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第一問 日本で初めてコーヒーを飲んだ、歴史上の人物は? ~クイズ番組研究会、発足~
アシスタントのやなせ姉
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ウエーブのかかったブロンドの長い髪から、女性特有の香りが漂う。
僕より高い身長と、嘉穂さんよりボリュームのある胸部を押しつけてくる。
「ぐへえ!」と、僕は呻いた。
「晶ちゃん晶ちゃん晶ちゃん寂しかったーっ! スリスリスリスリ」
遠慮なく、やなせ姉が僕のほっぺたに頬ズリする。
僕以外の女性陣が、唖然とした顔になった。
「ちょっと、やなせ姉、やめてくれよ! 人が見てるだろ! 魂が抜けたような顔になっているじゃないか!」
「いいもーん。晶ちゃんはワタシの大事な大事なおもちゃなんだからー」
やなせ姉は僕から離れようとしない。
「おお。おっす、やなせ姉」と、のんは見知った顔でやなせ姉に挨拶をする。
「こんにちは、のんちゃん。変わらないねー」
「あれ、二年の来住副部長、ですよね?」
嘉穂さんが、やなせ姉に問いかける。
やなせ姉は「はーい」と返事をした。僕から離れて正座する。
「来住やなせ一七歳。私立長戸学園の二年五組でーす。ちなみに晶ちゃんとは家が隣で、幼馴染でーす! クイズ研究部の副部長でしたーっ! イエーイ!」
天にVサインを突き上げ、やなせ姉はハイテンションで自己紹介した。
「イエーイじゃねーよ! 部活はどうしたんだよ?」
でしたって言ってたから、まさかとは思うけど……。
「うん。辞めた」
あっけらかんと、やなせ姉は答えた。
「はあ!? あんた副部長だろ? やめてもいいのかよ?」
「いいもーん。ワタシの勝手だもーん」
「なんでまた、そんな無茶を」
「だって、わたしがクイズ研に入ったの、晶ちゃんが目当てだったんだもん。晶ちゃんの司会でワタシがアシスタントでずっとイチャイチャしようって思ってた。それなのに、突然クビになっちゃうしさぁ。だったら、ワタシも辞めるって部長に言ってきた」
ニコニコと、元副部長様は回答する。
「副部長の後釜、どうするんだよ?」
「ワタシ、しーらない」
やなせ姉がそっぽを向く。
「先生、どうするんですか?」
名護先生は、スマホで誰かと連絡を取っている。
「来住の退部届が、受理されたらしい」
スマホを切った後、先生は溜息をついた。
当の本人は未だにニコニコしており、何も悪びれていない。
「……今度こそ、メンバーが揃ったな。じゃあ、今日は解散するか」
特に反対意見も出なかったんで、その日は解散となる、はずだった。
「じゃあ、さっそく番組作るか」
この人は、いきなり何を言い出すんだ?
「先生、ぶっつけ本番ですか? 準備もできていない上、出題者も解答者もいないのに」
「いるじゃんか。お前らが」
僕は、背後にいる三人組の方を向く。
「そう言ったって、問題もまだできてませんよ」
「出題する問題はクイズ研が用意する。過去問が有り余ってるからな。好きなのを使え」
「けど、出題するクイズのチョイスが」
問題と言っても、傾向や難易度の調整など、課題は多い。
「とりあえず初めてだから、難易度は易しめにしようかと思うけど」
「うん。初めては優しい方がいいな」
なぜか、湊は含みのある言い方をする。多分、「やさしい」のニュアンスも違うぞ。
「問題はどういうのがいいだろう。こういうとき、クイズ番組ってどんなチョイスするんだろ?」
沈黙が襲う。早くも難航か? と思われた。
「あのさ、提案なんだけど」
そう言って、手を挙げたのは湊だ。
「第一回なんだろ? だったら、『初めて』にちなんだ問題に限定するってのは?」
「いいな、それ。採用だ」
競技のルールは、シンプルに早押しとなった。一〇ポイント選手。多くポイントを勝ち取った人が優勝とする。
「優勝賞品とかは、どうしよう。あんまり高額なものとか、特殊な特典とかはあげられないよ?」
僕にできるコトなんて、せいぜい食券をおごるくらいだ。
「別に、いらないんじゃないかな?」
下手に競技性を設けると、難易度が高くなる。ならばいっそ祭りとして楽しもうと、実にエンジョイ勢ならではの趣旨に落ち着いた。
「それだと、盛り上がらなくないか?」
「ブラウン管の向こうにいる生徒たちが、ウチらより盛り上がってもらえればいい」
「うむ、一理あるな」
他の三人はどう思っているのか。
「オイラは欲しいな、優勝賞品。あったら面倒だって言うなら、多くは求めないぞ」
「何もなくても、楽しそうですぅ」
OKのようだ。ならば、初回は何も賞品や特典は設けないとする。
「本当にそれでいい? やなせ姉はどう?」
「晶ちゃん、ひとまず一回限りの企画じゃないだろうから、優勝回数の方をカウントして残しておいたら?」
回数を繰り返していって、何か面白い商品の企画が思いついたとき、採用する。
なるほど、それがベストかも。
「あ、はいはいはい!」と、のんが威勢のいい声を発して手を挙げる。
「何だ、のん?」
「お客さんに誰が勝つか、賭けてもらうのは?」
オーディエンスを味方につける視聴者参加型番組か。TV番組でもよくやっている。いかにも、クイズ番組的なアイデアだ。
「あー、それもいいけど、ナシでお願い」
湊が反対意見を出す。意外だったな。一番ノリノリだと思ったんだけど。
「なんでだよ。いい考えだと思うけど」
「ボケられないじゃん」
そっちが重要なの!?
