世界にダンジョンができたせいでセミリタイアに失敗した男、冒険者になって無双

椎名 富比路

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第五章 FIRE失敗民、最後の戦い!?

第55話 ゲーマーとして

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 ムルルの行動原理は、「推しが幸せなら、いくらでも他人を利用しても構わない」って心理だ。
 他人が傷つこうが死のうが、推しのためなら「殉死」に値すると、ホンキで考えている。

 コイツは最大の部下にして、最悪の仕掛け人だ。

 今ここで倒さなければ、また多くの犠牲者が生まれる。

「ヒガンもどき。アンタもアタイのために死んで!」

 デコった爪の攻撃が、本格化してきた。殺意の上に、ベリトへの信仰が上乗せされたかのような。

「人を殺るのが、そんなに楽しいか?」

「アタイたちにとって、人間なんて獲物でしかない。狩られるために存在する相手に、情も何もないさ」

 虫を殺す感覚かよ。

 二刀流にして、攻撃性を上げておいてよかった。

 久しく忘れていたな。このギリギリの攻防は。

 ヒガンのデータと戦ったときより、緊迫感がある。

 露骨に殺意を向けられたのって、PVPがあるゲーム以来だな。あのときも、アンチを妨害するオレのプレイに不満を持ったプレイヤーが、攻撃してきたんだっけ。返り討ちにしたけど、処罰は運営に任せた。

 今回は、オレが処理しなければならない。

「うお!?」

 とはいえ、一人ではやっぱりキツいな。

「ゲッフ!?」

 キックを受け損なって、側頭に蹴りを食らう。

「甘いんだよ!」

 側転からのあびせ蹴りを、繰り出そうとした。

 オレはスライディングで、軸となっている腕を蹴飛ばす。ムルルの腹に、ナイフを突き立てた。

 だが、ナイフをさせた程度である。

「んなろう! 殺してやる!」

 ムルルが、ナイフを握りつぶした。相手も、本気になったようだ。

 こちらは武器を、一つ失った。ロングソードを逆手に持ち、もう一つの手で柄を握り込む。

『ミツルさん、応援を送りました。持ちこたえてください』

 運営から、連絡が来た。冒険者ギルドにとっても、ムルルの存在は災害レベルの事項らしいな。
 
「結構だ! オレ一人でやる!」

 ムルルの猛攻に耐えながら、オレはギルドに返答した。

『ミツル!? アンタだけの問題じゃないのよ!?』

「わかってるさ、マリエ!」

 コイツのレベルは、ゲームで言うとラスボスの側近程度である。パーティを組んだほうが、効率はいいだろう。
 しかし、それではベリトに手が届かない。
 ここで一人で、コイツを倒せるレベルないと、ベリトには届かない気がするんだ。

 なにもロニやオーゼ、キナ子を安心させたいってわけじゃない。
 オレ一人が犠牲になればいいなんていう、崇高な動機でもなかった。

 ただの、ゲーマーとしてのワガママである。

「どうやって倒すか」、今のオレは、それしか考えていない。

 苦戦はしているが、それだけの相手でしかないってことだ。

 志のない、他責思考の相手なんて、こんな評価である。
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