クイズ「番組」研究部 ~『それでは問題! ブタの貯金箱の正式名は?』「資本主義のブタ!」『はあっ!?』~

椎名 富比路

文字の大きさ
16 / 48
第三問 『ブタの貯金箱』の正式名称は? ~クイズ王 対 出題者の実姉~

幼なじみ同士の、クイズ特訓

しおりを挟む
 休日の朝。
 ベッドから起き上がれず、僕は惰眠を貪っていた。時計を見る。もう九時を差していた。

 さすがに、ハードな収録が響いたらしい。
 朝早くから夜遅くまで、僕はクイズを作り続けている。
 連日のように、湊はボケ回答を繰り広げ、のんは天然解答を発揮した。
 嘉穂さんの正統派な姿勢が、どれだけ癒やしになったことか。

 疲れがドッと出てしまったのだろう。朝からまったく動けなかった。
 今日はクイズ作りをサボターシュして、このまま布団に埋もれて明日を待つのもいいか。そんな弱音まで浮かんでしまう。

 静寂をかき消すかのように、ドアホンが鳴る。
 姉は出てくれる気配がない。大方、朝からどこかへ出かけたか、僕より睡眠を満喫しているか。
 もぞもぞと置き上がり、ドアに向かう。

「おーす。しょうたー」

 ドアの外にいたのは、のんだった。制服姿ではなく、Tシャツに短パン姿である。

「どうした、こんな朝早くから」

「いやな、ちょっとオイラの特訓に付き合って欲しいのだ」

 言いながら、のんはイエローのリュックサックを見せびらかした。まるで遠足に誘ってきたかのように。

「特訓?」
「そうだ。クイズ特訓をするぞ」

 こちらがいいという前に、のんが家に上がり込む。
 冷たい麦茶を机に置く。
 のんがお茶を飲んでいる間、僕は早押し機を用意した。

「どうしてまた特訓なんて始めようと思ったんだ?」
「決まってるだろう。ツチノコのためだ」

 さも当たり前だと言わんばかりに、のんは持論を展開してらっしゃる。

「正確には、もう少し上位争いに食い込みたいのだ」

 なるほど、二人に感化されてクイズに興味を持ったらしい。

「けどさ、のん。僕たちはあくまでエンジョイ勢だ。特別な訓練とかは必要ないんじゃないか?」
「そうなんだけどなー」

 麦茶を飲み干し、のんは自分で手酌をする。ふう、と一息入れて、また語り出す。

「白熱するのだって、エンジョイの一つではないのかと」

 のんの意見は一理ある。

 誰が勝つか分かっている勝負は、つまらない番組の一つだ。
 そういった構成は、必ずマンネリ化を生む。
 安定した試合運びとも言えなくもない。安心を好む層だって少なからず存在する。
 けれど、「出来レース」という印象を見る側に与えてしまう。
 
「だからな。オイラが大穴としてちょっとでも上位を脅かす存在になれば、もっと面白くなるんじゃないかと思ったのだ。だから特訓しようと思ったのだ」
「そういえば、のんがトップになった翌日、結構クラスが盛り上がってたらしいな」

