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第二章 後輩女子と、ブヒる姫
予習復習で、ブヒる姫
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放課後、俺は音更さんと部室で勉強をする。オレは英語の長文を、音更さんは化学式を攻略中だ。
「このさ、リズミカルにシャーペンが駆け抜ける音も最高だけどさ、ページをめくる音もくるよね」
シャーペンがノートの上を走る音に、音更さんはすっかりトリコになっていた。身体をモゾモゾさせ、音に酔いしれている。
「ねえ知ってる? 二四時間ずっと勉強している風景だけ垂れ流している動画があるんだって。受験生とか資格試験に挑む人が、よく見に来ているそうだよ」
二五分刻みで休憩が入る程度で、毎日人が入れ替わり立ち替わりで勉強風景を流すという。なんてマニアックな。
「お楽しみ中に申し訳ないんだけどさ」
「どしたの?」
別世界に浸っていた音更さんが、我に返った。
「音更さんって、どうやってそんな勉強法を覚えたの?」
「多聞ちゃんから」
顧問の多聞先生は、お姉さんのお婿さんなんだっけ。
「幼少期からの付き合いだからね。音更と多聞って」
「そんな昔から、多聞先生と知り合いなの?」
「大学時代の多聞ちゃんってさ、ウチで家庭教師やってたの」
受験を控えていた音更叔父を相手に、古文・漢文を教えていたとか。多聞先生はその縁で、教職を得たらしい。
「それを見ていたお姉ちゃんが、先生をずっとマークしていたの」
一〇歳にも満たない年頃で、多聞先生のハートを射止めようとしていたという。ここまでくるとストーカーだな。
「ASMRが精神にいいって言うのも、多聞ちゃんが教えてくれたんだよね」
元凶は、あの先生か!
「もともと私って、めちゃ『かまってちゃん』だったの。叔父さんとかお姉ちゃんの勉強とか邪魔してた。それで多聞ちゃんが、私に猫の動画とか波の動画とか見せてくれて」
「勉強は教わらなかったの?」
「一応授業を盗み聞きしてはいたんだけど、その一貫でASMRを知ってさ。のめり込んじゃった。それからかな、自分でASMR系を集め出したのは」
教わってばかりでは、満足できなくなったらしい。やがて、病的なまでに極めるようになったと。
「あとこれ、すっごい大事な話なんだけど」
「ん? 何かな? 恋バナ?」
「違うよ」と、即座に話題を変える。
「俺たち以外に部員はいないの?」
部を立ち上げて数日が経つが、未だに他の部員を見たことがない。顧問はこの間、あいさつをしたけれど。
「いないよ」
この空き部屋に二人きりか。そりゃあ、ウワサのタネになってしまいそうだ。
「部員を増やさないか?」
「なんで?」
わずかばかり不服な口調で、音更さんは聞いてきた。
「音更さんは、増やす気がないの?」
「うん」と、即答で返してくる。
「不自由はしていないかなぁって。人が増えるとノイズも増えるじゃん」
ASMRに関係ない雑音は必要ない、と。
「いや、そうとは限らないんじゃ」
人が集まることで、俺たちだけでは出せなかった音を拾える可能性だってある。
どうにか、部員を増やす方向性に持っていきたい。変なウワサを立てられても困るし。
「不満?」
「いいや特には。でもさ、やっぱり話題になっちゃうかなーとは思ってるんだぁ」
俺個人としても、音更さんと二人きりになる機会はうれしかった。しかし、楽しんでばかりはいられない。これは部活動なのだ。個人的なデートではない。
「そういう棗くんは、いいの? こんなラノベみたいな状況、めったに起きないよ。個室に美少女と二人きりー、なんてさ」
「自分で美少女って言っちゃうんだ」
たしかにおいしい状況である。しかし、当の本人たちがこんなノリだから、決して恋愛には発展しない。俺にもわかっている。
だが、そう思っているのは当事者だけ。事実は、ラノベのように都合よくできていない。悪い気配は断ち切った方がいいだろう。
「棗くんは、私と二人きりってイヤかな?」
イスにあぐらをかきながら、音更さんは勉強をほっぽり出す。
「まったくイヤなんて気分はないよ。ただ、周りに気は使うかな」
さすがに音更さんを個室に独占できるほど、俺は豪胆には慣れなかった。
「もし部に昇格できたら、あの部屋よりいい場所が手に入る可能性だってあるわけだから」
どうにか、増員に興味を持ってもらうように話す。
「たしかにね。機材とかもっと揃えられるし、いいかも」
翌日から、部員募集をかけることに。
「よーし。そうと決まれば勉強しましょー。キミと私との最後の共同作業なのだー」
俺は「フッ」と笑う。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
とはいっても、誰から話しかければいいのか。
「なあ進藤、ASMR研に興味のあるヤツ、知らないだろうか?」
翌朝、俺はあいさつがてら、親友の進藤に尋ねてみた。
「ん? オレなら、入ってもいいぜ」
二つ返事で、OKをもらえるとは。
「いいのか? だってお前、運動部だろ?」
「ちょうどいい。万年ベンチを温めるくらいなら、別の部で大活躍したいかなーってさ。思っていたところだった」
それで、部活動に消極的だったのか。
「会議でも、オレがやめたいって言ったらモメてな。ケンカ別れに近い。もうあの部に未練はないぜ」
サムズアップが清々しい。よっぽどめんどくさい部だったのだろう。
