クイズ「番組」研究部 ~『それでは問題! ブタの貯金箱の正式名は?』「資本主義のブタ!」『はあっ!?』~

椎名 富比路

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第一問 日本で初めてコーヒーを飲んだ、歴史上の人物は? ~クイズ番組研究会、発足~

第一問!

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「さあ、始まりました。新生学園クイズ。その名も、『クイズ番組研究会』! 最近設立された部活の名前をそのまま採用しております! 司会はわたくし、一年四組の福原ふくはら 晶太しょうたです。よろしく!」

 会場である視聴覚室に、拍手が鳴り響く。


「では、解答者の紹介です。まずは、この方。一年四組、津田つだ 嘉穂かほさんです」
「よ、よろしくお願いします」

 クイズ研の時と違い、ハキハキと答える。リラックスできているようだ。

「続きまして、僕と同じ一年五組の小宮山こみやま 志乃吹しのぶさん、愛称『のん』さん。今日はよろしくお願いします」
「うむ。よろしくなのだ」

 嘉穂さんとは対照的に、のんは自信満々だ。

「気合い十分ですね」
「うむ。優勝はオイラがもらうのだ。それで、豪華賞品のツチノコをゲットするのだ」
「いやいや、優勝賞品がツチノコだなんて一言も言ってません」

 そもそも、この番組に優勝賞品という概念はない。今の所は。

「最後に、一年一組、名護なご みさき顧問の妹さんでこの部活における爆弾! 名護なご みなとさん!」

 湊は黙礼。その口元には、気品に満ちあふれる笑みが。

「静かに闘志を燃やしているという感じでしょうか。どうですが、初番組ですが」
「初物ですから、怖いのは最初だけ。天井のシミを数え終わる頃には終わるかな、といったところでしょうか」

 いきなり下ネタが飛んできた。そういうパターンかこの女子は。

「それより、このクイズの趣旨は?」

 湊が助け船を出してくれた。これに載らない手はない。

「いい質問ですね! ではお答えしましょう。これはいわば、お祭りです!」

 この番組は基本的に競わない。
 分かったら答える。
 分からなければ答えない。
 
 それでいいのだ。それ以外は求められない。


「そして最後! 問題を読み上げてくれるアナウンサーさんはこの方!」
 
「はい。アシスタントの来住きすみやなせでーす!」

 僕よりテンションが高い。大丈夫だろうか?

「来住やなせさん、今日はよろしくお願いします」
「そんなーっ、いつもみたいにやなせ姉って呼んでよぉ、晶ちゃあん」

 イヤイヤをしながら、やなせ姉が頬を膨らませる。ダメだこの人。人選を間違えたかも。

「あの、周囲の皆さんに誤解を招くような言動は、慎んで下さい」
「誤解させとけばいいでしょ、そんなのー」

 このままではキリがない。

「えーっと……では記念すべき第一問! 来住さんお願いします!」


『第一問。ズバリ、コーヒーを最初に飲んだ日本人とされる、江戸中後期の人物は誰でしょう?』

 まるで別人になったかのように、やなせ姉が落ち着いた表情で、問題を読み上げる。


 記念すべき最初の早押しボタンを、のんが押す。しかし、答えを入ろうとしている感じではない。

「さて、最初の解答権は小宮山選手。では、お答えをどうぞ」


「これは簡単だぞ! 水戸光圀!」

「違います。彼は最初にラーメンを食べた日本人です」
「ぬわーっ!」と、のんが頭を抱える。

 ポーン、と、湊の指が動く。

「さあ、お答えを、どうぞ!」

「野際陽子」

 ブッブーッ!

「おいおいおいおいおいおいおい、あんたちょっと待ってよ!」と、机に身を乗り出す。
「江戸時代だっつーの! なんで現代人が出てくる! コーヒー飲むために時間遡ったんか?」

「あ、わかった」と、のんがボタンを押す。

「小宮山さん、正解は何でしょう? どうぞ!」

「北大路《きたおうじ》 魯山人《ろさんじん》だっ!」

 珍しく、のんが難しい人物を言った。
 無情にも、誤答を告げるブザーがなる。

「よくご存じだったが、不正解」

 魯山人は明治生まれの人だ。惜しい。

「でも『山人』は、合ってますよ。どんどん行きましょう!」

 最後に「ポーン」と、ボタンが力なく押される。嘉穂さんが押したのだ。

「はい、お答え下さい!」

大田おおた 蜀山人しょくさんじんさん、ですか?」

「正解。大田蜀山人、もしく大田 南畝なんぽで結構です。どこでわかりましたか?」
「『【山人】までは合ってる』って聞いて、やっと分かりましたぁ」

 このオールジャンルな知識量が、嘉穂さんの強みだ。

『ちなみに、当時は作り方が確立されてなくて、「焦げ臭くて飲めないよー」って書いてあるそうでぇす』

 やなせ姉が説明をする。

 なんか可愛いな太田蜀山人!

「当時の人なら飲めないだろうね。私も砂糖とミルクがないと飲めなくて。それにしても、難問だったね」

 この問題は結構難問だった。
 解答が、ではない。
「出題のされ方」が、だ。

 クイズ研から渡された問題集での書かれ方は、こうである。


 ◇ * ◇ * ◇ * ◇

 問題

唐衣橘洲からころもきつしゆうや、朱楽菅江あけらかんこうと並び、狂歌三大家と言われる人物は?』

 ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 呪文かと思った。
 これでは客が食いつかなくなるのも頷ける。

 クイズは受験ではない。娯楽だ。

 クイズ大会は、娯楽性まで排除しようというのか?

 どうにか食いつきやすい問題にしようと考えて、僕はクイズを書き直した。
 問いかけを『歴史上の偉人』から、『最初にコーヒーを飲んだ日本人』に変更。
 たったそれだけで、『文学・歴史』の問題が、『ちょっと面白い雑学』に早変わりしたのである。

 出題する側は、ここが面白いのだ。
 これだから、クイズの出題は面白い!

 僕がクイズの出題者になりたいのは、なにも司会者のパフォーマンスに憧れただけじゃない。
 出題する側には、問題を考える権利を与えられるからだ。
 いかに解答者の知識を刺激し、いかに興味を持たせ、いかにミスリードして騙すか。
 これは、出題者にしかできない特権なのだ!

「まずは津田さんが一歩リードです。次の問題!」

 学園クイズで披露されるはずだった嘉穂さんのセンスが、ようやく花開くか?

 思えば、このクイズ番組研究部は、僕たちがクイズ研究部をクビになってから始まったんだっけ。
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