 のんはのんなりに、番組のことを思ってくれていたようだ。

「わかった。そこまで言うなら」

 僕は問題集を棚から出して、目を通す。

「クイズはまず知識だな。問題集とかは持ってるのか?」
「おー。ちゃんと新しい問題集を見つけてきたぞ」

 のんがカバンから問題集を取り出す。僕が先日説明したとおり、内容はやや専門的なクイズが多い。

「しかし、こうしてお前とクイズ特訓するのって久しぶりじゃないか?」
「そうだな。昔を思い出すなー」
 
 その後、僕たちは昔話に花を咲かせて、まったく勉強にならなかったけど。 
 その時の僕達は、中学の頃にタイムスリップしていた。



 ◇ * ◇ * ◇ * ◇

 中学当時の小宮山こみやま 志乃吹しのぶをひと言で表現するなら、「狂犬」というに相応しい。

 スポーツ特待生になれず、普通科に通わざるを得なかった彼女は、全てに絶望した顔で席に座る。

 誰も、声をかけられない。

 目がギラつき、触れるモノはすべて傷つけるかのような鋭さを誇っていた。

 とはいえ、KYな女というのはどの世界にもいるものである。
 物好きなその上級生は、下級生のクラスにまでズケズケと入ってきた。

「おいお前、あたしと一緒にクイズをやらないか?」
 
 小宮山志乃吹を見下ろしながら、上級生の少女が声をかける。

「……なんですか、いきなり?」

 当然、小宮山が心を開くはずがない。

「お前、うちの隣に越してきただろ? なのにシケたツラしてさ。この世の全てがくだらねえみたいな目をしてる。だから、面白い世界を見せてやろうって思ったんだ」

「そういうのいいんで」

 塩。どこまでも塩対応だった。この頃の小宮山は、こんなヤツだったのである。

「姉さん、やめろって」

 姉の凶行を止めるべく、僕は壁役になる。

「おい晶太、問題作れ」

「はあ?」

「あたしは、こいつと勝負する。きっと面白くなるぞ」

 今になっても、なぜかわからない。
 しかし、姉さんなら小宮山の荒んだ心を癒やしてくれるのでは、という確信があった。

 ◇ * ◇ * ◇ * ◇

 僕は姉の無茶振りに応じて、泥んこクイズのステージを学校に作った。
 といっても、○×が書かれた画用紙を立てて、テーブル上に枕と泥の入った箱を用意しただけだ。
 不正解に顔を突っ込んだら顔が泥まみれになる。
 床が濡れてもいいように、鉄棒のある砂場でプレイしてもらった。

 小宮山はなぜか、ブルマ姿である。制服が泥で汚れるのを嫌ったのだろう。

『問題。動画共有SNSアプリ「Instagram」は、一二歳以下でもユーザー登録できる。○か×か?』
 姉が問題を読み上げた。

 当然、×が正解だ。

 その後も順調に正解を当てていく。


『第三問、株式会社QuizKnockのCEOであるクイズ王の伊沢 拓司さんは……自動車運転免許の試験に落ちたことがある。○か×か?』

 小宮山は、×を宣言した。

「どうしてそう思われましたか?」
「クイズ王が、免許の試験なんかに落ちるわけないじゃん」

 僕の質問に、冷めたい言い方で返す。

「では顔を落としてください、どうぞ! あっと残念! 正解は○でした!」 

 顔じゅう泥まみれになって、小宮山は固まっていた。

「アハハ……ひどい顔だな」

 姉の発言を侮辱ととったのか、小宮山が嫌な顔をする。

「どうだ? クイズ王にだってできないことがあるんだ。一度くらいの失敗がなんだ? お前の経歴には傷が付いたかもしれない。しかし、顔に泥が付いた程度じゃないか」

 自分のハンカチを取り出して、姉は小宮山の顔を拭う。

「汚れたなら、拭けばいい。活躍する場所なんて、どこにだってあるんだ」

 最初は涙ぐんでいた小宮山は、徐々に笑顔を取り戻す。

 小宮山のん、誕生の瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
辺境の町バラムに暮らす青年マルク。 子どもの頃から繰り返し見る夢の影響で、自分が日本(地球)から転生したことを知る。 マルクは日本にいた時、カフェを経営していたが、同業者からの嫌がらせ、客からの理不尽なクレーム、従業員の裏切りで店は閉店に追い込まれた。 その後、悲嘆に暮れた彼は酒浸りになり、階段を踏み外して命を落とした。 当時の記憶が復活した結果、マルクは今度こそ店を経営して成功することを誓う。 そんな彼が思いついたのが焼肉屋だった。 マルクは冒険者をして資金を集めて、念願の店をオープンする。 焼肉をする文化がないため、その斬新さから店は繁盛していった。 やがて、物珍しさに惹かれた美食家エルフや凄腕冒険者が店を訪れる。 HOTランキング1位になることができました! 皆さま、ありがとうございます。 他社の投稿サイトにも掲載しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...