26 / 48
第五問 ガウチョは何語? ~クイズ番組研究部の休日~
クイズの取材
しおりを挟む
日曜日、僕はクイズ集めのため、駅前にあるショッピングモールへ向かおうとしていた。
いわゆる取材である。
連日クイズを作り続けていると、どうしてもネタ切れが起きてしまう。そうならないために、常に情報を集めているのだ。
祝日だけあって、スーツ姿や学生服は見かけない。行き交う人々はほぼすべて私服姿だ。日々の疲れから解放され、浮かれているようにも見える。
人々は揃って、駅前にあるショッピングモールへと流れていった。
外周の道路には、モールへ駐車する車がひしめき合って、軽く渋滞ができている。モールの五階から上は駐車スペースだ。こんな渋滞くらい、すぐに解消されるだろう。
「あれ、嘉穂さん?」
モールの入り口の自動ドア前に、見知った顔を見つけた。
「あ、晶太くん」
僕達は互いに挨拶を交わす。
始めて、私服の嘉穂さんを見た気がする。
白のブラウスに水色のロングスカート、ピンクのバッグという、初夏を思わせるデザインだ。髪もいつもと違って、ポニーテールになっている。
全十階建てのモールは駅をすっぽり埋まるくらいの大きさだ。
一階は食料品フロア。
二階が全フロア家電売り場で、三階は書店と雑貨屋などなど、四階にはホームセンターが入っているのだ。
店舗だけでなく、フードコートや屋上庭園の他に、映画館まで設置されている。
嘉穂さんは、新しい小説を買いに来たという。
「晶太くんは、何の用事ですか?」
「えっと、ちょっとネタ探しに」
僕も嘉穂さんと同じく、書店に用事があるのだ。
クイズとなると、本やネットの知識だけでは限界がある。
外に出て色々と見ていかないと知識は広がらない。
周りの知識レベルを把握するのも目的である。
こちらの非常識が周囲の常識だったりする為だ。逆もまた然り。
「わ、わたしも付いていきますっ」
「えっ」と、僕は言葉を失う。
まさかカンニングじゃないよな。
品行方正を女性の形にしたような嘉穂さんが、そんな不正をするとは思えないけど。
「晶太くんが、いつもどうやって問題を作っているのか、興味があるんです」
これは困ったぞ。下手に動くと、次に出す問題などを知られかねない。どうするか。
しかし、無理やり帰すのも何だし。
「見てるだけです。カンニングとかの不正をする気はありません」
それはわかるんだけど。
「邪魔しませんから、お願いします」
仕方ない。今日は、どうやて問題を作っているかを見てもらおう。取材はするだけやって、家で問題をまとめるか。
「じゃあ、付いてきて。大した取材ではないけど」
「ありがとうございますっ」
フワッとした顔で、嘉穂さんは答えた。
日曜日なだけあり、子連れやカップルだけで歩くのもままならない。
休憩用のベンチでは、中年や老人などの男性陣がグッタリしている。
「すごい人だね」
「そうですね」
人混みを避けつつ、目的の本屋まで辿り着く。
早々と、嘉穂さんはエスカレーターに乗る。
慣れた歩調で、書店のある三階へ。
吹き抜けの道に服屋数件、カフェ数件と続き、端が雑貨エリアだ。
反対方向には書店がある。
「わあわあ、今度買おうと思ってた本も出てる。迷っちゃいます」
入り口の棚で、嘉穂さんがフリーズした。
僕の方は、雑誌のコーナーへ。あまり読まないジャンルの雑誌を読むとしよう。
取材と言っても、実はそんなに難しいことはしていない。
いつもだと、図書館で立ち読みしたり雑誌で流行をさらったりが中心である。
買わないと拾えない、新鮮な知識を探すだけ。
話題作となると、レンタル店や図書館ではタイムラグがある。
ここまで来ると、人もまばらになった。
立ち読みは難しいが。
「お待たせしました」
買い物を終えた嘉穂さんが、立ち読みしている僕の元へ帰ってきた。
手には小さなビニール袋を持つ。中身は文庫本らしい。
こっちは実際、まったく待っていないんだけど。
「結構、一般的な問題も扱うんですね?」
嘉穂さんは、僕の読む一般誌を覗き込む。
「そうでもないさ。メモとしてひかえてるだけだよ。そこからどうやって応用を利かせるかが、問題を面白くするカギなんだ」
教養がなければ、応用問題が面白くならない。
一般的な知識から、いかにズラして出題するか。
難易度の調節はそれに掛かっている。下手に難しすぎてもダメ。
かといって一般に擦り寄りすぎても、すぐに答えられてしまう。
僕が情報を集めている姿を、嘉穂さんは興味深そうに観察する。
やりづらい。
極力ネタバレしないように努めているけど。
見られながら作業されると、場が持たない。
「他のコーナーに行こうか」
雑誌を買い、場所を移動する。
僕の足が止まった。
そこには、クイズの問題集を山ほど買い込んでいる少年の姿が。
あいつは、確か……。
「晶太くん?」
大きめの声で、嘉穂さんに耳元で呼びかけられた。
「ひゃい!?」
飛び上がって、僕は嘉穂さんから飛び退く。
「何があったんですか? 変な声出して」
「は、はあ。えっと、小学校の知り合いを見つけて」
「声、かけに行きますか?」
僕はブンブンと首を振った。
「いいんだ。いいんだよ。他のエリアに行こう。まだまだ取材に付き合ってもらうよ!」
僕は無理に笑顔を作って、先を急ぐ。
もう、同級生の姿はなかった。
いわゆる取材である。
連日クイズを作り続けていると、どうしてもネタ切れが起きてしまう。そうならないために、常に情報を集めているのだ。
祝日だけあって、スーツ姿や学生服は見かけない。行き交う人々はほぼすべて私服姿だ。日々の疲れから解放され、浮かれているようにも見える。
人々は揃って、駅前にあるショッピングモールへと流れていった。
