
「あー、わかっちゃった? まあ、幽霊社員なんだけどさ。ボクは【蛇蝎】。名前は……忘れちゃった」
蛇蝎と名乗る男は、のんきに笑う。
「ランバート、気をつけて。彼は、王クラスの魔王です! あなたの本当の名前は、虚弱公。スケルトンロードのヴィーサ・マウコネンです。ハンターの皮膚を使って変装しても、わたしにはわかるんですから!」
サピィが、【蛇蝎】を指差す。
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不愉快そうに、サピィは虚弱公の解説をする。
「そのとおり。かつてボクは、虚弱公って呼ばれていた男だ。魔王も仲間からクビになったんだけどね」
「どうして、χになんか」
「受け入れ先が、そこしかなかったからさ。お腹すいちゃって、仲間まで食べちゃったのがバレてさ、魔王の座を追われちゃった」
語尾にハートマークを付けそうなノリで語りながら、虚弱公が顔の皮膚をペリペリと剥がす。
「ハンターを装って教えてあげた甲斐が、あったってもんだよ。彼らも、血と危険に飢えている。オミナスを与えてあげたら、そりゃあ殺し合ってくれたよ!」
当時のことを思い出しているのか、虚弱公は急に笑い出した。
「同じビヨンド・オブ・ワーストとして、あなたの存在は汚物です。あなたはフラフラと、戦況が大きくなる方へと向かう」
「なにがいけない?」
虚弱公の口調は、まったく悪びれていない。
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