「お前、ボケ回答する気か?」
「その方が面白いじゃん」
「面白いってお前……やる気ないって言われないか?」
「真面目に答えるのは他の人に任せるよ。ウチは商品なんか興味ないし、成績にだって拘ってないから」
湊のような、こういうタイプもいるのだな。芸人気質というか。
「ムチャクチャ重要だよ、ウチにとっては」
湊にとって優先されるのは、勝ち星より面白解答らしい。
「でも、優勝商品も分からないって、お客のモチベーションが上がらなくないか?」
「じゃあ晶ちゃん、『優勝すればわかります』って視聴者に含ませておけばいいよー」
今まで黙っていた元クイズ研副部長が提案をする。
「結局、優勝してもショボいプレゼントが待ってるよ、って寸法を使うね。要はクイズが楽しかったらいいワケじゃん。プレゼントなんて張り切るきっかけに過ぎないんだからね」
さすがだ。クイズ研の副部長として企画や事務を務めていただけのことはある。やなせ姉は昔から、企画力が高かった。そこが副部長に抜擢された理由でもある。
何が商品でも伏せておける、ナイスなアイデアだ。
一通りの意見が出そろい、ようやく会議は終了した。
部活解散後、僕は先生からクイズの資料を受け取り、家で作業に取りかかる。
どんな番組になるのだろう?
僕より高い身長と、嘉穂さんよりボリュームのある胸部を押しつけてくる。
「ぐへえ!」と、僕は呻いた。
「晶ちゃん晶ちゃん晶ちゃん寂しかったーっ! スリスリスリスリ」
遠慮なく、やなせ姉が僕のほっぺたに頬ズリする。
僕以外の女性陣が、唖然とした顔になった。
「ちょっと、やなせ姉、やめてくれよ! 人が見てるだろ! 魂が抜けたような顔になっているじゃないか!」
「いいもーん。晶ちゃんはワタシの大事な大事なおもちゃなんだからー」
やなせ姉は僕から離れようとしない。
「おお。おっす、やなせ姉」と、のんは見知った顔でやなせ姉に挨拶をする。
「こんにちは、のんちゃん。変わらないねー」
「あれ、二年の来住副部長、ですよね?」
嘉穂さんが、やなせ姉に問いかける。
やなせ姉は「はーい」と返事をした。僕から離れて正座する。
「来住やなせ一七歳。私立長戸学園の二年五組でーす。ちなみに晶ちゃんとは家が隣で、幼馴染でーす! クイズ研究部の副部長でしたーっ! イエーイ!」
天にVサインを突き上げ、やなせ姉はハイテンションで自己紹介した。
「イエーイじゃねーよ! 部活はどうしたんだよ?」
でしたって言ってたから、まさかとは思うけど……。
「うん。辞めた」
あっけらかんと、やなせ姉は答えた。
「はあ!? あんた副部長だろ? やめてもいいのかよ?」
「いいもーん。ワタシの勝手だもーん」
「なんでまた、そんな無茶を」
「だって、わたしがクイズ研に入ったの、晶ちゃんが目当てだったんだもん。晶ちゃんの司会でワタシがアシスタントでずっとイチャイチャしようって思ってた。それなのに、突然クビになっちゃうしさぁ。だったら、ワタシも辞めるって部長に言ってきた」
ニコニコと、元副部長様は回答する。
「副部長の後釜、どうするんだよ?」
「ワタシ、しーらない」
やなせ姉がそっぽを向く。
「先生、どうするんですか?」
名護先生は、スマホで誰かと連絡を取っている。
「来住の退部届が、受理されたらしい」
スマホを切った後、先生は溜息をついた。
当の本人は未だにニコニコしており、何も悪びれていない。
「……今度こそ、メンバーが揃ったな。じゃあ、今日は解散するか」
特に反対意見も出なかったんで、その日は解散となる、はずだった。
「じゃあ、さっそく番組作るか」
この人は、いきなり何を言い出すんだ?
「先生、ぶっつけ本番ですか? 準備もできていない上、出題者も解答者もいないのに」
「いるじゃんか。お前らが」
僕は、背後にいる三人組の方を向く。
「そう言ったって、問題もまだできてませんよ」
「出題する問題はクイズ研が用意する。過去問が有り余ってるからな。好きなのを使え」
「けど、出題するクイズのチョイスが」
問題と言っても、傾向や難易度の調整など、課題は多い。
「とりあえず初めてだから、難易度は易しめにしようかと思うけど」
「うん。初めては優しい方がいいな」
なぜか、湊は含みのある言い方をする。多分、「やさしい」のニュアンスも違うぞ。
「問題はどういうのがいいだろう。こういうとき、クイズ番組ってどんなチョイスするんだろ?」
沈黙が襲う。早くも難航か? と思われた。
「あのさ、提案なんだけど」
そう言って、手を挙げたのは湊だ。
「第一回なんだろ? だったら、『初めて』にちなんだ問題に限定するってのは?」
「いいな、それ。採用だ」
競技のルールは、シンプルに早押しとなった。一〇ポイント選手。多くポイントを勝ち取った人が優勝とする。
「優勝賞品とかは、どうしよう。あんまり高額なものとか、特殊な特典とかはあげられないよ?」
僕にできるコトなんて、せいぜい食券をおごるくらいだ。
「別に、いらないんじゃないかな?」
下手に競技性を設けると、難易度が高くなる。ならばいっそ祭りとして楽しもうと、実にエンジョイ勢ならではの趣旨に落ち着いた。
「それだと、盛り上がらなくないか?」
「ブラウン管の向こうにいる生徒たちが、ウチらより盛り上がってもらえればいい」
「うむ、一理あるな」
他の三人はどう思っているのか。
「オイラは欲しいな、優勝賞品。あったら面倒だって言うなら、多くは求めないぞ」
「何もなくても、楽しそうですぅ」
OKのようだ。ならば、初回は何も賞品や特典は設けないとする。
「本当にそれでいい? やなせ姉はどう?」
「晶ちゃん、ひとまず一回限りの企画じゃないだろうから、優勝回数の方をカウントして残しておいたら?」
回数を繰り返していって、何か面白い商品の企画が思いついたとき、採用する。
なるほど、それがベストかも。
「あ、はいはいはい!」と、のんが威勢のいい声を発して手を挙げる。
「何だ、のん?」
「お客さんに誰が勝つか、賭けてもらうのは?」
オーディエンスを味方につける視聴者参加型番組か。TV番組でもよくやっている。いかにも、クイズ番組的なアイデアだ。
「あー、それもいいけど、ナシでお願い」
湊が反対意見を出す。意外だったな。一番ノリノリだと思ったんだけど。
「なんでだよ。いい考えだと思うけど」
「ボケられないじゃん」
そっちが重要なの!?
「お前、ボケ回答する気か?」
「その方が面白いじゃん」
「面白いってお前……やる気ないって言われないか?」
「真面目に答えるのは他の人に任せるよ。ウチは商品なんか興味ないし、成績にだって拘ってないから」
湊のような、こういうタイプもいるのだな。芸人気質というか。
「ムチャクチャ重要だよ、ウチにとっては」
湊にとって優先されるのは、勝ち星より面白解答らしい。
「でも、優勝商品も分からないって、お客のモチベーションが上がらなくないか?」
「じゃあ晶ちゃん、『優勝すればわかります』って視聴者に含ませておけばいいよー」
今まで黙っていた元クイズ研副部長が提案をする。
「結局、優勝してもショボいプレゼントが待ってるよ、って寸法を使うね。要はクイズが楽しかったらいいワケじゃん。プレゼントなんて張り切るきっかけに過ぎないんだからね」
さすがだ。クイズ研の副部長として企画や事務を務めていただけのことはある。やなせ姉は昔から、企画力が高かった。そこが副部長に抜擢された理由でもある。
何が商品でも伏せておける、ナイスなアイデアだ。
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