外周の道路には、モールへ駐車する車がひしめき合って、軽く渋滞ができている。モールの五階から上は駐車スペースだ。こんな渋滞くらい、すぐに解消されるだろう。
「あれ、嘉穂さん?」
モールの入り口の自動ドア前に、見知った顔を見つけた。
「あ、晶太くん」
僕達は互いに挨拶を交わす。
始めて、私服の嘉穂さんを見た気がする。
白のブラウスに水色のロングスカート、ピンクのバッグという、初夏を思わせるデザインだ。髪もいつもと違って、ポニーテールになっている。
全十階建てのモールは駅をすっぽり埋まるくらいの大きさだ。
一階は食料品フロア。
二階が全フロア家電売り場で、三階は書店と雑貨屋などなど、四階にはホームセンターが入っているのだ。
店舗だけでなく、フードコートや屋上庭園の他に、映画館まで設置されている。
嘉穂さんは、新しい小説を買いに来たという。
「晶太くんは、何の用事ですか?」
「えっと、ちょっとネタ探しに」
僕も嘉穂さんと同じく、書店に用事があるのだ。
クイズとなると、本やネットの知識だけでは限界がある。
外に出て色々と見ていかないと知識は広がらない。
周りの知識レベルを把握するのも目的である。
こちらの非常識が周囲の常識だったりする為だ。逆もまた然り。
「わ、わたしも付いていきますっ」
「えっ」と、僕は言葉を失う。
まさかカンニングじゃないよな。
品行方正を女性の形にしたような嘉穂さんが、そんな不正をするとは思えないけど。
「晶太くんが、いつもどうやって問題を作っているのか、興味があるんです」
これは困ったぞ。下手に動くと、次に出す問題などを知られかねない。どうするか。
しかし、無理やり帰すのも何だし。
「見てるだけです。カンニングとかの不正をする気はありません」
それはわかるんだけど。
「邪魔しませんから、お願いします」
仕方ない。今日は、どうやて問題を作っているかを見てもらおう。取材はするだけやって、家で問題をまとめるか。
「じゃあ、付いてきて。大した取材ではないけど」
「ありがとうございますっ」
フワッとした顔で、嘉穂さんは答えた。
日曜日なだけあり、子連れやカップルだけで歩くのもままならない。
休憩用のベンチでは、中年や老人などの男性陣がグッタリしている。
「すごい人だね」
「そうですね」
人混みを避けつつ、目的の本屋まで辿り着く。
早々と、嘉穂さんはエスカレーターに乗る。
慣れた歩調で、書店のある三階へ。
吹き抜けの道に服屋数件、カフェ数件と続き、端が雑貨エリアだ。
反対方向には書店がある。
「わあわあ、今度買おうと思ってた本も出てる。迷っちゃいます」
入り口の棚で、嘉穂さんがフリーズした。
僕の方は、雑誌のコーナーへ。あまり読まないジャンルの雑誌を読むとしよう。
取材と言っても、実はそんなに難しいことはしていない。
いつもだと、図書館で立ち読みしたり雑誌で流行をさらったりが中心である。
買わないと拾えない、新鮮な知識を探すだけ。
話題作となると、レンタル店や図書館ではタイムラグがある。
ここまで来ると、人もまばらになった。
立ち読みは難しいが。
「お待たせしました」
買い物を終えた嘉穂さんが、立ち読みしている僕の元へ帰ってきた。
手には小さなビニール袋を持つ。中身は文庫本らしい。
こっちは実際、まったく待っていないんだけど。
「結構、一般的な問題も扱うんですね?」
嘉穂さんは、僕の読む一般誌を覗き込む。
「そうでもないさ。メモとしてひかえてるだけだよ。そこからどうやって応用を利かせるかが、問題を面白くするカギなんだ」
教養がなければ、応用問題が面白くならない。
一般的な知識から、いかにズラして出題するか。
難易度の調節はそれに掛かっている。下手に難しすぎてもダメ。
かといって一般に擦り寄りすぎても、すぐに答えられてしまう。
僕が情報を集めている姿を、嘉穂さんは興味深そうに観察する。
やりづらい。
極力ネタバレしないように努めているけど。
見られながら作業されると、場が持たない。
「他のコーナーに行こうか」
雑誌を買い、場所を移動する。
僕の足が止まった。
そこには、クイズの問題集を山ほど買い込んでいる少年の姿が。
あいつは、確か……。
「晶太くん?」
大きめの声で、嘉穂さんに耳元で呼びかけられた。
「ひゃい!?」
飛び上がって、僕は嘉穂さんから飛び退く。
「何があったんですか? 変な声出して」
「は、はあ。えっと、小学校の知り合いを見つけて」
「声、かけに行きますか?」
僕はブンブンと首を振った。
「いいんだ。いいんだよ。他のエリアに行こう。まだまだ取材に付き合ってもらうよ!」
僕は無理に笑顔を作って、先を急ぐ。
もう、同級生の姿はなかった。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。
でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。
今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。
なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。
今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。
絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。
それが、いまのレナの“最強スタイル”。
誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。
そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる