上 下
26 / 62
第三章 領土拡大と、崖の下の難関ダンジョン

第26話 第一村人転送

しおりを挟む
 危なげなく、港町への道を進んでいく。

 半魚人などの、新しいモンスターが出現した。しかし、大ピンチといった様子はない。

 ドリスさんを助けたときのように、魔物に追われている馬車も通りかからなかった。

「旅の人、ちょっといいか?」

 ヒゲの中年男性が、すれ違いざまにオレたちへ声をかけてくる。

「どうした?」
「アンファンってのは、あっちかい?」
「ああ。道沿いに行けば二日でたどり着く」
「ありがとう。街に入っても、仕事はありそうかい?」

 彼は、引退した冒険者だという。

「向こうで新天地を見つけて開拓するか、手頃な家を見つけて隠居するか、迷っている。なにか面白そうな場所はないか?」
「だったら、オレたちの領土を広げてみるか?」

 オレは男性を、村まで転送した。

「ほほーう。こんな場所があったとは」
「いらっしゃい、旅の人。どうしたのかね?」

 男性は事情を話す。彼はそれなりに、名のある冒険者だったらしい。ダンジョンに潜っては宝を探していたという。

「ところが、仲間が軒並み引退してしまって。家庭を持った者、隠居した者ばかりになってしまって、一人モンの俺は、冒険を続けられなくなった」
「若手と組むっ手も、あったんじゃないか?」

 オレが聞くと、男性は首を振った。

「いやあ。若い衆にオレなんかがついていっても、説教垂れるだけさ。好きにやらせたい。俺だって、そうだったからさ」

 彼も、相当なヤンチャだったようである。

「で、もう潮時かなって思って、こちらにお邪魔したわけだ」
「わかりました。この村でみんなと働くか、クニミツ殿の領地を広げて住まうか、どちらかを選んでいただくが?」
「領土か。俺に務まるだろうか」

 男性は、アゴのヒゲをさすった。

「やってみなきゃ、わからんだろ」
「それもそうか! よし。よろしく頼む」

 オレは、男性を握手を交わす。

「ここがオレたちの領土だ」

 広大な土地を見せる。

「ひえええ。広いな。さっそく木を切らせてもらっていいかな?」
「ああ。どうぞ。家は、自分で建ててくれ。あっちはオレたちの家だ。鍵がかかっているし、オレたちもこっちに毎日転送ポータルで立ち寄る。勝手には、入れないぜ」
「構わないさ。いやあ、木こり仕事なんて久しいな」

 武器だった斧を伐採道具にして、男性は木を切り始めた。

 腕をまくると、痛々しい傷が。

「引退のきっかけになった事件でもあった?」

 気になったのか、モモコが尋ねる。 

「仲間の一人がダンジョンで死んだのが、こたえちまったらしくて」

 ヒゲの男性より歳上のエルフ忍者が、ダンジョンのモンスターにやられたという。

「どこにあるダンジョン? 参考までに聞いておきたい」
「港町ワントープだ」

 オレたちは、ワントープと聞いて戦慄した。

「どうした?」

 男性が、伐採作業を止める。オレたちの表情が変わったのが、ひっかかったか。

「実は、目的地がそこなんだ」
「おお、そうか。ダンジョンに潜るときは、気をつけろよ。あそこは、変なところにつながっている。オレたちも、必死で逃げてきたんだ。忍者の蘇生を考える余裕さえなかった」

 男性は、死体を置いて逃走したのを、未だに悔やんでいるという。

「わかった。肝に銘じておこう」

 木こりとなった元冒険者を置いて、オレたちは再度旅を続ける。一度開いたポータルから、男性と出会った場所まで戻る。

「今の話を聞いていると、あそこは『世界の裏側』と繋がっているモジャ」

 モモコのアイテムボックスから、ウニボーが顔を出す。

「ワントープに行く、新たな目的ができた」

 ウニボーの頭をなでながら、モモコはマジメな表情になる。

「ボクの両親に会うだけじゃ、済まなくなっちゃったわね」
「暗黒の気配が濃くなっているなら、向かわねば」

 ピエラとルイも、ダンジョンの浄化に協力してくれるようだ。
しおりを挟む

処理中です...