「じゃあ、顧問に退部の届けだしたらすぐに部室に行くから」
「楽しみにしてるよ」
新しい部員を、即ゲットした。
「このさ、リズミカルにシャーペンが駆け抜ける音も最高だけどさ、ページをめくる音もくるよね」
シャーペンがノートの上を走る音に、音更さんはすっかりトリコになっていた。身体をモゾモゾさせ、音に酔いしれている。
「ねえ知ってる? 二四時間ずっと勉強している風景だけ垂れ流している動画があるんだって。受験生とか資格試験に挑む人が、よく見に来ているそうだよ」
二五分刻みで休憩が入る程度で、毎日人が入れ替わり立ち替わりで勉強風景を流すという。なんてマニアックな。
「お楽しみ中に申し訳ないんだけどさ」
「どしたの?」
別世界に浸っていた音更さんが、我に返った。
「音更さんって、どうやってそんな勉強法を覚えたの?」
「多聞ちゃんから」
顧問の多聞先生は、お姉さんのお婿さんなんだっけ。
「幼少期からの付き合いだからね。音更と多聞って」
「そんな昔から、多聞先生と知り合いなの?」
「大学時代の多聞ちゃんってさ、ウチで家庭教師やってたの」
受験を控えていた音更叔父を相手に、古文・漢文を教えていたとか。多聞先生はその縁で、教職を得たらしい。
「それを見ていたお姉ちゃんが、先生をずっとマークしていたの」
一〇歳にも満たない年頃で、多聞先生のハートを射止めようとしていたという。ここまでくるとストーカーだな。
「ASMRが精神にいいって言うのも、多聞ちゃんが教えてくれたんだよね」
元凶は、あの先生か!
「もともと私って、めちゃ『かまってちゃん』だったの。叔父さんとかお姉ちゃんの勉強とか邪魔してた。それで多聞ちゃんが、私に猫の動画とか波の動画とか見せてくれて」
「勉強は教わらなかったの?」
「一応授業を盗み聞きしてはいたんだけど、その一貫でASMRを知ってさ。のめり込んじゃった。それからかな、自分でASMR系を集め出したのは」
教わってばかりでは、満足できなくなったらしい。やがて、病的なまでに極めるようになったと。
「あとこれ、すっごい大事な話なんだけど」
「ん? 何かな? 恋バナ?」
「違うよ」と、即座に話題を変える。
「俺たち以外に部員はいないの?」
部を立ち上げて数日が経つが、未だに他の部員を見たことがない。顧問はこの間、あいさつをしたけれど。
「いないよ」
この空き部屋に二人きりか。そりゃあ、ウワサのタネになってしまいそうだ。
「部員を増やさないか?」
「なんで?」
わずかばかり不服な口調で、音更さんは聞いてきた。
「音更さんは、増やす気がないの?」
「うん」と、即答で返してくる。
「不自由はしていないかなぁって。人が増えるとノイズも増えるじゃん」
ASMRに関係ない雑音は必要ない、と。
「いや、そうとは限らないんじゃ」
人が集まることで、俺たちだけでは出せなかった音を拾える可能性だってある。
どうにか、部員を増やす方向性に持っていきたい。変なウワサを立てられても困るし。
「不満?」
「いいや特には。でもさ、やっぱり話題になっちゃうかなーとは思ってるんだぁ」
俺個人としても、音更さんと二人きりになる機会はうれしかった。しかし、楽しんでばかりはいられない。これは部活動なのだ。個人的なデートではない。
「そういう棗くんは、いいの? こんなラノベみたいな状況、めったに起きないよ。個室に美少女と二人きりー、なんてさ」
「自分で美少女って言っちゃうんだ」
たしかにおいしい状況である。しかし、当の本人たちがこんなノリだから、決して恋愛には発展しない。俺にもわかっている。
だが、そう思っているのは当事者だけ。事実は、ラノベのように都合よくできていない。悪い気配は断ち切った方がいいだろう。
「棗くんは、私と二人きりってイヤかな?」
イスにあぐらをかきながら、音更さんは勉強をほっぽり出す。
「まったくイヤなんて気分はないよ。ただ、周りに気は使うかな」
さすがに音更さんを個室に独占できるほど、俺は豪胆には慣れなかった。
「もし部に昇格できたら、あの部屋よりいい場所が手に入る可能性だってあるわけだから」
どうにか、増員に興味を持ってもらうように話す。
「たしかにね。機材とかもっと揃えられるし、いいかも」
翌日から、部員募集をかけることに。
「よーし。そうと決まれば勉強しましょー。キミと私との最後の共同作業なのだー」
俺は「フッ」と笑う。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
とはいっても、誰から話しかければいいのか。
「なあ進藤、ASMR研に興味のあるヤツ、知らないだろうか?」
翌朝、俺はあいさつがてら、親友の進藤に尋ねてみた。
「ん? オレなら、入ってもいいぜ」
二つ返事で、OKをもらえるとは。
「いいのか? だってお前、運動部だろ?」
「ちょうどいい。万年ベンチを温めるくらいなら、別の部で大活躍したいかなーってさ。思っていたところだった」
それで、部活動に消極的だったのか。
「会議でも、オレがやめたいって言ったらモメてな。ケンカ別れに近い。もうあの部に未練はないぜ」
サムズアップが清々しい。よっぽどめんどくさい部だったのだろう。
「じゃあ、顧問に退部の届けだしたらすぐに部室に行くから」
「楽しみにしてるよ」
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