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最終話 そのラブコメちょっと待て!

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【待てい!】

 荘田しょうだ セツナのラブコメは、一行しか書いてなかった。

『夏祭りに行こう』とだけ。 
「これだけ?」
「うん。小宮山こみやまイラの返事が聞きたい」
「いや、いいけど」

 断る理由なんてない。きっとこれはあれだな。恋愛物を書くための取材だろう。

 だったら、付き合ってやる。

「ありがと」
「こっちこそ」
「じゃあ、着替えてくる。おばさんに、浴衣を用意してもらったから。一〇分後に降りてきて」

 そう言い残し、セツナは一階へ通りていく。

 オレには、祭りに誘う友だちもいない。
 仲間は全員インドア派で、呼んでも断られるだろう。

 正直セツナも、同じようなタイプだと思っていたのだが。
 ドリンクで気を落ち着かせよう。

「うっ」

 ジュースがぬるくなっている。目一杯氷を入れていたはずなのに。

 きっちり一〇分経った後、階段を降りた。

「おうっ」

 おめかしした美少女が、そこに。

「どうだろう、変かな?」
「全然、変じゃない。似合ってる」

 水風船の柄で、ちょっと子どもっぽい。が、三つ編みにしたセツナにマッチしている。

「ありがと。小宮山イラ」

 自然と、セツナは手を繋いできた。

 太鼓の音を聞きながら、露店を見て回る。

 母がおこづかいを奮発してくれたので、今日は全部ごちそうしてやることにした。

「悪いよ」
「いいんだ。男はこういうときは、カッコつけたいんだよ」
「小宮山イラは子ども」
「うるさいなあ。黙っておごられていなさい」

 お好み焼きとタコ焼き、ラムネを買って、今のうちに夜店で食べる。

「花火まで時間があるから、また何か買って見に行こうぜ」
「ジュース買おう」

 ペットボトルのジュースを持って、花火の見えるスポットまで向かう。

 しかし、見える場所までの道が、やたらと混んできた。

「あっ」

 オレは、セツナの手を放してしまう。

 あいつ、どこへ行った? そんな遠くへは流されていないと思いたいが。

 こんなときは、よし。

【待てい!】

 オレは、スマホを上空へ掲げた。

 電話をしても、どのあたりにいるかわからない。

 だから、これで。
 
【待てい!】 

 何度も、アプリを起動した。

 気づいてくれ。


【待てい!】


 オレのほうじゃないスマホのアプリが、起動した。

 よく見ると、小さい手がスマホを上で大きく上げている。

「セツナッ、こっちだ!」
「イラ!」

 オレは、セツナを見つけた。

「よかった、セツナ。はぐれなくて」
「初めて、このアプリが役に立った」

 二人して、笑う。

「花火始まってるな」

 すっかり遅くなって、ベストなポジションは取られてしまった。

「うん。きれい」

 ベンチで、二人並んで座る。花火は遠いが、二人で見るにはベストな場所だ。

「誰もいないね」
「そう、だな」
「ねえこっち見て」
「ム、ムリ」

 オレが視線をそらそうとしたら、セツナがオレのアゴを掴む。グッと自分へと向けさせた。

 アプリを起動させようとしたら、充電が切れているではないか。
 
「まま、待てい!」
「待たない」

 花火が打ち上がった瞬間、オレはセツナと……。

 オレたちのラブコメが、今始まった。

                                    (おわり)
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